5.8 (7.75) の評価

次は、(47)$\sim$(51) の不等式を 用いて (7.75) を示すことを考える。ここも、所々詳細が省略されている。 また、ここでは $k$ の範囲にも注意が必要である。

まず、$V_k(t)$, $Q_k(t)$ は衝突時刻以外では定数であり、よって

  $\displaystyle
V_k(\tau_{j+1}-)=V_k(\tau_{j}+),
\hspace{1zw}Q_k(\tau_{j+1}-)=Q_k(\tau_{j}+)$ (70)
であり、また $0<t<\tau_1$ ではすべての front の世代は 1 なので、
  $\displaystyle
V_k(\tau_1-) = Q_k(\tau_1-) = 0\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (71)
であることに注意する。

(47), (48) より、$k\geq 2$ に対して、

\begin{eqnarray*}\Delta V_k(\tau_i)
&\leq &
\left\{\begin{array}{ll}
0 & \dis...
...ay}\right. \ &\leq &
C_0\left[\Delta Q_{k-1}(\tau_i)\right]_{-}\end{eqnarray*}

となる。 ここで、 $[x]_{-}=\max\{-x,0\}$, $[x]_{+}=\max\{x,0\}$ とする。 よって、(70), (71) より、 $k\geq 2$ に対して、
  $\displaystyle
V_k(\tau_i+)
=
V_k(\tau_1-) + \sum_{j=1}^i \Delta V_k(\tau_j)
...
...
C_0\sum_{j=1}^i\left[\Delta Q_{k-1}(\tau_j)\right]_{-}
\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (72)
となる。 また、(49), (50), (51) より、$k\geq 2$ に対して、

\begin{eqnarray*}\Delta Q_k(\tau_i)
&\leq &
\left\{\begin{array}{ll}
-C_0\Del...
...k(\tau_i-)
+C_0\left[\Delta Q_{k-1}(\tau_i)\right]_{-}V(\tau_i-)\end{eqnarray*}

となり、この最後の式の右辺は 0 以上なので、
  $\displaystyle
\left[\Delta Q_k(\tau_i)\right]_{+}
\leq
C_0\left[\Delta Q(\ta...
...)
+C_0\left[\Delta Q_{k-1}(\tau_i)\right]_{-}V(\tau_i-)
\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (73)
が得られる。 ここで、(23) より、
  $\displaystyle
V(\tau_i-)\leq \Upsilon(\tau_i-)\leq \Upsilon(0+)$ (74)
となり、また、(7), (10) より $\Delta Q(\tau_i)\leq 0$ で、よって
  $\displaystyle
\sum_{j=1}^i\left[\Delta Q(\tau_j)\right]_{-}
=
-\sum_{j=1}^i\Delta Q(\tau_j)
\leq
Q(\tau_1-)
= Q(0+)
\leq
\frac{\Upsilon(0+)}{C_0}$ (75)
となるので、
  $\displaystyle
\tilde{V}_k = \sup_{j\geq 1} V_k(\tau_j-)
\hspace{1zw}(k\geq 1)$ (76)
と書くことにすると、(70), (71), (73), (74), (75), (76) より、 $k\geq 2$ に対して
$\displaystyle Q_k(\tau_i+)$ $\textstyle =$ $\displaystyle Q_k(\tau_1-) + \sum_{j=1}^i \Delta Q_k(\tau_j)
 \leq\
\sum_{j=1}^i\left[\Delta Q_k(\tau_j)\right]_{+}$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle \Upsilon(0+)\tilde{V}_k
+C_0\Upsilon(0+)\sum_{j=1}^i\left[\Delta Q_{k-1}(\tau_i)\right]_{-}
\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (77)

となる。 また、$k\geq 2$ に対しては、(71) より

$\displaystyle 0
\leq
Q_k(\tau_i+)
=
Q_k(\tau_1-) + \sum_{j=1}^i \Delta Q_k(\ta...
...Delta Q_k(\tau_j)\right]_{+}
-\sum_{j=1}^i \left[\Delta Q_k(\tau_j)\right]_{-}
$

