4.2 物理的な要請

まずは、その不連続解の物理的な適切性を考察してみる。 ここでは、2 節で導いた、 オイラー座標系での理想気体の保存則方程式系 (2.10), (2.15), (2.16) を例に取って考察する。

このオイラー座標系での理想気体の方程式系を (4.1) の形に書いた場合、 この $F(U)$ は特に

\begin{displaymath}
F(U)=uU+G(U),\hspace{1zw}G(U)=\left[\begin{array}{c}0\\ P\\ Pu\end{array}\right]\end{displaymath}

の形をしている。$uU$ は、境界を超えて保存量 $U$ の流入や流出による項で、 $G(U)$ は、境界に働く力によって時間とともに増減される保存量で、 $G$ の第 2 成分の $P$ は力積、第 3 成分の $Pu$ は仕事を表していた。

今、解の不連続性がなめらか ($C^1$) な曲線 $x=d(t)$ に沿って 現れる ($x$ 軸には平行には現れない) とし、 その不連続線以外では $U=U(t,x)$ はなめらか ($C^1$) な関数で 方程式 (4.1) を満たすとする。 そして、その不連続性は第一種の不連続、 すなわちこの不連続線へ向かっての $U$ の有限な極限が存在するとする。 なお、通常 $x<d(t)$ 側の解を $U_l$, $x>d(t)$ 側の解を $U_r$ のように 書くことが多く、ここでも適宜そのような記法を用いる。

図 4.1: 不連続線と左右の解
\includegraphics[height=0.2\textheight]{discC.eps}

物理的な要請とは、もちろん、

「保存量は、その不連続線の前後でも保存されること」
である。

簡単のために、 $(t_0,x_0)=(t_0,d(t_0))$ の近くを拡大して考えることで、 $x=d(t)$ を直線 $x=x_0+s_0(t-t_0)$ ($s_0=d'(t_0)$) と見なし、 $U(t,x)$$x=d(t)$ の左右で定数ベクトル $U_l$ ( $=U(t_0,d(t_0)-0)$), $U_r$ ( $=U(t_0,d(t_0)+0)$) であると考える。 そして、$\Delta t>0$ を十分小さい定数として、 $t_0\leq t\leq t_0+\Delta t$ の時間変化での保存量の変化を考える。

$x_1$, $x_2$ を、それぞれ $x_0$ の左右の点とし、 $t=t_0$ でそれぞれの位置にあった気体の $\Delta t$ 秒後の位置を それぞれ $x_1'$, $x_2'$ とし、 $x_0'=d(t_0+\Delta t)$ とすると、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
x_0'=x_0+s_0\Delta t,\\
x_1' = X...
...= X(t_0+\Delta t;t_0,x_2) = x_2+u_r\Delta t
\end{array}\right.\end{displaymath} (4.51)

となる ($x_1'$, $x_0'$, $x_2'$ の順序は変わらないように $\Delta t$ を 十分小さくとる)。
図 4.2: $x_j$, $U_l$, $U_r$
\includegraphics[height=0.2\textheight]{xjplace.eps}

このとき、$t=t_0$ のときの $x_1\leq x\leq x_2$ における保存量 $M$ $t=t_0+\Delta t$ のときの $x_1'\leq x\leq x_2'$ における保存量 $M'$ の 値を比べると、 $x_1$ から $x_1'$ への直線 $x=x_1+u_l(t-t_0)$$x_2$ から $x_2'$ への直線 $x=x_2+u_r(t-t_0)$ は 流体とともに移動しているから、 これらの線を超えて流体の出入りはなく、よって保存量の出入り ($uU$) もない。 よって、時間とともに境界に働く力によって増減される量 ($G(U)$) による 変化があるだけなので、

\begin{displaymath}
M'=M+\Delta t G(U_l)-\Delta t G(U_r)\end{displaymath} (4.52)

が成り立つ。$M$, $M'$ は、

\begin{displaymath}
M=(x_2-x_0)U_r+(x_0-x_1)U_l,
\hspace{1zw}
M'=(x_2'-x_0')U_r+(x_0'-x_1')U_l
\end{displaymath}

であるから、これを (4.3) に代入すると、

\begin{displaymath}
(x_2'-x_0')U_r+(x_0'-x_1')U_l
=(x_2-x_0)U_r+(x_0-x_1)U_l+\Delta t G(U_l)-\Delta t G(U_r)
\end{displaymath}

となる。 これに (4.2) を代入して整理すると

\begin{displaymath}
(u_r\Delta t-s_0 \Delta t)U_r
+(s_0\Delta t-u_l\Delta t)U_l
=\Delta t(G(U_l)-G(U_r))
\end{displaymath}

となるので $\Delta t$ で割れば、

\begin{displaymath}
s_0(U_r-U_l)=u_rU_r+G(U_r)-\{u_lU_l+G(U_l)\}
\end{displaymath}

すなわち、
\begin{displaymath}
s_0[U]=[F(U)]\end{displaymath} (4.53)

が得られることになる。ここで、$[\cdot]$ は、

\begin{displaymath}[g(U)]=\Bigl[g\Bigr]^{U=U_r}_{U=U_l}=g(U_r)-g(U_l)
\end{displaymath}

を表す記号で、この不連続線にともなっての左から右への段差を意味している。

この (4.4) は不連続性の前後での $U$ の値と、 不連続線の伝播速度 $s_0$ が満たすべき関係式で、 ランキン-ユゴニオ関係式 (Rankine-Hugoniot relation) または、ランキン-ユゴニオ条件 と呼ばれる。

