B.2 数学的な一般化エントロピー

前節で物理的なエントロピー $S=S(\rho,P)$ を (B.3) として導いたが、 今度はこれと方程式 (3.12) との 数学的な関係を見てみる。

この方程式 (3.12) の滑らかな解に対しては、 (3.14) より、

\begin{eqnarray*}S_t
&=&
S_\rho\rho_t+S_P P_t
%\\ &=&
=
-\frac{\gamma}{\rho...
...frac{u}{P}P_x\right)
=
-S_\rho u\rho_x- S_P uP_x
\\ &=&
-uS_x\end{eqnarray*}

となるので、よって

\begin{displaymath}
S_t+uS_x=0\end{displaymath}

が成り立つ。 $S$ は単位質量あたりのエントロピーなので、全質量に対するエントロピー $\rho S$ を考えると、

\begin{displaymath}
(\rho S)_t
=\rho_t S+\rho S_t
=-(\rho u)_x S-\rho uS_x
=-(\rho uS)_x
\end{displaymath}

となるので、

\begin{displaymath}
(\rho S)_t+(\rho uS)_x=0\end{displaymath}

となることがわかる。

このように、一般に保存則方程式

\begin{displaymath}
U_t+F(U)_x=0\end{displaymath} (B.124)

の滑らかな解に対して、必ず
\begin{displaymath}
\eta(U)_t+q(U)_x=0\end{displaymath} (B.125)

となるスカラー関数 $\eta(U)$, $q(U)$ が存在する場合、 これを (一般化された) エントロピー対 (generalized entropy pair) と呼び、$\eta(U)$エントロピー関数 (entropy)、 $q(U)$エントロピー流束 (entropy flux) と呼ぶ。

式 (B.5) は

\begin{displaymath}
\nabla_U\eta(U)U_t+\nabla_U q(U)U_x=0
\end{displaymath}

と書けるので、(B.4) より

\begin{displaymath}
\{-\nabla_U\eta(U)\nabla_UF(U)+\nabla_Uq(U)\}U_x=0
\end{displaymath}

となる。よって、 $(\eta(U),q(U))$ がエントロピー対となることは、
\begin{displaymath}
\nabla_Uq(U)=\nabla_U\eta(U)\nabla_U F(U)\end{displaymath} (B.126)

が成り立つことを意味する。

しかし、(B.5) は衝撃波では成立しない。 それを調べるために、 不連続線での $(\eta,q)$ に対するランキン-ユゴニオ条件のような式

\begin{displaymath}
\Phi=s[\eta]-[q]
=s(\delta)\{\eta(U(\delta))-\eta(U_0)\}
-\{q(U(\delta))-q(U_0)\}
\end{displaymath}

を調べてみる。 ここで、$U(\delta)$ は、 衝撃波曲線 (4.7 節)、 または接触不連続曲線 (4.6 節) を表し、$U(0)=U_0$, $s(0)=\lambda_j(U_0)$ であるとする。

(B.6) より、

\begin{eqnarray*}\frac{d \Phi}{d \delta}
&=&
s'[\eta]+s\eta'-q'
=
s'[\eta]+s...
...la_Uq(U)U'
\\ &=&
s'[\eta]+\nabla_U\eta(U)\{s-\nabla_UF(U)\}U' \end{eqnarray*}

となるが、ランキン-ユゴニオ条件

\begin{displaymath}
s[U]-[F]
=s(\delta)\{U(\delta)-U_0\}-\{F(U(\delta))-F(U_0)\}
=0
\end{displaymath}

を微分すれば、

\begin{displaymath}
s'[U]+sU'-F'
=s'[U]+\{s-\nabla_UF(U)\}U'
=0
\end{displaymath}

なので、
\begin{displaymath}
\frac{d \Phi}{d \delta}
=s'[\eta]-s'\nabla_U\eta(U)[U]
=-s'\{\eta(U_0)-\eta(U)-\nabla_U\eta(U)(U_0-U)\}\end{displaymath} (B.127)

となる。今、

\begin{displaymath}
\psi(\theta)=\eta(U+\theta(U_0-U))
\end{displaymath}

とすれば、 $\psi'(\theta)=\nabla_U\eta(U+\theta(U_0-U))(U_0-U)$ より、 (B.7) の中かっこ内は、

\begin{displaymath}
\psi(1)-\psi(0)-\psi'(0)=\int_0^1(1-\theta)\psi''(\theta)d\theta
\end{displaymath}

と書ける。 今、 $\nabla_U^2\eta$ を、$(i,j)$ 成分が $\partial^2\eta/\partial u_i\partial u_j$ である $N\times N$ 行列 であるとすると、

\begin{displaymath}
\psi''(\theta)={\,}^T\!(U_0-U)\nabla_U^2\eta(U+\theta(U_0-U))(U_0-U)
\end{displaymath}

であるので、 $\nabla_U^2\eta$ が正定値 (つまり $\eta$ が凸) であれば、 (B.7) の中かっこ内は正となる。 ここで、 $\nabla_U^2\eta$ が正定値であるとは、 任意のベクトル $X\neq 0$ に対して、 2 次形式 ${\,}^T\!X\nabla_U^2\eta X$ が正であることを意味する。 $\eta$ が凹 ( $\nabla_U^2\eta$ が負定値) ならば逆に (B.7) の中かっこは負となる。

また、$s'(\delta)$ は、衝撃波の場合は

\begin{displaymath}
s'(0)=\frac{1}{2}\nabla_U\lambda_j(U)r_j(U)>0
\end{displaymath}

であったから、 少なくとも $\vert\delta\vert$ が十分小さければ $s'(\delta)>0$ となる。

よって衝撃波の場合は、$\eta$ が凸ならば $\delta\neq 0$ のときは $\Phi'(\delta)<0$ となり、$\Phi(0)=0$ より、

\begin{displaymath}
\delta<0 \Leftrightarrow \Phi>0
\end{displaymath}

となる。$\eta$ が凹ならば、逆に

\begin{displaymath}
\delta<0\Leftrightarrow \Phi<0
\end{displaymath}

となる。

つまり、$\eta$ が凸か凹ならば、$\Phi$ は衝撃波に対しては どこでも一定符号であることになる。 後で示すように (B.4 節参照)、 $\rho S$ $U={\,}^T\!(\rho,m,E)$ に関して凹となるので、 それが言える。

一方、接触不連続に対しては、

\begin{displaymath}
s'(\delta)=\{\lambda_j(U_0)\}'=0
\end{displaymath}

なので、$\Phi$ は 0 である。 よって、$\Phi$ の符号を指定すること (例えば凸なエントロピーに対して $\Phi>0$ のような条件) によって、 適切な衝撃波のみを選択できることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01