6 空間遠方に減衰している場合の減衰評価

この節では、問題 1 の空間遠方に減衰している解 $u$ の 時間方向の減衰を考える。

この場合は、 $u_0(x)=u(0,x)$ が遠方で十分速く 0 に減衰しているという仮定の元で $u(t,x)$ も 0 に減衰することが示される。 しかし、問題 2 の場合とは減衰する速さは異なる。 まずは簡単のため、$f(u)=u^2/2$ (いわゆる Burgers 方程式) とし、 $u_0\in L^2(R)$ として考えてみる。

この場合は、

\begin{displaymath}
u_t+uu_x=\varepsilon u_{xx}
\end{displaymath}

なので、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{d}{dt}\int_R u(t,x)^2 dx
= \int_R 2u u_tdx
= ...
... %\ &=&
=
-\int_R 2\varepsilon u_x^2 dx
%\leq
\ &\leq &
0\end{eqnarray*}


となり、よって $u(t,x)$$x$ に関する $L^2$ の評価
\begin{displaymath}
\int_R u(t,x)^2 dx
\leq \int_R u(0,x)^2 dx = \Vert u_0\Vert _{L^2}^2
<\infty\end{displaymath} (21)

が得られる。 5 節と同様に $v_{+}$, $v_{-}$ を用いれば
\begin{displaymath}
\int_R u^2u_x dx
=\int_R\left(\frac{u^3}{3}\right)_x dx
= 0
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
\int_R u^2 v_{+} dx
= \int_R u^2 v_{-} dx,
\hspace{1zw}
\int_R u^2\vert u_x\vert dx
=2\int_R u^2 v_{+} dx \end{displaymath} (22)

となるので、 (21), (22), および定理 2 により、
\begin{eqnarray*}\vert u(t,x)^3\vert
&=&
\vert u(t,x)^3-u(t,-\infty)^3\vert
\...
... t}\int_R u^2 dx
\leq
\frac{6}{\delta t}\Vert u_0\Vert _{L^2}^2\end{eqnarray*}


が得られる。ここから、$u$$t^{-1/3}$ の評価
\begin{displaymath}
\vert u(t,x)\vert\leq C_2  t^{-1/3}
\hspace{1zw}
\left(C...
...\frac{6}{\delta}\right)^{1/3}\Vert u_0\Vert _{L^2}^{2/3}\right)\end{displaymath} (23)

が得られる。

これと同じことを、一般の $f$ で、$u_0\in L^p(R)$ ($p>1$) の場合で考えてみよう。 まず、次に注意する。

\begin{displaymath}
(\vert x\vert^q)'=q\vert x\vert^{q-2}x,\hspace{1zw}
(\vert x\vert^{q-1}x)'=q\vert x\vert^{q-1}
\hspace{1zw}(q>1)\end{displaymath} (24)

これらは、
\begin{displaymath}
(\vert x\vert)'=\frac{x}{\vert x\vert}\hspace{1zw}(x\neq 0)
\end{displaymath}

より、
\begin{eqnarray*}(\vert x\vert^q)'
&=&
q\vert x\vert^{q-1}(\vert x\vert)' = q...
...-1)\vert x\vert^{q-1}+\vert x\vert^{q-1}
=
q\vert x\vert^{q-1}\end{eqnarray*}


として得られる。

$\vert u\vert$$p$ 乗の積分を $t$ で微分すると、(24) より

$\displaystyle {\frac{d}{dt}\int_R \vert u\vert^pdx
= \int_R p\vert u\vert^{p-2}uu_t dx}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle -\int_R p\vert u\vert^{p-2}uf'(u)u_x dx
+\int_R\varepsilon p\vert u\vert^{p-2}uu_{xx}dx$ (25)

となるが、今
\begin{displaymath}
F(w)=\int_0^wp\vert u\vert^{p-2}uf'(u)du\end{displaymath} (26)

とすれば、$p>1$ より $F$$C^1$ 級で、よって
\begin{displaymath}
\int_R p\vert u\vert^{p-2}uf'(u)u_x dx
=\int_R F'(u)u_x dx
=\int_R F(u)_x dx
=0\end{displaymath} (27)

となる。また、(24) より、
$\displaystyle \varepsilon p\vert u\vert^{p-2}uu_{xx}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \varepsilon p\left(\vert u\vert^{p-2}uu_x\right)_x
-\varepsilon p\left(\vert u\vert^{p-2}u\right)_xu_x$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \varepsilon p\left(\vert u\vert^{p-2}uu_x\right)_x
-\varepsilon p...
...{p-2}u_x^2
%\ &\leq &
\leq
\varepsilon p\left(\vert u\vert^{p-2}uu_x\right)_x$ (28)

となるので、
\begin{displaymath}
\int_R \varepsilon p\vert u\vert^{p-2}uu_{xx}dx
\leq
\int_R \varepsilon p\left(\vert u\vert^{p-2}uu_x\right)_x dx
=0\end{displaymath} (29)

となる。結局 (25), (27), (29) より
\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\int_R \vert u\vert^pdx\leq 0
\end{displaymath}

