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4 半線形方程式の解の爆発

3 節では、(11) だけでなく、右辺が $u$ の 1 次式であるような例もあげた。 またそこでも簡単に述べたように、さらに一般の方程式

\begin{displaymath}
u_t+\alpha(t,x)u_x=\beta(t,x,u)\end{displaymath} (13)

も、それらと同様に特性曲線を用いて解くことができる。 この右辺の項が $u$ に関して 1 次式ではない場合、この方程式は線形ではなく、 非線形 (nonlinear) の方程式となる。 非線形の方程式にも色々な種類のものがあるが、この方程式 (13) は 半線形 (semilinear) と呼ばれる。

微分方程式の性質を大きく左右するものは、方程式の一番高い微分の項の部分 (主要部 (principal part) と呼ばれる) であり、この方程式 (13) の場合その部分は

\begin{displaymath}
u_t+\alpha(t,x)u_x
\end{displaymath}

となっていて、線形の方程式のそれと同じであり、非線形部分はこの主要部 以外の部分に現われている。 このように、方程式の主要部の部分が線形の形をしている非線形方程式は 半線形と呼ばれる。

半線形方程式の場合、それが引き起こす非線形現象としてよく知られているも のに、解の爆発現象というものがある。まず解の爆発について、常微分方程式 の例を用いて紹介する。

方程式

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle \frac{d y}{d t}=y^2,\\
y(0)=1\end{array}\right.\end{displaymath}

を解くと、解は

\begin{displaymath}
y=\frac{1}{1-t}
\end{displaymath}

となり、$t=0$ のときに $y=1$ となる解は $t\rightarrow 1-0$ のときに無限 大に発散してしまい、この解は $0\leq t<1$ の範囲でしか存在しない。このよ うな状態を、解が $t=1$爆発 (blowup) する、という。

図 8: $y=1/(1-t)$
\includegraphics{image/blowup2}

方程式

\begin{displaymath}
\frac{d y}{d t}=y^2
\end{displaymath}

は、解のグラフの傾きが、$(t,y)$ という点では $y^2$ になる、ということを 示している。$t=1$ という直線の上では、特にその傾きの値が大きくなっている わけではないが、解はここで無限大に発散している。これは線形の方程式では 見られない現象である。

この方程式の場合、$y$ が大きくなると $y^2$ はさらに大きくなり、それにし たがって $y$ の増加率 $dy/dt$ が大きくなり、ますます $y$ が大きくなる、 という相乗効果が非常に強く働くためにこのようなことが起こるのであり、 線形の方程式の場合の相乗効果は、ある有限の $t$$y$ の値を無限大にし てしまうほどのものではない。

偏微分方程式に話を戻す。 今、例えば半線形移流方程式

\begin{displaymath}
u_t+au_x=u^2 \hspace{1zw}(a \mbox{ は定数})\end{displaymath} (14)

を考えてみる。 初期値を $u(0,x)=f(x)$ とする。特性曲線は $x=at+x_0$ だから $v(t)=u(t,at+x_0)$ とすると

\begin{displaymath}
\frac{d }{d t}v(t)=\frac{\partial u}{\partial t}(t,at+x_0)+a\frac{\partial u}{\partial x}(t,at+x_0)
=u(t,at+x_0)^2
=v(t)^2
\end{displaymath}

より、$v(t)$

\begin{displaymath}
\frac{d v}{d t}=v^2
\end{displaymath}

を満たし、これを解くと
\begin{displaymath}
v(t)=\frac{v(0)}{1-v(0)t}\end{displaymath} (15)

となり、これを $u$ に戻して、$x_0=x-at$ を代入すれば、結局
\begin{displaymath}
u(t,x)=\frac{f(x-at)}{1-f(x-at)t}\end{displaymath} (16)

が得られる。 この解を各特性曲線上で見てみる。すると、 (15) によれば、$v(0)>0$ のときは $v(t)$, すなわちこの特性曲線上での $u$ の値は $t=1/v(0)$ のときに無限 大に発散し、爆発が起こることがわかる。 一方 $v(0)=0$ のときは $v(t)=0$, $v(0)<0$ のときはすべての正の $t$ の 値に対して有限な値で $v(t)\rightarrow 0$ となる。

