5.5 オイラー座標系の理想気体の場合

オイラー座標系の理想気体に対しては、 3.5 節の結果より、 1-膨張波曲線 $R_1(U_0)$

\begin{displaymath}
U_1(\delta):\hspace{1zw}
\left\{\begin{array}{l}
\rho=\rh...
...^{-\gamma\delta}
\end{array}\right. \hspace{1zw}(\delta\geq 0)\end{displaymath}

と表され $U_1'(\delta)=r_1(U_1(\delta))$ を満たし、 3-膨張波曲線 $R_3(U_0)$

\begin{displaymath}
U_1(\delta):\hspace{1zw}
\left\{\begin{array}{l}
\rho=\rh...
...e^{\gamma\delta}
\end{array}\right. \hspace{1zw}(\delta\geq 0)\end{displaymath}

によって $U_3'(\delta)=r_3(U_3(\delta))$ を満たす。

また、4.8 節の結果より、 1-衝撃波曲線 $S_1(U_0)$

\begin{displaymath}
U_1(\delta):\hspace{1zw}
\left\{\begin{array}{l}
\rho=\rh...
...ta\leq 0,\hspace{1zw}e^{-\delta}<\frac{1+\theta}{\theta}\right)\end{displaymath}

3-衝撃波曲線 $S_3(U_0)$

\begin{displaymath}
U_3(\delta):\hspace{1zw}
\left\{\begin{array}{l}
\rho=\rh...
...lta\leq 0,\hspace{1zw}e^{\delta}>\frac{\theta}{1+\theta}\right)\end{displaymath}

と表されて、 これらにより $R_1(U_0)$$S_1(U_0)$ (つまり $U_1(\delta)$$\delta\leq 0$$\delta\geq 0$), $R_3(U_0)$$S_3(U_0)$ (つまり $U_3(\delta)$$\delta\leq 0$$\delta\geq 0$) は $C^2$ 級でつながり、命題 5.1 を満たす。

2-接触不連続 $C_2(U_0)$ は、

\begin{displaymath}
U_2(\delta):\hspace{1zw}
\left\{\begin{array}{l}
\rho=\rh...
..._0,\\
P=P_0
\end{array}\right. \hspace{1zw}(\delta> -\rho_0)\end{displaymath}

となる。

$f_3(\xi)$, $f_4(\xi)$

\begin{eqnarray*}f_3(\xi)
&=&
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \frac{\x...
...\left(1\leq\xi<\frac{1+\theta}{\theta}\right)
\end{array}\right.\end{eqnarray*}

のように定義すれば、 $U_1(\delta)$$\delta\geq 0$, $\delta\leq 0$ を込めて
\begin{displaymath}
U_1(\delta)=U_1(\delta; U_0):\hspace{1zw}
\left\{\begin{ar...
...hspace{1zw}\left(\xi=e^{-\delta}<\frac{1+\theta}{\theta}\right)\end{displaymath} (5.111)

と書ける。 この $R_1(U_0)$$S_1(U_0)$ をつないだ曲線を $T_1(U_0)$ と 書くことにする。

同様に、

\begin{displaymath}
\hat{f}_3(\xi)=
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \fra...
...left(\frac{\theta}{1+\theta}<\xi\leq 1\right)\end{array}\right.\end{displaymath}

とすれば、$R_3(U_0)$$S_3(U)$ をつないだ曲線 $T_3(U_0)$ は、

\begin{displaymath}
U_3(\delta)=U_3(\delta; U_0):\hspace{1zw}
\left\{\begin{ar...
...\hspace{1zw}\left(\xi=e^{\delta}>\frac{\theta}{1+\theta}\right)\end{displaymath}

と表される。

リーマン問題の解は、定理 5.2 の証明のように、

\begin{displaymath}
U_m^1=U_1(\delta_1; U_l),
\hspace{1zw}U_m^2=U_2(\delta_2; U_m^1),
\hspace{1zw}U_r=U_3(\delta_3; U_m^2)\end{displaymath} (5.112)

