7 連立方程式の場合

次に、連立方程式の場合を考えてみよう。 ここでは、等エントロピー気体の方程式
\begin{displaymath}
u=\left[\begin{array}{c}\rho\ m\end{array}\right],
\hspace{...
...rray}\right]
\hspace{1zw}(P(\rho)=A\rho^{\gamma}, 1<\gamma<3)
\end{displaymath}

を考える。この場合、よく知られているように (詳しくは [1],[3],[4] 参照)、
\begin{displaymath}
u(0,x)=
\left\{\begin{array}{ll}
u_1 & (x<0),\\
u_2 & (x>0)\end{array}\right.\end{displaymath}

を初期値とする初期値問題 (Riemann 問題と呼ばれる) の解は、 1-wave と 2-wave の 2 つの波からなり、そのそれぞれが衝撃波か膨張波となる。 $(\rho,m)$ の代わりに Riemann 不変量
\begin{displaymath}
w=\frac{m}{\rho}+\frac{2\sqrt{A}}{\gamma-1}\rho^{(\gamma-1)...
... z=\frac{m}{\rho}-\frac{2\sqrt{A}}{\gamma-1}\rho^{(\gamma-1)/2}\end{displaymath} (35)

で考えると、詳細は略すが、 となる。よってこれらの波に関して ($t=0$ に始点がある波の場合)、 $w$, $z$$x$ での微分は、 となる。

よって、この場合も一見 $w$, $z$ は 上から $1/t$ のような評価を持つように見える。 実際この場合の $u$ の有界性は、3 節のようにして $w$ の極大点で $w$ が増加しないこと、 $z$ の極小点で $z$ が減少しないことを示すことで得られる。

しかし連立方程式の場合は $t>0$ でも膨張波の始点が現われうるという問題がある。 例えば、ある 2-衝撃波に、それより左にある 2-衝撃波が追いつくと、 その衝突点で (弱い) 1-膨張波と 1 つの 2-衝撃波が生成される。 その膨張波はその始点が衝突時刻 $t=t_0$ $(>0)$ にあるので、 その $t=t_0$$z_x$$+\infty$ になってしまう。 同様に 1-衝撃波同士の衝突により、(弱い) 2-膨張波が現われ、 そこで $w_x=+\infty$ となってしまう。

単独の方程式の場合は、衝撃波同士の衝突では、 その合成の衝撃波ひとつしか生まれず、このようなことは起きない。 よって膨張波の始点も $t=0$ のみにしかなく、 Oleinik のエントロピー条件 (6) が成り立つのであるが、 連立方程式の場合はそうはいかず、 このような不等式は $w$, $z$ に対しては成立し得ない。

では、$w$, $z$ はだめだとして、 他に $x$ での微分が上からおさえられるような $u$ の関数はないだろうか。 $u$ の関数は (35) より $w$, $z$ の関数と表すこともできるが、 今それを $h(w,z)$ とすると、この関数の $x$ に関する微分は

\begin{displaymath}
h(w,z)_x = h_w w_x + h_z z_x
\end{displaymath}

となる。よって、上に述べた $t>0$ で起こる 1-膨張波を考えると、
\begin{displaymath}
h(w,z)_x = h_w w_x + h_z z_x = h_z z_x = h_z\times +\infty
\end{displaymath}

となるので、これを上からおさえるには、$h_z\leq 0$ でなくてはならない。 同様に、2-膨張波のことを考えると $h_w\leq 0$ でなくてはならない。

しかし、$h_z\leq 0$, $h_w\leq 0$ では、衝撃波のことを考えると、 $h_z\equiv 0$, $h_w\equiv 0$ でない限り上から押さえることはできなくなる。 よって、$w$, $z$ の関数でも、$x$ の微分を上からおさえられるようなものは 定数以外には存在しないことになる。

つまり、連立方程式の場合は、本稿で説明しているような、 「$x$ での微分を片側からおさえる」ことによる $\varepsilon$ に一様な評価を得る方法は無理だということになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月25日