8 命題の証明

本節では、命題 1 を証明する。

$h(k_1)$ は、

\begin{displaymath}
h(k_1) = \int_{r_1}^R \sqrt{\frac{G_1(f)}{k_1^2f^2-G_1(f)}}
 \frac{df}{f}\end{displaymath} (33)

であり、$r_1=r_1(k_1)$ は (12) により決まるが、 逆に $r_1$$k_1$ から (13) により決まるとも 見れるので、 そう見ればこの $h(k_1)$$r_1$ の関数 $\hat{h}(r_1)$ と 考えることもできる。それらは必要に応じて適宜使い分ける。 なお、 $k_1\rightarrow +0$ $r_1\rightarrow R-0$ に対応し、 $k_1\rightarrow\infty$ $r_1\rightarrow +0$ に 対応し、$k_1$$r_1$ の増加方向は逆であることに注意する。

まず $k_1$ を動かすと、(33) の特異性を持つ分母も 動いてしまい、極限を考えにくいので、(33) を 以下により置換する。

\begin{displaymath}
s = \frac{\sqrt{k_1^2f^2-G_1(f)}}{k_1}\end{displaymath} (34)

これは、$f$ に関して単調なので、$s=s(f,k_1)$ とも書けるが、 逆に $f$$s$, $k_1$ の関数と見ることもできる。 それを $f=f_1(s,k_1)$ とすると、
\begin{displaymath}
\frac{ds}{df}
= \frac{1}{2k_1} \frac{2k_1^2f+g(f)}{\sqrt{k_1^2f^2-G_1(f)}}
\end{displaymath}

で、$s(r_1,k_1)=0$, $s(R,k_1)=R$ なので、
\begin{displaymath}
h(k_1)
= \int_0^R \frac{2k_1\sqrt{G_1(f_1)}}{2k_1^2f_1^2+f_1g(f_1)} ds\end{displaymath} (35)

となる。

まず、 $k_1\rightarrow +0$、すなわち $r_1\rightarrow R-0$ の極限を考える。 $s$$f$ に関して増加、よって $f_1$$s$ に関して増加であり、 よって $0<s<R$ に対して $r_1<f_1(s,k_1)<R$ となっている。

今、 $r_1\rightarrow R-0$ であるから、 $0<k_1\leq\delta$$r_1\geq R/2$ となるような $\delta$ ($>0$) が取れる。 このとき、 $f_1(s,k_1)\geq r_1 \geq R/2$ であるから、

\begin{displaymath}
2k_1^2f_1^2+f_1g(f_1) \geq \frac{R}{2}g\left(\frac{R}{2}\right),
\hspace{1zw}
\sqrt{G_1(f_1)}\leq \sqrt{G(R)}
\end{displaymath}

となり、よって (35) より
\begin{displaymath}
0<h(k_1)\leq \frac{2k_1\sqrt{G(R)}}{(R/2)g(R/2)}\int_0^R ds
= \frac{4k_1\sqrt{G(R)}}{g(R/2)}
\end{displaymath}

となり、右辺は $k_1\rightarrow +0$ のとき 0 に収束するので、 これで (17) が示されたことになる。

次は $k_1\rightarrow\infty$、すなわち $r_1\rightarrow +0$ の極限を考える。 (35) をさらに $p=k_1s$ と置換すると、

\begin{displaymath}
h(k_1)
= \int_0^{k_1R} \frac{2\sqrt{G_1(f_2)}}{2k_1^2f_2^2+f_2g(f_2)} dp
\end{displaymath}

となる。ここで $f_2$$f_1$$p$ に書き換えたもの、 すなわち $f_2(p,k_1) = f_1(p/k_1,k_1)$ である。 (34) より
\begin{displaymath}
k_1^2f_2^2 = k_1^2s^2 + G_1(f_2) = p^2 + G_1(f_2)
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
h(k_1)
= \int_0^{k_1R}\frac{\sqrt{G_1(f_2)}}{p^2+G_1(f_2)+f_2g(f_2)/2} dp\end{displaymath} (36)

となる。$f_2$ は、
\begin{displaymath}
f_2^2 = \frac{p^2+G_1(f_2)}{k_1^2}\leq \frac{p^2}{k_1^2}
\end{displaymath}

であるから、 $k_1\rightarrow\infty$ で 0 に収束する。 よって、(36) の被積分関数は
\begin{displaymath}
\lim_{k_1\rightarrow \infty}\frac{\sqrt{G_1(f_2)}}{p^2+G_1(...
...frac{\sqrt{G_1(0)}}{p^2+G_1(0)}
= \frac{\sqrt{G(R)}}{p^2+G(R)}\end{displaymath} (37)

に収束し、よって $h(k_1)$ は、
\begin{displaymath}
\lim_{k_1\rightarrow \infty}{h(k_1)}
= \int_0^\infty\frac{\sqrt{G(R)}}{p^2+G(R)} dp\end{displaymath} (38)

