6 漸化式

(28) の積分は、すべて $\mbox{\boldmath R}$ 上の積分なので、 その積分は、(29) の $y_{n},y_{n-1},\ldots,y_{m+1}$ に関する平方完成の計算に帰着される。 それを計算するために、係数、特に $\overrightarrow{y}'$ の 2 次の項の係数に 対する漸化式を作る。

まず、(29) を $y_n$ に関して平方完成してみる。 $d_n=\vert\overrightarrow{\beta}_n\vert^2>0$ であることに注意する。 (29) の右辺を $h_n(y_1,\ldots,y_n)$ と 書くことにすると、そこに含まれる $y_n$ に関する項は

\begin{eqnarray*}\lefteqn{d_ny_n^2 + 2\sum_{i=1}^{n-1}p_{i,n}y_iy_n + 2r_ny_n}
...
...
-\,\frac{1}{d_n}\left(\sum_{i=1}^{n-1}p_{i,n}y_i + r_n\right)^2\end{eqnarray*}
のようになり、 この右辺の最後の項が $y_n$ での積分後に残って、 $y_1,\ldots,y_{n-1}$ の項として追加されることになる。 よって、$h_n$ のうち $y_n$ の平方部分を除いたものを $h_{n-1}(y_1,\ldots,y_{n-1})$ とすると、
$\displaystyle h_n(y_1,\ldots,y_n)
= d_n\left(y_n+\frac{1}{d_n}\sum_{i=1}^{n-1}p_{i,n}y_i
+ \frac{r_n}{d_n}\right)^2 + h_{n-1}(y_1,\ldots,y_{n-1})
$
で、$h_{n-1}$ は、
$\displaystyle {h_{n-1}(y_1,\ldots,y_{n-1})}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{1\leq i\leq n-1}\left(d_i-\,\frac{p_{i,n}^2}{d_n}\right)y_i...
...sum_{1\leq i<j\leq n-1}\left(p_{i,j}
-\,\frac{p_{i,n}p_{j,n}}{d_n}\right)y_iy_j$  
    $\displaystyle \mbox{}
+2\sum_{1\leq i\leq n-1}\left(r_i- \frac{r_np_{i,n}}{d_n}\right)y_i
+c- \frac{r_n^2}{d_n}$ (30)
となり、$y_n$ での積分は $y_n$ の平方完成部分の積分が
$\displaystyle \int_{\mbox{\boldmath\scriptsize R}}e^{-d_n(y_n+\gamma)^2/2}dy_n = \sqrt{\frac{\pi}{d_n}}
$
と定数になり、指数には $h_{n-1}$ だけが残る。 次は $h_{n-1}$$y_{n-1}$ に関して平方完成を行う、という 計算になる。 この平方完成部分以外の項 $h_k(y_1,\ldots,y_k)$ の係数に関する 漸化式を作る。
  $\displaystyle
h_k(y_1,\ldots,y_k)
=\sum_{i=1}^k d^{(k)}_iy_i^2+2\sum_{1\leq i<j\leq k}p^{(k)}_{i,j}y_iy_j
+ 2\sum_{i=1}^kr^{(k)}_iy_i + c^{(k)}$ (31)
とすると ($m\leq k\leq n$)、$k=n$ に対しては、
  $\displaystyle
\begin{array}{l}
d^{(n)}_i = d_i = \vert\overrightarrow{\beta}_...
...ghtarrow{c},
\\ [1zh]
c^{(n)}=c = \vert\overrightarrow{c}\vert^2
\end{array}$ (32)
で、$d^{(k)}_k>0$ であれば上の計算と同様に、
  $\displaystyle
h_k(y_1,\ldots,y_k)
= d^{(k)}_k\left(y_k+\frac{1}{d^{(k)}_k}\su...
...{i,k}y_i
+ \frac{r^{(k)}_k}{d^{(k)}_k}\right)^2 + h_{k-1}(y_1,\ldots,y_{k-1})$ (33)
となり ( $m+1\leq k\leq n$)、$h_{k-1}$ の係数は、 (30) と同様に、
$\displaystyle d^{(k-1)}_i$ $\textstyle =$ $\displaystyle d^{(k)}_i -  \frac{(p^{(k)}_{i,k})^2}{d^{(k)}_k}
\hspace{1zw}(1\leq i<k),$ (34)
$\displaystyle p^{(k-1)}_{i,j}$ $\textstyle =$ $\displaystyle p^{(k)}_{i,j} -  \frac{p^{(k)}_{i,k}p^{(k)}_{j,k}}{d^{(k)}_k}
\hspace{1zw}(1\leq i<j<k),$ (35)
$\displaystyle r^{(k-1)}_{i}$ $\textstyle =$ $\displaystyle r^{(k)}_i - \,\frac{r^{(k)}_kp^{(k)}_{i,k}}{d^{(k)}_k}
\hspace{1z...
...q i<k),\hspace{1zw}
c^{(k-1)}
\ =\
c^{(k)} - \,\frac{(r^{(k)}_k)^2}{d^{(k)}_k}$ (36)
となり、これらが係数に関する ($k$ に関して逆向きの) 漸化式となる。 なお、
  $\displaystyle
p^{(k)}_{i,i} = d^{(k)}_i\hspace{0.5zw}(1\leq i\leq k),
\hspace{1zw}p^{(k)}_{j,i} = p^{(k)}_{i,j} \hspace{0.5zw}(1\leq i<j\leq k)$ (37)
と定義すると、$k=n$ に対しては自然に $p^{(n)}_{i,i}=p_{i,i}=d_i=\vert\overrightarrow{\beta}_i\vert^2$ $p^{(n)}_{j,i}=p_{j,i}=\overrightarrow{\beta}_j\mathrel{・}\overrightarrow{\beta}_i$ となり、 $d^{(k)}_i$ に関する漸化式 (34) は $i=j$ に対する (35) に含まれることになるから、 (35) は、
  $\displaystyle
p^{(k-1)}_{i,j}
= \frac{1}{p^{(k)}_{k,k}}
\left(p^{(k)}_{i,j}...
..._{k,j}&p^{(k)}_{k,k}\end{array}\right\vert
\hspace{0.5zw}(1\leq i\leq j\leq k)$ (38)
と書くことができる。以降主にこの漸化式を考えることにする。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-08-19