conservation law に関して (Japanese)


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conservation law に関する document

(順番は書いた順; 上が古い, カッコの日付はここに公開した日付)
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conservation law (保存則方程式) に関する Q and A

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conservation law Q and A 目次

1. この Q and A について
2. conservation law の概要について
3. Riemann 問題について
4. 弱解の性質について
5. その他

1. この Q and A について
1.1. この Q and A の回答は誰が作っているのですか
1.2. そのあなたは conservation law の研究者なのですか
1.3. そのあなたはどんなことを研究しているのですか

2. conservation law の概要について
2.1. conservaton law (保存則方程式) とは何ですか
2.2. conservaton law の具体例を教えて下さい
2.3. conservation law を勉強するには
2.4. conservation law についてはどれ位のことが分かっているのですか
2.5. conservation law はどこが難しいのですか
2.6. 証明されていない予想にはどんなものがありますか
2.7. 現在でも保存則方程式は盛んに研究されているのでしょうか
2.8. どの大学に行けば保存則方程式を勉強できるのでしょうか

3. Riemann 問題について
3.1. 衝撃波って何ですか
3.2. Riemann 問題って何ですか
3.3. Riemann ってあのリーマンのことですか
3.4. 何故 Riemann 問題を考えるのですか
3.5. Riemann 問題の解を具体的に計算することは可能ですか
3.6. 非線形では特性曲線が曲がるので x/t のみによる解はないのでは
3.7. Riemann 問題に関する日本語の文献はありませんか

4. 弱解の性質について
4.1. 弱解って何ですか
4.2. 弱解の存在はどのように証明するのですか
4.3. 弱解の一意性は知られていますか
4.4. 初期値に関する連続依存性はどうですか
4.5. 漸近的な性質はどうですか
4.6. 弱解の構成方法を勉強したいのですが
4.7. 初期値境界値問題は難しいですか

5. その他
5.1. 数値計算では精度の良くない差分を使っているようですが
5.2. 人工粘性の近似解の作り方の載っているものを教えてください
5.3. 保存則方程式の「エントロピー」って減少しているようなのですが
5.4. Lax-Friedrichs 差分は Riemann 問題の解で埋めないといけないのですか
5.5. 保存則方程式の論文は真偽が怪しいものが多いと聞いたのですが [New!]

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1. この Q and A について


Q 1.1. この Q and A の回答は誰が作っているのですか

A 1.1.

現在 (06/05 2001) は 竹野茂治 (shige)が 個人的に作っています。よって、内容も shige の知る所によってのみ 書かれていますから、必ずしも正しい物ではないかも知れません。 間違いや改良箇所などを見つけたら、是非 御連絡下さい。

(06/05 2001)
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Q 1.2. そのあなたは conservation law の研究者なのですか

A 1.2.

一応研究しています。なかなか結果は出ませんが、現在 (08/06 2001) まで 10 年以上は研究していることになります。

(08/08 2001)
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Q 1.3. そのあなたはどんなことを研究しているのですか

A 1.3.

解の存在を証明する方法 (QandA 4.6 を参照) として 補完測度法 (compensated compactness theory; 補償コンパクト性理論とも呼ばれる) というものがありますが、 いくつかの方程式に対してこれを使って解の存在を証明するための研究や、 補完測度法の適用部分の改良などの研究を行っています。

これまでは主に、1 次元の等エントロピー気体の方程式の初期値境界値問題、 3 次元の星の大気、あるいは気体星の球対称解の存在、 1 次元非線形弾性振動の方程式の弱解 (方程式については QandA 2.2 を参照) の研究を行ってきました。

最近では、周期外力を持つ conservation law の周期解の存在や性質に 興味があり、 それに関する研究 (工科大紀要の論文 I, 工科大紀要の論文 II 参照) も行っています。

(08/08 2001; 12/20 2004, 03/27 2007 修正)
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2. conservation law の概要について


Q 2.1. conservation law (保存則方程式)とは何ですか

A 2.1.

元々、気体や液体などの流体の運動を支配する方程式から来ていて、 これらは、質量保存則、運動量保存則、エネルギー保存則などの物理量の 保存則から導かれるのでそのような名前がついています。

そしてそれを一般化した方程式系

n 次元保存則方程式系
を、conservation law (保存則方程式) といいます。 通常研究されているのは 1 次元の保存則方程式系
1 次元保存則方程式系
で、かつ双曲型と呼ばれる物です。 双曲型とは、準線形の形の方程式に直したもの
準線形方程式系
の係数行列
係数行列
の固有値がすべて実数で相異なるものをいいます。

(06/05 2001)
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Q 2.2. conservaton law の具体例を教えて下さい

A 2.2.

