3 CCS の方法

この節では、$N=1$ の場合の (2) の解 $u$$u_x$ の評価を得るのに用いる Chueh-Conley-Smoller の方法 ([1],[2] 参照。以後簡単に「CCS の方法」と言うこととする) について説明する。 まずは直接 $u$ に CCS の方法を適用する例を紹介する。

なお本稿では、初期値に関して次の 2 つの問題を考えることにする。

問題 1 初期値が $x$ の遠方で $0$ に十分速く減衰している場合。
\begin{displaymath}
\lim_{\vert x\vert\rightarrow\infty}u(0,x)=0
\end{displaymath} (7)

この場合は、$u(0,x)$ が適当な可積分空間に属するとし、 必要ならば $u(0,x)$ の微分も同様の評価を持つとする。
問題 2 初期値が $x$ に関して周期的である場合。 ある正数 $L$ があって、すべての $x$ に対し、
\begin{displaymath}
u(0,x+L)=u(0,x)
\end{displaymath} (8)

これら初期値は十分滑らかであるとすると、 (2) の解 $u=u(t,x)$ も十分に滑らかとなり、 そして $t>0$ に対して $u=u(t,x)$ も 問題 1, 2 のそれぞれで $x$ の遠方に減衰、あるいは $x$ に関して周期的 (同じ周期を持つ) となる。

今、初期値 $u(0,x)$ の下限を $u_m$, 上限を $u_M$ とする。

\begin{displaymath}
u_m\leq u(0,x)\leq u_M\end{displaymath} (9)

$t_0>0$ に対して $u(t_0,x)$$x$ の関数として考えると、 これが $x=x_0$ で極大になるとすると、
\begin{displaymath}
u_x(t_0,x_0)=0,\hspace{1zw}u_{xx}(t_0,x_0)\leq 0\end{displaymath} (10)

となる。よって、その点では (2) より
\begin{displaymath}
u_t(t_0,x_0)
= -f'(u(t_0,x_0))u_x(t_0,x_0)+\varepsilon u_{xx}(t_0,x_0)
= \varepsilon u_{xx}(t_0,x_0)
\leq 0
\end{displaymath}

となる。(10) より、 これは $t$ が増加するどの方向にも言えて、 すなわち任意の $\alpha$ に対し
\begin{displaymath}
\left.\frac{d}{dt}u(t,x_0+\alpha (t-t_0))\right\vert _{t=t_0}
=u_t(t_0,x_0)+\alpha u_x(t_0,x_0)
=u_t(t_0,x_0)
\leq 0
\end{displaymath}

となる。 つまり、極大点から $t$ に関しての先に向かっては $u(t,x)$ の値は増加することはないことになる。

同様に、$x=x_0$ が極小点の場合は

\begin{displaymath}
u_x(t_0,x_0)=0,\hspace{1zw}u_{xx}(t_0,x_0)\geq 0\end{displaymath} (11)

となるので、
\begin{displaymath}
u_t(t_0,x_0)
= -f'(u(t_0,x_0))u_x(t_0,x_0)+\varepsilon u_{xx}(t_0,x_0)
= \varepsilon u_{xx}(t_0,x_0)
\geq 0
\end{displaymath}

となり、$u(t,x)$ はこの先に向かって減少することはないことになる。

問題 1 の場合も問題 2 の場合も、 最大値、最小値は境界ではなく内部で取ることになるので、 そこでは極大、極小となるから、上の議論により そこで $t$ の増える方向に向かって増加、減少はできないことになる。

よって、$u(t,x)$ の値は上には $u_M$ を、 下には $u_m$ を超えることはできないので、 次が成り立つことになる。


定理 1

初期値の (9) の仮定の元、 問題 1, 2 に対する (2) の解 $u(t,x)$ は、$\varepsilon$ に一様に

\begin{displaymath}
u_m\leq u(t,x)\leq u_M
\end{displaymath}

を満たす。


以上が CCS の方法である。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月25日