となる $\delta_1$, $\delta_2$, $\delta_3$, $U_m^1$, $U_m^2$ によって 作られる。

これらが求まれば、 例えば $\delta_1>0$ ならば、$U_l$$U_m^1$ は 1-膨張波によってつながり、 その部分の解 $U=U(t,x)$

\begin{displaymath}
U(t,x)=
\left\{\begin{array}{ll}
U_l & (x<\lambda_1(U_l) t)...
...(\lambda_1(U_l)t\leq x\leq \lambda_1(U_m^1)t)\end{array}\right.\end{displaymath}

となるが、$V(x/t)$ は (5.3) の $\xi=e^{-\delta}$ ( $0\leq\delta\leq\delta_1$) に、 3.5 節の (3.21) を代入したものになる。

$\delta_1<0$ ならば、$U_l$$U_m^1$ は 1-衝撃波によってつながり、 その部分の解 $U=U(t,x)$

\begin{displaymath}
U(t,x)=
\left\{\begin{array}{ll}
U_l & (x<s_1 t)\\
U_m^1 & (x >s_1 t)\end{array}\right.\end{displaymath}

となるが、$s_1$

\begin{displaymath}
s_1=u_0-\sqrt{\frac{\xi}{1+\theta-\theta\xi}}
\end{displaymath}

$\xi=e^{-\delta}$ を代入したものになるし、 あるいは直接ランキン-ユゴニオ条件より、

\begin{displaymath}
s_1=\frac{\rho_m^1 u_m^1-\rho_l u_l}{\rho_m^1-\rho_l}
\end{displaymath}

により求めることもできる。

2-単純波 (接触不連続)、3-単純波 (膨張波、または衝撃波) も同様である。

よって、$\delta_1$, $\delta_2$, $\delta_3$, $U_m^1$, $U_m^2$ を 求めることが目標となるが、例えば、(5.4) の $\rho$ 成分を見れば

\begin{displaymath}
\rho_m^1=\rho_le^{-\delta_1},
\hspace{1zw}
\rho_m^2=\rho_m^1+\delta_2,
\hspace{1zw}
\rho_r=\rho_m^2e^{\delta_3}
\end{displaymath}

となるので、$\rho_m^1$, $\rho_m^2$ さえ求まれば、 $\delta_1$, $\delta_2$, $\delta_3$

\begin{displaymath}
\delta_1 =\log\rho_l-\log\rho_m^1,
\hspace{1zw}
\delta_3 =\log\rho_r-\log\rho_m^2,
\hspace{1zw}
\delta_2 =\rho_m^2-\rho_m^1
\end{displaymath}

と求まるので、結局 $U_m^1$, $U_m^2$ を求めればよいことがわかる。

つまり、 $U_m^1\in T_1(U_l)$, $U_m^2\in C_2(U_m^1)$, $U_r\in T_3(U_m^2)$ となる $U_m^1$, $U_m^2$ を求めればよいのであるが、 $C_2(U_m^1)$$u$, $P$ は一定なので、

\begin{displaymath}
U_m^1=\left[\begin{array}{c}\rho_m^1\\ u_m\\ P_m\end{array}\...
...2=\left[\begin{array}{c}\rho_m^2\\ u_m\\ P_m\end{array}\right]
\end{displaymath}

と書ける。

今、 $V=U_3(\delta;W)$ を逆に $W$ について解いたものを

\begin{displaymath}
\hat{T}_3(V): W=\hat{U}_3(\delta; V)
\end{displaymath}

と書くことにする。 つまり、左の状態につながりうる右の状態が相空間上で動く曲線を考える代わりに、 右の状態につながりうる左の状態が相空間上で動く曲線を考える。 $\hat{R}_3$, $\hat{S}_3$ も同様に定義することにする。

そうすれば、

\begin{displaymath}
U_m^1=\left[\begin{array}{c}\rho_m^1\\ u_m\\ P_m\end{array}\...
..._m\end{array}\right]=\hat{U}_3(\delta_3;U_r)\ (\hat{T}_3(U_r))
\end{displaymath}