  1. 非粘性 Burgers (バーガース方程式)
    非粘性バーガース方程式
    は、単独保存則方程式の典型的なものの一つです。 元々は、粘性バーガース方程式
    粘性バーガース方程式
    の、粘性係数νを 0 にしたもののようです。
  2. 非粘性気体の方程式
    粘性を無視した気体の方程式は保存則方程式として書かれます。 座標系の設定として、空間に固定した座標系を設定して観測する方法 (Euler 座標系) と、流体の運動とともに移動する座標系で観測する方法 (Lagrange 座標系) の 2 通りあります。 Lagrange 座標系の場合、1 次元の気体の質量保存、運動量保存、 エネルギー保存則は次のような式で表されます。
    Lagrange 座標系での気体の方程式
    (u: 速度, v=1/ρ: 比体積, ρ: 密度, P: 圧力, e: 内部エネルギー)
    ただし、これは解析が難しいので、圧力 P が v のみの関数 P=P(v) である場合 (バロトロピック) を考え、最初の 2 本で閉じた方程式系と 考えたもの
    P-system
    がよく研究されています。これは特に P-system と呼ばれます。 P=P(v) は P'(v)<0, P''(v)>0 のような仮定がおかれることが 多いようですが、特に
    P=A/v (等音気体, A>0: 定数),
    P=A/vγ (等エントロピー気体, A>0,γ>1: 定数)
    がよく研究されています。 Euler 座標系では
    Euler 座標系での気体の方程式
    のようになります。これも P=P(ρ) と考え、
    Euler 座標系での P-system
    としたものが良く研究されています。
  3. 非線形波動方程式
    弾性体などの 1 次元の振動を表す方程式に
    弾性体の振動方程式
    のようなものがありますが、これは
    弾性体の方程式の連立形
    のように書き直すことができます。通常は σ'(w)>0 を仮定します。 P-system と似た形をしていますが、w は負の値も取り得ます。 どちらかというと w と σ''(w) が同符号である場合より、 w と σ''(w) が異符号である方程式の方が難しいようです。
  4. 交通流
    高速道路における車の流れをマクロ的に流体のように見たとき、 流体の方程式の、質量保存則に相当する式
    交通流の方程式
    (u: 速度, ρ>0: 密度)
    が成り立ちますが、この速度 u がρのみの関数 u=u(ρ) であると見ると 単独保存則方程式となります。この場合は、
    0≦ρ≦R (=最大密度), u(0)=u(R)=0, u'(ρ)≦0
    などが自然な条件であるようです。 さらに u と ρ の関係を運動方程式によって関係付けて、 気体の質量保存と運動量保存の、2x2 の連立方程式と同等の形とする 交通流モデルもあるようです。
  5. 浅水波
    浅い水の流れを表す方程式で次のように書かれるものがあるようです。
    浅水波の方程式
    (g: 重力加速度、h: 水深、u: 速度)
    これは、気体の等エントロピー流の方程式の γ=2 の場合に相当します。
  6. 油田の二次回収
    油田から採油すると圧力が減ってきて油田の自噴能力が劣化してきますが、 その際、水、ガスなどを油の層に注入してその圧力を回復させる 二次回収法というものがあります。 その際の層内の油、水、ガスの割合を表す方程式は次のようになるそうです。
    油田二次回収の方程式
    (u, v, 1-u-v: 油、水、ガスの体積率)
    ここで、f(u),g(v),h(w) (w=1-u-v) は
    f(0)=f'(0)=g(0)=g'(0)=h(0)=h'(0)=0,
    f''(u)>0, g''(v)>0, h''(w)>0
    を満たすのが自然であるようです。例えば f=au2, g=bv2, h=cw2 のような形です。
  7. 他にも、Maxwell の方程式 (電磁気)、半導体の方程式、 化学反応の方程式、ネットワーク上の情報の流れの方程式などで 状況によっては非線形保存則方程式と考えることができる方程式が あるようです (あまり詳しくは知りません)。
参考文献:

(06/07 2001; 12/23 2001, 02/02 2008 修正)
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Q 2.3. conservation law を勉強するには

A 2.3.

最近は conservation law の教科書も増えて来ました。 例えば次のような物があります。

  1. Smoller, J.A. : Shock waves and reaction-diffusion equations. 2nd ed. Springer, 1994.
  2. Courant,R. and Friedrichs, K.O. : Supersonic flow and shock waves. Springer, 1991 (original edition: Interscience, 1948)
  3. Whitham, G.B. : Linear and nonlinear waves. Wiley, 1974.
  4. Lax, P.D. : Hyperbolic systems of conservation laws and the mathematical theory of shock waves. SIAM, 1973.
  5. Serre, D. : Systems of conservation laws, 1, 2. Cambridge, 1999.
  6. Bressan, A. : Hyperbolic systems of conservation laws. Oxford, 2000.
  7. Dafermos, C.M. : Hyperbolic conservation laws in continuum physics. Springer, 2000.
  8. Hoermander, L. : Lectures on nonlinear hyperbolic differential equations. Springer, 1997.
  9. Zheng, Yuxi. : Systems of conservation laws. Two-dimensional Riemann problems. Birkhauser, 2001.
  10. 吉川敦 : 非線形保存則系入門 --保存則の理論 -- 上智大学数学講究録 no.21, 1985 .
  11. Holden, H. and Risebro, N.H. : Front tracking for hyperbolic conservation laws. Springer, 2002.
  12. LeFloch, P.G. : Hyperbolic systems of conservation laws. Birkhauser, 2002.
  13. Lu Yunguang. : Hyperbolic conservation laws and the compensated compactness method. Chapman & Hall/CRC, 2003.
  14. Perthame, B. : Kinetic formulation of conservation laws. Oxford University Press, 2002.
  15. Piccoli, B. and Garavello, M. : Traffic flow on networks. AIMS, 2006.
  16. Groah, J., Smoller, J., and Temple, B. : Shock wave interactions in general relativity. Springer, 2007.
  17. Sever, M. : Distribution solutions of nonlinear systems of conservation laws. Memoirs of AMS No.889, AMS, 2007.
基礎から書いてあって、最新の話題にも触れてある物としては Smoller の本がお勧めです。 Courant-Friedrichsは大部古い本ですが、 気体力学の膨張波、衝撃波などについて詳しく書かれています。

他にも、保存則系について概説してある日本語の記事に次のような物があります。

  1. 西田孝明--、川島秀一 : 気体の運動方程式, 「非線形の現象と解析」, 山口昌也編 (日本評論社) 1979, 135-160.
  2. 浅倉史興 : 双曲型保存則系の初期値問題 -- 基本結果と近年の話題 --, 「数学」第 52 巻 3 号 (日本数学会) 2000, 257-278.
  3. 松村昭孝、西原健二 : 非線形微分方程式の大域解 - 圧縮性粘性流の数学解析、日本評論社、2004. (11/06 2005 追加)
この最後のものは、粘性保存則 (粘性バーガース方程式、 圧縮性ナビヤ−ストークス方程式) の本で、 その他にあげてある非粘性の話とは少し分野や手法などが異なるのですが、 関連する話題も多いため非粘性の話も色々書かれています。

また、この方程式の数値計算は衝撃波があるため難しい所もあるのですが、 色々詳しく調べられていて、現在もなお活発に研究されています。 数値計算に関しては例えば次をご覧下さい。

  1. 日本機械学会編 : 流れの数値シミュレーション、コロナ社、1988.
  2. 棚橋隆彦 : はじめての CFD - 移流拡散方程式 -、コロナ社、1996.
  3. LeVeque, R.J. : Numerical methods for conservation laws. Birkhauser, 1992.
  4. Godlewski, E. and Raviart, P.A. : Numerical approximation of hyperbolic systems of conservation laws. Springer, 1996.
  5. Kroener, D. : Numerical schemes for conservation laws. Wiley, 1997.
  6. Toro, E.F. : Riemann solvers and numerical methods for fluid dynamics (2nd edition). Springer, 1999.

