2 設定

まず問題を以下のように設定する。
地球の半径を $R$ とし、地表の A$(R, 0)$ から B $(R\cos\phi_0,R\sin\phi_0)$ ($0<\phi_0<\pi$) へ至るトンネルを考える (図 1)。 このトンネルに A から B に玉を初速度 0 で滑らすとき、 その時間 $T$ が最も短くなるようなトンネルの曲線を求めよ。 ただし、摩擦や空気抵抗は考えないものとする。

図 1: 設定
\includegraphics[width=8cm]{fig-cyc3-ini.eps}
図 2: 反対回りの解 ?
\includegraphics[width=8cm]{fig-cyc3-under.eps}

トンネルは、$r=f(\theta)$ の極座標形式で考えることにする。 すなわち、$f(\theta)>0$ で、

\begin{displaymath}
x = f(\theta)\cos\theta,
\hspace{1zw}
y = f(\theta)\sin\theta
\end{displaymath}

とパラメータ表示される曲線である。仮定より、
\begin{displaymath}
0< f(\theta)\leq R,
\hspace{1zw}f(0) = f(\phi_0)=R
\end{displaymath}

となる。なお、今回まずは $0\leq\theta\leq\phi_0$ のトンネル、 すなわち反時計回りの角を進んで B に至るトンネルを考えるが、 もしかすると、中心の反対側、すなわち時計回りに角を進んで、 $0\geq\theta\geq\phi_0-2\pi$ の負の角の方のトンネルが 早くなる可能性もあるかもしれない (図 2)。 それについてはまた後で考える。

地中内部の $P$ 地点で質量 $m$ の物体に働く重力 $\mbox{\boldmath$F$}$ は 、地球の内部構造が同心球の層状であると仮定すれば、 [2] にあるように

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$} = -mg(\vert\mathrm{OP}\vert)\frac{\overrightarrow{\mathrm{OP}}}{\vert\mathrm{OP}\vert}
\end{displaymath}

となる。ここで、$g(r)$ は、$0\leq r\leq R$ で定義される連続関数で、
\begin{displaymath}
g(r)>0 (0<r\leq R),
\hspace{1zw}g(0)=0, g(R)=g_0
\hspace{1zw}\mbox{$g(r)$ は $r$ の増加関数},
\hspace{1zw}\end{displaymath} (1)

となる ($g_0$ は地表での重力加速度)。 具体的には、中心から $r$ までの部分の球の質量による重力に比例する ものになる ([2])。 簡単のため本稿では $g(r)$ 微分可能であるとする。 (1) より $g'(r)>0$ ($0<r<R$) となる。 特に、地球内部が均質であるとすれば、
\begin{displaymath}
g(r) = \frac{r}{R}g_0\end{displaymath} (2)

$r$ に比例する関数となる。

ドンネル内の動点 $P(x,y)$ の位置ベクトルを $\mbox{\boldmath$r$}=\overrightarrow{\mathrm{OP}}$, $r=\vert\mbox{\boldmath$r$}\vert$, $x=r\cos\theta$, $y=r\sin\theta$ ( $0\leq\theta\leq\phi_0$), $r=f(\theta)$ とし、トンネルからの垂直抗力を $\mbox{\boldmath$N$}$ とすれば、 運動方程式は以下のようになる。

\begin{displaymath}
m\ddot{\mbox{\boldmath$r$}} = \mbox{\boldmath$F$}+\mbox{\bo...
...$},
\mbox{\boldmath$F$} = -mg(r)\frac{\mbox{\boldmath$r$}}{r}
\end{displaymath}

ここで $\dot{} = d/dt$ とする。 $\mbox{\boldmath$N$}$ はトンネルに垂直、すなわち $r=f(\theta)$ の接線方向に垂直になる。

トンネルは $\theta$ でパラメータ表示されるから、 動点の位置を $\theta$ で表すことができ、 よってそれを時間の未知関数 $\theta=\theta(t)$ として考えることができる。 このとき、速度 $\mbox{\boldmath$v$}$

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$v$}=\dot{\mbox{\boldmath$r$}} = \frac{d\mbox{\boldmath$r$}}{d\theta}\dot{\theta}\end{displaymath} (3)

