4 ルジャンドル多項式系の完全性

次はラプラス変換の単射性、すなわち
$\displaystyle \mathcal{L}[f(x)](s)=\mathcal{L}[g(x)](s) \mbox{\ $\Rightarrow$\ }f(x)=g(x)
$
について考えるが、本節ではこの単射性を示すのに鍵となる 定理を一つ紹介する。

定理 5

$a<b$ を有限の実数値とする。
  1. $f(x)$$[a,b]$ 上の連続関数で、
    $\displaystyle
\int_a^b f(x)x^n dx = 0\hspace{1zw}(n=0,1,2,3,\ldots)
$ (17)
    が成り立つならば、$[a,b]$$f(x)=0$
  2. $f(x)$$[a,b]$ 上のルベーグ可測関数で 2 乗可積分、すなわち
    $\displaystyle
\int_a^b\vert f(x)\vert^2dx < \infty
$ (18)
    であり、かつ (17) を満たすとき、
    $\displaystyle
\int_a^b\vert f(x)\vert^2dx = 0
$ (19)
    すなわち、ほとんどすべての $x$ に対して $f(x)=0$

単射性の証明に使うのは、実は定理 5 の 1. の方だが、 定理 5 の 1. は 2. に含まれる。 つまり 1. は 2. の系として示される。

それは、$[a,b]$ 上の連続関数 $f(x)$ は (18) を 満たすので、それが (17) を満たせば、 2. により (19) が成り立つことになり、 $f(x)$ は連続なので (19) より $f(x)=0$ と なるからである。 これで定理 5 の 2. から 1. が言えることがわかる。

よってあとは定理 5 の 2. を証明すればよい ことになるが、その証明は通常は「ワイヤストラスの多項式近似定理」と ルベーグ積分に関する定理などを組み合わせて行う。 実際にに単射性に使用する定理 5 の 1. を単独で 証明する場合も、通常「ワイヤストラスの多項式近似定理」を用いる。 しかし、本稿ではそれらとは違い、フーリエ解析分野の 「一般ルジャンドル多項式系の完全性」という定理を使って 定理 5 の 2. の説明を行うことにする。

この「一般ルジャンドル多項式系の完全性」も、実は ワイヤストラスの多項式近似定理を使って導かれるものであるが、 フーリエ解析はラプラス変換に近い理論であるし、 むし工学者に取っては「一般ルジャンドル多項式系の完全性」は なじみやすいものだろうし、 そしてこれを使うことで一見ワイヤストラスの多項式近似定理を 見えないようにできるので、本稿ではこの方法を選択する。

まずは一般フーリエ級数について説明する。 $L^2(a,b)$ を、$(a,b)$ 上のルベーグ可測関数 $f(x)$ (実数値) で 自乗可積分、すなわち (18) を満たす 関数全体の集合とし、この上の内積 $(f,g)$、ノルム $\Vert f\Vert$

$\displaystyle (f,g) = \int_a^bf(x)g(x)dx,
\hspace{1zw}\Vert f\Vert = (f,f)^{1/2} = \sqrt{\int_a^b\vert f(x)\vert^2dx}
$
と定める。 $\{\phi_n(x)\}_{n=1,2,\ldots}\subset L^2(a,b)$ が、
$\displaystyle (\phi_n,\phi_m) = \int_a^b\phi_n(x)\phi_m(x)dx
= \left\{\begin{array}{ll}
0 & (n\neq m),\\
1 & (n=m)\end{array}\right.$
を満たすとき、 $\{\phi_n(x)\}_n$ を正規直交系と呼ぶ。 この正規直交系 $\{\phi_n(x)\}_n$ による
$f(x)\in L^2(a,b)$ の一般化フーリエ級数は
$\displaystyle
\sum_{n=1}^\infty (f,\phi_n)\phi_n(x)$ (20)
と定義されるが、これが任意の $f(x)\in L^2(a,b)$ に 対して $L^2(a,b)$ の意味で $f(x)$ に収束、すなわち
$\displaystyle
\lim_{N\rightarrow \infty}{\left\Vert f-\sum_{n=1}^N(f,\phi_n)\phi_n\right\Vert}=0$ (21)
となるとき、正規直交系 $\{\phi_n(x)\}_n$ は完全である、と呼ばれる。

この完全正規直交系として知られるものの一つが、$(a,b)$

$\displaystyle 1,x,x^2,x^3,\ldots
$
からグラム=シュミットの直交化法で作られる一般化ルジャンドル多項式系 $\{\tilde{P}_n(x)\}_n$ である ( $\tilde{P}_n(x)$$n$ 次式)。 なお、その完全性の証明には、前にも述べたようにワイヤストラスの 多項式近似定理が用いられる。

なお、この $\{\tilde{P}_n(x)\}_n$ は、通常のルジャンドル多項式 $\{P_n(x)\}_n$ をスケール変換したものであり、通常のルジャンドル 多項式は、$[-1,1]$ 上の直交系で、 $\{\sqrt{(2n+1)/2}\,P_n(x)\}_n$$L^2(-1,1)$ 上の完全正規直交系となる。

この $\{\tilde{P}_n(x)\}_n$ の完全性を利用して、 定理 5 の 2. を示そう。 もし $f(x)\in L^2(a,b)$ が (17) を 満たせば、$f(x)$ と任意の多項式との積の積分は 0 となり、よって

$\displaystyle (f,\tilde{P}_n)=\int_a^b f(x)\tilde{P}_n(x)dx = 0\hspace{1zw}(n=0,1,2,\ldots)
$
なので、$f$ の一般化ルジャンドル多項式系による一般フーリエ 級数 (20) は 0 となり、 よって (21) により $\Vert f\Vert=0$ となるので、 (19) が成り立つことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-08-07