保存則方程式に関する最新の研究に関しては、 国際会議の会議録 (特に 2 年に 1 度の "Hyperbolic Problems: Theory, Numerics, Applications" が有名) がたくさん出版されていますし、プレプリントサーバもあります。

  1. Hou,T.Y. and Tadmor,E. (eds) : Hyperbolic problems: theory, numerics, applications. 2003, Springer. (2002 年第 9 回国際研究集会 "Hyperbolic Problems" (Pasadena) の会議録)
  2. Warnecke, G. (ed) : Analysis and Numerics. 2005, Springer. (下の 2000 年の Hyperbolic Problems のうち、 いくつか (22) の講演を長めに書いたものをまとめたものか ?)
  3. Freistuehler H. and Warnecke, G. (eds) : Hyperbolic problems: theory, numerics, applications. 2001, Birkhauser. (2000 年第 8 回国際研究集会 "Hyperbolic Problems" (Magdeburg) の会議録)
  4. Fey, M. and Jeltsch, R. (eds) : Hyperbolic problems: theory, numerics, applications. 1998, Birkhauser. (1998 年第 7 回国際研究集会 "Hyperbolic Problems" (Zuerich) の会議録)
  5. Glimm, J., Graham, M.J., Grove, J.W., and Plohr, B.J. (eds) : Hyperbolic problems: theory, numerics, applications. 1996, World Scientific. (1994 年第 5 回国際研究集会 "Hyperbolic Problems" (New York) の会議録)
  6. Conservation laws preprint server (Norway) http://www.math.ntnu.no/conservation/

(06/07 2001; 12/23 2001, 10/15 2002, 12/09 2002, 01/14 2005, 11/06 2005, 02/02 2008, 02/07 2008 修正)

追加ですが、上記最後の Conservation laws preprint server は、 2017 01/01 より投稿停止となりました。 今は arXiv が主流だから、ということだそうです。

(01/04 2017)
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Q 2.4. conservation law についてはどれ位のことが分かっているのですか

A 2.4.

難しい質問ですね。

私は双曲型の、空間次元が 1 次元の物しか良くは知りませんが、 例えば空間次元が 3 以上の物については、連立方程式に対しては 数学的にはほとんど何も分かっていないでしょう。 空間に関して球対称と仮定して、動径方向のみの 1 次元形にした物に対する 結果ならありますが。

空間次元が 2 次元の場合も、連立方程式の場合はほとんど何も解かれていない と言ってもいいでしょう。まだ Riemann 問題が研究されている段階です。

連立でない、単独の方程式 (N=1) に対しては、空間次元が 2 以上の場合も 色々 (解の存在、一意性、初期値に関する連続性なども ?) 分かって いるようですが、私は詳しくは知りません。

最もよく研究されているのが空間 1 次元の場合です。 例えば気体の方程式でいうと、細長い管に気体が入っていて、右へ行くか 左へ行くかの運動しか考えない、非粘性の気体の運動に相当します。

初期値問題は、十分定数に近い初期値に対しては時間大域的な弱解 (エントロピー解) の存在が示されていて、漸近的な挙動も多少 知られています。

しかし、大きい初期値、またはエントロピー解の一意性については 連立方程式ではまだ部分的にしか結果はありません。

(06/05 2001)
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Q 2.5. conservation law はどこが難しいのですか

A 2.5.

真性非線形 (genuinely nonlinear) であるような双曲型保存則の方程式では、 初期値が滑らかでも解が有限時刻で不連続になる現象が知られています。 実際にもこれに対応する物理現象があり、衝撃波と呼ばれています。

もちろん、衝撃波が発生した後も現象は続いているわけですから、そのような 不連続性を持つような (微分できないような) 解を考えなければいけません。

そのために、弱解、エントロピー解といった解を考える必要があるわけですが、 その解のクラスでは解の微分可能性が使えないため、通常他の方程式の 解の存在証明で使われるような不動点定理、ソボレフの不等式などが使えません。 そのため、使える道具が少なく、解の性質を調べるのも難しいのだと思います。

(06/05 2001)
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Q 2.6. 証明されていない予想にはどんなものがありますか

A 2.6.

私は全体を知っているわけではないので、詳しくは知らないのですが、 私の知る限りで、以下のものを予想としてあげておきます。 いずれも空間 1 次元の conservation law 方程式に関するものです。

また、別の項目 (「QandA 2.4 知られていること」, 「QandA 4.3 一意性について」, 「QandA 4.4 初期値に関する連続性」, 「QandA 4.5 漸近性」) などもご覧下さい。

なんとなく以上のことは、反例が見つかる、というよりは 事実だろうと予想している研究者が多いような気がします。 ただ、いずれも難しい問題でなかなか進展がありません。 特に大きい初期値に関する問題については、あまりまともなことが 知られていないのが現状です。

以上はいずれもかなり大きなものですが、他にも専門書や論文を読んで 専門家になれば細かい予想などが見えてくると思います。

(08/08 2001)

A 2.6. (10/14 2002 更新)

一つ追加します。これも空間 1 次元に関する問題です。

1 次元の問題では、x に関して有界変動な空間で考える事が多く、 多分この空間考える事が適切であることが期待されています。 実際に、単独の方程式の場合にはある程度それが言えていて、 しかも、1957 年の Oleinik の存在定理 の証明からわかりますが、 初期値が x に関して有界変動ではなくても有界であれば、 弱解は t>0 では x に関して局所的に有界変動となることが言え、 局所的な有界変動量は (定数)/t の様な形の式で評価されます。 (cf. Oleinik の原論文, Smoller の本, または 空間周期的初期値に関する論文)。

連立方程式の場合も、いくつかの方程式に対しては compensated compactness によって解の存在が示されましたが、 この方法では初期値は必ずしも有界変動である必要はありません。 しかし、その弱解が t>0 に対して有界変動となるかどうかは 多分まだ分かっていないと思います (特に、大きな初期値に対して)。 compensated compactness では、近似解として人工粘性解や、 粘性を含む差分近似解が使われるのですが、 連立方程式の場合にはその一様有界変動評価を得るのが難しく、 まだ t>0 で有界変動となるかどうかは知られていないと思います。 最近 Bressan らが詳しく研究していて、 それに関する結果が少しずつ出て来てはいるようです。

(10/14 2002)
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Q 2.7. 現在でも保存則方程式は盛んに研究されているのでしょうか

A 2.7.

