6 ラプラス変換の単射性

次は、いよいよラプラス変換の単射性を考える。

単射性の定理はほぼ次の形となる。

命題 B


$f_1(x)$, $f_2(x)$$[0,\infty)$ 上の関数で、 $\mathcal{L}[f_j(t)](s)$$s>\sigma_j$ で存在し、 かつ $s>s_0 = \max\{\sigma_1,\sigma_2\}$ $\mathcal{L}[f_1(t)](s) = \mathcal{L}[f_2(t)](s)$ となる
$\Rightarrow$ ほとんどすべての $x$ ($\geq 0$) で $f_1(x)=f_2(x)$ となる。」
ここで、 $f(x)=f_1(x)-f_2(x)$ とすれば、命題 B は
$\displaystyle 「\mathcal{L}[f(x)](s) = 0 \hspace{1zw}(s>s_0)
\mbox{\ $\Rightarrow$\ }\mbox{ほとんどすべての $x$\ に対して $f(x)=0$}」
$
となるので、この形で考えればよい。

4 節の定理 5 の 1. を使えば、 実はある場合には容易に単射性を示すことができる。

定理 8 (連続な場合の単射性)

$f(x)$$[0,\infty)$ 上の連続関数で、 極限 $\displaystyle \lim_{x\rightarrow \infty}{f(x)e^{-{s_1 x}}}$ が存在する ような $s_1$ が取れ、 かつ $\mathcal{L}[f(x)](s)=0$ $(s>s_0)$ となる $s_0$ が存在すれば、 $f(x)=0$ となる。
証明

$s_2=\max\{s_0,s_1\}$ とし $g(x)=f(x)e^{-s_2x}$ とすると、 仮定より極限

$\displaystyle \lim_{x\rightarrow \infty}{g(x)}
= \lim_{x\rightarrow \infty}{f(x)e^{-{s_1 x}}e^{-(s_2-s_1)x}}
$
は存在し、$p>0$, $s=s_2+p>s_2$ に対して、仮定より
$\displaystyle 0 = \mathcal{L}[f(x)](s)
=\int_0^\infty f(x)e^{-(s_2+p)x}dx
=\int_0^\infty g(x)e^{-px}dx
$
となる。ここで $e^{-x}=t$, $g(x)=g(-\log t)=h(t)$ と置換すると、
$\displaystyle
0 = \int_0^\infty g(x)e^{-px}dx
= \int_0^1 h(t)t^p\,\frac{dt}{t}
= \int_0^1 h(t)t^{p-1}dt
$ (26)
となる。ここで、$h(t)$ は仮定より $0<t<1$ では連続で、
$\displaystyle \lim_{t\rightarrow +0}{h(t)}=g(\infty),
\hspace{1zw}\lim_{t\rightarrow 1-0}{h(t)}=g(0)
$
の両方の極限も仮定により存在するので、 $h(0)=g(\infty)$, $h(1)=g(0)$ と定めれば $h(t)$$[0,1]$ 上 連続となる。 (26) は $p>0$ で成立するので、 $p=1,2,3,\ldots$ と すれば定理 5 の (17) を 満たすことになり、 よって定理 5 の 1. より $h(t)=0$ となる。 よって $g(x)=0$ となり、$f(x)=0$ となる。


これで、$f(x)$ が連続で、いわゆる指数型

$\displaystyle \vert f(x)\vert\leq Me^{\sigma x}\hspace{1zw}(x>x_0)
$
のような関数の集合の上ではラプラス変換が単射であることがわかった。

次は、$PC$, $PR$, $LM$ のようなより一般の関数のクラスでは どうなるかを考える。 $f(x)$ がこれらいずれかの関数で、$s_2$$f(x)$ の収束点とし、

$\displaystyle
\mathcal{L}[f(x)](s)=0\hspace{1zw}(s>s_2)$ (27)
とする。$s_3>s_2$ を一つ取ると 3 節で説明したように $f(x)e^{-s_3 x}$$IPC$$IPR$$ILM$ に入るので、
$\displaystyle
g(x) = \int_0^x f(t)e^{-s_3 t}dt$ (28)
とすると、 $g(x)$ は連続関数で、
$\displaystyle g(\infty) = \lim_{x\rightarrow \infty}{g(x)}
= \int_0^\infty f(x)e^{-s_3 x}dx
= \mathcal{L}[f(x)](s_3)
$
が存在し、よって $[0,\infty)$ で有界なので、$s>0$ に対して $g(x)$ のラプラス変換が存在する。 そして、定理 7 により、$p>0$ に対し
$\displaystyle \mathcal{L}[g(x)](p)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \mathcal{L}\left[\int_0^x f(t)e^{-s_3 t}dt\right](p)
= \frac{1}{p}\mathcal{L}[f(x)e^{-s_3 x}](p)$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{p}\mathcal{L}[f(x)](s_3 + p)$(29)
となる。よって、仮定 (27) より、 $p>0$ $\mathcal{L}[g(x)](p)=0$ となる。

$g(x)$ は連続で、$g(\infty)$ が存在するので、 これで定理 8$s_1=0$ について適用でき、 よって $x\geq 0$ に対して $g(x)=0$ となる。 あとは $g(x)=0$ から $f(x)=0$ が導けるかを考えればよい。

まず、 $f(x)e^{-s_3 x}\in ILM$ の場合は、$g(x)$ は絶対連続であり、 ほとんどすべての $x$ で微分可能で、

$\displaystyle
g'(x) = f(x)e^{-s_3x}$ (30)
となることが知られている。よって $g(x)=0$ より、 ほとんどすべての $x$$f(x)=0$ となることがわかる。

$f(x)e^{-s_3 x}\in IPR$ の場合も、除外集合以外の $x$ では その近傍ではルベーグ可積分なので同じ議論を用いることができ、 よってほとんどすべての $x$$f(x)=0$ となる。

$f(x)e^{-s_3 x}\in IPC$ の場合は、不連続点以外では $g(x)$ は 微分可能で (30) となるので、 その集積しない $\{a_n\}_n$ 以外では $f(x)=0$ となる。

結局次がわかったことになる。

定理 9 (ラプラス変換の単射性)

$f(x)$$PC$, $PR$, $LM$ のいずれかに属し、 収束点 $s_0$$s_0<\infty$ であり、 ある $s_1$ ($>s_0$) に対して $[s_1,\infty)$ $\mathcal{L}[f](s)=0$ と なるとき、$[0,\infty)$ のほとんどすべての $x$ で ($PC$ の場合は集積しない高々可算個の不連続点を除いて) $f(x)=0$ となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-08-07