5.9 6. の最終段階と定理 7.2 (p142)

いよいよ、6. の最終段階の非物理 front の総量を評価する。 ここも一部概略が述べられていて、 話はよくわかるが詳細はわかりにくいので、 少し詳しく考える。

最終目標は、非物理 front の総量に対して、(7.78) の

  $\displaystyle
V_{np}(t) = \sum_{\sigma\in F_{np}(t)}\vert\sigma\vert<\varepsilon
\hspace{1zw}(t\not\in\{\tau_j\})$ (90)
とできることを示すことである。ここで、$F_{np}(t)$ は、
  $\displaystyle
F_{np}(t) = \{\sigma\in F(t);\mbox{ $\sigma$ は非物理 front}\}$ (91)
すなわち $t$ で存在する非物理 front 全体の集合とする。

(90) を導くために、大きな世代に対する評価である p142 の (7.75)、実際にはその改良版である (88), (89) を用いて評価する。 $V_{np}(t)$ を、世代によって

  $\displaystyle
V_{np}(t)
= \sum_{\sigma\in F_{np}(t), Go(\sigma)>k}\vert\sigm...
... \sum_{\sigma\in F_{np}(t), Go(\sigma)\leq k}\vert\sigma\vert
= V'(t) + V''(t)$ (92)
と分けて考えると、$V'(t)$ は、(89) より、
  $\displaystyle
V'(t) \leq V_{k+1}(t)
\leq \tilde{V}_{k+1}
\leq \gamma^{k-1}\delta_2$ (93)
と評価でき、$\gamma<1$ となるようにすれば、大きな $k$ を取ることで $V'(t)$ が十分小さくなることを示すことができる。

一方 $V''(t)$ は、$k$ 以下の世代の非物理 front の個数と、 その大きさの最大値 (43) との積で評価する。

非物理 front の個数の評価を行うために、 またひとつ、[1] にはない新たな名前を導入する。 今まで「front 接続」という名前で、 ひとつの front をその特性族のまま最大に延長したものを考察してきたが、 これだと複数の front 接続が途中で合体 ([A-2],[S-2]) すると 1 本の front 接続になり、前方には一意に伸びるものの 後方には枝分かれする可能性があり、 また front 接続上で世代も変化しうる (前方に下がりうる) 可能性があった。 それらを排除するために、front 接続の枝葉を切り落として、 枝分かれのない 1 本の折れ線状の、世代も一定の「世代 front 接続」を 以下のように定義する。

世代 front 接続とは、front 接続同様に front を同じ特性族のもので 延長したものだが、

  1. 異なる特性族の front 同士が衝突した場合は、 通常の front 接続同様にその特性族の front をそれぞれ接続する。
  2. 同じ特性族の front 同士が衝突した場合 ([A-2],[S-2])、 その両者の世代が違っていれば、大きい方の front は 世代 front 接続としてはその衝突点で終わりとし、 小さい方の front を世代 front 接続として前方に延長することとする (この接続では世代の変更は起きない)。
  3. 同じ特性族の front 同士の衝突で、両者の世代も同じ場合は、 右側にある front は 世代 front 接続としてはそこで終わりとし、 左側にある front を前方に世代 front 接続として延長することとする (これも世代の変更は起きない)
これにより、front 接続は合流点で 2 つの世代 front 接続に 分断されることになり、世代 front 接続の合体はなく、 前方、後方に延長先が一意に決定するか、またはそこで終わりとなる。 また、世代 front 接続上では世代の変化も起きず、 よって世代 front 接続毎に世代が一意に確定することになる。 この世代 front 接続の数を以下で評価する。

$B_k$ を世代が $k$ である世代 front 接続全体の集合とし、

  $\displaystyle
\bar{B}_k = \bigcup_{j=1}^k B_j \hspace{1zw}(\mbox{$k$ 以下の世代の集合...
...= \char93  B_k,
\hspace{1zw}\bar{N}_k = \char93  \bar{B}_k = \sum_{j=1}^k N_j$ (94)
とする ($\char93 $ は集合の要素の個数を意味する)。 また、初期階段関数 $u(0+,x)$ の不連続点の個数を $N$ とする。

第 1 世代の front は、$u(0+,x)$ からのみ作られ、$t\geq\tau_1$ で新たに 作られることはないので、$\bar{N}_1=N_1$ は、 $u(0+,x)$ から作られる front の総数に等しい。 よって、$u$ の領域 (3.10 節の $U_0$) 内 にある Riemann 問題の初期値に対する最大の膨張波のサイズ を $\sigma_M$ とすると、

  $\displaystyle
\bar{N}_1 = N_1
\leq N\times n\times\left(1+\left[\frac{\sigma_M}{\delta}\right]\right)
\leq Nn\left(1+\frac{\sigma_M}{\delta}\right)$ (95)
と評価できる。 もちろん、真性非線形な特性族の数を使えばもう少し精度よく評価できるが、 そこまで細かく考える必要はない。

$k\geq 2$ に対して、$k$ 世代の front が新たに発生するのは $(k-1)$ 世代の front (世代 front 接続) と $(k-1)$ 以下の front (世代 front 接続) との衝突であり、 1 組の世代 front 接続同士の衝突は高々 1 回しか起こり得ないので、 その衝突点の個数は $N_{k-1}\bar{N}_{k-1}$ 以下となる。 また、各衝突点では、$k$ 世代の front は流入 front とは 異なる特性族に出るので、その個数は $(n-1)(1+\sigma_M/\delta)$ 以下 となり、よって $N_k$ は、