とりあえず、今現在 (2008 04/01) では それなりに研究されていると言っていいと思います。

保存則方程式のプレプリントサーバ

を見てみればわかりますが、 ここに送られてくるプレプリントは全然減っておらず、 毎年ほぼコンスタントに 50 本くらいの論文が集っています (2007 年はやや少なくて 32 本でした)。

しかも、conservation law に関する論文は、 ここに載らないものもかなりあって、 私も順次雑誌の目次を参照して論文のコピーを取りよせています。 難しくて研究が進まないテーマも多い中、 よくネタがつきないものだ、解決される問題もあるものだとも 思うほどです。
# 私も頑張んないと...

(02/10 2007; 04/01 2008 更新)

追加ですが、上記最後の Conservation laws preprint server は、 2017 01/01 より投稿停止となりました。 今は arXiv が主流だから、ということだそうです。

(01/04 2017)
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Q 2.8. どの大学に行けば保存則方程式を勉強できるのでしょうか

A 2.8.

保存則方程式は日本国内にも何人か研究者がいる (Q 2.3. に上げた書物や記事などを書いた人以外にもいます) のですが、その多くが理学部数学科以外の所属だったりします。 数学的な理論家ではなく、実在する衝撃波研究といった工学的な立場、 あるいは流体の数値解析研究といった立場から研究している研究者もいます。 よって、どこというのは実はかなり難しいです。

また数学者は、割と所属を移動しがちなので、 知らないうちに別なところに行ってしまうこともよくありますし、 それに私からこの人とこの人、 という風に指定はしづらいところもあります。

ただ、理学部数学科の学部レベル (1-4 年生) では、 ここまで専門的な勉強をすることはあまりないと思いますので、 多分このような質問の意味が出てくるのは大学院の話だと思いますが、 流体に関する微分方程式を研究しておられる先生ならば、 保存則方程式に関しても理解があると思いますし、 大学院生ならば自分の興味のあることをそれなりに自由に勉強できるでしょうから、 保存則方程式を勉強したいと言えばさせてもらえるような気がしますので、 そういう先生を探してみるといいのではないかと思います。

最近は、大きな大学 (旧帝大、東工大、早稲田、慶應など) の数学科なら、 それぞれそういう分野の先生が少なくとも 1 人位はおられるような気がします。

またいっそ、保存則方程式の プレプリントサーバ に論文を投稿している研究者のいる海外の大学へ留学する、 なんていう方向もあるかもしれません。 実際、海外の先生のところで保存則を学んできた 日本の研究者も何人かおられます。

(04/01 2008 更新)

追加ですが、上記最後の Conservation laws preprint server は、 2017 01/01 より投稿停止となりました。 今は arXiv が主流だから、ということだそうです。

(01/04 2017)
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3. Riemann 問題 について


Q 3.1. 衝撃波って何ですか

A 3.1.

QandA 2.5.にも書きましたが、 保存則方程式で不連続性を持つ解を衝撃波といいます。 気体の方程式の場合の物理現象の衝撃波に対応する解です。

衝撃波解は、ランキン−ユゴニオ条件、およびエントロピー条件と呼ばれる 条件を満たす必要があります。

(06/05 2001)
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Q 3.2. Riemann 問題って何ですか

A 3.2.

初期値が

Riemann 問題の初期値
の形の、保存則方程式の初期値問題のことをいいます。

(06/05 2001)
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Q 3.3. Riemann ってあのリーマンのことですか

A 3.3.

ええ、あの リーマン(G.F.B.Riemann 1826-1866 独) のようです。

流体力学も研究していたようで、他にも Riemann 不変量という 彼が導入した量に名前が残っています。詳しくは Courant Friedrichs の本をご覧下さい。

(06/05 2001; 12/23 2001 修正)
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Q 3.4. 何故 Riemann 問題を考えるのですか

A 3.4.

幾つかの理由が考えられます。

  1. 衝撃波は不連続解であり、その衝撃波同士が衝突すると、 その次に何が起こるか、は局所的にみれば Riemann 問題となり、 それを調べることでそれがわかる。 (Riemann は、衝撃波同士の衝突後の様子の問題の一般化として Riemann 問題を考え始めたようです)
  2. 方程式はスケール変換 (x,t) ==> (Ax,At) に関して不変であり、 それにより x/t の関数の形の自己相似解を持つことになる。 (保存則系は一般に (x-a)/(t-b) の関数の形の自己相似解を持ちますが、 これを (a,b) を中心とする centered wave といいます)
  3. 衝撃波管の実験に対応する。 (衝撃波管とは、長い管の真ん中に仕切りを置いて、その両側を 別な圧力や密度の気体で満たし、ある瞬間にその仕切りを外し、 その後の (高速に進む) 気体の変化を調べる、という実験装置です)
  4. Riemann 問題の解を積み上げることにより弱解に収束する差分近似解 (Glimm 差分、Lax-Friedrichs 差分、Godunov 差分) を作ることができる。 (近似解を作る煉瓦のブロックの様な物だというふうに呼ばれることもあります)

(06/05 2001)
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Q 3.5. Riemann 問題の解を具体的に計算することは可能ですか

A 3.5.

Riemann 問題は 1957 年に Lax により一般的に解かれることが示されていて どのように解けばよいかもそれにより分かっています (例えば Smoller の本参照)。 それがどのような解であるか、少し簡単に説明します。

その解には、N 個の各特性方向に対応した波がその特性速度に従って 左から右へ順に現われ、波と波の間は定数状態 (両端を含めて (N+1) 個) になります。

各波は、その特性方向が真性非線形 (genuinely nonlinear) ならば 衝撃波 (shock wave)、または膨張波 (rarefaction wave) であり、 線形退化 (linearly degenerate) ならば接触不連続 (contact discontinuity) となります。 Riemann 問題の解の場合、衝撃波と接触不連続は一定速度で進む不連続な 断層の形の波、 膨張波は x/t の関数の形の自己相似的な連続波で、 いずれも簡単な式で書けます。

