8 漸化式の解

本節で、漸化式 (35) の解、 すなわち $p^{(k-1)}_{i,j}$ $(m+1\leq k\leq n$) を 具体的な式で書き表す。 なお、分母の $p^{(k)}_{k,k} (=d^{(k)}_k)$ が 0 ではないという 保証もないので、それも同時に考える。

まずは $k=n-1,n-2$ の場合を考える。 (35) で $k=n$ とすると、 (32) より $p_{n,n}>0$ で、

  $\displaystyle
p^{(n-1)}_{i,j}
= \frac{1}{p_{n,n}}
\left\vert\begin{array}{c...
...\\
p_{n,j}&p_{n,n}\end{array}\right\vert
\hspace{0.5zw}(1\leq i\leq j\leq n)$ (46)
となる。よって特に
  $\displaystyle
p^{(n-1)}_{n-1,n-1}
= \frac{1}{p_{n,n}}\left\vert\begin{array}{...
...ightarrow{\beta}_{n}\mathrel{・}\overrightarrow{\beta}_{n}\end{array}\right\vert$ (47)
であるが、 $\overrightarrow{\beta}_{n-1}$ $\overrightarrow{\beta}_n$$B=(A')^{-1}$ の 列ベクトルだから線形独立で、よって補題 6 より $p^{(n-1)}_{n-1,n-1}>0$ であることが保証される。

そして、これに対し (35) で $k=n-1$ とすると、

  $\displaystyle
p^{(n-2)}_{i,j}
= \frac{1}{p^{(n-1)}_{n-1,n-1}}
\left\vert\be...
...&p^{(n-1)}_{n-1,n-1}\end{array}\right\vert
\hspace{1zw}(1\leq i\leq j\leq n-1)$ (48)
となる。これを、(46) を用いて $p_{i,j}$ で表す。 (48) の行列式の 4 つの成分は、 (46) より、
\begin{eqnarray*}p^{(n-1)}_{i,j} &=& \frac{1}{p_{n,n}}
\left\vert\begin{array}{...
...}p_{n-1,n-1}&p_{n-1,n}\\ p_{n,n-1}&p_{n,n}\end{array}\right\vert,\end{eqnarray*}
なので、その行列式部分は、いずれも
  $\displaystyle
X=\left[\begin{array}{ccc}p_{i,j} & p_{i,n-1} & p_{i,n}\\
p_{n...
...} & p_{n-1,n-1} & p_{n-1,n}\\
p_{n,j} & p_{n,n-1} & p_{n,n}\end{array}\right]$ (49)
の小行列式となっていて、具体的には、
\begin{eqnarray*}p^{(n-1)}_{i,j} &=& \frac{1}{p_{n,n}}\left\vert X^{[2]}_{[2]}\r...
...-1,n-1} \ =\ \frac{1}{p_{n,n}}\left\vert X^{[1]}_{[1]}\right\vert\end{eqnarray*}
なので、これらを (48) に代入すると、
$\displaystyle p^{(n-2)}_{i,j}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{p_{n,n}}{\left\vert X^{[1]}_{[1]}\right\vert}\,\frac{1}{p_{...
...1]}_{[2]}\right\vert &\left\vert X^{[2]}_{[2]}\right\vert\end{array}\right\vert$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{p_{n,n}\left\vert X^{[1]}_{[1]}\right\vert}
\left\vert\tilde{X}^{(1,2)}_{(1,2)}\right\vert$ (50)
となる。ここで、命題 2 (正確には系 5) より、
$\displaystyle \left\vert\tilde{X}^{(1,2)}_{(1,2)}\right\vert
= (-1)^{3+3}\vert ...
...t\vert
= \vert X\vert\left\vert X^{(3)}_{(3)}\right\vert
= p_{n,n}\vert X\vert
$
となるので、よって、(50) は
  $\displaystyle
p^{(n-2)}_{i,j}
= \frac{\vert X\vert}{\left\vert X^{[1]}_{[1]}...
...p_{n-1,n-1} & p_{n-1,n}\\
p_{n,j} & p_{n,n-1} & p_{n,n}\end{array}\right\vert$ (51)
となる。

