竹野研究室 QandA (Japanese)


このセクションの目次

6. 数学について
6.1. 工学部の数学と理学部数学科の数学はどう違いますか
6.2. 工科大ではどのような数学を学びますか
6.3. 数学はどんな所に役に立っているのですか
6.4. 工科大での数学のクラス分けについて教えて下さい
6.5. クラス分けの上位クラスは難しいですか
6.6. クラス分けのクラスを自分で選ぶことはできますか
6.7. 応用数学について勉強したいのですが
6.8. 高校の数学を復習するのにいいテキストは
6.9. 微積分は工学ではどう使われているのですか
6.10. 式変形や式の整理ってどこまでやればいいのでしょうか
6.11. 再履修の学生はどのクラスに入ればいいですか
6.12. 「数検」を受けてみたいんですが
6.13. 記号の書き方は講義の書き方に従わなければいけないのですか
6.14. 「関数」を「函数」と書いているようですが
6.15. モンスターって何ですか
6.16. 大学でも教科書以外に問題集を買って勉強すべきですか
6.17. 教科書でとばしているところは難しいからですか、必要でないからですか
6.18. 効果の出る勉強法は
6.19. 高等数学を使うとみかんを皮をむかずに取り出せると聞きましたが
6.20. 数学検定の資格は持っているとどういうことに有利ですか
6.21. うちの大学の講義の単位を取れば数学検定 1 級は取れますか
6.22. 今まで数学が一番役に立ったときは
6.23. 四次元空間で物を食べても体をすり抜けてしまうと聞いたのですが
6.24. 返却された答案に書かれている○、□、△、×はどういう意味か
6.25. 返却された答案に書かれている L の反対 (」) のような記号は、こう書け、という意味か
6.26. 三角関数表の、30 度や 45 度や 60 度以外の数値はどうやって求めているのですか
6.27. 無理数 e (=2.71828...) の e は数学者オイラー (Euler) の頭文字らしいですね
6.28. e (=2.71828...) にはどういう意味があるんですか
6.29. 数学の雑誌は大学図書館で読めますか
6.30. 積分にはまだ種類があるんですか
6.31. 恒等的に f(x+y)=f(x)+f(y) となる f(x) が一次式以外にもあるって本当ですか
6.32. 自然対数と常用対数のように、他にも順番が逆のものってありますか
6.33. 「除算」って割り算のことではないのですか
6.34. 折り紙は定規やコンパスよりすごいと聞いたのですが
6.35. 一番尊敬する数学者はだれですか
6.36. 数学に興味を持ったきっかけは何ですか
6.37. 「オイラーの公式」は定理ですか、定義なのですか
6.38. 「f(x)≡0」ってどういう意味ですか
6.39. 「]a,b[」という記号はどういう意味ですか
6.40. 「単調でない関数」は「不単調関数」と呼ぶのですか
6.41. lim の下の矢印が斜めになっているのは何ですか
6.42. 「+」を上下に重ねたような記号は何ですか
6.43. 「1+2+3+...=-1/12」という式を見たのですが
6.44. 開平計算の他に、3 乗根を計算するものもありますか
6.45. 入試に数学 III を課してないようですが、工学部なのに必要ないんですか
6.46. フォークト関数ってなんですか
6.47. 計算ミスをしないようにするにはどうしたらいいですか
6.48. 円の面積を置換積分で計算するのは循環論法になるのでは
6.49. 数学の論文では証明の終わりには Q・E・D と書くのですか
6.50. 内積や外積の「内」「外」って何を意味しているんですか
6.51. 個人的に数学の質問があるのですが
6.52. 定理の証明は勉強しなくていいのですか
6.53. 1 は素数ではないのですか
6.54. 数列の漸化式はなぜ特性方程式で解けるのですか
6.55. 基礎数理のクラス分けはどちらがレベルの高いクラスですか
6.56. 3 階導関数 y''' はグラフではどういう意味を持ちますか
6.57. P の下に横線を書いたり C の上に ' をつけたりしている理由は
6.58. 答だけではいけないのですか
6.59. なぜ下に凸な関数を凹関数と呼ばずに凸関数と言うのですか
6.60. 工科大ではどのような数学を学びま「せん」か
6.61. 正七角形はないと聞いたのですが本当ですか

6. 数学について


Q 6.1. 工学部の数学と理学部数学科の数学はどう違いますか

A 6.1.

目的の違いからでしょうか、学ぶ分野も違っていれば、勉強の形なども 違っていると思います。

まず、分野から言いますと、 理学部数学科で勉強するけれど工学部では勉強しない数学はもちろんありますが、 逆に、工学部では勉強するのに理学部数学科ではほとんど勉強しない数学も あります。それは、数学のレベルがどうこうということではなく、 数学を学ぶ目的が違っているのだと思います。

工学部では工学部で道具として使う数学を主に学びますが、 「数学」自身は工学などへの応用を必ずしも意識せずに現在も発展していて、 理学部数学科では、そのような数学の一端を学んでいます。

よって、工学では、理論も大事ですが、むしろ計算できることを 重要視しているように思いますし、 理学部数学科では、計算も大事ですが、なぜそうなるのか、本当にそうか、 といった理屈、およびその理屈の進め方を身につけることを 目標としているように思います。

教科書も、理学部数学科の学生向けの教科書と、工学部の学生向けの教科書では 書かれ方に違いがあるように思います。
(06/09 2001: shige)


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Q 6.2. 工科大ではどのような数学を学びますか

A 6.2.

カリキュラムは多少変わることもありますが、2015 年度入学生からは 基礎数理 I,II,III が全学共通に講義されています。 ここでは以下のものを講義している、あるいはする予定です (少し違う所はあるかも知れません)。

工学部共通の科目としてはやや他大学の工学部よりも数学は少ないような気も しますが、それを補う形で専門科目の中で数学の内容が説明される場合もあります。

また、最近は高校の数学の多くの分野が選択制になり、 入学する学生の高校数学の習得状況がかなりバラバラになってきましたので、 一年生の基礎数理 I,II においては、 習熟度別にクラス分けを行っていて (cf. 「Q 4.B.8. 数学のクラス分けについて教えて下さい」)、 演習も行われています。
(06/09 2001: shige; 09/15 2001, 08/04 2002, 12/22 2015 修正: shige)


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Q 6.3. 数学はどんな所に役に立っているのですか

A 6.3.

色んな所です (^^;

現在の数学は、応用される数学の中からそのエッセンスだけを取り出して 純粋な形にしたもの、具体性を取り除き抽象化したものをまとめているので、 数学だけを見ても何に使われるのかは確かにわかりにくいこともあります。

しかし、逆にそうすることで元の使われ方とは違う場面へも 広く応用することを可能にしています。 よって一般数学を教える立場で、こういう所に使うのだ、という固定した イメージを与えてしまうのはやや気が引けます (工学専門科目の分野でこのように数学を使う、というのは全く構いませんが)。

ただこれだけだと何なので一例をあげますと、「微分方程式」によって例えば

人工衛生や天体の運動、吊橋のロープの形、電線のたわみの形、 熱源を持たない物体の温度変化、ビルや橋の弾性振動、 エンジンが車体に引き起こす振動、 犬が飼い主を斜めの方向から追跡する時の軌道、 液体容器からの水の排水の挙動、 廃棄物の海洋投棄の安全性、 人口の増加傾向、互いに競合関係にある種の増減、 気体や液体の運動、天気予報に関する気象現象、 人工透析装置の労廃物濃度変化、化学反応物質の濃度変化、 電子回路内での電流変化、音波や電磁波、高速道路での自然渋滞、 刺激と知覚の関係、神経繊維の信号伝達、...
などを記述することができ、その解明が「微分方程式」によって行われます (もちろん微分方程式によらない方法を取られるものもあります) が、 これらはほんの一例です。 なお、この中には簡単なものもかなり難しいものも含まれますが、 最近は微分方程式をコンピュータで解くことによって 色んな現象が解明されるようになってきました。

工学では例えば微分方程式、線形代数 (行列、行列式、固有値)、フーリエ解析、 確率統計などは色んな場面で頻繁に使われる基本的な「道具」だと思いますので、 ここだけに使われる、ということはないと思います。

なお、微分方程式の色んな例を見たければ、例えば

などを参照して下さい。上の例も多くはこれらの本から取り出したものです。
(01/28 2002: shige)


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Q 6.4. 工科大での数学のクラス分けについて教えて下さい

A 6.4.

「Q 4.B.8. 数学のクラス分けについて教えて下さい」をごらん下さい。
(02/04 2002: shige)


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Q 6.5. クラス分けの上位クラスは難しいですか

A 6.5.

クラス毎に担当教員が異なり、すべての講義内容を知っている分けでは ありませんからはっきりとは分かりませんが、そうでもないと思います。 その理由を以下に述べます (ただし、あくまで私個人の意見です)。

常々学力には「知識」と「応用力」があってそれぞれ全く別な方向を 向いたものだと感じていますが、一般に数学が「難しい」という場合は 知識よりも「応用力」を指すことの方が多いように思います。

数学のクラス分けは 「Q 4.B.8. 数学のクラス分けについて教えて下さい」にも書かれているように 高校数学の習得状況に合わせて習熟度別に分けることを目的としているので どちらかというと主に「知識」で分けることになります。 よって、各クラスでは出発点と到達点が異なるだけで、深さ、難しさは そう変わらないのではないでしょうか (比較はできませんが)。

だから上位クラスだからといってそう「難しい」ことをやるわけではないし、 逆に下位クラスだからといって 「やさしい」ことをやるわけではないと思いますので、 どのクラスにいってもちゃんと勉強しなければ単位が取れないのは同じで、 上位クラスだから、あるいは下位クラスだから何もやらなくていい、 ということは全くありません。
(02/04 2002: shige)


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Q 6.6. クラス分けのクラスを自分で選ぶことはできますか

A 6.6.