この波の左の定数状態を固定すると波の右に現われ得る定数状態は 任意ではなく、非線形な 1 パラメータの族を作り その 1 パラメータの族を表す式は具体的に書き下すことができます。 よってあとはそれらの族を使って (N-1) 個の定数状態 (と同等な N 個のパラメータ) を決定すればいいのですが、 それには N 本の連立非線形方程式 (微分方程式ではありません) を解く必要があり その解が一意であることは陰関数定理により示されているのですが、 残念ながらそれを具体的に書き下すことは、 ごく単純な方程式の場合を除いては簡単ではありません。

よって気体の方程式の Riemann 問題を数値計算する場合は (Godunov 型差分近似、乱数選択法などで必要となるようです) その非線形方程式の解を Newton 法等の近似計算法により求める、 といったことが行なわれることが多いようです。 詳しくは例えば Toro の本LeVeque の本を参照して下さい。

(12/21 2001; 12/23 2001 修正)
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Q 3.6. 非線形では特性曲線が曲がるので x/t のみによる解はないのでは

A 3.6.

これは、「Q 3.4. 何故 Riemann 問題を考えるのですか」 に書いた、

方程式はスケール変換 (x,t) ==> (Ax,At) に関して不変であり、 それにより x/t の関数の形の自己相似解を持つことになる。
に対する疑問だと思います。

確かに一般には非線形 (半線形、準線形) の方程式、 および変数係数の線形の方程式でも 特性曲線は直線ではなく曲線となります。 特性曲線が直線で話が済むのは、限られた方程式、 限られた問題だけです。 斉次の保存則方程式は、その限られた方程式の一つです。 非斉次、あるいは変数係数の保存則方程式だと そういう綺麗な性質が崩れて、数学的な解析も少し難しくなります。

この、保存則方程式と特性曲線の関係については、 「conservation law に関する document」 の、「非線形波動方程式入門」 を参考にしてみてください。 特性曲線について線形、半線形、準線形の方程式について 例を上げながら説明していて、 最後は単独保存則のリーマン問題の説明もしています。 連立の保存則方程式までは説明していませんが (いつか書こうかなとは思っています)、 それはこれを見た後で保存則方程式の成書 (例えば Smoller のテキスト など) を見られたらよいと思います。

(10/15 2005)
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Q 3.7. Riemann 問題に関する日本語の文献はありませんか

A 3.7.

QandA 2.3 で紹介した中の日本語の文献で言えば、 単独の方程式 (バーガース方程式) の Riemann 問題の話ならば 「非線形保存則系入門」 (吉川) にも 少し書かれていますし、「はじめての CFD」 (棚橋) にも (散発的にですが) 書かれています。 バーガース方程式の Riemann 問題ならば、 私の 「非線形波動方程式入門」 にも書かれています。

連立方程式の保存則系に対する Riemann 問題については、 2x2 の気体の方程式の場合に 「非線形の現象と解析」 (西田、川島) に書かれていますし、同様の方程式、 および一般の単独方程式の場合の Riemann 問題に関する話が 「非線形微分方程式の大域解」 (松村、西原) に書かれています。

しかし、そういえば一般の連立方程式の場合 (NxN) の Riemann 問題の話は 日本語の文献ではあまり見ませんね (結果だけなら 「双曲型保存則系の初期値問題」 (浅倉) にも簡単に触れられています)。

何でしたら、そのうちにそんな文章でも書きましょうか。

(11/06 2005)

A 3.7. (10/09 2007 更新)

追加ですが、現在、「リーマン問題入門」 として そのようなものを書いて公開しています。 ただし、うだうだ書いたためにかなり長く、ちょっと読みにくいと思います。

(10/09 2007)
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4. 弱解の性質について


Q 4.1. 弱解って何ですか

A 4.1.

超関数の意味での解、つまり弱形式での解とみた物です。詳しく述べると、 次のようになります。

U(x,t) が V(x) を初期値 (U(x,0)=V(x)) とする弱解であるとは、 (-∞,∞)×[0,∞) 上にコンパクトな台 (support) を持つ任意の連続微分可能な 実数値関数 φ(x,t) に対して

弱解の定義式
を満たすこと、をいいます。 部分積分で U,F(U) に対する微分を、テスト関数である φ の方に 持って行った、という形になっています。 これで微分可能でない U を解として考えることができるようになるわけです。

ただし、これにより今度は解のクラスが広くなり、解は存在しやすくなりますが、 一意性を示しにくくなります。

なお、上の定義のテスト関数 φ は、ベクトル値だと思って U, F(U), V との 積は内積だと思っても、 また、スカラー値だと思ってベクトルのスカラー倍だと思ってもどちらでも 結構です。φ の任意性によりそれらは同じことになります。

(06/05 2001; 03/16 2007 修正)
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Q 4.2. 弱解の存在はどのように証明するのですか

A 4.2.

不動点定理などが直接は使えないので、作りやすい近似解を作り、 その弱解への収束を示す、というのが普通のやり方です。

しかし、それも割と面倒で、今まで収束が示されている近似解には

といったものがありますが、それぞれ適用範囲や収束条件が限られていて、 収束の証明も、 のようにそれぞれ異なります。

なお、粘性近似解とは、人工粘性項をつけた放物型方程式

人工粘性方程式
の解のことであり、Lax-Friedrichs 差分近似解とは、
Lax-Friedrichs 差分近似
のような差分近似から作られる近似解のことをいいます。 他の近似解は簡単には説明できませんので、QandA 2.3 で 紹介した本や、または conservation law に関する論文などを参照して下さい。

(06/05 2001)

A 4.2. (07/21 2001 更新)

QandA 4.6も ご覧ください。

(07/21 2001)
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Q 4.3. 弱解の一意性は知られていますか

A 4.3.

単独保存則方程式 (N=1) については、エントロピー条件を満たす弱解 (エントロピー解) の存在と一意性は証明されています (1957 Oleinik)。

しかし、連立の保存則方程式についてはエントロピー解の一意性は まだ完全には証明されていません。解のある程度の正則性 (区分的に滑らか などの滑らかさの条件) を仮定した場合の一意性が知られているのみです。

最近、Bressan により、Glimm 差分近似解の極限の一意性、あるいは Glimm 差分近似と波面追跡法の極限が一致することなど、 定数に近い状態の解の一意性が少しずつ明らかになってきています。

しかし、完全な形でのエントロピー解の一意性の証明にはまだかなり 時間を要するように思います。

(06/05 2001)
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Q 4.4. 初期値に関する連続依存性はどうですか

A 4.4.

