2 基本事項

本節では、連立の保存則方程式 (1) に関する基本的な事項を紹介する。 なお、この式の導出については、 [12], [14] などを参照のこと。

まず、 $P=A\rho^\gamma$ の係数 $A$ は、 $\rho$ の単位を取り替えることで別なものに変更できることに注意する。 今 $\rho=\alpha\bar{\rho}(t,x)$ ($\alpha>0$: 定数) とすると、 (1) の 1 本目の式は、

\begin{displaymath}
\bar{\rho}_t+(\bar{\rho}u)_x = 0
\end{displaymath}

2 本目の式は、
\begin{displaymath}
(\bar{\rho}u)_t+(\bar{\rho}u^2+\alpha^{\gamma-1}A\bar{\rho}^\gamma)_x = 0
\end{displaymath}

となるので、例えば
\begin{displaymath}
\alpha=(A\gamma)^{-1/(\gamma-1)}
\end{displaymath}

とすれば $P=A\rho^\gamma$$A$$1/\gamma$ と見た方程式と同じになる。 よって本稿では以後、$A=1/\gamma$ として考えることにする。

気体の運動量 $m=\rho u$ を使って書けば、 (1) は以下のようになる。

\begin{displaymath}
U_t+F(U)_x = 0,
\hspace{1zw}U=\left[\begin{array}{c}\rho\\...
...U)=\left[\begin{array}{c}m m^2/\rho+P(\rho)\end{array}\right]\end{displaymath} (3)

この方程式 (3) に初期値
\begin{displaymath}
U(0,x)=U_0(x)=\left[\begin{array}{c}\rho_0(x) \rho_0(x)u_0(x)\end{array}\right]
\hspace{1zw}(x\in R)\end{displaymath} (4)

を与えた初期値問題の解は一般には不連続性を持つので、 弱解を考える必要がある。

$U=U(t,x)$ ($t>0$, $x\in R$) が (3), (4) の 弱解 であるとは、 任意のテスト関数 $\phi(t,x)\in C_0^1([0,\infty[\times R)$ に対して

\begin{displaymath}
\int\hspace{-6pt}\int _{t>0}\{U(t,x)\phi_t(t,x)+F(U(t,x))\phi_x(t,x)\}dtdx
+\int_R U(0,x)\phi(0,x)dx = 0\end{displaymath} (5)

を満たすことである。

実際にはこの弱解の存在は直接示されるわけではなく、 なんらかの大域的な近似解 (人工粘性法、差分近似法、動力学的近似など) を作ってその評価を行い、それ (の適当な部分列) が収束極限を持ち、 その極限が弱解となることを示す、という方法を取るのが普通である。 近似解については、4 節で簡単に説明する。

方程式 (3) を準線形の連立方程式形に書いて

\begin{displaymath}
U_t+B(U)U_x = 0,\hspace{1zw}B(U)=\nabla_U F(U)
\hspace{1zw}(\nabla_U = (\partial/\partial \rho,\partial/\partial m))
\end{displaymath}

とすると、
\begin{eqnarray*}B(U)
&=&
\nabla_U \matrixC{m,m^2/\rho+P(\rho)}
=
\matrixR{...
...+P'(\rho),2m/\rho}
 &=&
\matrixR{0,1:-u^2+\rho^{\gamma-1},2u}\end{eqnarray*}


となり、この行列の固有値は
\begin{displaymath}
\lambda_1=u-\rho^\theta,
\hspace{1zw}\lambda_2=u+\rho^\theta
\hspace{1zw}(\theta=(\gamma-1)/2)
\end{displaymath}

となる。例えば $\gamma=5/3$ のときは $\theta=1/3$ である。

また、Riemann 不変量 $w$, $z$ を次のように定義する。

\begin{displaymath}
w=u+\int\frac{\sqrt{P'}}{\rho} d\rho = u+\frac{\rho^\theta}...
...nt\frac{\sqrt{P'}}{\rho} d\rho = u-\frac{\rho^\theta}{\theta}
\end{displaymath}

これにより、解は $(\rho,u)$, $(\rho,m)$, $(w,z)$ の 3 通りの関数として考えることができることになるが、 特に相平面で考える際はこの $(w,z)$ の座標系で考えることが重要となる。

図 1: ($\rho ,m$) 平面
\includegraphics[height=0.25\textheight]{fig11.eps}
図 2: ($w,z$) 平面
\includegraphics[height=0.25\textheight]{fig12.eps}

なお、$(\rho,u)$, $(\rho,m)$, $(w,z)$ のそれぞれで 方程式 (1) を準線形の形に書いてみると以下のようになる。

$\displaystyle {
\matrixC{\rho,u}_t+\matrixR{u,\rho:\rho^{\gamma-2},u}\matrixC{\rho,u}_x=0,}$
$\displaystyle {
\matrixC{\rho,m}_t+\matrixR{0,1:-\lambda_1\lambda_2,\lambda_1+\lambda_2}
\matrixC{\rho,m}_x=0,}$
$\displaystyle {
\matrixC{w,z}_t+\matrixR{\lambda_2,0:0,\lambda_1}\matrixC{w,z}_x=0}$

(8) より、Riemann 不変量 $(w,z)$ は方程式 (1) を対角化するものであることがわかるが、 (1) から (6), (7), (8) への変形の計算は、 $U(t,x)$ が滑らかであるときにしか成り立たず、 特に不連続性を持つ弱解に対しては成立しないことに注意する。

$\lambda_1$, $\lambda_2$$w$, $z$ を用いて次のように表せる。

\begin{displaymath}
\lambda_1=\frac{1-\theta}{2} w+\frac{1+\theta}{2} z,\hspace{1zw}
\lambda_2=\frac{1+\theta}{2} w+\frac{1-\theta}{2} z
\end{displaymath}

特に $\gamma=5/3$ のときは、
\begin{displaymath}
\lambda_1=\frac{w+2z}{3},\hspace{1zw}
\lambda_2=\frac{2w+z}{3}
\end{displaymath}

となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年1月6日