原則的に認めていません。 再履修の学生も、指定されたクラスを受講してください。
(02/04 2002: shige; 12/22 2015 修正: shige)


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Q 6.7. 応用数学について勉強したいのですが

A 6.7.

「応用数学」とは、工学だけに限らず、 社会の色んな場面における数理的な現象に使われる数学全般を指しますので、 範囲が広すぎてそれが何を指すかを答えることはできません。 何冊か「応用数学」という本が出版されているようですが、 それも書き手が想定している対象によって中身が全然違っているようです。 学科や専門分野によっても必要となる数学は違ってくるでしょう。

工学部のカリキュラムでいうと、基礎の線形代数学や微分積分学の次に 学ぶような数学としては、

確率統計、微分方程式、ベクトル解析、複素解析、 フーリエ解析 (ラプラス変換)
などが取り上げられることが多いようで、応用数学、応用解析学、工業数学、 といった名前の本はこのあたりの分野を幾つかまとめたものが多いようです。
(04/01 2002: shige)


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Q 6.8. 高校の数学を復習するのにいいテキストは

A 6.8.


(06/18 2002: shige)


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Q 6.9. 微積分は工学ではどう使われているのですか

A 6.9.

微積分に限らず、色んな分野の数学に対してこのような質問を受けますが、 難しい所ですね。 まずは 「Q 6.3. 数学はどんな所に役に立っているのですか」 をご覧ください。

例えば高校では微分はグラフの接線とか、関数の増減とか、道のりに対する速度、 位にしか使いませんし、積分は面積、体積、速度に対する道のり、 位にしか使わないように思いますから、確かにそのような疑問も出るでしょう (ただし、単に微積分を勉強したくないからその言い訳が欲しい、という理由も 多いように思いますが...)。

「Q 6.3. 数学はどんな所に役に立っているのですか」 でも書きましたが、現在の数学は応用される数学の中からそのエッセンスだけを 取り出して純粋な形にしたもの、抽象化したものにまとめあげています。 そうすることにより、より広い応用が可能なように、 そしてより学び易いようにしているのです。

昔、数学の問題がほとんど文章題だった時代 (例えば江戸、明治時代) がありました。つまり、全てが応用数学 (実学)、という状況です。 例えば高等学校の問題集が

といったような問題がずーっと並んでいる、といった感じです (歴史資料館等に行くとそういう問題集を見れることがあります)。 当時は小学校、中学校などの問題集もそんな感じであったというのが 例えば「算私語録」「算私語録 その II」(安野光雅、朝日文庫) などを 見ると書いてあります。 それに比べて現代流の純粋の数学部分のみを教える方が ずっと早道で楽だ、ということはわかってもらえるでしょうか。

微積分のような基本的な学問はどこでも出て来る、といっていいくらい 使われるんじゃないかなと思います。 だから 2,3 の例である固定したイメージを与えてしまうのは 逆にあまり良くないようにも思います。 九九はこういう応用で使います、二次方程式はこういう応用で使います、 とは明確にはいえないのと同じです。

あえて言うならば、工学では、

基本的な微積分の先にある、より応用的な道具であるテーラー展開、 微分方程式、フーリエ解析、多変数関数の解析などで頻繁に使われる 基本的な事柄であり、それらを記述する言葉である
といった感じでしょうか。 直接微積分を応用するというよりも、基本的な道具だという感じですね。
(07/31 2002: shige)


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Q 6.10. 式変形や式の整理ってどこまでやればいいのでしょうか

A 6.10.

う〜ん、難しいところですね。 式変形がその問題の目的である場合と、そうでない場合では違うでしょうし、 高校の数学では、習ったか習っていないかで できる変形とできない変形があるでしょうから、 単に問題だけで決まる問題ではなくて、それを解く人、 設定されている条件、目的などによって変わって来るように思います。

個人的な意見を言えば、

といった感じでしょうか。 例えば同類項はまとめる、約分できるものは約分する、 定数はまとめられるものはまとめる (例えば 2(3x-3y) は 6x-6y か 6(x-y) のように)、 といったことはどんな問題でもやった方がいいでしょうが、 展開や因数分解や有理化などは、 目的に応じてそれらの必要性は異なると思います。

例えば、ある式を微分したり積分したりする場合は、 展開した方がいいことが多いですが (展開することが面倒で、展開せずに微分したり積分したりする方が 楽な場合もありますが)、 その式が 0 になる場合を求めるときは展開よりも むしろ因数分解をすべきでしょう。

要は目的に応じた式変形が必要で、さほど目的がない場合は 複数の回答が考えられるならできあがりが簡単に見える方を 選択すればいいんではないでしょうか。
(09/03 2002: shige)


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Q 6.11. 再履修の学生はどのクラスに入ればいいですか

A 6.11.

基礎数理 I,II では、再履修の学生は原則として、 前年度のクラスの一つ下位のクラスへ行くように、と指示しています。
(09/24 2002: shige)


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Q 6.12. 「数検」を受けてみたいんですが

A 6.12.

「数検」とは数学検定のことだと思いますが、 あまり詳しくは知らなかったのですが、調べてみると「数学検定」 なるものは少なくとも 2 種類はあるようです。

いずれも、小学校 4 年程度から大学レベルまでが 8,9 級から 1 級までに 分かれているようです。両者の関係は良くは知りません。

受験方法は、10 人以上集まると団体受験ができて、 その団体の指定する会場で受験できるようですが、 人数が少ない場合は個人受験で、主催者の指定する会場での受験となります。 「数検」は、大きな本屋さんに行けば問題集も売っていて、 そこにその手のことが詳しく書かれていますので、それを参照すればいいでしょう。 また、いずれも WWW ページがありますので、それを参照してもいいでしょう (上にそれぞれリンクが貼ってあります)。 「Q 6.21. うちの大学の講義の単位を取れば数学検定 1 級は取れますか」 も参照してください。

なお 「理科検定」「漢字検定」「日本語文章能力検定」 なんてのもあるようですね。
(12/01 2003: shige; 03/05 2008 修正: shige)

なお、私の研究室の前に「工学系数学統一試験」なるものが掲示してありますが、 これはいわゆる「数検」とは違います。 これは、元々中国・四国地区の国立大学の工学部の先生方が 2003 年に始めたもので、大学の工学部等でほぼ共通に必要となる数学に関する 試験になっています。 現在 (2006 年、2007 年) は新潟大学工学部でも行われています。 詳しくは、以下のページをご覧ください。 過去の問題や結果なども紹介されています。

受験は無料のようですが、試験範囲は、

微分積分、線形代数、常微分方程式、確率・統計
となっていて、問題や説明を見るとうちの大学の基礎数理 I-IV の範囲を 越えている問題もだいぶあるように思います (線形代数の後半、常微分方程式の半数位、確率・統計全部) ので、 受験する場合は自分でそのあたりを勉強する必要があるだろうと思います。 ただ、分野毎に受験することもできるようですし、 いずれも工学部では必要で基本的な分野だと思いますので、 それに向けて勉強してみる、というのはいいことなんじゃないかと思います。
(03/05 2008: shige)


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Q 6.13. 記号の書き方は講義の書き方に従わなければいけないのですか

A 6.13.

講義中に「こう書いてください」と言ったものはそれに従ってください。 例えば log の底を小さく書くのではなくて下の方に書くとか、 "2・(-3)" (2 かけるマイナス 3) のカッコをつけ忘れない、 などがそれに当たります。

「こう書いた方が良いです」「こう書くこともあります」程度のものは 別に従う必要はありません。 例えば、等号を含む不等号の書き方は、 私は等号部分を 1 本線だけにして、さらにそれを斜めに書きますが、 高校流に水平な 2 本線で書いても全く問題ありません。
(12/01 2003: shige)


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Q 6.14. 「関数」を「函数」と書いているようですが

A 6.14.

昔「関数」は「函数」と書かれていました。 現在でも中国では「函数」と書かれているようですが、 function (関数) という言葉が中国に入って来たときに 中国人は「函数」という字を当てはめました。 それは「函数」という言葉の中国での発音が function に似ていたことと、 「函 (はこ)」が関数をうまく説明する (ブラックボックスに数字を入れると それに対応した数字が得られる) ということで意味も含めて当てはめたわけです。 とてもうまい当て字だと思います。

それが日本にも「函数」として中国から輸入されたのですが、 戦後当用漢字が制定されたときに「函数」の「函」の字が 当用漢字になかったために、同じ音の「関」が代わりに使われたわけです。 つまり、中国で音と意味を同時に当てはめた、という歴史が そこで失われてしまったわけです。

それに反抗してか、または古くから使っているためか、 私が学部の学生だった頃も一部の先生は「函数」と書いていて、 私もそれを踏襲しているわけです。 ちなみに日本数学会には、「函数方程式」という分科会がありますが (私が所属している分科会です) 現在でも古い「函数」という名前を 使い続けています。 まあ、気分の問題ですかね。
(12/01 2003: shige)


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Q 6.15. モンスターって何ですか

A 6.15.