適切性のためにはこれも必要なのですが、これも実はあまり 良く分かってはいません。

これに関しても最近 Bressan が定数に近い初期値に対しては 証明しています。 彼の方法は非常に強力で、今後も色んなことが明らかにされていくことでしょう。

(06/05 2001)
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Q 4.5. 漸近的な性質はどうですか

A 4.5.

一意性や初期値に関する連続依存性よりは色々なことが以前から知られています。

特に、気体力学で知られている N 型波と呼ばれる波への漸近減衰性は、 非線形により起こるものとして古くから研究され、その収束の速さなども 知られています。

その研究には、連立方程式の場合には、主に Glimm の差分近似解と 一般化特性曲線というものが使われるようです。

(06/05 2001)
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Q 4.6. 弱解の構成方法を勉強したいのですが

A 4.6.

解の構成方法の大まかな話についてはQandA 4.2 を ご覧ください。それぞれについて文献を紹介します。

  1. 単独方程式に対する粘性近似、Lax-Friedrichs 差分の全変動評価

    これに関しては、Smoller の本にも載っていますし、 論文であれば

    1. Oleinik, O.A. : Discontinuous solutions of non-linear differential equations. Uspekhi Mat.Nauk 12, 3-73 (1957)
    2. Kruzkov, S.N. : First order quasilinear equations in several independent variables. Math.USSR-Sb. 10, 217-243 (1970)
    3. Crandall, M.G. and Majda, A. : Monotone difference approximations for scalar conservation laws. Math.Comp. 34, 1-21 (1980)
    をご覧ください。 2.,3. は 空間多次元の解の存在と一意性に関する論文です。

  2. Glimm の差分法

    これも Smoller の本に載っていますし、 日本語の記事もあります。

    1. Glimm, J. : Solution in the large for nonlinear hyperbolic systems of equations. Comm.Pure Appl.Math. 18, 697-715 (1965)
    2. Glimm, J. & Lax, P.D. : Decay of solutions of systems of nonlinear hyperbolic conservation laws. 1970 AMS.

    1.は Glimm による原論文、 2.は Glimm の差分法により 連立の conservation law の弱解の漸近的な性質を示した本です。

    なお、Glimm の差分法は、"interaction estimate" という キーとなる定理があり、その証明が少しやっかいなのですが、 Serre の本の 1 の Lemma 5.8.1 に とても簡潔な証明が書かれています。

    追加ですが、「Glimm 差分法解説」 なるものを書いてみました (2007 年 10 月)。

  3. 波面追跡法と Bressan 理論

    これは Bressan の本Holden, Risebro の本日本語の記事などが参考になると思います。 他にも以下のような物があります。

    これは波面追跡法 (front-tracking method) の話だけで、 その後の Riemann 半群を構成する方の、いわゆる Bressan 理論の話は ありませんが、波面追跡法による弱解の存在証明を知るには 割と読みやすい論文だと思います。 私もこれで勉強しました。

  4. 補完測度法 (補償コンパクト法; compensated compactness)

    これは私の専門分野なのですが、これに関する文献については、 「conservation law に関する dcument」 の節にある 文献の一覧表 をご覧ください。 やや古くなったかも知れませんがそう大きな変化はないと思います (^^;

    ただ、連立方程式に関しては DiPerna にしろ、Serre にしろ、 Ding, Chen, Luo にしろ、いずれもかなり面倒です。 SmollerHoermander の本にも少し触れられていますから それで概観を知るというのも手でしょうし、 Tartar の原論文で単独保存則方程式について概要を知るのもいいでしょう。

    なお、Tartar の単独保存則方程式に関する方法 (を Chen, Lu が改良したもの) を話す機会があり、 それを日本語でまとめたもの (cf. 「 compensated compactness と保存則方程式について」) が数理研講究録に掲載されました。

    また、最近補完測度法に関する Lu Yunguang の本 も出版されました。

いずれにせよ、conservation law を基礎からじっくり勉強するには Smoller の本がいいのではないかと思います。 私はそれで勉強しました。

(07/21 2001; 12/09 2002; 12/29 2002; 01/06 2003; 12/20 2004; 10/09 2007 修正)
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Q 4.7. 初期値境界値問題は難しいですか

A 4.7.

難しいものは難しいと思います。それには幾つかの理由があります。

  1. 例えば、単純に Dirichlet 条件といっても 方程式が双曲型なので、境界条件の個数と特性速度の関係が ある条件 (線形問題の Lopatinskii 条件に相当するもの) を満たさなければ適切にはならないが、 準線形方程式なのでそもそも特性速度は定数ではなく、 a priori に与えることができる適切な境界条件の選択が難しい
  2. Dirichlet 問題に関しては、それを適切な境界条件にするために その条件を弱める必要があるが、その「弱め」の考察において、 粘性近似極限から考察する場合と、 半空間での Riemann 問題で考察する場合で、 得られる条件が異なってしまう (後者の方が強い) ことが知られていて、 非線形問題の場合どちらが適切なのかが明確でない
  3. 解が不連続性を含むため弱解を考えなければならず、解の存在証明も 近似解の収束、という手法によるので、 境界条件も弱解の定義である部分積分による式に埋め込んで (注: 初期条件は既に埋め込まれている)、 極限がその式を満たすのでその極限は境界条件を満たす解である、 と言えてしまうのが望ましいが、そのような境界条件は限定されてしまう
  4. 積分の式に埋め込めない境界条件に対しては、 弱解の境界への「トレース」として境界値を考える、という方法もあるが、 弱解自身が満たす滑らかさが少ないためそのトレースへの収束も 弱い意味でしか考えられず、 実際に境界条件を満たすのか満たさないのかの議論が難しい
このような事情に関しては、詳しくは以下を参照してください。 弱解の定義に含めることのできる境界条件はいいのですが、 そうでないと非常に難しい、というのが実状だと思います。 実際に私が研究した (cf. QandA 1.3) 初期値境界値問題とは定義に含めることができる方のものでしかありません。

(09/15 2001)
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5. その他


Q 5.1. 数値計算では精度の良くない差分を 使っているようですが

A 5.1.

