5 周期超関数のフーリエ級数の収束性

周期超関数のフーリエ級数の収束性は、実は次のことが知られている。


定理 5

$f\in\mathcal{D}'_T$ に対するフーリエ級数の部分和

\begin{displaymath}
F_n(f)(x) = \frac{a_0(f)}{2}
+ \sum_{k=1}^n \left(a_k(f)\cos\frac{2k\pi}{T}x
+ b_k(f)\sin\frac{2k\pi}{T}x\right)
\end{displaymath} (14)

は、$\mathcal{D}'$$f$ に収束する。


本節では、この定理の証明を紹介する。


補題 6

任意の $f\in\mathcal{D}'_T$, $\phi\in C^\infty_T $ に対し、 $f'\in\mathcal{D}'_T$ で、次が成り立つ。

  1. $\left\langle  f, \phi e_T' \right\rangle =0$
  2. $\left\langle  f', \phi \right\rangle_T =-\left\langle  f, \phi' \right\rangle_T $


証明

$f'\in\mathcal{D}'_T$ となることは容易にわかる。 まず 1. から考える

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\left\langle  f, \phi e_T' \right\rangle
=
\left...
...\langle  f(x), \phi(x)e_T(x)\sum_n e_T'(x-nT) \right\rangle
\end{eqnarray*}


となるが、
\begin{displaymath}
\sum_n e_T'(x-nT)
=
\left(\sum_n e_T(x-nT)\right)'
=
(1)' = 0
\end{displaymath}

より 0 となる。

また、2. の方は 1. より、

\begin{displaymath}
\left\langle  f', \phi \right\rangle_T
=
\left\langle...
...ight\rangle
=
-\left\langle  f, \phi' \right\rangle_T
\end{displaymath}

となって示される。



補題 7

任意の $f\in\mathcal{D}'_T$ に対し、 $\displaystyle a_n(f')=\frac{2n\pi}{T}b_n(f)$, $\displaystyle b_n(f')=-\frac{2n\pi}{T}a_n(f)$,
$\{F_n(f)\}' = F_n(f')$.


証明

補題 6 より、

\begin{eqnarray*}a_n(f')
&=&
\left\langle  f', \frac{2}{T}\cos\frac{2n\pi}{T...
...cos\frac{2n\pi}{T}x \right\rangle_T
= -\frac{2n\pi}{T}a_n(f)
\end{eqnarray*}


よって、$a_0(f')=0$ であり、これらを用いると、
\begin{eqnarray*}\{F_n(f)\}'
&=& \left\{\frac{a_0(f)}{2}
+ \sum_{k=1}^n\left(a...
...rac{2k\pi}{T}x
+ a_k(f')\cos\frac{2k\pi}{T}x\right)
= F_n(f')
\end{eqnarray*}


となる。


さて、定理 5 は、任意の $\phi\in\mathcal{D}$ に対して、

\begin{displaymath}
\left\langle  F_n(f), \phi \right\rangle \rightarrow\left\langle  f, \phi \right\rangle
\end{displaymath}

であることを意味するが、命題 2 より この左辺は $\left\langle  F_n(f), \phi_T \right\rangle_T $ に等しく、 そして (6) を用いると以下のように変形できる。
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\left\langle  F_n(f), \phi_T \right\rangle_T }
 ...
...ight\rangle
=
\left\langle  f, F_n(\phi_T) \right\rangle_T \end{eqnarray*}


このように、フーリエ級数の計算が、超関数からテスト関数へ移動できる。

さて、次は良く知られている。


命題 8

$f\in\mathcal{D}'_T$$C^1$ 級 ($f$, $f'$ が連続) であれば、 $F_n(f)$$f$ に一様収束する。


この証明は 9 節で紹介する。

この命題 8 により、$F_n(\phi_T)$$\phi_T$ に 一様収束することがわかるが、補題 7 より
$D^kF_n(\phi_T)=F_n(D^k\phi_T)$ であり、 これも命題 8 により $D^k\phi_T$ に一様収束することになる。 これにより、 $e_TF_n(\phi_T)$ は、 $\mathcal{D}$$e_T\phi_T$ に収束することがわかる。 実際、 $e_TF_n(\phi_T)$ のサポートは $n$ にかかわらず $e_T$ の サポートに含まれ、

\begin{eqnarray*}D^k(e_TF_n(\phi_T))
&=&
\sum_{j=0}^k {}_kC_j D^{k-j}e_T D^jF...
...\sum_{j=0}^k {}_kC_j D^{k-j}e_T D^j\phi_T
 &=&
D^k(e_T\phi_T)\end{eqnarray*}


となるからである。

よって、 $\left\langle  f, e_TF_n(\phi_T) \right\rangle $ $\left\langle  f, e_T\phi_T \right\rangle $ に収束し、 結局、

\begin{displaymath}
\left\langle  F_n(f), \phi \right\rangle = \left\langle ...
...i_T \right\rangle_T = \left\langle  f, \phi \right\rangle
\end{displaymath}

となり、定理 5 が示されたことになる。

つまり、周期超関数のフーリエ級数の収束は、 テスト関数のフーリエ級数の収束に帰着されて示されることになる。 なお、この定理 5 により、 (13) も $\mathcal{D}'$ ( $\mathcal{D}'_T$) では等号になる。

竹野茂治@新潟工科大学
2015年6月1日