数学の世界で「モンスター」というと散在型単純群としてのモンスター のことだと思いますが、どこでお聞きになったのでしょうか。 むしろそちらの方に興味があります。 私は専門家ではないので、多少調べてみたことを書きます。

ある数学的な集合 A の要素に「積」* が定義できて、

が成り立つ場合、この集合 A を数学では「群」といいます。 例えば行列の積は結合法則を持ち、また逆行列、単位行列がありますので、 2 次正方行列全体から行列式が 0 になる行列を取り除いた集合は 群になります。 この群は無限個の要素を持ちますが、有限個の要素からなる群もあります。 例えば、A={1,2} に、積 * を、
1*1=1, 1*2=2*1=2, 2*2=1
と定めると、これは群になります。 群は数学の中でとても大切な概念ですが、量子群、結晶群、変換群など、 応用上も非常に重要です。 その群の研究の中で有限群を完全に解明 (分類) しようというプロジェクトがあり、 その過程で得られたのが 26 個の散在型単純群です。 その中で特に位数 (= 要素の数) の大きい 2 つの単純群を Baby Monster, Monster、と呼んでいます。位数はそれぞれ
241・313・56・72・11・13・19・23・31・47,
246・320・59・76・113・133・17・19・23・29・31・41・47・59・71
だそうです (桁にして 34 桁と 54 桁)。 なお、有限単純群の分類は、1981 年に完成を見ています。 (cf. 「岩波 数学辞典 第 3 版」407 有限群 I, J (pp.1217-1221))
(12/01 2003: shige)


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Q 6.16. 大学でも教科書以外に問題集を買って勉強すべきですか

A 6.16.

大学の分野の数学でも問題集はないことはなくて、 「演習書」という問題集が色々あります。 ただ、かなり大きい本屋さんか、大学生協など、 大学向け専門書を扱っているようなところでないと置いてないでしょう。 または、大学の図書館にも多少置いてあるので、 それを借りる、あるいはその書名、出版者、著者を控えておいて本屋で注文する、 という手もあります。

で、「すべき」か「すべきでない」かですが、 個人的な意見ですが、どちらでも良いと思います。 つまり、そうすることはもちろん悪いことではありませんが、 必ずそう「すべき」だとも思いません。 好きなようしたらいいと思います。
(08/04 2004: shige)


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Q 6.17. 教科書でとばしているところは難しいからですか、必要でないからですか

A 6.17.

だいたいそんなところですが、もう少し正確に言うと、 私の基準では「重要度が低いから」という感じです。

例えば、とばしたものというと 「はさみうちの原理」や「中間値の定理」などがありますが、 これらは理学部数学科の学生のように理論をやる人、 証明をする必要のある人にとっては必要なものですが、 具体的な計算ではさほど使うものではないと思いますので 工学部では重要度が低いと言えると思います。

もちろん余裕のある人や興味のある人は どういう内容なのかを見ておいてもいいとは思いますが、 それに時間をかけるよりも、 他の部分に時間をかける方がいいと思います。
(08/04 2004: shige)


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Q 6.18. 効果の出る勉強法は

A 6.18.

人にもよりますので難しいですね。 だから色々やってみて自分に合った勉強方法を探してみるのが良いんだろうと思います。 私の個人的な意見は 「大学の講義について」 にも書いてありますので、参考にしてみてください。

ちなみに私が学部の学生のときは、 理学部数学科の講義は 定理証明を教科書通りにそのまま板書するスタイルでしたので、

といった勉強方法を取っていました。 だから今考えると自分で本を読んで勉強しているのと そう変わらないことをやっていたように思います。 友人の中には実際に講義は当てにせず、 自分で本を読んで勉強していたものもいましたし、 グループで勉強をしたり、先輩に聞きながら勉強していた学生もいました (そういう仕組みが出来ていたように記憶しています)。
(08/04 2004: shige)

追加ですが、私 (shige) が学生の時にある先生に 教えて頂いた、 「どうしたら数学が上達するか」 という 10 箇条を以下に紹介したいと思います。

なおこれは、元々私がいた数学科の学生向けに書かれたもので、 そこでの講義や演習のやり方に対応して書いている部分もありますし、 工学部と理学部数学科では 「Q 6.1.」 に書いたように扱う問題がかなり違いますので、 工学部の学生に以下が全て当てはまるわけではありません (「数学者を目指す人」に向けて書いてある部分もあったりします)。

  1. 基本を大切にする

    定義、定理をしっかりと頭の中に入れる。
    (これが出来ない人は先に進めない)

  2. 演習問題を解く

    自分で工夫して考える。 自分の家で考えてもよい。
    (これが出来ない人は、1. がしっかりしていないか、 考えてわからないとすぐ放棄する人 (後者の type の人は、社会に出ても知的な努力を要する職業で成功しない))

  3. 定理は「何を述べているのか」考える。 具体例を計算し、実際に定理が正しい事を確かめる

    (これを実行していくと「数感」というべき感覚が目ばえてくる)

  4. 自発的に本を読む (数学の)

    (講義以外の本を余暇を利用して読む)
    (講義以外の本を読んだ事のない人は好奇心、探究心に欠けている。 → こういう type の人は、成績が良くても学問の楽しさを味わえない。 悲しい事である !)

  5. 友人と数学の話をする。

    これは、基礎的知識の確認に有効である。 どんな人でも、とんでもない思いちがいをすることがある。 人と話すとその誤りに気付くことがある。

  6. 間違い、不理解の場所を少しずつ減らす。

    Test の後で、完全な解答をつくる。
    「できなかった問題をそのままに放置する態度では進歩は生まれない」
    マチガッタ事=天の恵み、と考えよ。

  7. 良い先生に指導をしてもらう。

    良い先生とは (学問、教育の面では) 「何が重要、基本的であるかをハッキリ言う人である」
    現在の学問は非常に複雑であるから、 重要な事と、重要でない事の区別がつかなければ、何も会得できない。

  8. ズルをしない。

    子供のショウギ遊びで、時々ズルをする子がいる。 対戦相手が席を立っている間に、駒をずらしてしまう... 数学でも同じ...。人のレポートを写してそれで...。 こういう人は何事も上達しない。

  9. 数学以外の本を読む、考える。

    単に数学の成績が良いだけでは、(もしその人が数学者になることを志すならば) 数学は成就しない。 何故なら明確な人生観などが無く学問をしようと思っても、 学問はそれほど甘くない。

  10. 努力することを好む。人のいやがる事をやる。こういう精神が必要

    楽して学問をしようと思ってもムダである。 学問は急峻で、努力を要する。 しかし、ある所まで登れば、上界で知恵を巡らす楽しみを味わえる。

結局、人間がイイカゲンだと数学は上達しない。 数学で悩んでいる人が人間がイイカゲンということではない。 そういう人は、1.,2.,3.,5.,6. を参考に。

最初にも書いたように、 この内容自体は 必ずしも工学部の学生に当てはまる話とは言えない部分もありますが、 逆に、「数学」を「自分の専門分野」と置きかえて読み直すと、 どの分野に対しても素晴しい助言になっているのではないかと思います。
(03/22 2007: shige)


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Q 6.19. 高等数学を使うとみかんを皮をむかずに取り出せると聞きましたが

A 6.19.

江戸川乱歩でしょうか。

江戸川乱歩の探偵小説の中に、探偵である明智小五郎が そういうことを言っているシーンが確かにありました。 明智小五郎は趣味が高等数学となっていて、 暇な時は高等数学の問題を考えている、 実際にそれを推理にいかそうとすることもあったように記憶しています。

で、みかんの問題ですが、これはトポロジーや微分位相幾何という分野の話です。 私はトポロジーは専門ではないので詳しくは知りませんが、 多分現実に皮をむかないでみかんを取り出すことはできないだろうと思います。 トポロジーの問題で

すりぬけをゆるすとして、折り目を作らずに球面を裏返すことができるか
という問題があります。 1957 年に後にフィールズ賞を受賞した S.Smale という数学者が それが可能であることを証明した問題ですが、 その後 A.Shapiro, G.Francis, B.Morin らが 実際それを視覚化することができることを示し、 現在はそのビデオなどもあります (しかも驚くべきことに、この実に複雑な視覚化の問題を解決した B.Morin は 盲目の数学者でした)。 詳しくは以下を参照してください。 実際に球面の裏返しのアニメーションファイル (mpeg ファイル等) も置かれています。 多分江戸川乱歩はこの話を何かで聞いて、 そこからそういう話を書いたのではないだろうかと想像します。
(08/04 2004: shige)


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Q 6.20. 数学検定の資格は持っているとどういうことに有利ですか

A 6.20.

わかりません。

例えば英語検定の資格と似たような物で、 多分、それを評価してくれるところにとっては有利でしょうし、 そうでないところには有利ではないでしょう。

高校、大学でどれくらいの数学を履修している、 どれくらいの数学が実際に身についているかは、 カリキュラムや内容は学校によっても違いますので 成績表だけを見ても良く分からない場合もあります。 それを客観的に評価できることになりますので、 想像ですが取る側からすればそういう点で便利だと思うんではないでしょうか。

それに、数学検定や漢字検定などは、 英語検定に比べると趣味の要素が少し強いんではないでしょうか。

なお、最近は、例えば

なども行われているそうです。 なるほど、確かに「学校」ではそういうものを評価できそうですね。
(09/19 2004: shige; 01/16 2005 修正: shige)


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Q 6.21. うちの大学の講義の単位を取れば数学検定 1 級は取れますか

A 6.21.