確かに私が使っている Lax-Friedrichs の差分近似解は 1 次近似でしかなく、 解をなまらせる効果 (粘性効果) が強いものとして知られていて、 通常数値計算の分野ではより良い近似法が色々と使われています。

私が Lax-Friedrichs の差分を使っているのには少し理由があります。

  1. 補完測度法で使う近似解だから

    「Q 1.3 そのあなたはどんなことを研究しているのですか」でも 述べましたが、 私が主に使っているのは補完測度法 (compensated compactness theory; 補償コンパクト性理論とも呼ばれる) と呼ばれる近似解の収束証明法なのですが、 それはどんな近似解の収束も示すことができる訳ではなく、 今の所 Lax-Friedrichs 差分近似や人工粘性法などの粘性の強い近似解や 緩和法 (relaxation) などの列にしか適用されておらず、 例えば存在証明で良く使われる Glimm の差分法や、数値解析でよく用いられる 2 次精度の Lax-Wendroff 法などの近似解列には適用されません。

    それは近似解が持つ一様な性質が違うからだと思っています。 そして、私が調べているのは、

    近似解が一様にある性質を持つことを証明することで その近似解の極限 (補完測度法により存在が示される極限) としての 弱解がその性質を満たすことを示す
    という方法で、それに数値計算を使っています。 よって、もし単に
    「極限としての弱解がそのような性質を持つことを数値計算で検証する」
    ということを調べたいなら精度の良い計算法を使えば良いのですが、 私の場合にはこれではだめで、
    「そのような性質を補完測度法で収束が保証されている近似解が、 一様に (近似的に) 満たす」
    ということを確認する必要があります。

  2. 楽だから (^^;

    Lax-Wendroff 程度ならばさほど計算の手間は変わらないのですが、 Godunov や他の手法では Riemann-solver (Riemann 問題の解の数値計算) とか、面倒な数値計算を行なわなければいけません。

    元々数値シミュレーションが目的でなく、 性質の予想をたてる、あるいは検証する程度なので ある程度はいい加減に考えています (^^;

    ただ、確かに粘性効果が強いとそれにかくれてしまう性質もあり、 精度が良いに越したことはないので、 一応 Lax-Friedrichs でも分割数を変えたデータ同士で比較してみるとか、 2 次精度の近似解と比較してみるとか、 その辺りの検証も多少は行なっています。

(04/01 2001)
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Q 5.2. 人工粘性の近似解の作り方の載っているものを教えてください

A 5.2.

確かに、人工粘性を使っている論文等では、 「標準的なやり方でそのような近似解の存在は容易に証明できる」 と書かれていることが多いようです。

基本的には、人工粘性方程式は半線形熱方程式になるので、 確かにその半線形熱方程式に関する「標準的なやり方」で近似解は作れますが、 時間大域解を作るときに a priori 評価と呼ばれるものが 少し面倒になることがあります。

例えば、「非線形微分方程式の大域解」 (松村、西原) の第 2 章に、 単独保存則方程式である Burgers 方程式に粘性がついたもの (数式は Q 2.2 を参照) の大域解の存在証明が書かれています。 連立方程式の場合も、これを元に考えてみるといいでしょう。

ただ、例えば Euler 座標系での等エントロピー流 (数式は Q 2.2 を参照) などの場合、密度ρの下からの評価が必要になります。 この場合の人工粘性近似解の大域解の存在については、 DiPerna のこの方程式に対する補間測度法に関する原論文:

にも書かれているのですが、かなり省略されていて、 密度ρの下からの評価もやや面倒です。 密度ρの下からの評価に関しては、 Lu Yunguang の本 の方法 (定理 1.0.2) を使うのが楽だと思います (8.1 節も参照のこと)。

何でしたら、そのうちにそんな文章でも書きましょうか。

(03/17 2006)
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Q 5.3. 保存則方程式の「エントロピー」って減少しているようなのですが

A 5.3.

まず「エントロピー」と「エントロピー条件」について説明します。

保存則方程式

Ut+F(U)x=0 (U=U(t,x)∈RN、t>0、x∈R、F:RN→RN)
に対して、RN から R への関数 η(U)、q(U) が、
∇q(U)=∇η(U)∇F(U)
を満たすとき、 すなわち、保存則方程式の「滑らかな」解 U=U(t,x) に対して追加保存則
η(U)t+q(U)x=0
を満たすとき、 保存則方程式ではη(U)、q(U) を エントロピー対 と呼び、 η(U) を (一般化された) エントロピー ((generalized) entropy)、 q(U) を エントロピー流束 (entropy flux) と呼びます。

これは、もちろん気体の方程式の場合の物理的なエントロピー S に 対応して名付けられたものです。実際、S は Euler 座標系では、 次のような追加保存則を満たします (ρは気体密度、u は気体速度):

(ρS)t+(ρSu)x=0
つまり、この場合はη=ρS、q=ρSu なわけです。

そして、保存則方程式の弱解 U=U(t,x) は、 次の「エントロピー条件」を満たす必要があります:

η(U)t+q(U)x≦ 0 (超関数の意味で)
ここで、η(U)、q(U) は、η(U) が U に関して凸関数であるような 任意のエントロピー対です。

このエントロピー条件は、 確かに「(一般化) エントロピーη(U) が減少する」ような不等式になっていて、 通常の物理学での熱力学の法則である「エントロピーは増大する」ということとは 逆になってしまっています。

これは、エントロピー条件の定義を「凸な (一般化) エントロピーに対して」 としているために起きていて、 上に書いた気体の方程式の場合のエントロピー ρS は 実は「凹な (一般化) エントロピー」になっています。 よって、エントロピー条件に現れる (一般化) エントロピーη(U) は、 S に対しては η=-ρS とすべきものなわけです。

すなわち、確かに「(一般化) エントロピーは減少する」という形のものが 数学的なエントロピー条件なのですが、 それは物理的に不整合というわけではなくて、 「(一般化) エントロピーの定義に物理的なエントロピーの (-1) 倍がついている」 という事情によるわけです。 よって、物理的には問題なく整合しています。

このようなことになってしまったのは、 多分この (一般化) エントロピーを以下の論文で最初に深く考察した Lax が 「凸なエントロピー」に対する、 上の向きの不等号のエントロピー条件の研究を行っているからでしょう:

しかしこの論文で Lax は、エントロピー条件という言葉は使っているものの、 η(U) を「エントロピー」とは呼んではいないので、 むしろη(U) を「エントロピー」と呼ぶようにした人に責任があるのかもしれません (残念ながら誰であるかはちょっとわかりません)。

(06/11 2009; 06/12 2009 修正)
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Q 5.4. Lax-Friedrichs 差分は Riemann 問題の解で埋めないといけないのですか

A 5.4.

