7 到達時間と負方向の解

次は、落ちて上がってくるまでの到達時間と、 負方向の解を含めた解の決定について考える。

まず、(14) に 従って落ちて上がってくるまでの到達時間 $T=T_1$ を求める。 この解では、 $0\leq\theta\leq\phi_0/2$ の半分までと、 残りの半分の $\phi_0/2\leq\theta\leq\phi_0$ の部分は対称なので、 (7) より

\begin{displaymath}
\frac{T_1}{2} = \frac{1}{\sqrt{2}}\int_0^{\phi_0/2}
\frac{\sqrt{f^2+(f')^2}}{\sqrt{G_1(f)}} d\theta\end{displaymath} (29)

となる。ここで、 $0\leq\theta\leq\phi_0/2$ では $f(\theta)=H^{-1}(\theta)$、 すなわち $\theta=H(f)$ なので、これを用いて置換すると、 $d\theta=H'(f)df$ で、 $f'(\theta)=1/H'(f)$ なので、
\begin{displaymath}
\frac{\sqrt{f^2+(f')^2}}{\sqrt{G_1(f)}} d\theta
=
\frac{\s...
...(f)}}  H'df
=
-\frac{\sqrt{f^2(H')^2+1}}{\sqrt{G_1(f)}}  df
\end{displaymath}

となる ($H'\leq 0$)。ここで、(9) より
\begin{displaymath}
H'(f) = -\sqrt{\frac{G_1(f)}{k_1^2f^2-G_1(f)}} \frac{1}{f}
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
f^2(H')^2+1 = \frac{k_1^2f^2}{k_1^2f^2-G_1(f)}
\end{displaymath}

となり、よって $f(0)=R$, $f(\phi_0/2)=r_1$ より (29) は
\begin{displaymath}
T_1 = \sqrt{2}\int_{r_1}^R
\frac{k_1fdf}{\sqrt{G_1(f)(k_1^2f^2-G_1)}}\end{displaymath} (30)

となる。

(30) の式は、当然 $g(r)$ が与えられなければ計算できないが、 均質な地球の場合は計算可能である。その場合は、

\begin{displaymath}
G_1(f)=\frac{g_0}{2R}(R^2-f^2),
\hspace{1zw}r_1=\frac{R}{k_2},
\hspace{1zw}k_2^2=1+\frac{2R}{g_0}k_1^2
\end{displaymath}

より、
\begin{eqnarray*}T_1
&=&
\sqrt{2}\int_{R/k_2}^R
\frac{2R}{g_0} \frac{k_1fdf}...
...{du}{\sqrt{u(1-u)}}
\hspace{1zw}(f^2=R^2/k_2^2+(R^2-R^2/k_2^2)u)\end{eqnarray*}


となる。ここで、
\begin{displaymath}
\int_0^1\frac{du}{\sqrt{u(1-u)}}
 =\
\int_0^1\frac{2du}{\sqrt{1-(1-2u)^2}}
 =\
\left[\arcsin(2u-1)\right]_0^1
 = \pi
\end{displaymath}

であり、また (21), $k_2^2 = 1+2Rk_1^2/g_0$ より
\begin{displaymath}
k_1
= \sqrt{\frac{g_0}{2R}(k_2^2-1)}
= \sqrt{\frac{g_0}{2R}}\frac{\sqrt{\pi^2-(\pi^2-\phi_0)^2}}{\pi-\phi_0}
\end{displaymath}

であるから、 $\tau_0 = \phi_0/\pi$ を用いれば
\begin{displaymath}
\frac{k_1}{k_2}
= \sqrt{\frac{g_0}{2R}}\frac{\sqrt{\pi^2-(\...
...-\phi_0)^2}}{\pi}
= \sqrt{\frac{g_0}{2R}}\sqrt{1-(1-\tau_0)^2}
\end{displaymath}

となる。よって、均質な地球の場合の到達時間は
\begin{displaymath}
T_1 = \pi\sqrt{1-(1-\tau_0)^2}\sqrt{\frac{R}{g_0}}
\end{displaymath}

となる。$\phi_0=\pi$ の場合は、$\tau_0=1$ より $T_1=\pi\sqrt{R/g_0}$ と なるが、これは地球の直径を玉が行ったりきたりする単振動の 1/2 周期を 意味する。 地球が均質なら、重力の大きさは (2) のように 中心からの距離に比例するので、確かに単振動になる。

さて、微分方程式 (8) に戻ると、 これは $f=定数=r_1$ も解として持つことがわかる。 よって、(14) 以外にも、 (14) よりも少し浅いところまで降りて、 一旦一定半径の円運動をして、 そこからまた $H^{-1}$ で地表まで戻るような滑らかな (8) の解

\begin{displaymath}
f(\theta) =
\left\{\begin{array}{ll}
H^{-1}(\theta) & (0...
...ta) & (\phi_0-\phi_1\leq \theta\leq \phi_0)
\end{array}\right.\end{displaymath} (31)

があることがわかる (図 6)。

図 6: 途中の円運動を挟む解
\includegraphics[width=7cm]{fig-cyc3-sol2.eps}
図 7: 反対を回る解の $f(\theta )$
\includegraphics[width=9cm]{fig-cyc3-sol3.eps}
ここで、$\phi_1$ $H(r_1+0)=\phi_1$ となるものであるが、 $r_1$, $k_1$ は (14) のものとは異なる。 紛らわしいので、(14) の $r_1$, $k_1$ を、 以後 $r_1^0$, $k_1^0$ と書くことにする ($h$ は命題 1 のもの):
\begin{displaymath}
k_1^0 = \frac{\sqrt{G_1(r_1^0)}}{r_1^0},
\hspace{1zw}
h(k_1^0) = \frac{\phi_0}{2}
\end{displaymath}

これに対し、$r_1^0<r_1<R$$r_1$ $k_1=\sqrt{G_1(r_1)}/r_1$ ($<k_1^0$) に対して $\phi_1 = h(k_1)$ と したのが上の $\phi_1$ であり、(31) の $r_1$, および $H$ に現れる $k_1$ もこの $r_1$, $k_1$ である。

さらに、前に説明した負方向に回る解もこの形で実現できる (図 7):

\begin{displaymath}
f(\theta) =
\left\{\begin{array}{ll}
H^{-1}(-\theta) & (...
...i_0-2\pi+\phi_1\geq \theta\geq \phi_0-2\pi)
\end{array}\right.\end{displaymath} (32)

この場合も $k_1=\sqrt{G_1(r_1)}/r_1$, $\phi_1 = h(k_1)$ であるが、 こちらは $r_1$ には $r_1^0$ のような下の制限はなく、$0< r_1\leq R$ となる。 ちなみに $r_1\rightarrow +0$ の極限は、A から中心への半径と、 中心から B への半径をつないだ (滑らかではない) トンネルになる。

この (31) による解曲線での到達時間を $T_2$、 この (32) による解曲線での到達時間を $T_3$ と すると、実際に $T_1<T_2$ かつ $T_1<T_3$ となることを 9 節で証明する。

これにより、(14) が最速降下曲線であることが 「それなりに」保証されることになるが、 それが最速であることを [1] の 9 節のように完全に 証明するのは難しい。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月24日