確かに、数学検定の 1 級は大学程度 (高等学校 ~ 大学卒業程度) のようですが、 数学検定の内容も年々変化して来ているようですから一概には言えませんが、 全学的に行っている講義科目「基礎数理」に関して言うとちょっと難しいと思います。

というのがその理由ですが、例えば現在の 1 級の内容は となっていますが、うちの大学の基礎数理には 「統計」や「コンピュータ」はありません。 2015 年度入学生からは「線形代数」に関する内容も、 ベクトルや行列の基礎をやる程度で、あまりやっていません。

「微分積分」も、その内容を見ると

となっていて、基礎数理でカバーしているのは 6,7 割位ではないかと思います (「微分方程式」がどこまで出るのかにもよりますが...)。

基礎数理は大学低学年時に取得する基礎的な数学を意味しますので、 むしろ準 1 級の方が適切なのかも知れませんが、これも分野を見ると

基礎数理とは関連のなさそうなものが色々含まれていますね (なんとなく出題者の趣味が見えるような...)。

いずれにしても、基礎数理は別に数検のためにある科目ではないので、 カバーしていないところがあるのは当然だと思います。 問題集を買って、足りないところは図書館の本で自分で勉強する必要があると思います。 また、多分問題集だけで身に付くような物でもないと思います。

なお、数検以外にも、最近では「工学系統一試験」なるものもあります。 「Q 6.12. 「数検」を受けてみたいんですが」 も参照してみてください。
(01/16 2005: shige; 03/05 2008, 12/22 2015 修正: shige)


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Q 6.22. 今まで数学が一番役に立ったときは

A 6.22.

これは、私 (shige) はそれを職業にしていて、常日頃役に立ち続けていますから、 私が答えてはいけませんね。 どなたか他の人 (学生、その他) の人の回答が来るのを待ちましょう。 よろしくお願いいたします。
(07/28 2005: shige)


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Q 6.23. 四次元空間で物を食べても体をすり抜けてしまうと聞いたのですが

A 6.23.

一休さん風に言えば、「まず私をその四次元空間とやらに連れていってください」 といった感じでしょうか。

いや、決してちゃかしているのではありませんが、 少なくとも私にはまともには答えられません。 それは、まずその「四次元空間」で

といったことをまずはっきりさせる必要があるからです。 その辺りをあいまいにしては議論ができません。

多分 SF からの話なんだろうと思いますが、 SF はフィクションですから 多少話をおもしろくするために 科学的なところはごまかすこともありますし、 科学的な考察が不十分な場合もあります。 上の話も、本来考えるべきとこをあいまいにして 現実との感覚のずれをおもしろく伝えている話のように見えますし、 単に二次元と三次元からの類推から 三次元と四次元の関係を述べているような気がします。

ちなみに、それとは逆に、二次元世界での生物はどのような形か、 そこで使える機械はどうなるか、原子構造はどうなるか、 といったことを科学的に考察した記事を見たことがあります。 この二次元世界の機械の仕組みなどは、 我々三次元世界への応用も十分にありそうな気がします。 興味がある人は以下を参照してください (ちょっと古いので手に入りづらいかも)。


(07/28 2005: shige)


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Q 6.24. 返却された答案に書かれている○、□、△、×はどういう意味か

A 6.24.

○は正解、□はちょっと惜しい (少し減点)、△はもう少し悪い (もう少し減点)、 ×は不正解 (点数はあげられない) を意味しています。 それぞれの点数は問題によって違います。

なぜ□を△よりもいいものを表すのに使うのかというと、 □の方が△よりも○に近いからです。
(08/03 2005: shige)


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Q 6.25. 返却された答案に書かれている L の反対 (」) のような記号は、 こう書け、という意味か

A 6.25.

いや、違います。それは私の採点のときに書く記号で、 そこまでは合ってる、ということを意味します。 それを目安にすれば、どこで間違えているかわかるでしょう。
(08/03 2005: shige)


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Q 6.26. 三角関数表の、30 度や 45 度や 60 度以外の数値は どうやって求めているのですか

A 6.26.

現在のような関数電卓やコンピュータのある前から、 正確な三角関数表が作られていました。 大航海時代、その航海の安全を支えたのが 正確な測量術と正確な時計、そして正確な三角関数表らしいです。

簡単に考えると、正確に直角三角形を書いて、 その三辺の長さを計ってそこから計算すればよさそうな気がするかもしれませんが、 それでは 5 桁、7 桁といった高精度の三角関数表を作ることはできません。 実は、それらの数値は、半角の公式や加法定理などを駆使して作られているそうです。 この辺りの話は、以下の本に詳しく書かれています。

例えば、半角の公式

cos(x/2)={(1+cos(x))/2}1/2
を使うと、開平 (平方根を求める筆算) の作業を行えば、 30 度に対する cos の値から、15 度、7.5 度、3.75 度、1.875 度、0.9375 度、 といった角度に対する cos の値を求められます。 cos の値がわかれば sin の値も計算できます。 このように小さな角度に対する角度が計算できれば、 加法定理を使えば、既に cos や sin が知られている角度に対し、 そのような小さな角度を加えた角度に対する cos の値も計算できます。 そのようなことを繰り返すことで色んな角度の三角比の値を計算できます。 10 世紀には既に 6 桁位の精度の 15 秒 (=1/240 度) 刻みの三角関数表が 作られていたそうです。

しかし、現在はそのような計算をしているわけではありませんし、 関数電卓の内部にもこのような表が入っているわけではありません。 現在は、微積分により発見されたテイラー展開 (または区間最良近似である チェビシェフ多項式) などを使って、多項式計算によって近似値を求めています。

例えば、sin(x) や cos(x) を求める場合、三角関数の性質を利用すれば、 0≦x≦π/4 (単位はラジアン) の範囲の x に対して求めることに帰着できます。 このとき、sin(x) や cos(x) のテイラー展開 (マクローリン展開) 式

sin(x) = x-x3/3!+x5/5!-x7/7!+...
cos(x) = 1-x2/2!+x4/4!-x6/6!+...
を利用すれば、精度のいい値を求めることができます。 0≦x≦π/4 の範囲ならば、 例えば上の式は (π/4)9/9!=3/10000000 程度の精度、 下の式は (π/4)8/8!=4/1000000 程度の精度があります。
(11/19 2005: shige)


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Q 6.27. 無理数 e (=2.71828...) の e は数学者オイラー (Euler) の頭文字らしいですね

A 6.27.

うーん、確かにそういう説もあるのですが、そうでないという話もあります。 前者は例えば、

などにありますし、後者は例えば にあります。

私はどちらかというと後者の説の方が納得できます。 E.マオールの本ではだいたい以下のように説明しています。

私の意見 (さほど根拠はありませんが) を追加すると、

ということで、私は個人的には Euler の名にちなむ、 という説はあまり信用していませんが、 何か根拠のある話があれば教えてください。
(12/07 2005: shige)


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Q 6.28. e (=2.71828...) にはどういう意味があるんですか

A 6.28.

「意味」という言葉の意味がよくわかりませんが、 高等数学ではとても重要な定数 e ですが、 これは微積分や無限級数、極限などを使わないと定義も難しいですし、 その性質も述べられませんので、 数学をあまり知らない全くの素人に説明するのは難しい定数です。

だから、逆に e の定義を知っているというのは、 普通の人にはない知識を持っていることになるので、 自慢... はできないですかね。

「意味」というのが定義を指すのであれば、微積分の本をご覧ください。 πのように簡単に説明できる定数ではありません。 また、以下のように、e に関する本も出版されています。 こういう本が書けるくらい、e に関する話題はたくさんあり それくらい重要な定数なんだ、ということもできると思います。

e にまつわる性質で興味深いものといえば、例えば以下のようなものがあります。

詳しい話は、上掲書をご覧ください。
(12/13 2005: shige; 08/03 2006 修正: shige)


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Q 6.29. 数学の雑誌は大学図書館で読めますか

A 6.29.

数学系の雑誌というと、例えば以下のようなものが出版されています (03/06 2006 現在)。

ほかにも、各数学関係の学会の学会誌などが出版されています (日本数学会: 数学、日本応用数理学会:応用数理、 日本数学教育学会:算数教育、数学教育、全国数学教育学会:数学教育学研究 等)。

そして現在 (12/22 2015)、工科大の大学図書館には 「数学セミナー」「現代数学」「数理科学」「数学」「応用数理」 などが置かれています。

その他にも一般科学系の雑誌として、 「Newton」「パリティ」などが置かれています。
(03/06 2006: shige; 03/08 2006, 12/22 2015 修正: shige)


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Q 6.30. 積分にはまだ種類があるんですか

A 6.30.

これは、うちの大学の基礎数理で学んだ 「広義積分」「重積分」以外にも積分があるのか、ということでしたが、 実はまだまだ色々あります。 例えば工学でもよく利用されるものに、以下のようなものがあります。

これらは、かっこ内に書いたような意味のもので、 通常の定積分や重積分が直線上の積分や平面上の積分であるのに対して、 「曲線や曲面の上での積分」になっていて、 ベクトル解析や電磁気学などでよく使われます。 しかし、いずれもパラメータを介して、 通常の定積分、重積分に変換して計算することができます。 なお、これらは、具体的な数値を求めるというよりも、 むしろその意味の方が多分重要で、理論の展開の際によく用いられます。

他にも、工学の人は多分めったにお目にかからないと思いますが、

などの、通常の積分を拡張したような積分があり、 数学ではよく用いられています (最初の 2 つは私も使います)。 ちなみに、これらの名前はすべて人名で、逆に通常の積分は、 人名を付けて呼ぶならば「リーマン積分」と言います。

数学辞典を見ると、他にも「アーベル積分」「バナッハ積分」「バーコフ積分」 「ダンフォード積分」「ペティス積分」「ゲルファント積分」など、 まだまだたくさんの種類の積分が見つかります。

なお、特定の形の不定積分や定積分に名前をつけた「フレネル積分」 「ブロムウィッチ積分」「オイラー積分」「楕円積分」などの用語もあります。
(03/10 2006: shige)


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Q 6.31. 恒等的に f(x+y)=f(x)+f(y) となる f(x) が 一次式以外にもあるって本当ですか

A 6.31.

