9 元の行列に対する条件

6 節最後に述べたように、 $y_1,\ldots,y_m$ の独立性は、 $1\leq i,j\leq m$, $i\neq j$ のすべての $i,j$ に対して $y_iy_j$ の係数 $p^{(m)}_{i,j}$ が 0 になることと同値になる。 よって、(56) より、それは
  $\displaystyle
\left\vert P^{(i,m+1,\ldots,n)}_{(j,m+1,\ldots,n)}\right\vert=0
\hspace{1zw}(1\leq i,j\leq m, i\neq j)$ (57)
となる。なお、$P$ は対称行列で、よってこの行列の転置は $i$$j$ を 入れ替えたものになるので、これは $i<j$ だけでなく、 $i>j$ でも成り立つことに注意する。

この条件 (57) を、元の行列 $A$ に対する条件に 書き直す。

$P$ は、(27), (52) より

  $\displaystyle
P
= {}^t{B}B
= {}^t{((A')^{-1})} (A')^{-1}
= ({}^t{A'})^{-1} (A')^{-1}
= ((A') {}^t{A'})^{-1}$ (58)
であり、
  $\displaystyle
(A')\,{}^t{A'}
= \left[\begin{array}{c}\overrightarrow{\hat{\a...
...overrightarrow{\hat{\alpha}}_i\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{\alpha}}_j]_{n,n}$ (59)
となり、この行列を $Q=[q_{i,j}]_{n,n}$ とすると、 $P=Q^{-1}$, $Q=P^{-1}$ となる。 よって、系 4 により、
  $\displaystyle
\left\vert P^{(i,m+1,\ldots,n)}_{(j,m+1,\ldots,n)}\right\vert
=...
...}
\left\vert Q^{(1,\ldots,[j],\ldots,m)}_{(1,\ldots,[i],\ldots,m)}\right\vert$ (60)
となる。ここで、 $(1,\ldots,[k],\ldots,m)$$(1,\ldots,m)$ から $k$ のみを取り除いた添字列、すなわち
$\displaystyle (1,\ldots,[k],\ldots,m) = (1,\ldots,k-1,k+1,\ldots,m)
$
を表すものとする。 ここで、
  $\displaystyle
R=Q^{(1,\ldots,,m)}_{(1,\ldots,,m)}$ (61)
とすると、
  $\displaystyle
R=[\overrightarrow{\hat{\alpha}}_i\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{\alpha}}_j]_{m,m}
=A {}^t{A}$ (62)
となるので、元々の仮定より $A$ の行ベクトル $\overrightarrow{\hat{\alpha}}_1,\ldots,
\overrightarrow{\hat{\alpha}}_m$ は線形独立なので、 ${}^t{A}$ の列ベクトル ${}^t{\overrightarrow{\hat{\alpha}}_1},\ldots,{}^t{\overrightarrow{\hat{\alpha}}_m}$ も 線形独立となり、補題 6 より $\vert R\vert>0$ となる。 よって、$R$ には逆行列 $R^{-1}$ もあることになる。

一方 (60) の最後の行列式は $R$ の余因子となるので、 条件 (57) は結局、

  $\displaystyle
\left\vert Q^{(1,\ldots,[j],\ldots,m)}_{(1,\ldots,[i],\ldots,m)}...
... \left\vert R^{[j]}_{[i]}\right\vert=0
\hspace{1zw}(1\leq i,j\leq m, i\neq j)$ (63)
と書ける。 この条件は、$R$ の余因子行列が対角行列以外 0 であることを意味し、 よって $R^{-1}$ が対角行列であることと同値になる。 そしてそれは $R$ 自身が対角行列であることと同値となるが、
$\displaystyle R=[\overrightarrow{\hat{\alpha}}_i\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{\alpha}}_j]_{m,m}
$
より $R$ が対角行列であることは、 $\overrightarrow{\hat{\alpha}}_1,\ldots,
\overrightarrow{\hat{\alpha}}_m$ が 互いに垂直であることと同値になる。

結局、$m<n$$A$ の行列が線形独立の場合も、 $y_1,\ldots,y_m$ が独立であることは、 $m=n$ の場合と同じく、$A$ の行ベクトルが 互いに垂直であることと同値になる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-08-19