であるから、よって、 とすれば、$U_m^1$, $U_m^2$ が求まることになる。

これを行うために、まず $\hat{T}_3(U_r)$ ( $\hat{U}_3(\delta;U_r)$) を式で表わしてみる。

$\delta\geq 0$ の場合、 $U_r=U_3(\delta;U_l)$

\begin{displaymath}
\rho_r=\rho_l\xi,
\hspace{1zw}u_r=u_l+\frac{C_l}{\theta}(\xi...
...a-1),
\hspace{1zw}P_r=P_l\xi^\gamma
\hspace{1zw}(\xi=e^\delta)
\end{displaymath}

であり、

\begin{displaymath}
C_r
=\sqrt{\frac{\gamma P_r}{\rho_r}}
=\sqrt{\frac{\gamma P_l}{\rho_l}}\xi^\theta
=C_l\xi^\theta
\end{displaymath}

より、 $\hat{\xi}=1/\xi$ とすれば、

\begin{eqnarray*}\rho_l &=& \rho_r\hat{\xi},
\\
u_l &=& u_r-\frac{C_l}{\theta...
...P_r\hat{\xi}^\gamma
\\
\lefteqn{(\hat{\xi}=e^{-\delta}\leq 1)}\end{eqnarray*}

となる。$\delta <0$ の場合は、

\begin{displaymath}
\rho_r=\rho_l\xi,
\hspace{1zw}u_r=u_l+C_lf_0(\xi)=u_l+C_l\fr...
...ace{1zw}P_r=P_l\frac{(1+\theta)\xi-\theta}{1+\theta-\theta\xi}
\end{displaymath}

なので、

\begin{displaymath}
C_r
=\sqrt{\frac{\gamma P_l}{\rho_l}}
\sqrt{\frac{1}{\xi}\,\...
...frac{1}{\xi}\,\frac{(1+\theta)\xi-\theta}{1+\theta-\theta\xi}}
\end{displaymath}

であり、よって、

\begin{eqnarray*}C_lf_0(\xi)
&=&
C_r\sqrt{\xi\frac{1+\theta-\theta\xi}{(1+\the...
...xi}(1+\theta-\theta\hat{\xi})}}
%\\ &=&
=
-C_rf_0(\hat{\xi}),\end{eqnarray*}

となる。また、

\begin{displaymath}
\frac{(1+\theta)\xi-\theta}{1+\theta-\theta\xi}
=
\frac{1+\theta-\theta\hat{\xi}}{(1+\theta)\hat{\xi}-\theta}
\end{displaymath}

となるので、

\begin{displaymath}
\rho_l=\rho_r\hat{\xi},
\hspace{1zw}u_l=u_r+C_rf_0(\hat{\xi}...
...eft(1\leq \hat{\xi}=e^{-\delta}<\frac{1+\theta}{\theta}\right)
\end{displaymath}

と書ける。

以上をまとめると、$e^{-\delta}$ をあらためて $\xi$ と書き直せば、

\begin{displaymath}
\rho_l=\rho_r\xi,
\hspace{1zw}u_l=u_r+C_rf_3(\xi),
\hspace{1...
...space{1zw}\left(\xi=e^{-\delta}<\frac{1+\theta}{\theta}\right)
\end{displaymath}

と書けることになる。 これが、 $U_l=\hat{U}_3(\delta;U_r)$ ( $\hat{T}_3(U_r)$) を与える。 この $\hat{T}_3(U_0)$$T_1(U_0)$ を比較すると、 平面 $u=u_0$ に関して対称であることがわかる。

$(u_m,P_m)$ を求めるには、 $(u,P)$ 平面への $T_1(U_l)$ $\hat{T}_3(U_r)$ の射影曲線

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
pT_1(U_l): & (u,P)=(u_l-C_lf_3(\xi...
...space{1zw}\left(\xi=e^{-\delta}<\frac{1+\theta}{\theta}\right)
\end{displaymath}

の交点を求めればよいが、次にこれがちゃんと求まるかどうか考えてみる。

$\tau=f_4(\xi)$ とすると、$\tau$$\xi$ に関して単調で、 $0<\xi\leq 1$ のとき $0<\tau\leq 1$, $1<\xi<(1+\theta)/\theta$ のとき $1<\tau<\infty$ なので、 $f_3(\xi)$$\tau$ の関数

\begin{displaymath}
f_3(\xi)=\bar{f}_3(\tau)\hspace{1zw}(0<\tau<\infty)
\end{displaymath}