  $\displaystyle
N_k\leq N_{k-1}\bar{N}_{k-1}(n-1)\left(1+\frac{\sigma_M}\delta\right)$ (96)
と評価できる。

荒く評価すれば、$N_{k-1}\geq 1$ であれば、

\begin{eqnarray*}\bar{N}_k
&=&
N_k + \bar{N}_{k-1}
 \leq\
\bar{N}_{k-1}+N_...
...)
 \leq\
\bar{N}_{k-1}^2n\left(1+\frac{\sigma_M}\delta\right)\end{eqnarray*}

となり、また $N_{k-1}=0$ ならば $N_{k}=0$ で、 よって $\bar{N}_k=\bar{N}_{k-1} (\geq 1)$ となるから、当然この場合も
  $\displaystyle
\bar{N}_k\leq \bar{N}_{k-1}^2n\left(1+\frac{\sigma_M}\delta\right)$ (97)
が成り立つ。 なお、衝突は有限回で終わるので、$k$ を大きくすれば、 あるところからは $N_k=0$ となることに注意する。 一般に、$p_n\geq 1$, $q\geq 1$ に対して、

$\displaystyle p_n\leq p_{n-1}^2 q\hspace{1zw}(n\geq 2)
$

の場合、

$\displaystyle \log p_n\leq 2\log p_{n-1} + \log q
$

より、

\begin{eqnarray*}\frac{1}{2^n}\log p_n
& \leq &
\frac{1}{2^{n-1}}\log p_{n-1} ...
...rac{1}{2}\log p_1 +\frac{1}{2}\log q
 =\
\frac{1}{2}\log p_1q\end{eqnarray*}

となるので、

$\displaystyle p_n\leq (p_1q)^{2^{n-1}}
$

が得られる。よって、(95), (97) より、
  $\displaystyle
\bar{N}_k
\leq \left(Nn^2\left(1+\frac{\sigma_M}{\delta}\right)^2\right)^{2^{k-1}}$ (98)
が得られる。この右辺を $P_k(N,1/\delta)$ とすると、 $P_k$$k$ にしか依存しない $N$$1/\delta$ の多項式となる。 なお、[1] は、$P_k$ の具体的な形は紹介せず、 $N$$1/\delta$ のなんらかの多項式で評価できる、 その式の表現は問題ではない、と述べている。

さて、$V''(t)$ に戻れば、$t$ における $k$ 以下の世代の非物理 front の総数は、 $k$ 以下の世代の世代 front 接続の総数 $\bar{N}_k$ 以下となるので、 (98)、および 5.2 節の (43) により、

  $\displaystyle
V''(t)\leq \bar{N}_k M_1e^{M_1\delta_2}\rho
\leq P_k(N,\delta^{-1}) M_1e^{M_1\delta_2}\rho$ (99)
と評価できることになる。 $P_k(N,\delta^{-1})$$\rho$ に依存しないから、 よって $\rho$ を小さくとることで、 $V''(t)$ を十分小さく評価できることになる。

ここから (7.78) を導くのであるが、 これまででてきたパラメータ $N$, $\varepsilon$, $\delta_0$, $\delta_1$, $\delta_2$, $\delta_3$, $\rho$, $\delta$ の意味と、 それらの依存関係について確認しておく。

最終的に定理 7.2 の成立を示すためには、 最初に $\varepsilon$ とは無関係に $U_0$ ([1] では $\delta_1$) を 取り、それに対し、(11) と、 $\delta_2<\hat{\delta}$ を満たし、 さらに (82) の $\gamma$$\gamma<1$ となるよう

  $\displaystyle
\delta_2<\frac{C_1}{2C_0}$ (100)
も満たすような正数 $\delta_2$ を 1 つ取り、 そして (13) を満たすように正数 $\delta_3$ を 1 つ取る。 そして、正数 $\delta_0$ を、 $\delta_0\leq\delta_3$ となるように取る。 ここまでは $\varepsilon$ には依存しない。

(100) と 3.10 節の (20) により、確かに

$\displaystyle \gamma
=2C_0\Upsilon(+0)\
\leq
\frac{2C_0\delta_2}{C_1} < 1
$

が得られ、また $\mathop{\rm TV}\bar{u}<\delta_0$ であれば、(7.17) (p127) により

$\displaystyle \mathop{\rm TV}u(0+,\cdot)\leq \mathop{\rm TV}\bar{u}<\delta_0\leq\delta_3
$

となるので、3.10 節、および 4 節、5 節の評価が成立する。

このとき、任意の正数 $\varepsilon$ に対し、

  1. まず正数 $\delta$ を、(38) を満たすように取る ($\delta_2$$\varepsilon$ に依存)。
  2. 次に

    $\displaystyle \gamma^{k-1}\delta_2<\frac{\varepsilon}{2}
$

    となるように十分大きな $k$ を取る ($\delta_2$, $\varepsilon$, $\gamma$ に依存)。
  3. 最後に、その $k$, $N$, $\delta$ に対し、

    $\displaystyle P_k(N,\delta^{-1})M_1e^{M_1\delta_2}\rho<\frac{\varepsilon}{2}
$

    となるように十分小さな正数 $\rho$ を取る (直接的には $k$, $N$, $\delta$, $\varepsilon$, $\delta_2$ に依存)
これで、(92), (93), (99) により $V_{np}(t)<\varepsilon$ が得られる。

これで、「front の速度の変更部分を除いて」定理 7.2 が すべて検証できたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03