これは、補償コンパクト法による弱解の存在証明の際の Lax-Friedrichs 差分近似解の構成法の話だと思います。

本来、差分近似解とは離散的な x, t の値で定義されるもの (数列) なので、 その極限が連続的な x, t の値で定義される「関数」である解 (弱解) には収束しません。 よって、理論的に弱解への収束を示す場合には、 離散的な場所でしか定義されていない差分近似解を、 何らかの形で連続的な x, t で定義されている関数に拡張 (関数化) する必要があります。

普通に考えると、各離散な点の間の値を線形補間するとか、 あるいは、各点の周囲ではその点での値を持つ階段関数にしてしまう、 というのが簡単そうですが、 それらが弱解に収束することを理論的に証明しようとすると、 そういう無理矢理な拡張よりは、 Riemann 問題の解を用いて埋める方が都合がいいことが多いです。

では、階段関数のようなものが弱解には収束しないかというと、 そうではありません。 実際、単独保存則に関する Oleinik の存在定理では、 Lax-Friedrics 型差分近似を、Riemann 問題の解ではなく、 階段関数によって関数化した近似解を使って収束を証明しています。

補償コンパクト法による 2x2 の等エントロピー流の弱解の存在証明などでは Lax-Friedrichs 型の差分近似を Riemann 問題の解で埋めて関数化するのですが、 この場合も、ある論文 にある不等式を用いれば、 階段関数で埋めたもの弱解への収束は証明できるようです。

(06/07 2012)
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Q 5.5. 保存則方程式の論文は真偽が怪しいものが多いと聞いたのですが

A 5.5.

確かにそういう話は私も聞きますし、 実際にミスがある論文を見たりすることもあります。 保存則研究者としては、 そういう噂は少しくやしく感じることもあります。

数学の学術論文でも、 一般的に以下のようなミスや難点が含まれることがあります。

  1. 読んでいる人がすぐに間違いとわかる程度の小さなミス
  2. 間違いであることはわかり、 論文の本筋は変えずにそこを修正することが良く考えれば可能である、 あるいは修正できることがわかっているミス
  3. 間違いであることがわかっていて、 論文の本筋は変えずにそこを修正することができないミス
  4. 間違っているのか間違っていないのかがわからない難点

1. には「誤植」も含まれますが、 広い意味で 1. をすべて「誤植」ということもあります。 これらは審査や校正の段階で直されることもありますが、 すりぬけて出版されることもあります。 もしかすると、あまりに自明なミスであれば、 読者もわかるので直さなくても大丈夫かな、 という考えが働くこともあるかもしれません。

2. も、数学の論文であっても見受けられることがあり、 そのまま放っておかれることもありますが、 雑誌によっては後で筆者による訂正論文が追加出版されることもありますし、 別の人がそれを修正するような論文を書くこともあります。

3. は、本来出版されていはいけない論文ですが、 ごくまれに出版されてしまうことがあります。 審査時間が足りなかったり、 あまり適切でない人が審査したりすることによって 十分な審査が行われなかった、などの理由で審査をすりぬけてしまう場合です。

4. は、「ギャップ」や「広い行間」などとも呼ばれますが、 「こうだからこう」と書いてあるところの理由が どう考えてもわからないことがありますし、 そういう点が多く含まれる論文もあります。 特に、すごく優秀な人の論文にそういうことがありますし、 筆者と読者の数学の知識の積み重ね方が違う場合にも ギャップを感じることが多いように思います。 例えばあの国の人の論文は読みやすいけど、 あの国の人の論文は読みにくい、ということがあります。

さて、保存則に多いという怪しさは、 多分 3. がかなりあるのでは、という話だと思うのですが、 私はむしろその多くが 1., 2., 4. のいずれかではないかと考えています。 保存則には以前は割と計算がおおらかな研究者が多く、 それで 1., 2. を含む論文がかなり見受けられましたし、 証明をあまり詳しく、丁寧には書かない「天才型」の研究者が多かったことで 4. の形式の論文も多かったように思います。 そして、それら 2. や 4. の論文の真偽が不明な場合に 実はそれは 3. なのではないか、というように噂されるのが この話なのではないかと思います。 私が修士時代に勉強した論文も、 最後の部分が 3. であるような気がして筆者に質問したら、 その問題点は修正論文を後で出した、と教えてもらったことがあります。

3. のような論文が全くないとは言いません。 昔は今より訂正論文が出ることは少なかったような気がしますし、 出版された論文の取り下げも数学ではあまり見ないような気がします。 だから 3. であることが知られても そのまま放っておかれる論文がある場合もあったかもしれません。 保存則は、標準的な微分方程式の研究手法が使いにくいため、 色々な方法、道具をあらたに持ちこんでくる研究が多いですから、 読みにくい論文が多いことはある程度は仕方ありません。 そういう論文では、木を見て森を見ないのではなく、 細かい真偽にとらわれすぎずに、 新たな手法から学べることを学ぶことの方が重要かなと思います。

また、保存則の論文の真偽が怪しいかもしれないということは、 逆に論文を勉強する際は、単純に受け入れるのではなく、 どこかが間違えている可能性も含みながら自分の責任で読むことになりますので、 他の分野よりも批判的に論文を読む能力、細かいところを考える能力、 ギャップを埋める能力がより鍛えられる、と言えるかもしれませんし、 実際に間違えている箇所や、どうしても埋められないギャップがあれば、 それを再検討することが新たな論文ネタになる、 ということもあるかもしれません。 実際私も、ある論文の 4. のような 2. の箇所を、 別な方法で証明することで回避した論文を書いたことがありますし、 数学ではそういう方向の研究、 すなわち「天才」の論文のギャップを埋める研究や、 より易しい別証明を考える研究も少なくありません。

(06/05 2018)
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作成日: 08/01 2018
竹野茂治@新潟工科大学 (shige@iee.niit.ac.jp)