となるので、
  $\displaystyle
\sum_{j=1}^i \left[\Delta Q_k(\tau_j)\right]_{-}
\leq\sum_{j=1}^i \left[\Delta Q_k(\tau_j)\right]_{+}
\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (78)
がわかる。よって、
  $\displaystyle
\tilde{Q}_k = \sum_{j=1}^\infty\left[\Delta Q_k(\tau_j)\right]_{+}
\hspace{1zw}(k\geq 1)$ (79)
と書くことにすれば、 (77), (78) より、
  $\displaystyle
Q_k(\tau_i+)\leq \tilde{Q}_k \hspace{1zw}(k\geq 2),
\hspace{1zw...
...q \Upsilon(0+)\tilde{V}_k+C_0\Upsilon(0+)\tilde{Q}_{k-1}
\hspace{1zw}(k\geq 3)$ (80)
が得られる。一方、(72), (78) より、$k\geq 3$ に対して
  $\displaystyle
\tilde{V}_k\leq C_0\tilde{Q}_{k-1}\hspace{1zw}(k\geq 3)$ (81)
となるから、
  $\displaystyle
\gamma = 2C_0\Upsilon(0+)$ (82)
と書けば、$k\geq 3$ に対して
  $\displaystyle
\tilde{Q}_k
\leq\gamma\tilde{Q}_{k-1}
\hspace{1zw}(k\geq 3)$ (83)
が得られることになる。

ちなみに、$\tilde{Q}_1$ は、 $\Delta Q_1(\tau_j)=\Delta Q(\tau_j)<0$ より $\displaystyle \left[\Delta Q_1(\tau_j)\right]_{+}=0$ なので、 $\tilde{Q}_1=0$ となる。

次は、$\tilde{V}_2$, $\tilde{Q}_2$ の評価を考える。 (48) より

$\displaystyle \Delta V_2(\tau)\leq -C_0\Delta Q_1(\tau) = -C_0\Delta Q(\tau)
$

となるので、(71) より

$\displaystyle V_2(\tau_i+)
= V_2(\tau_1-)+\sum_{j=1}^i\Delta V_2(\tau_j)
\leq -C_0\sum_{j=1}^i\Delta Q(\tau)
\leq C_0 Q(\tau_1-)
= C_0 Q(0+)
$

よって、
  $\displaystyle
\tilde{V}_2
=\sup_{j\geq 1}V_2(\tau_j-)
\leq C_0Q(0+)
\leq \Upsilon(0+)$ (84)
となる。 一方、(50), (51), (74), および $\Delta Q(\tau_j)\leq 0$ より、
  $\displaystyle
\Delta Q_2(\tau_j)
\leq -C_0\Delta Q(\tau_j)V(\tau_j-)
\leq -C_0\Delta Q(\tau_j)\Upsilon(0+)$ (85)
となるので、
$\displaystyle \tilde{Q}_2$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{j=1}^\infty\left[\Delta Q_2(\tau_j)\right]_{+}
 \leq\
-C_0\Upsilon(0+)
\sum_{j=1}^\infty\Delta Q(\tau_j)
 \leq\
C_0\Upsilon(0+)Q(\tau_1-)$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle \Upsilon(0+)^2$ (86)

となる。

(82), (83), (86) により、 $k\geq 2$ に対して

  $\displaystyle
\tilde{Q}_k
\leq\gamma^{k-2}\tilde{Q}_2
\leq\gamma^{k-2}\Upsilon(0+)^2
=\frac{\gamma^{k-1}\Upsilon(0+)}{2C_0}$ (87)
となるので、 (21), (80) により $k\geq 2$ に対して、
  $\displaystyle
Q_k(\tau_i+)\leq \tilde{Q}_k
\leq\frac{\gamma^{k-1}}{2C_0}\delta_2
\hspace{1zw}(k\geq 2)$ (88)
となり、また、 (81), (87) より、$k\geq 3$ に対して、

$\displaystyle \tilde{V}_k
\leq C_0\tilde{Q}_{k-1}
\leq \frac{\gamma^{k-2}}{2}\Upsilon(0+)
$

となるので、(21) より $k\geq 3$ に対して、
  $\displaystyle
V_k(\tau_i+)\leq \tilde{V}_k
\leq \gamma^{k-2}\delta_2$ (89)
が成り立つ。 なお、(84) より、 この (89) は $k=2$ に対しても 成立することがわかる。

この (88), (89) が [1] の (7.75) (p142) に対応するものであるが、 実際には少し係数や指数などが違っている。 それは、主に [1] の (7.72) (p141) と、 上の (75) の違いに起因している。 [1] は「 $Q(0)\leq\Upsilon(0)$」としているが、 多分正しくは「 $Q(0+)\leq\Upsilon(0+)/C_0$」であろう。 そのため (7.73), (7.74) の係数が少し上とは違っていて、 それでこのような違いが現れているようである。 ただし、この間違いは、この後の命題の真偽を変えるほどの 実質的なものではない。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03