次は、 $p^{(k-1)}_{i,j}$ の一般項を求める。 まず、

  $\displaystyle
P = [p_{i,j}]_{n,n}
= \left[\begin{array}{ccc}p_{1,1} &\cdots&...
...eta}_i\mathrel{・}\overrightarrow{\beta}_j\right]_{n,n}
\hspace{1zw}(={}^t{B}B)$ (52)
とし、
$\displaystyle Y_k$ $\textstyle =$ $\displaystyle P^{(k,k+1,\ldots,n)}_{(k,k+1,\ldots,n)}
= \left[\begin{array}{ccc...
...dots\\
p_{n,k} &\cdots& p_{n,n}\end{array}\right]
\hspace{1zw}(m\leq k\leq n),$ (53)
$\displaystyle X_k(i,j)$ $\textstyle =$ $\displaystyle P^{(i,k,k+1,\ldots,n)}_{(j,k,k+1,\ldots,n)}
= \left[\begin{array}...
...j} & p_{n,k} &\cdots& p_{n,n}\end{array}\right]
\hspace{1zw}(1\leq i,j\leq k-1)$ (54)
とすると、 $p^{(n-1)}_{n-1,n-1}$ は (47) より
$\displaystyle p^{(n-1)}_{n-1,n-1} = \frac{\vert Y_{n-1}\vert}{p_{n,n}}
= \frac{\vert Y_{n-1}\vert}{\vert Y_n\vert}
$
で、 $p^{(n-2)}_{i,j}$ は (51) より
$\displaystyle p^{(n-2)}_{i,j} = \frac{\vert X_{n-1}(i,j)\vert}{\vert Y_{n-1}\vert}
$
となることがわかる。これらより、 $p^{(k)}_{k,k}$ ( $m+1\leq k\leq n-1$)、 および $p^{(k-1)}_{i,j}$ ( $1\leq i,j\leq k-1$) を
  $\displaystyle
p^{(k)}_{k,k}=\frac{\vert Y_k\vert}{\vert Y_{k+1}\vert},
\hspace{1zw}
p^{(k-1)}_{i,j}=\frac{\vert X_{k}(i,j)\vert}{\vert Y_k\vert}$ (55)
と予想し、これを帰納法で証明する。 なお、すべての $k$ に対し $\vert Y_k\vert>0$ であることは、 補題 6 により保証されるので、 (55) が成り立てば、 $p^{(k)}_{k,k}>0$ も言えることになる。

$k=n-1$ に対しては上で示した通り成立する。 なお、$\vert Y_{n+1}\vert=1$ と考えれば、$k=n$ に対しても (46) より

$\displaystyle p^{(n)}_{n,n}=p_{n,n}=\vert Y_n\vert=\frac{\vert Y_n\vert}{\vert ...
...\frac{\vert X_n(i,j)\vert}{p_{n,n}}=\frac{\vert X_n(i,j)\vert}{\vert Y_n\vert}
$
なので (55) は $k=n$ でも成立することになる。

以下、 $k=n,n-1,\ldots,\ell+1$ までは成立したとして、$k=\ell$ の場合に 成立することを示す ( $m+1\leq \ell<n-1$)。

(55) の後者の $k=\ell+1$ の式より、

$\displaystyle p^{(\ell)}_{\ell,\ell}
= \frac{\vert X_{\ell+1}(\ell,\ell)\vert}{\vert Y_{\ell+1}\vert}
= \frac{\vert Y_{\ell}\vert}{\vert Y_{\ell+1}\vert}
$
は成立するので、これで (55) の $k=\ell$ の最初の式が得られる。 後は (55) の後者の $k=\ell$ の式を示せばよい。 漸化式 (35) より、
$\displaystyle p^{(\ell-1)}_{i,j}
= \frac{1}{p^{(\ell)}_{\ell,\ell}}
\left\vert...
...ll}\\ [.5zh]
p^{(\ell)}_{\ell,j}&p^{(\ell)}_{\ell,\ell}\end{array}\right\vert
$
となるが、帰納法の仮定、すなわち (55) の 後者の $k=\ell+1$ の式より、
$\displaystyle p^{(\ell)}_{i,j} = \frac{\vert X_{\ell+1}(i,j)\vert}{\vert Y_{\el...
...}_{\ell,\ell} = \frac{\vert X_{\ell+1}(\ell,\ell)\vert}{\vert Y_{\ell+1}\vert}
$
であり、これらの分子は、いずれも
$\displaystyle Z = P^{(i,\ell,\ell+1,\ldots,n)}_{(j,\ell,\ell+1,\ldots,n)}
= X_{\ell}(i,j)
$
の余因子と書ける。すなわち、
$\displaystyle p^{(\ell)}_{i,j}=\frac{\left\vert Z^{[2]}_{[2]}\right\vert}{\vert...
..._{\ell,\ell}=\frac{\left\vert Z^{[1]}_{[1]}\right\vert}{\vert Y_{\ell+1}\vert}
$
なので、命題 2 (正確には系 5)、 および $X_{\ell+1}(\ell,\ell)=Y_\ell$ より、
\begin{eqnarray*}p^{(\ell-1)}_{i,j}
&=&
\frac{\vert Y_{\ell+1}\vert}{\vert Y_...
...ert}
\ =\
\frac{\vert X_{\ell}(i,j)\vert}{\vert Y_{\ell}\vert}\end{eqnarray*}
となり、これで (55) 後者の $k=\ell$ の 式も得られた。 これで、帰納法により確かに (55) が 成立することが証明された。

よって、(55) で $k=m+1$ とすれば、 最終的な係数

  $\displaystyle
p^{(m)}_{i,j}
= \frac{\vert X_{m+1}(i,j)\vert}{\vert Y_{m+1}\v...
... P^{(m+1,\ldots,n)}_{(m+1,\ldots,n)}\right\vert}
\hspace{1zw}(1\leq i,j\leq m)$ (56)
が得られる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-08-19