が得られるから、$\vert u\vert$$p$ 乗積分は、
\begin{displaymath}
\int_R \vert u(t,x)\vert^p dx\leq \int_R \vert u(0,x)\vert^p dx = \Vert u_0\Vert _{L^p}^p\end{displaymath} (30)

と評価される。これは $p=2$ の場合の (21) に対応する。

そして、(24) より、

$\displaystyle \vert u(t,x)\vert^{p+1}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left\vert\vert u\vert^p u\right\vert
=
\left\vert(\vert u\vert^p u)(t,x)-(\vert u\vert^p u)(t,-\infty)\right\vert$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle \int_R\left\vert\left(\vert u\vert^p u\right)_x\right\vert dx
=
\int_R(p+1)\vert u\vert^p\vert u_x\vert dx$ (31)

となるが、$p>1$ に対して (24) より、
\begin{displaymath}
\int_R\vert u\vert^pu_x dx
=\int_R\frac{1}{p+1}(\vert u\vert^p u)_u u_xdx
=\int_R\frac{1}{p+1}(\vert u\vert^p u)_x dx
=0
\end{displaymath}

なので、$p=2$ の場合と同様にして
\begin{displaymath}
\int_R \vert u\vert^p v_{+} dx
= \int_R \vert u\vert^p v_{-...
...t u\vert^p\vert u_x\vert dx
=2\int_R \vert u\vert^p v_{+} dx
\end{displaymath}

となり、よって (30) と定理 2 より、
\begin{displaymath}
\int_R\vert u\vert^p\vert u_x\vert dx
= 2\int_R\vert u\vert^...
...ert u\vert^p dx
\leq \frac{2}{\delta t}\Vert u_0\Vert _{L^p}^p
\end{displaymath}

と評価できる。よって、([*]) より
\begin{displaymath}
\vert u(t,x)\vert^{p+1}
\leq \frac{2}{\delta t}(p+1)\Vert u_0\Vert _{L^p}^p
\end{displaymath}

となり、結局 $u$$t^{-1/(p+1)}$ の評価
\begin{displaymath}
\vert u(t,x)\vert\leq C_p  t^{-1/(p+1)}
\hspace{1zw}\left...
...ta t}\right\}^{1/(p+1)}
\Vert u_0\Vert _{L^p}^{p/(p+1)}\right)\end{displaymath} (32)

が得られる。

また、特に $u_0(x)=u(0,x)$ がコンパクト台を持つ関数の場合は、 すべての $p>1$ に対し $u_0\in L^p(R)$ となるので、 (32) で $p\rightarrow 1+0$ とすれば、

\begin{displaymath}
C_p\rightarrow \sqrt{\frac{4}{\delta}\Vert u_0\Vert _{L^1}}=C_1
\end{displaymath}

となり、$u$$t^{-1/2}$ の評価
\begin{displaymath}
\vert u(t,x)\vert\leq C_1  t^{-1/2}
\end{displaymath}

が得られる。


定理 4

問題 1 の場合、 $u(0,x)\in L^p(R)$ ($p>1$) のときは、 (2) の解 $u$$\varepsilon$ に一様に 次の減衰評価を満たす。

\begin{displaymath}
\vert u(t,x)\vert\leq C_p  t^{-1/(p+1)}
\end{displaymath} (33)

さらに $u(0,x)$ がコンパクト台を持つ場合は
\begin{displaymath}
\vert u(t,x)\vert\leq C_1  t^{-1/2}
\end{displaymath} (34)

が成り立つ ($C_p$$p$, $\delta$, $\Vert u_0\Vert _{L^p}$ による定数)。


初期値がコンパクト台を持つ場合の $t^{-1/2}$ という評価は、 コンパクトな台を持つ $N$ 型波の漸近挙動に対応し、 よって $t^{-1/2}$ より強い評価を期待することはできない (詳細は、例えば [1] 参照)。

なお、$t^{-1/2}$ の評価を得るために (25) を直接 $p=1$ としようとすると、

\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\vert u\vert=\frac{u}{\vert u\vert}u_t
\end{displaymath}

$u\neq 0$ でしか成り立たないため、$u=0$ での例外的な議論が入って難しくなる。 さらに (26) の $F$$C^1$ ではなくなるし、 (28) も $p=1$ ではそのままは成立しない。 つまり $p=1$ では上のような議論が直接は使えないので、 ここでは $p\rightarrow 1+0$ として考えた。 しかし $p=1$ でも似たような考察が行えないわけではない。 それについては付録として 8 節に記すこととする。

また、この節では、$G(0)=0$ なる $C^1$ 級の関数 $G(u)$ に対して、

\begin{displaymath}
\int_R G(u)_x dx=0
\end{displaymath}

なる論法を何回か用いた。 これが成り立つためには、もちろん $u(t,x)$ にそれなりの速さでの $x$ の遠方での減衰性や微分の可積分性などが必要になる (詳しくは [3] 参照) が、 我々の問題では元々考えている $u$ は (1) に対する近似解なので、 必要ならば初期値も $x$ の遠方では十分早く減衰するもので近似しておくことができ、 それほど問題とはならない (多分)。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月25日