次の問題を考えます。

すべての実数 x, y に対して、f(x+y)=f(x)+f(y) となる一変数関数 f(x) を求めよ。
f(1)=a とすれば、有理数 x に対しては f(x)=ax となることは 容易に示すことができます。 だから、例えば f(x) が「連続関数」ならば、すべての実数 x に対して f(x)=ax となってしまいます。

こういうときに、数学者は「連続関数」の仮定をおかない場合に そうでない例が作れないか、とか、f(x)=ax となってしまう条件として、 「連続関数」という仮定をもっとゆるくできないか、などと考えるのですが、 実際に連続関数という仮定を取り除いた場合に、 f(x)=ax ではない上の解が存在することが知られています (厳密には、選択公理の仮定の元で)。 ただし、じゃあどんな解かと言われて、 数式で書いたり、目に見えるように見せることは実はできません。
(03/10 2006: shige)


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Q 6.32. 自然対数と常用対数のように、他にも順番が逆のものってありますか

A 6.32.

これは 「Q 6.28. e (=2.71828...) にはどういう意味があるんですか」 に書いた、通常先に学ぶ常用対数より自然対数の方が先に見つかっている、 という話のことだと思いますが、講義でもたまに紹介していますが、 そういうことは色々あります。 「Q 6.28.」 にも、自然対数と常用対数以外に、

といったことを上げましたが、他にも例えば以下のようなものがあります。

現在の数学は、昔の理論を整理して再構築されたもの、 学びやすい形に整えられたものなので、 こういう逆転は別に不自然ではありません。

なお、少し話は違いますが、例えば、

なんてのもあります。
(03/10 2006: shige)

余談の追加ですが、3 次元のポアンカレ予想は、 ペレルマン (G.Perelman 1966-, 露) によって解決した、 とほぼ見なされたようです。 ペレルマンはこの業績によって今年度 (2006) のフィールズ賞に決まりました (が、受賞は辞退したそうです)。 100 万ドルの賞金のついた、いわゆるミレニアム問題の一つでもあったのですが、 歴史が古いだけに、その中でこれが最初に解かれるとは思っていませんでした。
(12/18 2006: shige)


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Q 6.33. 「除算」って割り算のことではないのですか

A 6.33.

数学的にも日常的にも、それが正しいと思います。 どの辞書を見ても、「除算」とは割り算のことと書かれています。

ところが、何故かこの用語が「引き算」の意味で使われることがあるようです。 インターネットで「規則」「除算」で検索してみると じゃんじゃん引っかかりますが、 そこでは多くが「引き算」として使われています。 それらの文言が似ているので、 多分国の通達のようなものに言葉を揃えていて、 その結果としてそのようなことが起こっているのだと思いますが、 もちろんそのような使い方をする方が間違いだと思います。

それは、日常的に除算は割り算という意味として使われているので、 除算という言葉を割り算と解釈して計算してしまう人が出る可能性があるからです。 「規則」等で使われる専門用語だとしても、誤解を招く表現を用いて、 それに従って間違った計算をしても、それは間違った人を責めるべきではなく、 そのような言葉で規則を作った方を責めるべきでしょう。

検索結果を見ると、特に給料に関する部分で そのような言葉が使われているようですが、 引き算と割り算では結果がまるで違いますから 問題が起こったらえらいことになるように思いますが いいんでしょうかねぇ。
(03/17 2006: shige)


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Q 6.34. 折り紙は定規やコンパスよりすごいと聞いたのですが

A 6.34.

昔から数学には「作図問題」というものがあります。 ある線分が与えられたとき、 定規とコンパスを用いてその線分の垂直二等分線を書けとか、 ある角が与えられたとき、 定規とコンパスを用いてその角の二等分線を書けとか、 そういう問題です。

ただしこの場合、 定規は「直線を引くのには使えるが、長さを計るのに使ってはいけない」 というルールがあります。 コンパスも「ある長さを保存して、それを半径として任意の点を中心とする円を描く」 以外の使い方をしてはいけません。 だから、三角定規 2 つを滑らせて平行線を描くことも許されていませんし、 ある点を中心として、ある直線に接する円をコンパスで描く、 という操作も許されてはいません。

このような制限の元で、どのような作図が可能であるか、 ということ考えるのが作図問題なのですが、 ギリシャ時代に以下の 3 つの問題は このようなやり方では作図ができないのではないかと言われてきて、 そして現在では、この 3 つはいずれも定規とコンパスでの作図は 不可能であることがちゃんと証明されています (三大作図問題といいます)。

「折り紙」も、その折線を直線の描画だと見れば、円こそ描けないものの、 長さを移したり、線分の垂直二等分線や角の二等分線を描く (折る) ことができることはすぐにわかるでしょう。 しかも、折り紙では普通に可能である、

紙の上の 2 点を、それぞれ異なる直線の上に置くように折ること
を許すとすれば (これは定規やコンパスにはできない)、 実は角の三等分問題や、立方倍積問題は、 折り紙では作図可能であることが知られています。 だからその意味では確かに「折り紙は定規やコンパスよりもすごい」 と言えるかもしれません。 詳しくは、以下をご覧ください。


(08/04 2006: shige)


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Q 6.35. 一番尊敬する数学者はだれですか

A 6.35.

過去の数学者で現在まで名前が残っている人々は、 人間的にはどうかという人も中にはいますが、 皆それぞれ素晴らしい数学的な業績を残しています。 それらの仕事の内容は、数学全体に対する重要性だけでなく、 社会に与えた影響もはかりしれないものがあり、 どの人の業績を取り上げてももちろん私をはるかに上回る人達ばかりですから、 すべて尊敬に値します。

また現代の数学者でも、有名な数学者、賞をもらった数学者、 次から次へと画期的な論文を出している数学者、 若くして優れた仕事をしている数学者などがたくさんいます。 彼らももちろん尊敬に値します。

昔のようにそれほど数学者を知らなかった状況では 誰かを上げることは可能だったかもしれませんが、 たくさんの素晴らしいを知っている今では 誰か一人を上げることは大変難しいです。 優柔不断な回答で申し分けありませんが、 「専門家」というのはまあそういうもんだと思ってください。
(11/12 2006: shige)


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Q 6.36. 数学に興味を持ったきっかけは何ですか

A 6.36.

はて何だったでしょうか。よくは覚えていません。

ただ、小学生や中学生の頃から数学や理科が好き、得意だったのは確かです。 パズルやクイズなどを解くのが好きだったので、 自然と「頭で考えて論理的に問題を解く」という方向に 引かれていったように思います。

既にそういう興味を持ったあとで更に強く「数学」を意識しだしたのには、 いくつかのきっかけがあります (それは多少覚えています)。

これら、またこれら以外にも色々な数学的な経験をへて、 数学に対して学びたい、知りたい、という欲求がかなり強くなっていって、 数学を専門とする方向に進んでいったように思います。
(11/12 2006: shige)


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Q 6.37. 「オイラーの公式」は定理ですか、定義なのですか

A 6.37.

「オイラーの公式」とは

eix=cos(x)+i sin(x)
のことでしょうが、難しいところですが、定理と定義の両方の側面がある、 と言えるでしょう。

学生が習う分には、自然数乗の拡張として負や有理数の指数を高校で学び、 そのさらなる拡張として複素数乗の定義のときにこの公式を目にします。 つまりその場合は、 「複素数乗などというものがないところに複素数乗というものをこうだと決める」 わけですから「定義」なわけです。 このような形でオイラーの公式を目にするのが普通ですから、 その意味では「定義」であって「公式」というよりも「定義式」なわけです。

一方で、1/2 乗を平方根と定めることが自然、 すなわち他の計算法則に矛盾せず、 通常の指数の拡張として 1/2 乗を定めることが 妥当であるという状況証拠がいくつかあるように、 実は、オイラーの「公式」もこのように定めることがごく自然であることが、 複素関数論などから導き出されます。 つまり、オイラーの「公式」が成立することは、 定義というよりもむしろ「数学的な事実」であり、 オイラーはその数学的な事実、 すなわち複素数乗をどのように定義するのが妥当であるのか、 というための式を「発見した」ということになる、 という風に見ることもできます。 このような見方をすれば、 これは定義というよりも「定理」であって「公式」である、 という言い方もできることになるわけです。

もちろん、教科書などを書く人、または最初に学ぶ人にとれば、 理論の進め方、積み上げ方にかかわりますから、 定義は定義、定理は定理、とちゃんと認識しないといけませんから それはちゃんとおさえておく必要はあると思います。

ただ、私 (shige) の個人的な意見ですが、 そもそも数学の定義なんてのは、 同値な関係であれば何を使ってもいいわけで (もちろんその後の議論のしやすさなどの点で 同値な定義からどれかを選ぶことは意味がありますが)、 その意味ではどれが本当の「定義」で、どれがそこから導かれる「定理」(性質) なのかという議論にはあまり本質的な意味はなく、 それらすべてを性質として備えているものがその数学的な実体なんだ、 という風に考えます。 だから、オイラーの「公式」も「定理」と見てよくて、 そして同時に複素数乗の定義でもある、 といった感じが私 (shige) の見方です。
(12/18 2006: shige)


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Q 6.38. 「f(x)≡0」ってどういう意味ですか

A 6.38.

