9 いくつかの証明

この節では、いくつかの命題の証明を紹介する。

まず、命題 1 を証明する。 それには、$\mathcal{D}$$\mathcal{S}$ で稠密なので、 $f\in\mathcal{D}'_T$ に対し、 ある自然数 $m_0$ とある正数 $C_0$ があり、

\begin{displaymath}
\vert\left\langle  f, \phi \right\rangle \vert\leq C_0\Vert\phi\Vert _{m_0}\end{displaymath} (22)

がすべての $\phi\in\mathcal{D}$ に対して成り立つことを示せばよい。

まず、4 節の 1 の分割 $e_T$ に対し、

\begin{displaymath}
\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits e_T\subset (-N_0T,N_0T)
\end{displaymath}

となる自然数 $N_0$ を取る。 $f\in\mathcal{D}'$ であるから、 この $N_0$ に対し、ある自然数 $m_1$ と正数 $C_1$ があり、 任意の $\phi\in\mathcal{D}(-N_0T,N_0T)$ に対して
\begin{displaymath}
\vert\left\langle  f, \phi \right\rangle \vert
\leq
C...
..._1}\sup_{\vert x\vert\leq N_0T}\left\vert D^k\phi(x)\right\vert\end{displaymath} (23)

とできる。なお、この $m_1$ は、必要ならば取り直して 2 以上 であるとしてよい。

さて、任意の $\phi\in\mathcal{D}$ に対し、 命題 2 により

\begin{displaymath}
\left\langle  f, \phi \right\rangle = \left\langle  f,\...
...,\right\rangle_T = \left\langle  f, e_T\phi_T \right\rangle \end{displaymath} (24)

であり、 $\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits (e_T\phi_T)\subset (-N_0T,N_0T)$ であるから、 (23) より
\begin{displaymath}
\vert\left\langle  f, e_T\phi_T \right\rangle \vert
\le...
..._{\vert x\vert\leq N_0T}\left\vert D^k(e_T\phi_T)(x)\right\vert\end{displaymath} (25)

とできる。ここで、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{D^k(e_T\phi_T)(x)
=
\sum_{n=-\infty}^\infty D^k(e_T(...
...1+\vert x+nT\vert)^{m_1}}
(1+\vert x+nT\vert)^{m_1}D^j\phi(x+nT)\end{eqnarray*}


とすると、$k\leq m_1$ より
\begin{displaymath}
\vert D^k(e_T\phi_T)(x)\vert
\leq
\Vert\phi\Vert _{m_1} \sum_n \frac{\psi_k(x)}{(1+\vert x+nT\vert)^{m_1}}\end{displaymath} (26)

となることがわかる。ここで、$\psi_k(x)$
\begin{displaymath}
\psi_k(x) = \sum_{j=0}^k{}_k\mathrm{C}_j\vert D^{k-j}e_T(x)\vert
\end{displaymath}

としたが、これは $\mathop{\mathrm{supp}}\nolimits \psi_k(x)\subset (-N_0T,N_0T)$ で非負の 有界な関数である。

(24), (25), (26) を合わせると結局

\begin{displaymath}
\vert\left\langle  f, \phi \right\rangle \vert
\leq
C...
...\Vert _{m_1} \sum_n \frac{\psi_0(x)}{(1+\vert x+nT\vert)^{m_1}}\end{displaymath} (27)

となる。ここで、 $\displaystyle \psi_0(x)=\max_{k\leq m_1}\psi_k(x)$ とした。 (27) の $n$ に関する和の部分を、 $\vert n\vert\leq N_0$ に対するものと、 $\vert n\vert>N_0$ に関するものに分けると、$\vert n\vert>N_0$ のときは $\vert x\vert\leq N_0T$ より
\begin{displaymath}
\vert x+nT\vert\geq \vert n\vert T-\vert x\vert \geq (\vert n\vert-N_0)T
\end{displaymath}