となりそうである。 これが成り立つことをちゃんと示すために、次のルベーグ収束定理を用いる。

定理 2. (ルベーグ収束定理)

$x>0$ 上の関数 $f_n(x)$, $g(x)$ が、 すべての $x$, $n$ $\vert f_n(x)\vert\leq g(x)$ を満たし、

\begin{displaymath}
\int_0^\infty g(x)dx<\infty,\hspace{1zw}
\lim_{n\rightarrow \infty}{f_n(x)} = f(x)
\end{displaymath}

であるとき、次が成り立つ。
\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow \infty}{\int_0^\infty f_n(x)dx} = \int_0^\infty f(x)dx
\end{displaymath}

この定理の証明は、ルベーグ積分の適当な成書 (例えば [3]) を参照。

今、

\begin{displaymath}
\chi_{k_1}(x)
= \left\{\begin{array}{ll}
1 & (0<x<k_1R)\\
0 & (x>k_1R)\end{array}\right.\end{displaymath}

とすると、(36) は
\begin{displaymath}
h(k_1)
= \int_0^{\infty}\frac{\chi_{k_1}(x)\sqrt{G_1(f_2)}}%
{p^2+G_1(f_2)+f_2g(f_2)/2} dp\end{displaymath} (39)

となるが、 $k_1\rightarrow\infty$ のとき $\chi_{k_1}(x)\rightarrow 1$ なので、 (39) の被積分関数の極限も (37) の 極限に等しい。 一方、$g(r)$ は増加関数なので、
\begin{displaymath}
G(f_2) - f_2g(f_2)
= \int_0^{f_2}g(r)dr - f_2g(f_2)
= \int_0^{f_2}(g(r) - g(f_2))dr
\leq 0
\end{displaymath}

であり、よって
\begin{displaymath}
G_1(f_2) + \frac{f_2g(f_2)}{2}
= \frac{G_1(f_2)}{2}+\frac{G(R)}{2}+\frac{1}{2}(f_2g(f_2)-G(f_2))
\geq \frac{G(R)}{2}
\end{displaymath}

となる。 $G_1(f_2)\leq G(R)$ より、 (39) の被積分関数は
\begin{displaymath}
\frac{\chi_{k_1}(x)\sqrt{G_1(f_2)}}
{p^2+G_1(f_2)+f_2g(f_2)/2}
\leq \frac{G(R)}{p^2+G(R)/2}
\end{displaymath}

とおさえられることがわかり、この右辺は $k_1$ によらず、
\begin{displaymath}
\int_0^\infty\frac{G(R)}{p^2+G(R)/2} dp
\leq \int_0^1\frac{...
...} dp + \int_1^\infty\frac{G(R)}{p^2} dp
= 2 + G(R)
< \infty
\end{displaymath}

となる。よって定理 2 が適用でき、 確かに (38) が成り立つことがわかる。
\begin{displaymath}
\int_0^\infty\frac{\sqrt{G(R)}}{p^2+G(R)} dp
= \int_0^\inft...
...c{du}{u^2+1}
= \left[\arctan u\right]_0^\infty = \frac{\pi}{2}
\end{displaymath}

となるので、これで (18) も示された。

最後は、$h(k_1)$ の単調性であるが、それは (36) を用いる。 (36) の分母には特異性はなく、

\begin{displaymath}
h(k_1) = \int_0^{k_1R}F_1(f_2(p,k_1),p)dp,
\hspace{1zw}
F_1(f_2,p) = \frac{\sqrt{G_1(f_2)}}{p^2+G_1(f_2)+f_2g(f_2)/2}
\end{displaymath}

の形である。よって、$k_1>0$ に対して $h(k_1)$ の微分は、
\begin{displaymath}
h'(k_1) = RF_1(f_2(k_1R,k_1),k_1R)
+ \int_0^{k_1R}\frac{\...
...ial F_1}{\partial f_2}
 \frac{\partial f_2}{\partial k_1} dp\end{displaymath} (40)

となる。ここで、$F_1$ の分母を $F_2$ とすると $\partial F_1/\partial f_2$ は、
\begin{eqnarray*}\frac{\partial F_1}{\partial f_2}
&=&
\frac{\left(-g/(2\sqrt{...
...ight)
\ &=&
- \frac{gp^2+f_2g^2/2+f_2g'G_1}{2\sqrt{G_1}F_2^2}\end{eqnarray*}


となるが、$g$ は増加関数で $g>0$, $0<f_2<R$, $G_1>0$ より $\partial F_1/\partial f_2 <0$ となる。また、
\begin{displaymath}
k_1 = \frac{\sqrt{p^2+G_1(f_2)}}{f_2}
\end{displaymath}

であるから $k_1$$f_2$ に関して減少、 よって $\partial f_2/\partial k_1<0$ となるので、 (40) から $h'(k_1)>0$ がわかる。 これで $h(k_1)$ の単調性も示され、命題 1 が示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月24日