と見て考えればよい。このとき、

\begin{displaymath}
pT_1(U_l):\ u=u_l-C_l\bar{f}_3(P/P_l),
\hspace{1zw}
p\hat{T}_3(U_r):\ u=u_r+C_r\bar{f}_3(P/P_r)
\end{displaymath}

となり、いずれもこの関数をスケール変換、平行移動、 上下反転したものなので、この関数を調べれば可解性がわかる。

まず $\tau\leq 1$、すなわち $\delta\geq 0$ のときは、 $\tau=\xi^\gamma$ より

\begin{displaymath}
\bar{f}_3(\tau)=\frac{\xi^\theta-1}{\theta}
=\frac{1}{\theta}(\tau^{\theta/\gamma}-1)<0
\end{displaymath}

なので、単調増加で、 $y=\bar {f}_3(\tau )$ のグラフは上に凸で $(\tau,y)=(0,-1/\theta)$$y$ 軸に接し、 $(\tau,y)=(1,0)$ を通る。

$\tau\geq 1$ のときは、 $\tau=f_4(\xi)=\{(1+\theta)\xi-\theta\}/(1+\theta-\theta\xi)$ より、

\begin{displaymath}
\xi=\frac{(1+\theta)\tau+\theta}{1+\theta+\theta\tau}
\end{displaymath}

となるので、よって

\begin{displaymath}
y=\bar{f}_3(\tau)=\frac{\tau-1}{\sqrt{\gamma}\sqrt{(1+\theta)\tau+\theta}}
\end{displaymath}

と書け、

\begin{eqnarray*}\bar{f}_3'(\tau)
&=&
\bar{f}_3(\tau) \frac{(1+\theta)\tau+3\t...
...)\tau+7\theta+3\}}%
{4(\tau-1)\{(1+\theta)\tau+\theta\}^2}
< 0\end{eqnarray*}

のようになることが示される。また、これらの式より

\begin{displaymath}
\lim_{\tau\rightarrow\infty} \bar{f}_3(\tau)=\infty,\hspace{...
...{f}_3'(\tau)
=\lim_{\tau\rightarrow\infty} \bar{f}_3''(\tau)=0
\end{displaymath}

となることがわかる (図 5.6)。

図 5.6: $y=\bar {f}_3(\tau )$ のグラフ
\includegraphics[height=0.2\textheight]{f3tau.eps}
図 5.7: $pT_1(U_l)$ $p\hat{T}_3(U_r)$
\includegraphics[height=0.2\textheight]{pT1pT3.eps}
よって、$pT_1(U_l)$$P=0$ のとき $u=u_l+C_l/\theta$, $p\hat{T}_3(U_r)$$P=0$ のとき $u=u_r-C_r/\theta$$u$ 軸に接するから、
\begin{displaymath}
u_l+\frac{C_l}{\theta}>u_r-\frac{C_r}{\theta}\end{displaymath} (5.113)

ならば、$pT_1(U_l)$ $p\hat{T}_3(U_r)$$P>0$ の領域内で 必ず一点 $(u_m,P_m)$ で交わり、 よってリーマン問題が解けることになる (図 5.7)。

逆に、(5.5) が満たされない場合は、 $P>0$ の領域では 2 つの曲線 $pT_1(U_l)$, $p\hat{T}_3(U_r)$ は交わらず、 よって今までの考察のような形ではリーマン問題の解を求めることはできない。 なお、この場合は $x=0$ の両側にある気体の状態 $U_l$, $U_r$ が 強く互いに遠ざかろうとしていることを意味していて、 その場合は中間に $P=0$, $\rho=0$ の状態、 すなわち「真空」が発生する。 真空状態をも解と見なして考える立場もあるが、 通常のリーマン問題の一般論の考察からは外れてしまうので、 ここではそのような話には立ち入らないことにする。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01