4 一階微分の評価

3 節の方法では、$u$ の一様な有界評価は得られるが、 減衰評価までは得られない。 この節では、同じ CCS の方法を利用して、 2 節で予告した $u_x$ の「上からの」評価を導く。

方程式 (2) を $x$ で微分すると、

\begin{displaymath}
u_{tx}+f'(u)u_{xx}+f''(u)u_x^2=\varepsilon u_{xxx}
\end{displaymath}

となるので、$v=u_x$ とすれば
\begin{displaymath}
v_t+f'(u)v_x+f''(u)v^2=\varepsilon v_{xx}\end{displaymath} (12)

となる。これに CCS の方法を用いる。

問題 1 の場合も 2 の場合も、 $v=u_x$ はすべての $t\geq 0$ に対して正の値も負の値も取ることになるので、 $v(t_0,x)$$x$ に関する最大値 $V(t_0)$ は正の値であり、 その最大値 $V(t_0)$ はある $x=x_0$ で取られる。

よって $x=x_0$ では $v(t_0,x)$ は極大にもなっているので、

\begin{displaymath}
v_x(t_0,x_0)=0,\hspace{1zw}v_{xx}(t_0,x_0)\leq 0\end{displaymath} (13)

となり、よって、そこでは (12)、および (3) より
$\displaystyle v_t(t_0,x_0)$ $\textstyle =$ $\displaystyle -f'(u(t_0,x_0))v_x(t_0,x_0)-f''(u(t_0,x_0))v(t_0,x_0)^2
+\varepsilon v_{xx}(t_0,x_0)$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle -\delta v(t_0,x_0)^2$ (14)

となる。

$t=t_1$ から $t=t_2$ ($t_1<t_2$) までの間、 $v(t,x)$$x$ に関する最大値 $V(t)$ を取る場所 (山の尾根の部分) が $x=x(t)$ という曲線であらわされるとすると、 $(t,x(t))$ で (13), (14) が成り立つことから

\begin{eqnarray*}V'(t)
&=&
\frac{d}{dt}v(t,x(t))
=v_t(t,x(t))+v_x(t,x(t))x'...
...=v_t(t,x(t))
\ &\leq &
-\delta v(t,x(t))^2
=
-\delta V(t)^2\end{eqnarray*}


となる。$V(t)>0$ なので、これを変形して
\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{V(t)}\right)\geq \delta
\end{displaymath}

とし、これを $t_1$ から $t_2$ まで積分すれば、
\begin{displaymath}
\frac{1}{V(t_2)}-\frac{1}{V(t_1)}\geq \delta(t_2-t_1)\end{displaymath} (15)

が得られる。

よって、$0$ から $t$ までを考えると、 最大値を与える $x$ が上のようには一本の曲線では表されない場合でも、 $0$ から $t$ までを、$V$ を与える $x$ が そのそれぞれで一本の曲線で表されるような小さい区間に分け、 そのそれぞれに対する評価式 (15) をすべて加えれば、結局

\begin{displaymath}
\frac{1}{V(t)}-\frac{1}{V(0)}\geq \delta t
\end{displaymath}

が成り立つことが示されるので、よって
\begin{displaymath}
V(t)\leq \frac{1}{\delta t+1/V(0)}\leq \frac{1}{\delta t}
\end{displaymath}

が言える。これで、$u_x$ の上からの $1/t$ の評価が得られた。


定理 2

問題 1, 2 に対する (2) の解 $u(t,x)$ は、$\varepsilon$ に一様に

\begin{displaymath}
u_x(t,x)\leq \frac{1}{\delta t}
\end{displaymath}

を満たす。


なおこの評価は、$u(0,x)$ にはよらない形になっている。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月25日