上の議論は、$(t_0,x_0)$ の付近で拡大して定数と見る、 ということをしなくても同じことを行うことは可能である。 $t_0\leq t\leq t_1$ で不連続線の $x=d(t)$ の 左側に曲線 $x=X(t;t_0,a)$ があるように $x=a$ を取り、 右側に曲線 $x=X(t;t_0,b)$ があるように $x=b$ を取る。 そして、$D_1$ をこの不連続線の左側の領域、$D_2$ を右側の領域とする:

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
D_1 =\{(t,x);\ X(t;t_0,a)<x<d(t),\ t_0<t<t...
...\\
D_2 =\{(t,x);\ d(t)<x<X(t;t_0,b),\ t_0<t<t_1\}
\end{array}\end{displaymath}

図 4.3: $X_j$, $D_1$, $D_2$
\includegraphics[height=0.2\textheight]{D1D2.eps}

このとき上の考察と同様に、曲線 $x=X(t;t_0,a)$, $x=X(t;t_0,b)$ を超えて 保存量の流入、流出はなく、その上での $G$ による影響があるだけなので、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle M'=M+\int_{t_0}^{t_1...
...=X(t_1;t_0,a),\hspace{1zw}X_2=X(t_1;t_0,b))
\end{array}\right.\end{displaymath} (4.54)

がいえる。

$D_1$ の内部では $U_t+F(U)_x=0$ を満たし、 かつ $U$$x=d(t)$ への極限は存在するのでそれを $U(t,d(t)-0)$ と書けば、 Green の公式:

\begin{displaymath}
\int\!\!\!\int _D(f_t+g_x)dxdt = \hspace{.3em}\circlearrowleft\hspace{-1.25em}\int _{\partial D}(-fdx+gdt)\end{displaymath} (4.55)

より、
$\displaystyle 0$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int\!\!\!\int _{D_1}(U_t+F(U)_x)dxdt
=
\hspace{.3em}\circlearrowleft\hspace{-1.25em}\int _{\partial D_1}(-Udx+F(U)dt)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_a^{x_0}(-U(t_0,x))dx
+ \int_{t_0}^{t_1}\left[-U(t,x)\frac{d x}{d t}+F(U(t,x))\right]_{x=d(t)-0}dt$  
    $\displaystyle -\int_{X_1}^{x_0'}(-U(t_1,x))dx
- \int_{t_0}^{t_1}\left[-U(t,x)\frac{d x}{d t}+F(U(t,x))\right]_{x=X(t;t_0,a)}dt$  
    $\displaystyle \hspace{1zw}(x_0'=d(t_1))$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -\int_a^{x_0}U(t_0,x)dx + \int_{X_1}^{x_0'}U(t_1,x)dx$  
    $\displaystyle +\int_{t_0}^{t_1}\left[F(U(t,x))-d'(t)U(t,x)\right]_{x=d(t)-0}dt$  
    % latex2html id marker 18575
$\displaystyle -\int_{t_0}^{t_1}\left[F(U(t,x))-u(t...
...\right]_{x=X(t;t_0,a)}dt
\hspace{1zw}(\mbox{(\ref{eq:sec:gas:deriv_X_T}) より})$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -\int_a^{x_0}U(t_0,x)dx + \int_{X_1}^{x_0'}U(t_1,x)dx
-\int_{t_0}^{t_1}G(U(t,X(t;t_0,a)))dt$  
    $\displaystyle +\int_{t_0}^{t_1}\left[F(U(t,x))-d'(t)U(t,x)\right]_{x=d(t)-0}dt$ (4.56)

同様に、$D_2$ での積分を考えれば、
$\displaystyle 0$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int\!\!\!\int _{D_2}(U_t+F(U)_x)dxdt
=
\hspace{.3em}\circlearrowleft\hspace{-1.25em}\int _{\partial D_2}(-Udx+F(U)dt)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle -\int_{x_0}^bU(t_0,x)dx + \int_{x_0'}^{X_2}U(t_1,x)dx
+\int_{t_0}^{t_1}G(U(t,X(t;t_0,b)))dt$  
    $\displaystyle -\int_{t_0}^{t_1}\left[F(U(t,x))-d'(t)U(t,x)\right]_{x=d(t)+0}dt$ (4.57)

となるので、 (4.7), (4.8) を加えると、

\begin{eqnarray*}0
&=&
-\int_a^bU(t_0,x)dx + \int_{X_1}^{X_2}U(t_1,x)dx
+\int...
...}^{t_1}\Bigl[F(U(t,x))-d'(t)U(t,x)\Bigr]^{x=d(t)+0}_{x=d(t)-0}dt \end{eqnarray*}

が得られる。

(4.5) により、 この式の右辺の最初の 3 項の和は 0 であるから、 $x=d(t)$ の両端の値での積分のみが残り、

\begin{displaymath}
\int_{t_0}^{t_1}\Bigl[F(U(t,x))-d'(t)U(t,x)\Bigr]^{x=d(t)+0}_{x=d(t)-0}dt=0
\end{displaymath}

が成り立つこととなる。$t_0$, $t_1$ は任意であるから、 よって $x=d(t)$ 上で
\begin{displaymath}[F(U)]=d'(t)[U]\end{displaymath} (4.58)

が成り立つことがわかる。 これで (4.9) と同等の ランキン-ユゴニオ条件が得られることになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01