「≡」は、中学校の幾何などでは「合同」を意味する記号として使われますが、 「恒等的に等しい」という意味でこのような記号が使われることがあります。

単に「f(x)=0」と書いた場合、 それが「ある x に対して」成り立つ式 (すなわち方程式) なのか、 「すべての x に対して」成り立つ式 (すなわち恒等式) なのか の区別がつきにくいので、 それが後者であることを明示するためにこのような記号を使うわけです。

つまり、「f(x)≡0」と書いた場合は、f(x) はどんな x に対しても 0 で、 すなわち 0 という定数関数に等しい、ということを意味しています。
(12/22 2006: shige)


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Q 6.39. 「]a,b[」という記号はどういう意味ですか

A 6.39.

数学では、あるところからあるところまでの範囲 (例えば a≦x≦b のような範囲) の実数の集合を「区間」と言います。 このような集合を、以下のように書き表します。

ところが、開区間を表す記号 (a,b) は、 2 次元平面上の点の座標を表す記号 (a,b) (すなわち、x=a かつ y=b となる点の座標) と同じでまぎらわしいので、 それを避けるために ( ) の代わりに ] [ という書き方が使われる場合があります。 よって、上の後の 3 通りは以下のように書くこともできます。

なお、右側に無限に延びた区間 a<x は、a<x<∞ とも書けるので、 (a,∞) のように書くこともあります。 同様に、以下のような書き方も使われます。

この場合、実数は ∞, -∞ に等しくはなりませんので、 そちらは「開いた」形で書きます。
(12/23 2006: shige)


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Q 6.40. 「単調でない関数」は「不単調関数」と呼ぶのですか

A 6.40.

例えば「連続でない関数」は「不連続関数」と言いますし、 「線形でない微分方程式」は「非線形微分方程式」と言いますが、 「単調でない関数」は何でしょう。少なくとも聞いたことはありません。 数学辞典などにも見られないようです。 多分、「単調でない関数」というものをまとめて扱うことがあまりないので、 そういう言葉がないのではないかと思います。 そういう関数のグループに共通の性質を考察することがあれば、 「非単調関数」とか「不単調関数」とかいった言葉ができるかもしれません。

ところで、既に日常語にもなっている「不完全」や「非対称」などはともかく、 数学上のある概念を否定する言葉の場合、 「不」をつけるのか「非」をつけるのか (「無」なんて場合もあります) はどんな風に決まっているのでしょう。 英語の接頭語 (non-, dis-, im- 等) に対応しているのかなと思ったのですが、 そういうわけでもないようです。 あまり規則性は見られないのですが、辞典を見た感じでは、 「不」は「不等式」「不安定」など、 割と古くからある語に用いられているような気がしますが、 それ以外のものは「非」が多く用いられているような気がします。 何かご存じでしたら教えてください。
(12/23 2006: shige)


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Q 6.41. lim の下の矢印が斜めになっているのは何ですか

A 6.41.

普通 lim の下は「x→a」とか「n→∞」とか書かれるのが普通ですが、 中には確かにその矢印が右上に向いたものや右下に向いたもの、 さらに真上に向いたものや真下に向いたものが書かれていることがあります。 実は、斜めに向いたもの、上や下に向いたものは、 普通の右に向いたものとは意味が違い、 「片側極限値」というものを意味しています。

「片側極限値」には、「左側極限値」と「右側極限値」があり、 例えば f(x) の x=a での「左側極限値」とは、 x が a より「小さい方」から近づくときの f(x) の極限値を意味し、 「右側極限値」とは、 x が a より「大きい方」から近づくときの f(x) の極限値を意味します。 「左側極限値」「右側極限値」は、 lim の下には「x→a」の代わりに 次のようなものを書くことでそれらを書き分けます。

ちなみに、普通の「x→a」の極限値は「両側極限値」と呼ばれていて、 これは、近づきかたによらずに一定の値に近づく場合の極限、 と定義されているので、 これは左側極限値と右側極限値の両方が存在して、 その両者が一致する場合にのみ、この両側極限値が存在してその値に等しい、 と考えることになっています。
(12/23 2006: shige)


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Q 6.42. 「+」を上下に重ねたような記号は何ですか

A 6.42.

数式の記号としては私も知りませんが、 JIS 漢字や Unicode、そして LaTeX には似たようなものがあります。 「‡」がそれですが、これは Unicode では "Double Dagger" と名付けられています (LaTeX でも \ddagger で同じ記号が出力されます)。

"Dagger" (「†」) は「短剣」を意味し、 Double Dagger はこれを 2 つ重ねたもののようです。 LaTeX では、論文の著者の所属を脚注として書くときに、 脚注の目印として、*, †, ‡,... のような記号が順に使われますので、 そういうものとして使われることがあるようです。
(12/23 2006: shige)


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Q 6.43. 「1+2+3+...=-1/12」という式を見たのですが

A 6.43.

これは、大数学者オイラーによる「ゼータ函数の」研究の中に 見られる式だそうです。 もちろん、オイラー自身も「1+2+3+...」が発散する級数であることは 知っていたと思いますから、 この式は通常の意味での無限級数ではなく、 「ゼータ函数の値として」という特殊な条件のもとで 意味がある式であると考えるべきです。

ゼータ函数ζ(s) (リーマンのゼータ函数とも言います) とは、 n^(-s) (以下、^ は累乗を表わすものとします) を一般項にもつ数列の、 n≧1 に対する無限級数を意味します。例えば、

ζ(2) = 1+(1/2)^2+(1/3)^2+(1/4)^2+...
となります。 ゼータ函数の値は、s が偶数の自然数である場合はオイラーにより、
ζ(2) = π^2/6, ζ(4) = π^4/90, ...
のようなものになることが発見されているのですが、 s が奇数の場合はそれを表す簡単な式は知られていませんし、 無理数であるかどうかも、s=3 を除いてはよくわかっていないようです。

さて、問題の発散級数は、オイラーが残した s=0,-1,-2,-3 に対するゼータ函数の値の計算のようです。 もちろん普通の無限級数の意味では、s>1 でなければこの級数は収束せず、 -3≦s≦0 に対する値はいずれも∞となるのですが、 オイラーは「ある計算法」によって、

ζ(0)=-1/2, ζ(-1)=-1/12, ζ(-2)=0, ζ(-3)=1/120
のような式を論文に残しているそうです。

以前は、これは発散級数を組み合わせた計算を行っているので、 このような式に意味を与えるのはナンセンスである、 とも思われていたようですが、 最近の研究では、この計算にはそれなりの意味があることがわかってきたようです。 この結果等については、例えば以下の巻末の解説部分に多少書かれています。

ただし、通常の無限級数の意味なら、 もちろん s≦1 ならば ζ(s)=∞ と考えて間違いはありませんし、 むしろそれが正当です。 このオイラーの計算が意味を持つのは、あくまである特殊な状況のもとで、 ある特別な意味づけを行った場合だけ、と考えるべきだと思います。
(04/30 2007: shige)


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Q 6.44. 開平計算の他に、3 乗根を計算するものもありますか

A 6.44.

あります。「開立」といいます。

開平計算とは、筆算やそろばんなどを利用して 平方根の桁を順次求めていくものですが、 その原理は、2 乗の展開公式

(a+b)2=a2+2ab+b2
にもとづいています。同じように、3 乗の展開公式
(a+b)3 =a3+3a2b+3ab2+b3
にもとづいて計算するわけです。

何らかの資料を見れば載っていると思いますが (インターネット上の解説もあるようです)、 開平の理屈をよく考えて、上の展開公式で説明できるようであれば、 同じようにやれば開立もできますので、 なんでしたら自分でその方法を考えてみられたらいかがでしょうか。
(06/09 2007: shige)


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Q 6.45. 入試に数学 III を課してないようですが、工学部なのに必要ないんですか

A 6.45.

確かに、うちの大学の入試では現在 (2007 年) は数学 III (や数学 C) は 課していないようです。 これには色々な理由があるんでしょうが、私なりの意見を書いてみましょう。 ただし、もちろん以下は大学の公式見解ではなく、 あくまで私の意見なのでご注意ください。

もちろん、数学 III を高校で履修することは無駄ではありませんし、 それを履修していれば、それを活用できる分野に それを応用することができるわけですから、 知らないよりは知っている方がもちろん得だろうとは思いますし、 あらためて微分積分を学ぶ場合も有利でしょう。
(06/09 2007: shige)


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Q 6.46. フォークト関数ってなんですか

A 6.46.

残念ながら聞いたことはありませんし、 手元にある数学辞典などにも載っていません。

インターネットで検索してみると、 光学物理分野に出てくるもののようですね。 フォークトは W.Voigt (1850-1919 独) という人の名前にちなんでいるもののようです。

コーシー分布と正規分布をたたみ込んだもの、 という記述が見られますので、そういう積分で表される関数になるんでしょう。 以下に、IDL というデータ解析ソフトに実装されているフォークト関数の 数式等が載っています。

多分、特殊な分野で使用される特殊な関数なんでしょうから、 その特殊な分野の専門書を参照するといいでしょう。
(06/09 2007: shige)


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Q 6.47. 計算ミスをしないようにするにはどうしたらいいですか

A 6.47.

