公式の証明は正しいことを確認するのがもちろん原則であるが、 公式を忘れたときのために、 できれば右辺の形を知らなくても左辺から右辺が導きだせるような証明の方が 都合がよい。
その点では、 この 6 種類の中では幾何学的な証明 3 が最も適切だろうが、 証明に難点があるので教科書の証明として使うには問題がある。 証明 5、証明 6 は幾何学的で かつ証明はちゃんとしているが、 遠回りなため忘れたときにこの方法で導くのは容易ではないだろう。
証明 2 も、3 節の最後で述べたように 左辺から右辺を導けないわけではないが、やや難しいと思うし、 証明 1、証明 4 は 左辺から右辺を導くのはほぼ無理だろう。
一方で、「証明の易しさ」という点では、 逆に証明 1 が最も易しく、 次は多重線形性さえ理解すれば証明 4 が易しい。 次は多分証明 2 で、 証明 5、証明 6 はやや面倒、 証明 3 は証明として完結すらしていない、という感じである。
だから、多分ほとんどの教科書では、 証明の易しさを考慮して証明 1 を、 あるいは「多重線形性」のような準備が不要でかつ易しいという点で 証明 2 を採用しているのだろうと思う。 それはもちろん筋ではあるが、 もし公式 (1) がそれなりに必要な公式なのであれば、 [8], [10] のように補足としてでも 証明 3 の本質部分のような説明をすることは意味があるように思う。
竹野茂治@新潟工科大学