10 軸方向路を含む解
最後に、 ともう一つの解らしきものの到達時間 とを比較する。
本稿では、元々曲線を の形のものと仮定しているが、
これは に関して一意には が決まらない左右に振れる解や、
軸方向 (半径方向) に進む道を表しえない。
すなわち、そういった道を解として認めていないことになる。
左右に振れる曲線路では最速にはならないことは容易に想像がつくが、
半径方向の道は必ずしも遅くはなく、実際 の場合には
そのようなものが最速を与えている。
本節では、そのような道を含むような解を考えてみる。
例えば、A からある半径 () の位置 C までは井戸のように
真下 (中心方向) に進み、
その C、極座標で言えば
から D:
までは今までの最速線のようなトンネルを通り、
D から B まではまた真上 (中心の逆方向) に井戸を上がる、
といった解が考えられる。
それによる到達時間 を考えてみる (図 8)。
実は、この中間部は、C での初速度が 0 ではないため、
前の解の を単に にしたものにはならない。
よって、まずそこから考え直す。
2 節の問題 (半径 ) の初速度を 0 から () に変えた問題を考える。
その場合、2 節の計算では (5) の式が
に変わるので、(7) は、
に変わる。
この場合、オイラー方程式は を に
変えるだけなので、微分方程式 (8) は
になり、(9) の の代わりに
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(54) |
を考えればよいことになる。 が定義される下の制限は、
(12) 同様
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(55) |
となる () によって決まることになるが、
の値は では
であるが、
では
となり、
この値が 0 以下だとそのような は の範囲には存在しない。
よって、今は
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(56) |
である のみを考えることにする。
その場合は確かに となる が存在し、
により と は単調に対応する。
その増加方向は逆方向で、
は 同様
に対応するが、
は
に対応し、
とは少し異なる。
そして、
とすると、前と同様に
となる により
初速度 の最速降下曲線が決定することになる。
そのような が一意的に決定することを以下に示す。
それは命題 1 の証明とほぼ同じで、
まず、
により
と変形することで、定理 2 を用いて
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(57) |
を示すのであるが、
は
から定まるもので、
よって
で、
その有界性と
から (57) が示される。
また、 として ()
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(58) |
と書き直せば (
)、
のときに
であることが示され、よって任意の () に対して
となる () が存在することがわかる。
の単調性も前と同様に (58) の導関数を
計算することで示すことができ、それにより の一意性も保証される。
その に対し、
が初速度 に対する解を与える。
この場合の到達時刻は、(30) と同様にして、
となることがわかる。
さて、井戸を含む解の問題に戻る。
この場合、 での初速度 は、
エネルギー保存則 (4) により、
から
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(60) |
と考えればよい。
(54) で を としたものにこの (60) を代入すると、
より、
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(61) |
と、 の積分範囲の上限が変わっただけのもの (と を にしたもの) になる。
を決める (55) は、
となるので、 と の関係は、 と の関係に等しく、
よって
となる。また、(56) の条件は、
に対応するので、 より、
これは結局 という条件と同じことになる。
は、
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(62) |
となるので、これも と比較すると積分範囲の上端 (と , ) が違っているだけになる。
となる に対し
と
すると、
C から D までにかかる時間 は、(59) により、
となる。一方、A から C までの時間 は、下向きの速度 が
より
となるので、この逆数を積分して
となることがわかる。D から B まで上がるのも同じ だから、
結局この経路による から までの到達時間 は、
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(63) |
となることがわかる。
は によって変化するが、当然
のとき、
となる。
ただし、 それを式の上でちゃんと示すには、(58) の
ような変数変換と定理 2 が必要になる (証明は省略)。
さて、この を と比較するのであるが、
そのために を の関数 と考えて、
それが の減少関数であることを示す。
もしそれが言えれば、
となり、 が示されることになる。
まず、(41) の の積分範囲の
上端を にしたものを と の関数と考えて
とする。
これに対し、
より、(63) は
|
(64) |
と書ける。さらに、(44) の の積分範囲の
上端を にしたものを
とすれば (43) と同様に
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(65) |
となり、そして (48) と同様にして、
|
(66) |
となることもわかる。また、
|
(67) |
となる。
(62) の も、 が含まれているので、
正確には にも依存する関数になる。
(62) の は であるから、
(62) は と書ける。
はこの意味では
|
(68) |
となり、よって も の関数となる。
それを と書くことにする。
これで、
となるので、
(64) の の 以外のパラメータは
すべて の 1 変数関数として表すことができ、
と見ることができるようになる ()。(65), (68) より、
それは以下のように書ける。
この式を で微分すると、(66), (67), (68) により、
となることがわかる。これで、 が に関して減少関数であり、
よって
となることが示されたことになり、井戸を含む解よりも、
を与える解の方が速いことがわかる。
なお、この を与える解は、厳密に言えば、連続ではあるが
滑らかな解にはなっていない。
(61) より、
であるから とは異なり、 の場所 C で
ではなく を与える。
よって、そこでの曲線の傾きは
となり、C の地点では、A から C までの水平線と C から D までの曲線は
角ができ、滑らかにはつながっていないことになる。
同様に D の場所でも角ができる。
そうすると、A から井戸に落した玉は、C のところで壁に衝突し、
C での速さ (60) はそのまま C から D への曲線の初速度には
ならないし、D の場所でも壁にぶつかり速度が多少減ってしまう。
C, D の角を少し丸めてそこで速度が減衰しないようにすることは可能かも
しれないが、そうすると今度はその丸めた短い部分が厳密には上の
最速曲線の状況とは変わってしまう。
よって厳密にはこの を与える通路は時間 を与えないのだが、
角を丸めたもののその丸め部分を小さくした極限とみなせば を考えること自体に意味がないわけでもない。
ちなみに、そのような極限的な少し変な解は、変分問題ではよく現れる。
竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月24日