難しいですね。計算ミスは我々数学者でももちろんありますし、 歴史上の偉大な数学者でもしていたようです。

ただ、計算ミスを減らすような工夫はあります。 我々は、論文を書くときはもちろん計算ミスがないものを書こうとしますし、 テストの採点の際の正答例を作る際にも計算ミスがあったら困りますので、 そういう工夫を多少しています。 とはいっても、たいしたことではなく、ごく標準的なものばかりです。

  1. 計算は、頭の中よりも紙の上で行う

    頭の中で暗算でする (楽) よりも、 紙の上で手を動かす (しんどい) 方が計算ミスは少なくなります。 頭の中で考えると、勘違い、見落としなどが起きやすいですから、 一字一句目で見ながら計算するのがいいようです。

  2. 計算は、丁寧に書き残す

    大事な計算の場合には、1 行計算したら、その行の計算を確認して次に進む、 ということを行います。 その計算の確認のためには、 計算を小さくメモ書き程度に書くのではなく (後で見てわかりにくい)、 計算の過程を誰でも追えるように丁寧な式変形を書き残すようにします。

  3. やった計算を確認する

    上にも書きましたが、時間があれば (大事な計算なら時間を使って) 1 行 1 行やった計算を確認します。 上から順に同じように考えると同じところで間違える可能性がありますから、 気分を変えて計算を見直す必要があります。 そのためには、多少時間を置いてから見直したり、 右から左へ見てみたり、 下から上へ逆順にたどってみたり (例えば積分計算なら逆に微分の計算で上に戻ってみるとか)、 といったことも時には行います。

  4. 別な方法で計算し直す/確認してみる

    上にも書きましたが、同じ計算をたどると、 同じ間違いをする可能性があります。 特に、計算方法を誤って理解している場合には、 同じ方法でその間違いを見つけることはできません。 その場合、別の方法で計算をすることで、チェックするのが有効です。

    数学の問題には、解法が複数ある場合も多いです。 そういう複数の方法を知っていることで、 計算間違いや勘違いを自分で訂正することが可能になります。

  5. 計算結果の意味を考えてみて妥当かどうか考える

    答案の採点をしていると、 小さな計算ミスによって、 結果がとてもありえないものになっているものを見ることがあります (例えば sin x の値が 1 を越えているとか、 log の真数やルートの中味が負になっているとか)。

    計算を局所的に進めていくと、 小さいミスにより最終的には大きな間違いになることはありがちです。 よって、最終的な結果の意味を検討することができるような問題ならば、 概算でもいいですからそのような検討をすることは重要です。 逆に、それを行わずにありえないような解答を提出すると、 単なる計算ミス以上にセンスの悪い計算であると評価されかねません。

    結果にパラメータ (文字) が含まれる場合には、 具体的な数値をパラメータに代入して確認してみたり、 あるいは極端な数値をパラメータに代入して妥当性を検証する、 なんてこともよくあります。

論文などの計算の場合は、 可能ならばコンピュータで計算もしてみて検算する、 ということもあります。 え、そっちが先じゃないの、って思われるかもしれませんが、 数学屋はまずは手でやる人の方が多いんじゃないでしょうか。
(03/19 2008: shige)


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Q 6.48. 円の面積を置換積分で計算するのは循環論法になるのでは

A 6.48.

三角関数の微分の話には、 実はよくこの「循環論法」が問題になる場合があるようです。

この「円の面積を置換積分」する場合の循環論法とは、 以下のような問題のことです。

  1. sin x, cos x の導関数の計算には、 sin x/x の x→0 のときの極限の値 (1) が使用されるが、 この極限を求めるときは、扇形の面積と三角形の面積の比較と はさみうちの原理を使って求めている
  2. 曲線で囲まれた部分の面積は積分で定義される (高校では「定義」ではなく「性質」と教えるかも) から、 半径 r の円の面積は (r2-x2)1/2 を -r から r まで積分したものの 2 倍となる
  3. この積分の計算には、x=r cos t のような置換積分が使われるが、 ここで三角関数の導関数が必要となる

つまり、1. には 2. が必要、2. には 3. が必要、3. には 1. が必要、 ということで堂々巡りをしてしまって、 理論が正しいかどうかの保証がない (証明になっていない)、 ということになってしまう、という問題です。

もちろんこれを避けるような理論の構成法もあって、 例えば以下のような方法があるようです。

個人的には、円の面積が πr2(=(直径)×(円周)/4) であることは 実際には小中学校で教わることなので、 積分での計算は「証明」というよりは 「計算例」の一つだと考えればいいのでは、 と思います。

循環論法を嫌う人は、 sin x/x の極限をロピタルの定理を使って計算することも嫌うようです (ロピタルの定理を使う場合は sin x の導関数が必要になるが、 それ自体はこの極限から導かれる、という循環論法となる) が、 私はあくまでロピタルの定理の例の一つだと思うだけで、 あまり気にしません。

三角関数や円の面積だけに限りませんが、 色々な数学的な対象物に対する「定義」は同値なものが複数存在することが多く、 本によってそのどれを「定義」とするかは異なることがあります。 そのうちのどれかを定義とすれば、 その他のものはそこから導かれる「性質」となるわけですが、 同値であればどれを定義とするかはどれでも構わないのです。 しかし、個人的な意見ですが、 そういうのはあくまで厳密な理論を人為的に構成するときのみに必要なもので、 定義のどれをとると綺麗な理論が構成できる、といった話は、 それら全体を把握しているしている人にのみ意味があって、 教育的なものとは違うのだろうと思います。 むしろ、それらの同値な定義をすべて性質として含むような数学的な実体として、 「三角関数」や「円の面積」のようなものが存在していて、 我々はそれを色んな立場で観察しているんだ、 そういった実体を理解/教育するには、 わかりやすいところ、自然なところから入っていけばいいんじゃないか、 という風に感じています。
(03/19 2008: shige)


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Q 6.49. 数学の論文では証明の終わりには Q・E・D と書くのですか

A 6.49.

そういえばそういうタイトルのドラマをやっているようですね。 ちなみに「Q・E・D」ではなく、正しくは「Q.E.D.」です。 元は「quod erat demonstrandum」 (これで証明が済んだことになるという言葉のラテン語) という言葉のようで、 その頭文字を取ったものです。'.' は省略していることを意味します。

大昔は学術論文をラテン語で書くという習慣があり、 そのころに使われたもののようです。 しかし現在の数学の外国書や論文では、 もしかしたら分野にもよるのかもしれませんが、 少なくとも私はほとんど目にしません。 使えと言われても、なんとなく気恥ずかしさのようなものを感じますので、 あまり使いたいとは思いませんね。

今は証明の終わりには、そこだけラテン語の略語で書くよりも、 「This completes the proof.」とそのまま英語で書いたり、 あるいは証明の終わりを意味するための記号として四角形 (□、あるいは■) を最後に置いたりすることが多いようです。 手元にある本も大半がこの四角形で、 Q.E.D. と書いているのは手元のものでは以下のもの (有名な大著) 位でした。

なお、Q.E.D. 以外にも、学術用語、論文用語、そして日常語として 色んなラテン語が使われています。 辞典を見ると例えば以下のようなものがあるようです。

一つ位は見たことがありませんか。
(02/19 2009: shige)


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Q 6.50. 内積や外積の「内」「外」って何を意味しているんですか

A 6.50.

少し調べてみたのですが、結論から言うとよくわかりませんでした。

ベクトルの概念や内積、外積などができたのは、 数学の歴史としてはそれほど古い話ではなく、 19 世紀半ば位のことのようです。 その元となるものは、W.R.Hamilton (1805-1865 アイルランド) と H.G.Grassmann (1809-1877 プロシア) によって独立に作られたようです。

Hamilton は、(2 次元に対応する複素数を 3 次元に拡張しようとして) 「四元数 (x=a+bi+cj+dk)」を発明し、その実数部分を「スカラー」、 それ以外の部分を「ベクトル」と呼んだそうで、 ベクトルという言葉を最初に使ったのも Hamilton のようです。 この四元数の「ベクトル」部分同士の積を行うと、 その実数部分とベクトル部分に、今日の内積と外積が自然に現れてきます。 なお、ベクトル解析では基本ベクトルを i,j,k と書くことがよく行われますが、 これも Hamilton の四元数の名残りではないかと思います。

一方で、内積 (inner product)、外積 (exterior product) という言葉を使ったのは、 むしろ Grassmann の方 (よって原著では多分ドイツ語) で、 彼は以下のような記号を使っていたようです (ただし外積の方は、現在の外積とは少し意味が違うよう)。

もしかすると「内」「外」は、これらの積の書き方から来ているのかもしれません (単なる個人的な想像ですので、信用しないでください)。

ただ、実際には Hamilton の四元数論も Grassmann の理論も、 難解だったために当時はあまり理解されず、 そのエッセンスを取りだして今日のベクトル (ベクトル解析) を作りあげたのは J.W.Gibbs (1839-1903 米)、O.Heaviside (1850-1925 英) らのようで、 電磁気学の基礎方程式として有名な Maxwell の方程式も、 当初は J.C.Maxwell (1831-1879 英) が Hamilton の四元数論を用いて表した とても複雑な式を、Heaviside が今日の形に直しているようです。 現在の内積、外積の記法 (ABA×B) は Gibbs によって導入されたようです。