であり、 $\mbox{\boldmath$v$}$ はトンネルの接線方向を向くベクトルになる。 よって、 $\mbox{\boldmath$v$}\perp\mbox{\boldmath$N$}$ であるから、 運動方程式と $\mbox{\boldmath$v$}=\dot{\mbox{\boldmath$r$}}$ との 内積を考えれば、
\begin{displaymath}
m\ddot{\mbox{\boldmath$r$}}\mathop{・}\dot{\mbox{\boldmath$r...
...(r)}{r}\mbox{\boldmath$r$}\mathop{・}\dot{\mbox{\boldmath$r$}}
\end{displaymath}

となるが、
\begin{eqnarray*}\mbox{\boldmath$r$}\mathop{・}\dot{\mbox{\boldmath$r$}}
&=&
\...
...{\mbox{\boldmath$r$}}\vert^2)^\cdot
 =  \frac{1}{2}(v^2)^\cdot\end{eqnarray*}


となる ( $v=\vert\mbox{\boldmath$v$}\vert$)。よって、
\begin{displaymath}
\left(\frac{v^2}{2}\right)^\cdot+g(r)\dot{r}=0
\end{displaymath}

となるので、
\begin{displaymath}
G(r) = \int_0^r g(u)du
\end{displaymath}

とすれば
\begin{displaymath}
\left(\frac{v^2}{2}+G(r)\right)^\cdot=0
\end{displaymath}

となり、よって
\begin{displaymath}
\frac{v^2}{2}+G(r)=\mbox{定数}\end{displaymath} (4)

が成り立つことになる。これは、エネルギー保存の式に対応する。

初速度は 0 であるから、(4) より

\begin{displaymath}
v^2 = 2(G(R)-G(r))\end{displaymath} (5)

となる。ここで (3) より
\begin{displaymath}
v=\left\vert\frac{d\mbox{\boldmath$r$}}{d\theta}\right\vert\vert\dot{\theta}\vert\end{displaymath} (6)

であるが、
\begin{displaymath}
\frac{d\mbox{\boldmath$r$}}{d\theta}
= (f(\theta)\cos\theta,...
...heta)(\cos\theta,\sin\theta)+f(\theta)(-\sin\theta,\cos\theta)
\end{displaymath}

であり、 $(\cos\theta,\sin\theta)$ $(-\sin\theta,\cos\theta)$ は 直交する単位ベクトルなので、よって
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{d\mbox{\boldmath$r$}}{d\theta}\right\vert=\sqrt{f(\theta)^2+f'(\theta)^2}
\end{displaymath}

となる。

玉は $\theta$ が増える方向にころがるので $\dot{\theta}\geq 0$ であり、 よって (6) より

\begin{displaymath}
v = \sqrt{f^2+(f')^2} \dot{\theta}
\end{displaymath}

となり、(5), および $r=f(\theta)$ より、
\begin{displaymath}
\dot{\theta}
= \frac{d\theta}{dt}
= \frac{v}{\sqrt{f^2+(f')^2}}
= \frac{\sqrt{2}\sqrt{G(R)-G(f)}}{\sqrt{f^2+(f')^2}}
\end{displaymath}

となるので、この式の逆数を $0$ から $\phi_0$ まで積分すれば、 A から B までの所用時間 $T$
\begin{displaymath}
T = \frac{1}{\sqrt{2}}\int_0^{\phi_0}
\frac{\sqrt{f^2+(f')^2}}{\sqrt{G_1(f)}} d\theta\end{displaymath} (7)

と表されることになる。なお、以後 $G(R)-G(r)=G_1(r)$ と書くことにする。 あとは、[1] と同様に、 変分法によりこの $T$ の式を最小にするような $f$ を求めればよいことになる。

なお、地球の反対側を回るトンネルの場合も、 今までの議論はほぼ同じで、 $\dot{\theta}\leq 0$ のみが異なり、 よって

\begin{displaymath}
\frac{d\theta}{dt}
= -\frac{v}{\sqrt{f^2+(f')^2}}
= -\frac{\sqrt{2G_1(f)}}{\sqrt{f^2+(f')^2}}
\end{displaymath}

となるから、この逆数を 0 から $\phi_0-2\pi$ まで積分すれば、
\begin{displaymath}
T
= - \frac{1}{\sqrt{2}}\int_0^{\phi_0-2\pi}
\frac{\sqr...
...i_0-2\pi}^0
\frac{\sqrt{f^2+(f')^2}}{\sqrt{G_1(f)}} d\theta
\end{displaymath}

が得られる。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月24日