10 δ への決定

ここまでで必要な評価は出揃ったので、 あとはそれらを用いて、 $n\rightarrow\infty$ のときに $\langle B_n\rangle $ $(\rightarrow 0)$ に残る $B_n$ の最も大きな項が 0 になる、という式を用いて、 $\nu$ のサポートが $(w_1,z_1)$ 以外には $w>z$ の部分にはないことを示せばよい。

DiPerna 流 ([4],[5]) のやり方では、 この $\langle B_n\rangle $ の最も大きな項の極限が「Young 測度の微分」になることを示し、 それが 0 であることから $(w_1,z_1)$ 以外にはサポートがないことを言うのであるが、 「測度の微分」はややとっつきにくいので、 ここでは (47) を利用し、 Lions ら ([6]) の方法のように $\langle B_n\rangle $$h(a)$ をかけて $a$ で積分することで、 $(w_1,z_1)$ 以外にはサポートがないことを直接示すことにする。

命題 13$B_n$ を分割したが、 まずは $h(a)I_5$ の積分から考えることにする。 そのために、$I_5$ をさらに 2 つに分け、

\begin{eqnarray*}I_5 &=& I_{5,1}+I_{5,2},\\
I_{5,1}
&=&
2(w-z)\left\{\hat{\p...
...s-a)\psi_n(s)ds
-\psi_n(z)\int_z^w(s-a)\hat{\psi}_n(s)ds\right\}\end{eqnarray*}


として考える。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{5,1}da}
 &=&
2(w-z)...
...-a) h(a)
\{\hat{\psi}_n(w)\psi_n(s)-\psi_n(w)\hat{\psi}_n(s)\}da\end{eqnarray*}


この、 $\hat{\psi}_n(w)\psi_n(s)-\psi_n(w)\hat{\psi}_n(s)$ は、 (46) より $s,w\in[a,a+1/n]$ のときのみ 0 ではない。 よって、$s<w-1/n$ だと $a\leq s<w-1/n$ より 0 になってしまうので、
\begin{displaymath}
\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{5,1}da
=
2(w-z)\int_{z\vee (w...
...{\infty} da
=
2(w-z)\int_{z\vee (w-1/n)}^w ds\int_{w-1/n}^s da
\end{displaymath}

となる。ここで、 $a\vee b=\max\{a,b\}$ $a\wedge b=\min\{a,b\}$ とする。 $s=w-t/n$, $n(w-a)=y$ と置換すると、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{5,1}da
=
2(w-z)\int_0...
...ght)
\{\hat{\psi}_0(y)\psi_0(y-t)-\psi_0(y)\hat{\psi}_0(y-t)\}dy\end{eqnarray*}


となるが、 この積分は先頭の $1/n$ がなくても $w,z,a\in[z_1,w_1]$ ($z_1\leq w_1$) に関して有界であり、よって
\begin{displaymath}
\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{5,1}da = O\left(\frac{1}{n}\right)
\end{displaymath}

であることがわかる。 さらに $w=z$ ならば 0 であり、 $w>z$ ならば十分大きい $n$ に対しては $n(w-z)>1$ となるので、 このとき
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{5,1}da}
 &=&
\frac{...
...\int_0^y p\{\hat{\psi}_0(y)\psi_0(p)-\psi_0(y)\hat{\psi}_0(p)\}dp\end{eqnarray*}


と変形できる。

同様に、$h(a)I_{5,2}$ の積分は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{5,2}da}
 &=&
2(w-z)...
...ght)
\{\hat{\psi}_0(y)\psi_0(y+t)-\psi_0(y)\hat{\psi}_0(y+t)\}dy\end{eqnarray*}


となり、これも先頭の $1/n$ がなくても有界で、よって $O(1/n)$ であり、 $n(w-z)>1$ のときはさらに
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{5,2}da
=
\frac{2(w-z)...
... \int_y^1p\{\hat{\psi}_0(y)\psi_0(p)-\psi_0(y)\hat{\psi}_0(p)\}dp\end{eqnarray*}


と変形できる。

よって、 $(w,z)\in\Sigma_1$ に対して

\begin{displaymath}
\int_{-\infty}^\infty h(a)I_5 da\rightarrow 0 \hspace{1zw}(n\rightarrow\infty)
\end{displaymath}

となることが示された。

同様に $I_9$, $I_{10}$$h(a)$ の積の積分を考えると、 $I_9$ の方は、$I_{5,1}$$(s-a)$ がなく、$2(w-z)$$2(w-z)^2/3$ と なっているだけなので、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_9 da}
 &=&
\frac{2(w...
...ght)
\{\hat{\psi}_0(y)\psi_0(y-t)-\psi_0(y)\hat{\psi}_0(y-t)\}dy\end{eqnarray*}


となることがわかる。 これは $w,z,a\in[z_1,w_1]$ ($z_1\leq w_1$) に関して有界であり、 $n(w-z)>1$ のときは
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_9 da}
 &=&
\frac{2(w...
...y\int_0^y \{\hat{\psi}_0(y)\psi_0(p)-\psi_0(y)\hat{\psi}_0(p)\}dp\end{eqnarray*}


となる。同様に、$I_{10}$ との積の積分は、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{10} da}
 &=&
-\frac...
...ght)
\{\hat{\psi}_0(y)\psi_0(y+t)-\psi_0(y)\hat{\psi}_0(y+t)\}dy\end{eqnarray*}


