9 到達時間の比較

この節では、7 節で最後に述べた、 いくつかの解に対する到達時間 $T_1$, $T_2$, $T_3$ の比較を行う。 まず $T_2$, $T_3$ の式を求める。

7 節でみたように、$T_2$$r_1^0<r_1<R$, $k_1=k_1(r_1)=\sqrt{G_1(r_1)}/r_1$ に対し $\phi_1 = h(k_1)$ としたものに対する (31) の形の解の 到達時間が $T_2$ であるが、 $k_1^0=k_1(r_1^0)>k_1(r_1)=k_1$ より、 命題 1 により $\phi_1 = h(k_1)<h(k_1^0)=\phi_0/2$ となるので、 確かに $\phi_1<\phi_0-\phi_1$ となっていることがわかる。

この $\phi_1\leq\theta\leq\phi_0-\phi_1$ の間では $f(\theta)=r_1$、 すなわち円運動となるが、その間は向心力と垂直抗力の いずれも半径方向の力だけが働くので、等速円運動となる。 実際、半径 $r_1$ の円運動の加速度は、

\begin{eqnarray*}\frac{d^2}{dt^2}\{r_1(\cos\theta,\sin\theta)\}
&=&
\frac{d}{d...
...heta)(\dot{\theta})^2
+ r_1(-\sin\theta,\cos\theta)\ddot{\theta}\end{eqnarray*}


であるが、力は $(\cos\theta,\sin\theta)$ に平行にしか働かないので、 $\ddot{\theta}=0$ であり、よって角速度 $\dot{\theta}=一定$ の 等速円運動となる。

$\theta\rightarrow\phi_1-0$ では、曲線は丁度半径 $r_1$ の円に接し、 そのときの速度ベクトルも円に接する。 よって、その到達時の速さが円運動の速さに一致する。 その速さ $v_1$ は、エネルギー保存則 (4) から 求めることができ、

\begin{displaymath}
G(R)=\frac{v_1^2}{2}+G(r_1)
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
v_1 = \sqrt{2(G(R)-G(r_1))} = \sqrt{2G_1(r_1)}
\end{displaymath}

となり、角速度 $\omega_1$
\begin{displaymath}
\omega_1 = \frac{v_1}{r_1} = \frac{\sqrt{2G_1(r_1)}}{r_1}
= \sqrt{2} k_1
\end{displaymath}

となる。 よって $\phi_1\leq\theta\leq\phi_0-\phi_1$ でかかる時間は
\begin{displaymath}
\frac{\phi_0-2\phi_1}{\omega_1} = \frac{\phi_0-2h(k_1)}{\sqrt{2} k_1}
\end{displaymath}

となる。 今、$r_1=r_1(k_1)$ に対して、
\begin{displaymath}
t_0(k_1) = \int_{r_1}^R
\frac{k_1fdf}{\sqrt{G_1(f)\{k_1^2f^2-G_1(f)\}}}\end{displaymath} (41)

と書くことにすれば、(31) の $0<\theta<\phi_1$ までに かかる時間は (30) により $t_0(k_1)/\sqrt{2}$ であり、 $\phi_0-\phi_1<\theta<\phi_0$ の部分も同じなので、結局 $T_2$ は、
\begin{displaymath}
T_2 = \sqrt{2} t_0(k_1) + \frac{\phi_0-2h(k_1)}{\sqrt{2} k_1}\end{displaymath} (42)

となる。

同様に $T_3$ は、$0<r_1<R$ に対して $k_1=k_1(r_1)$, $\phi_1 = h(k_1)$ に対する (32) による解がかかる 時間であるから、上と同様にして

\begin{displaymath}
T_3 = \sqrt{2} t_0(k_1) + \frac{2\pi-\phi_0-2h(k_1)}{\sqrt{2} k_1}
\end{displaymath}

となることがわかる。

$T_1$ は (30) と $\phi_0=2h(k_1^0)$ により $T_1 = \sqrt{2} t_0(k_1^0)$ であり、 (42) で $k_1\rightarrow k_1^0$ とすれば $r_1\rightarrow r_1(k_1^0) = r_1^0$ となるので $T_2\rightarrow T_1$ となる。 $T_2$ では $r_1^0<r_1<R$ より $k_1<k_1^0$ であるから、よって $T_2>T_1=T_2(k_1^0)$ を示すには、 $T_2$$k_1$ に関する単調減少性を示せばよい

$t_0(k_1)$ を少し変形すると、

$\displaystyle t_0(k_1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_{r_1}^R\frac{k_1^2f^2}{\sqrt{G_1(k_1^2f^2-G_1)}} \frac{df}{k_1f}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_{r_1}^R\sqrt{\frac{k_1^2f^2-G_1}{G_1}} \frac{df}{k_1f}
+\int_{r_1}^R\sqrt{\frac{G_1}{k_1^2f^2-G_1}} \frac{df}{k_1f}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{k_1}\int_{r_1}^R\sqrt{\frac{k_1^2f^2-G_1}{G_1}} 
\frac{df}{f}
+\frac{h(k_1)}{k_1}$ (43)

となる。この最後の式の最初の項を $t_1(k_1)$ と書くことにする。
\begin{displaymath}
t_1(k_1)
= \frac{1}{k_1}\int_{r_1}^R\sqrt{\frac{k_1^2f^2-...
...}{f}
= \int_{r_1}^R\sqrt{\frac{1}{G_1}-\frac{1}{k_1^2f^2}} df\end{displaymath} (44)