つまり $v(t)$ が爆発するか、爆発しないかが $v(0)$ の値によって変わって いる。また、爆発する場合でもその爆発時刻は $v(0)$ の値によって変わって いることがわかる。 これは、各特性曲線ごとに爆発時刻が異なることを意味している。

図 9: 爆発境界と特性曲線
\includegraphics{image/char4.eps}

$u(t,x)$ に戻って考えてみる。$(0,x_0)$ を通る特性曲線 $x=at+x_0$ の上で の $u$ の値の爆発時刻は

\begin{displaymath}
t=\frac{1}{v(0)}=\frac{1}{f(x_0)}
\end{displaymath}

だから、$(t,x)$ 平面上の

\begin{displaymath}
(t,x)=\left(\frac{1}{f(x_0)},\frac{a}{f(x_0)}+x_0\right)
\end{displaymath}

という点で爆発していることになる。 この、各特性曲線上での爆発する点 $(t,x)$ をすべて結んでいくと 一つの曲線が出来上がる。 これを 爆発境界 (blowup boundary), あるいは 爆発曲線 (blowup curve) と呼ぶ。

今の方程式の場合には、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
x=at+x_0,\\
\displaystyle t=\frac{1}{f(x_0)}\end{array}\right.\end{displaymath}

から $x_0$ を消去すると

\begin{displaymath}
tf(x-at)=1
\end{displaymath}

となるが、これが方程式 (14) の爆発境界の方程式である。

方程式 (14) の右辺をより一般化して

\begin{displaymath}
u_t+au_x=\vert u\vert^p \hspace{1zw}(p>0)
\end{displaymath}

とすると、同様の考察により、$p>1$ のときには $f(x_0)>0$ であるような $x_0$ に対する特性曲線 $x=at+x_0$ の上で爆発が起こり、爆発境界の方程式は

\begin{displaymath}
\{(p-1)t\}^{1/(p-1)}f(x-at)=1
\end{displaymath}

となることがわかる。

1 次元半線形波動方程式

\begin{displaymath}
u_{tt}-a^2u_{xx}=\vert u\vert^p
\end{displaymath}

の場合も、加藤敏夫らにより ([3]) $p>1$ ならば解が爆発することが示されていて、この場合にも 滑らかな爆発境界が存在することがわかっている ([4])。 しかしこの場合は、移流方程式のように特性曲線によって解を得るこ とができるわけではなく、爆発境界の式が具体的に書き下すことがで きるわけではない。

$x$ の次元が 1 より大きい場合、すなわち $n$ 次元半線形波動方程式

\begin{displaymath}
u_{tt}-a^2\Delta u = \vert u\vert^p
\hspace{1zw}\left(\Delta...
...tial x_2^2}+\ldots+\frac{\partial^2 u}{\partial x_n^2}
\right)
\end{displaymath}

についても、ここ数年盛んに研究され、$p$ がどのような値の場合に解 が爆発する、ということが色々調べられている。 おおまかにその結果を述べると、それぞれの次元 $n$ に対して $p(n)$ という実数が一つ決まり、

\begin{eqnarray*}
1<p\leq p(n) & \Rightarrow & \mbox{初期値が小さくても解は有限...
... p> p(n) & \Rightarrow & \mbox{初期値が小さければ解は爆発しない}
\end{eqnarray*}



ということになるようである。 $p>1$ であれば、初期値が大きいときは相乗効果により 確かに爆発するが、初期値が小さいときは必ずしも爆発しない。そして、 その場合には $p$ が大きければ大きい程爆発しにくくなる。それは、 $\vert u\vert$ が 1 よりも小さいときには、$p$ が大きくなるほど $\vert u\vert^p$ は 逆に小さくなるからである。

この $p(n)$ は、ある 2 次方程式の解であり、 $p(1)=\infty$, $p(2)=(3+\sqrt{17})/2$, $p(3)=1+\sqrt{2}$ のような値を取る。 $p(1)=\infty$ というのは、$n=1$ の場合には、$p$ をどれほど大きく取っても、 $p>1$ ならばどんなに初期値が小さくても解は有限時間で爆発する、 という意味である。

なお、これらの爆発境界 ($n>1$ の場合は爆発曲線ではなく爆発曲面になる) の性質については数学的にはまだよくわかっておらず、高次元の場合には 滑らかな爆発境界が存在するかどうかもわかっていない。


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Shigeharu TAKENO
2001年 9月 21日