なので、$m_1\geq 2$ より、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_n \frac{\psi_0(x)}{(1+\vert x+nT\vert)^{m_1}}
= ...
...^{m_1}}
\leq
\psi_0(x)\left(2N_0+1 + \frac{\pi^2}{3T^2}\right)\end{eqnarray*}


でおさえられる。$\psi_0(x)$ は有界なので、 これで (22) が成り立つこと ($m_0=m_1$) が示された。

次は、命題 8 を示す。それには、次のベッセルの不等式を用いる。


命題 12

$f\in\mathcal{D}'_T$$f\in L^2(0,T)$ ならば、 すべての $n$ について次が成り立つ。

\begin{displaymath}
\frac{a_0(f)^2}{2} + \sum_{k=1}^n(a_k(f)^2+b_k(f)^2)
\leq
\frac{2}{T}\int_0^T\vert f\vert^2dx
\end{displaymath} (28)


証明

不等式 (28) の左辺を $I_n$ とすると、 フーリエ級数の部分和 $F_n(f)$ ((14)) は、

\begin{displaymath}
\int_0^T\vert F_n(f)(x)\vert^2dx = \frac{T}{2}I_n,
\hspace{0.5zw}\int_0^T f(x)F_n(f)(x)dx = \frac{T}{2}I_n
\end{displaymath}

となり (計算は略)、よって
\begin{displaymath}
\Vert f-F_n(f)\Vert _{L^2(0,T)}^2 = \Vert f\Vert _{L^2(0,T)}^2 - \frac{T}{2}I_n\geq 0
\end{displaymath}

となるので、
\begin{displaymath}
I_n \leq \frac{2}{T}\Vert f\Vert _{L^2(0,T)}^2
\end{displaymath}

が言える。


命題 8 の証明に戻る。 今、 $f\in\mathcal{D}'_T$$C^1$ 級である場合は $f'\in L^2(0,T)$ なので、 これにベッセルの不等式を適用すると、

\begin{displaymath}
\frac{a_0(f')^2}{2} + \sum_{k=1}^n(a_k(f')^2+b_k(f')^2)
\leq
\frac{2}{T}\int_0^T\vert f'\vert^2dx
\end{displaymath}

となるが、補題 7 よりこれは
\begin{displaymath}
\sum_{k=1}^n\left(\frac{2k\pi}{T}\right)^2(a_k(f)^2+b_k(f)^2)
\leq
\frac{2}{T}\int_0^T\vert f'\vert^2dx\end{displaymath} (29)

を意味する。よって、
\begin{displaymath}
\left\vert a_k(f)\cos\frac{2k\pi}{T}x+b_k(f)\sin\frac{2k\pi}...
...left(a_k(f)^2+b_k(f)^2\right)
+ \left(\frac{T}{2k\pi}\right)^2
\end{displaymath}

より、(29) によりこの右辺の和が $F_n(f)$ に対する収束する優級数を作るので、 結局 $F_n(f)$ が一様収束することになる。

最後は命題 11 $\phi\in C^\infty_T $ とすると、$D^m\phi$ にベッセルの不等式を適用すれば、 (11) と同様にして

\begin{displaymath}
\sum_{k=1}^n\left(\frac{2k\pi}{T}\right)^{2m}(a_k(\phi)^2+b_k(\phi)^2)
\leq
\frac{2}{T}\int_0^T\vert D^m\phi\vert^2dx\end{displaymath} (30)

が得られ、左辺は $n\rightarrow\infty$ のときに 右辺でおさえられて有界なので、
\begin{displaymath}
\lim_{k\rightarrow\infty}k^p a_k(\phi)
= \lim_{k\rightarrow\infty}k^p b_k(\phi)
= 0
\end{displaymath}

$p<m$ に対して言えることになる。$m$ はいくらでも大きくとれるので、 これで命題 11 も成り立つことが示された。

竹野茂治@新潟工科大学
2015年6月1日