これにより、
$\displaystyle T_1$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sqrt{2} t_0(k_1^0)
 =\
\sqrt{2} t_1(k_1^0) + \frac{\sqrt{2}  h(k_1^0)}{k_1^0},$ (45)
$\displaystyle T_2$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sqrt{2} t_0(k_1) + \frac{\phi_0-2h(k_1)}{\sqrt{2} k_1}
 =\
\sqrt{2} t_1(k_1) + \frac{\phi_0}{\sqrt{2} k_1},$ (46)
$\displaystyle T_3$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sqrt{2} t_0(k_1) + \frac{2\pi-\phi_0-2h(k_1)}{\sqrt{2} k_1}
 =\
\sqrt{2} t_1(k_1) + \frac{2\pi-\phi_0}{\sqrt{2} k_1}$ (47)

となる。

さて、(44) より $t_1(k_1)$ は特異性を持たず、 よって $t_1(k_1)$ を微分すると

\begin{displaymath}
t_1'(k_1)
= -\sqrt{\frac{1}{G_1(r_1)}-\frac{1}{(k_1r_1)^2}}...
...}^R\frac{1}{2\sqrt{1/G_1-1/(k_1f)^2}} 
\frac{2}{k_1^3f^2} df
\end{displaymath}

となるが、この最初の項は (12) より 0 になるので、
\begin{displaymath}
t_1'(k_1)
= \int_{r_1}^R\frac{k_1f\sqrt{G_1}}{\sqrt{k_1^2f^2-G_1}} 
\frac{df}{k_1^3f^2}
= \frac{h(k_1)}{k_1^2}\end{displaymath} (48)

となることがわかる。 (46), (48), および $\phi_0=2h(k_1^0)$ より、 $T_2$$k_1$ で微分すると
\begin{displaymath}
\frac{dT_2}{dk_1}
= \left(\sqrt{2} t_1(k_1)+\frac{\phi_0}...
...0}{\sqrt{2} k_1^2}
= \frac{\sqrt{2}}{k_1^2}(h(k_1)-h(k_1^0))
\end{displaymath}

となるが、命題 1、および $k_1<k_1^0$ より $h(k_1)<h(k_1^0)$ なので、よって $dT_2/dk_1<0$ であることがわかる。 これで $T_2$ の減少性が言えて、 $T_2=T_2(k_1)>T_2(k_1^0) = T_1$ が言えたことになる。

次は $T_3$$T_1$ を比較する。 $T_2$ の場合と違い $T_3$ では $k_1$ には制限はなく、$k_1>0$ であるが、 (47), (48) より、

\begin{displaymath}
\frac{dT_3}{dk_1}
= \left(\sqrt{2} t_1(k_1)+\frac{2\pi-\p...
...sqrt{2} k_1^2}
= \frac{2h(k_1)+\phi_0-2\pi}{\sqrt{2} k_1^2}
\end{displaymath}

となる。ここで$\phi_0<\pi$ で、 命題 1 より $2h(k_1)<\pi$ なので、$dT_3/dk_1<0$ となる。 よって、$k_1>0$ に対して、
\begin{displaymath}
T_3>\lim_{k_1\rightarrow \infty}{T_3(k_1)}\end{displaymath} (49)

となる。ここで、(44)、及び $k_1\rightarrow\infty$ の とき $r_1\rightarrow +0$ により
\begin{displaymath}
\lim_{k_1\rightarrow \infty}{t_1(k_1)} = \int_0^R\frac{df}{\sqrt{G_1(f)}}\end{displaymath} (50)

が言える (厳密には定理 2 で証明できる)。 よって、(47) より
\begin{displaymath}
\lim_{k_1\rightarrow \infty}{T_3(k_1)} = \sqrt{2}\int_0^R\frac{df}{\sqrt{G_1}}\end{displaymath} (51)

となる。 なお、この右辺の積分は、$f=R$ で特異性を持つが、 $G_1'(R)=-g(R)<0$ より有限である。

一方、$k_1>0$ に対して、(48) より

\begin{displaymath}
t_0'(k_1)
= \left(t_1(k_1)+\frac{h(k_1)}{k_1}\right)'
= \...
...frac{h(k_1)}{k_1^2}+\frac{h'(k_1)}{k_1}
= \frac{h'(k_1)}{k_1}
\end{displaymath}

となるから、命題 1 より $t_0'(k_1)>0$ で、よって
\begin{displaymath}
t_0(k_1)<\lim_{k_1\rightarrow \infty}{t_0(k_1)}\end{displaymath} (52)

となるが、命題 1、および (50) より
\begin{displaymath}
\lim_{k_1\rightarrow \infty}{t_0(k_1)}
= \lim_{k_1\rightarrow \infty}{t_1(k_1)}
= \int_0^R\frac{df}{\sqrt{G_1}}\end{displaymath} (53)

がわかる。よって、(45), (49), (51), (52), (53) より、
\begin{displaymath}
T_1
= \sqrt{2} t_0(k_1^0)
< \lim_{k_1\rightarrow \infty}{\...
...sqrt{G_1}}
= \lim_{k_1\rightarrow \infty}{T_3(k_1)}
< T_3(k_1)
\end{displaymath}

が言えたことになり、 これで任意の $k_1>0$ に対して $T_1<T_3$ も示されたことになり、 途中に円の一部をはさむもの $T_2$, $T_3$ よりも $T_1$ の方が速いことが示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月24日