となり、これは有界で、$n(w-z)>1$ のときは
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{-\infty}^{\infty} h(a)I_{10} da}
 &=&
-\frac...
...psi_0(y)\hat{\psi}_0(p)\}dy
 &=&
\frac{2(w-z)^2}{3}h(z)I_{12}\end{eqnarray*}


となる。

残りの $I_{11}$$o(1)$ であるから、Lebesgue 有界収束定理により、

\begin{displaymath}
\int_{-\infty}^\infty h(a)I_{11}da \rightarrow 0
\end{displaymath}

となる。以上により、次が示されたことになる。


命題 14

$(w,z)\in\Sigma_1$ に対し、次が成り立つ。

\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{-\infty}^\infty h(a)B_n da
= \frac{2(w-z)^2}{3}(h(w)+h(z))I_{12}
\end{displaymath}


この命題 14 により、 Fubini の定理、Lebesgue 有界収束定理を用いれば

\begin{displaymath}
\int_{-\infty}^\infty h(a)\langle B_n\rangle da
=\left\la...
...ightarrow \frac{2}{3} I_{12}\langle (w-z)^2(h(w)+h(z))\rangle \end{displaymath} (48)

となる。 一方で、命題 12 より $h(a)\langle B_n\rangle \rightarrow 0$ だから、 補題 10 と Lebesgue 有界収束定理により
\begin{displaymath}
\int_{-\infty}^\infty h(a)\langle B_n\rangle da
= \int_{z_1}^{w_1} h(a)\langle B_n\rangle da
\rightarrow 0\end{displaymath} (49)

となる。よって、(48), (49) より
\begin{displaymath}
I_{12}\langle (w-z)^2(h(w)+h(z))\rangle =0\end{displaymath} (50)

が得られたことになる。


命題 15

$\nu$ は、 $\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \bar{\nu}\subset\{w=z\}$ となる測度 $\bar{\nu}$ $0<\alpha\leq 1$ なる $\alpha$ によって

\begin{displaymath}
\nu=\bar{\nu}+\alpha\delta(w-w_1,z-z_1)
\end{displaymath} (51)

と書ける。


証明

まず、$I_{12}$ が 0 でないように $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ が取れることを示す。

\begin{eqnarray*}I_{12}
&=&
\int_0^1\psi_0(p)dp\int_p^1\hat{\psi}_0(y) dy
-\...
...\int_y^1\hat{\psi}_0(p)dp
-\int_0^y\hat{\psi}_0(p)dp\right\}dy
\end{eqnarray*}


なので $\hat{\psi}_0=\psi_0'$ と取り、 $\displaystyle c_1=\int_0^1\psi_0^2>0$ とすれば
\begin{displaymath}
I_{12}=\int_0^1\psi_0(y)\{-\psi_0(y)-\psi_0(y)\}dy = -2c_1<0
\end{displaymath}

となって確かに 0 ではない。よって (50) より
\begin{displaymath}
\langle (w-z)^2(h(w)+h(z))\rangle =0
\end{displaymath} (52)

が言える。補題 10 より $(w-z)^2(h(w)+h(z))\geq 0$ であり、 これが 0 になるのは $(w,z)\in\Sigma_1$ では $w=z$ か、 または $(w,z)=(w_1,z_1)$ しかない。 よって、(52) より $\nu$ のサポートは $\{w=z\}$$(w_1,z_1)$ にしかないことになる。 1 点をサポートとする測度は $\delta $-関数のみなので、 結局 $\nu$ は (51) のように書けることになる。 なお、$w_1>z_1$ という仮定より $\alpha>0$ となる。


この命題 15 の証明で $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ が使われていて、 ここでは $\hat{\psi}_0=\psi_0'$ としたが、 $I_{12}\neq 0$ であればよいので、 そのような $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ はこれ以外にも無数にある。 このように $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ に対する制限が緩いのは、 8 節で述べたように (44) を用いることで、 $\psi_0$, $\hat{\psi}_0$ への強い仮定を置かずに $\langle B_n\rangle \rightarrow 0$ を示すことができたからにほかならない。

さて、最後にこの命題 15$\alpha$ が 1 であることを示そう。 もしこれが言えれば、$\nu$ は全測度 1 であるから

\begin{displaymath}
\nu=\delta(w-w_1,z-z_1)
\end{displaymath}

となることになる。

今、(40) に (51) を適用すると、$\eta^{(0)}(a)$$w=z$ 上 0 であるので、

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\langle \eta^{(0)}(a)\rangle = \alpha\eta^...
... = \alpha\eta^{(0)}(w_1,z_1;a)\eta^{(0)}(w_1,z_1;b)
\end{array}\end{displaymath}

となり、よって (40) は
\begin{displaymath}
0=(b-a)(\alpha-\alpha^2)\eta^{(0)}(w_1,z_1;a)\eta^{(0)}(w_1,z_1;b)
\end{displaymath}

となる。よって、$z_1<a<b<w_1$ と取れば
\begin{displaymath}
\eta^{(0)}(w_1,z_1;a)\eta^{(0)}(w_1,z_1;b)>0,\hspace{1zw}b-a>0
\end{displaymath}

なので
\begin{displaymath}
\alpha-\alpha^2=0
\end{displaymath}

となり、$\alpha>0$ より、ゆえに $\alpha = 1$ となる。


命題 16

\begin{displaymath}
\nu=\delta(w-w_1,z-z_1)
\end{displaymath}


この命題 164 節の性質 2., 4. を用いれば、その極限 $U_1(t,x)$ が (3), (4) のエントロピー解であることは容易に示される。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年1月6日