4.3 特異性の伝播

この不連続線を、偏微分方程式の「特異性の伝播」という観点から考えてみる。 この節は、[7] の第 5 章 §1.3、 「不連続線としての特性曲線. 波面」の節での議論を参考に考察を行う。

まずは、方程式 (4.1) の 導関数の不連続性について考える。 $U(t,x)$$(t,x)$ について連続で、 $(C^1)$ 曲線 $x=x(t)$ 以外ではなめらか ($C^1$) で、 $x=x(t)$ では $U_t$, $U_x$ が不連続であるが、 $x=x(t)$ への有限な極限値は存在する (第一種不連続) であるとする。 つまり、

    $\displaystyle U(t,x(t)+0)-U(t,x(t)-0)=0$ (4.59)
    $\displaystyle U_x(t,x(t)+0)-U_x(t,x(t)-0)=H(t)$ (4.60)

であるとする。

まず、(4.10) を $t$ で微分すると、

\begin{displaymath}
U_t(t,x(t)+0)+x'(t)U_x(t,x(t)+0)
-
\{U_t(t,x(t)-0)+x'(t)U_x(t,x(t)-0)\}=0
\end{displaymath}

となるので、

\begin{displaymath}[U_t]=\Bigl[U_t\Bigr]^{x=x(t)+0}_{x=x(t)-0}
=-x'(t)[U_x]=-x'(t)H(t)
\end{displaymath}

となるが、方程式 (4.1) より、

\begin{eqnarray*}[U_t]
&=&
[-F(U)_x]
=
-[\nabla_UF(U)U_x]
\\ &=&
-\nabla_U...
...x(t)))\{U_x(t,x(t)+0)-U_x(t,x(t)-0)\}
\\ &=&
-\nabla_UF(U) H(t)\end{eqnarray*}

となるので、 $\nabla_UF(U) H(t)=x'(t)H(t)$ がいえる。 よって、$H(t)\neq 0$ であれば、ある $j$ に対し、
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
x'(t)=\lambda_j(U(t,x(t))),\\
H(t)=c(t)r_j(U(t,x(t)))
\end{array}\right.\end{displaymath} (4.61)

が成り立つ。 よって、(4.12) の第 1 式より、 このような $x=x(t)$$j$-特性曲線であることがわかる。

例えば、膨張波解 (3.8) の端の特性曲線 $x=\lambda_j(U_0)t$, $x=\lambda_j(U_1)t$ が、 この導関数の不連続線に相当する。

なお、[7] では、方程式を座標変換して考察しているが、 それはこの場合で言えば、この不連続線の近くで、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\eta = x-x(t),\\
\xi = t\end{array}\right.\end{displaymath}

のような座標変換を行うことに相当し、この $(\eta,\xi)$ は、

\begin{displaymath}
\left\vert\begin{array}{cc}
\eta_t & \eta_x \\
\xi_t & \x...
...{array}{cc}
-x'(t) & 1 \\
1 & 0
\end{array}\right\vert
=-1
\end{displaymath}

であるから確かに $(t,x)$ の代わりに $(\eta,\xi)$ に座標変換できて、 $x=x(t)$ では $[U_\xi]=0$, $[U_\eta]=H$ となることになる。 これは、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
U_t=U_\eta(-x'(t))+U_\xi,\\
U_x=U_\eta\end{array}\right.\end{displaymath}

から、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
U_\eta=U_x,\\
U_\xi=U_t+x'(t)U_x\end{array}\right.\end{displaymath}

となるから、直接 (4.10), (4.11) から

\begin{eqnarray*}[U_\xi]
&=&
\frac{d}{d t}U(t,x(t)+0)-\frac{d}{d t}U(t,x(t)-0)=0,\\ [.5zh]
[U_\eta]
&=&
[U_x]=H(t)\end{eqnarray*}

のように得ることもできる。

よって、(4.1) を $(\eta,\xi)$ で表せば、

\begin{displaymath}
0
=
U_t+F_x
=
-x'(t)U_\eta+U_\xi+F_\eta
=
-x'(t)U_\eta+U_\xi+\nabla_UF(U)U_\eta
\end{displaymath}

とすることで、この式の $x=x(t)$ での段差を考えれば、

\begin{displaymath}
-x'(t)[U_\eta]+[U_\xi]+\nabla_UF(U)[U_\eta]
=(\nabla_UF(U)-x'(t))H(t)
=0
\end{displaymath}

となるので、(4.12) を得ることができる。

次は、$U$ 自身の不連続性について考える。 そのために、2 節で微分方程式を導くために使われた $\bar{M}^1$, $\bar{N}^1$ を考える。

2.4 節では、 この $\bar{M}^1$, $\bar{N}^1$ に対する保存則 (2.9) を、それらが微分可能であるとして $t$, $x$ で微分することで質量保存則方程式 (2.10) を導いたわけであるが、 今はその微分可能性を保証できない場合を考えるわけであるから、 むしろその前の、$\bar{M}^1$, $\bar{N}^1$ に対する保存則 (2.9) から始めるべきである。

つまり一般には、(4.1) を考える代わりに、 その前の形の保存則として、

\begin{displaymath}
\bar{U}(t,x)=\int_{x_0}^xU(t,y)dy,
\hspace{1zw}
\bar{F}(t,x)=\int_{t_0}^tF(U(s,x))ds,
\end{displaymath}

に対して、
\begin{displaymath}
\bar{U}(t,x)+\bar{F}(t,x)=\bar{U}(t_0,x)+\bar{F}(t,x_0)\end{displaymath} (4.62)

が成り立つ、として話を始める。

なめらか ($C^1$) な曲線 $x=d(t)$$U$ の不連続線で、 $x=x_0$ はその左にあるとする。 この $x=d(t)$ 以外では $\bar{U}$, $\bar{F}$ は十分滑らかで (4.13) を満たし、 $x=d(t)$ では $\bar{U}$, は連続ではあるが、 その微分は不連続 (第一種不連続) であるとする:

\begin{displaymath}
\bar{U}(t,d(t)+0)=\bar{U}(t,d(t)-0)\end{displaymath} (4.63)

なお、この (4.14) と (4.13) を組み合わせると、

\begin{displaymath}[\bar{F}]=-[\bar{U}]+[\bar{U}(t_0,x)]+[\bar{F}(t,x_0)]
=0
\end{displaymath}

となるので、$\bar{F}$ も連続であることが言える。

(4.14) を $t$ について微分すると、

\begin{displaymath}[\bar{U}_t]+d'(t)[\bar{U}_x]=0
\end{displaymath}

が成り立ち、$x=d(t)$ 以外では $\bar{U}_x=U$ であるので、

\begin{displaymath}[\bar{U}_t]=-d'(t)[U]
\end{displaymath}

となる。 一方、(4.13) より、

\begin{displaymath}[\bar{U}_t]
=
[-\bar{F}_t(t,x)+\bar{F}_t(t,x_0)]
=
-[\bar{F}_t(t,x)]
=
-[F]
\end{displaymath}

となるので、結局ランキン-ユゴニオ条件

\begin{displaymath}[F]=d'(t)[U]
\end{displaymath}

が得られることになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01