なお、内積は「スカラー積」「ドット積」、 外積は「ベクトル積」「クロス積」とも呼ばれます。 それぞれ前者は値を指していて、後者は記法を指しているのでしょうが、 「クロス」は成分による計算方法にも通じているのかもしれません。

参考文献:
(04/18 2009: shige)

追加情報ですが、以下の本にそれに関する情報が載っていました。

Grassmann は、最初は内積は線形積 (linear product)、 外積は幾何積 (geometrical product) と呼んでいたそうですが、 上記の本を見ると (p70)、 「2 つのベクトルが近づくとき、 つまり一方から他方への射影があるときに 0 でない値を持つから『内』積」 とする、と言っているようです。 他方のベクトルの射影成分を内部に持つから、ということでしょうか。

その考え方からすると、外積は、 「平行でないとき、つまり一方が他方に完全に含まれないときに 0 でない値を持つから『外』積」という理屈になりそうな気がします (実際にそう書かれているわけではありません)。

工学向けの本には、外積は 2 つのベクトルとは垂直なものになり、 その平面の外にできるベクトルだから『外』積、 という書き方をしているものもあるようですが、 Grassmann の外積は現在の我々の知る外積とは実際には少し違うものらしく、 少なくとも「垂直なベクトル」というものではなかったようなので、 「0 でない値を持つから外積」というのが正しいかもしれません。
(09/15 2011: shige)


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Q 6.51. 個人的に数学の質問があるのですが

A 6.51.

これについては、現在は以下のように考えています。

なお、受けつけるか受けつけないかという判断は、 こちらで独断で行わせてもらいたいと思いますし、 受けつける場合でも返事などは時間がかかる場合がありますので、ご了承ください。
(05/07 2009: shige)


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Q 6.52. 定理の証明は勉強しなくていいのですか

A 6.52.

私は工学部の講義では、 定理の内容だけを紹介してその証明は紹介しない場合がありますし、 逆に証明も含めて紹介する場合もあります。 私 (shige) はだいたい以下のような基準で考えています。

  1. その定理、あるいは本論とその定理の証明がかけ離れている場合

    例えば、代数の分野の定理なのに、 その証明には解析学の手法を用いる場合 (例: 代数学の基本定理) とか、 講義の本論としてはその定理を使って次の話に進みたいのに、 その定理の証明をするのに別の定理をいくつか紹介しないといけない場合 (例: ロピタルの定理、テイラー展開) では、 証明を紹介することにより定理の意味する内容や、 講義の本筋を見失いかねません。 そのような場合は証明を省略しています。

  2. 証明が極めて難しい場合

    例えば極限の基本定理の証明法であるε-δ法などがこれに該当しますが、 これもむしろ定理を使うことの方が大事 (特に工学では) であるとして、 証明を省略しています。

  3. 証明により定理の理解が深まる場合

    証明を知ることが定理を理解することにつながりやすい場合 (例: 無限級数が収束すれば各項は 0 へ収束すること) や、 勘違いしやすい定理の間違いを防げる可能性がある場合 (例: 積や商の微分法則) は、 時間が許す限り積極的に定理を紹介しようと思っています。

  4. 証明に重要な内容が含まれる場合

    例えば、証明に高校で習う重要な公式や内容 (例: 無限等比級数の収束性) が含まれる場合がありますが、 これも復習のためも考えてなるべく証明を紹介しています。

ただし、その定理がなぜ成り立つかを純粋に知りたい、 という知的好奇心を満たしたい場合は、 上とは無関係に証明を勉強すればいいだろうと思います。

ちなみに、理学部数学科では、そのように「なぜ」を追求し、 定理を積み上げていくことで数学の理論を構築していくことが目標なので、 どのように定理を証明するかということがとても大事ですから、 理学部数学科では、計算問題よりもむしろ証明をちゃんと勉強します (すべきでしょう)。

しかし、工学部では一般に、数学は工学で使うための道具なので、 数学の定理の証明を知ることよりも、 その定理を使えることの方が大事だと思います。 よって、工学部では証明の勉強は、それほど重要ではないと思います。 「Q 6.1. 工学部の数学と理学部数学科の数学はどう違いますか」 も参照してください。
(05/06 2010: shige)


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Q 6.53. 1 は素数ではないのですか

A 6.53.

難しい質問です。 数論 (整数論) が専門の方なら色々な事例から説明ができるかと思いますが、 私はそうではないので、とりあえず 1 つだけ書いておきます。

素数の定義や、素数を最初に感じる場面といえば、 多分「素因数分解」ではないかと思います。 素因数分解は、整数を素数の累乗の積の形に書くことですが、 逆に、化学でいう元素のように、 整数を構成する最小要素として「素数」がある、という風に言うこともできます (もちろん、素数の意義はこれだけではないだろうと思います)。

この素因数分解で使用される「素数」の中に 1 は不要ですし、 また、あっても意味がないことは容易にわかると思います。
(03/10 2015: shige)


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Q 6.54. 数列の漸化式はなぜ特性方程式で解けるのですか

A 6.54.

正確に言うと、これは「定数係数の線形漸化式で定義される数列の一般項は、 なぜ特性方程式を解くことで求まるのか」という話だと思います。 定数係数の線形漸化式の問題は、 大学などで講義されることはほとんどありませんが、 高校の数学では良く出る問題で、 そこには確かに「特性方程式」と呼ばれる手法が良く用いられています。

定数係数の線形漸化式は、 実は数列ベクトルの定数行列による一次変換の形式に書き直すことができ、 よって、その一般項を求めることは、 定数行列の n 乗 (の成分) を求めることに帰着されます。 定数行列の n 乗を求めるには、 固有値を求めて対角化する、という方法が標準的ですが、 実はこの行列の固有値を求める「固有方程式」が、 元の数列の「特性方程式」そのものです。

よって、その固有方程式を解いて固有値を求めることで、 行列の n 乗が計算でき、 それによって元の数列の一般項がわかる、という仕組みになっています。 ただし、これは「これが理由」というよりは、 「こういう見方もできる」という程度の話だと考えてください。

詳しい話は、以下にも書いてありますが、線形代数学の知識が必要です。


(03/10 2015: shige)

もう少し平易な (おおざっぱな) 説明を追加します。 「定数係数の線形漸化式」とは、例えば

an+2 - 5 an+1 + 6 an = 0 (n≧1), a1 = 0, a2 = 6
のようなものを指しますが、この漸化式の特性方程式とは、
t2 - 5t + 6 = 0
の 2 次方程式を指します。 この漸化式と、この 2 次方程式の関係は、実は「等比数列」です。

この線形漸化式の解として、 an=bn のようなものがあるかを考えてみます。 これを元の漸化式に代入すると、

bn+2 - 5 bn+1 + 6 bn = 0
なので、b が 0 でないとすれば
b2 - 5 b + 6 = 0
となり、b は丁度特性方程式の解であることがわかります。

逆に、t = b が特性方程式の解であれば、 今の話を逆にたどることで、an=bn が 確かにその漸化式を満たすこともわかります。

今の場合、特性方程式の解は t = 2, 3 の 2 つなので、 an=2n, an=3n が漸化式を満たします。さらに、漸化式は線形なので、

an= 2nA + 3nB (A, B は定数)
も漸化式を満たします。あとは、初期値 「a1 = 0, a2 = 6」を満たすように A, B を求めれば (A = -3, B = 2)、これで元の問題の解が
an= 2・3n - 3・2n
と求まります。

この方法 (発見的方法) は、 とりあえず解を求めるにはてっとり早いのですが、 高校などで教わる方法とは違うでしょう。 それは、この方法で見つけた解は、確かに元の式は満たすのですが、

という欠点があるからです。 実際、上で紹介した小論文を見てもらうとわかりますが、 この方法の場合は、特性方程式が重解を持つ場合は 単純に上のようには求まりません。

それで、高校などではこのような方法ではなく、 上と同じように特性方程式を出してそれは解くものの、 解に至る道筋は上とは異なる方法、 すなわち「解がそれしかないことを保証し、 どのような場合でも常に解が求められる方法」を使って解くわけです。

その解法は先人によって鍛えあげられた、 高校生にも理解できるし穴のないすばらしい方法なのですが、 残念ながら漸化式と特性方程式の本来の関係が見えにくくなっています。 そのため、このような疑問が出てしまうことになっているのだろうと思います。
(03/10 2017: shige)


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Q 6.55. 基礎数理のクラス分けはどちらがレベルの高いクラスですか

A 6.55.

基礎数理は I, II, III, IV と 4 つあります (2015 年度からは III まで) が、 このうち、1 年生科目の I, II については、 入学時に行う確認テストの結果などによりクラス分けをしています。

実はそのクラスの名前も変遷してきています。

なお、現在は、昔使っていた「A クラス」「B クラス」「C クラス」 という名称は、習熟度別のクラス分けとは別の意味で使っています。
(08/12 2015: shige)


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Q 6.56. 3 階導関数 y''' はグラフではどういう意味を持ちますか

A 6.56.

y=f(x) に対して、y'=f'(x) は (x,f(x)) でのグラフの傾きを意味し、 y''=f''(x) は (x,f(x)) での凸性を意味する、 ということを高校でも学びますので、 じゃあ y''' は、という疑問はある意味自然でしょう。

ただ、通常はそれにグラフの形に対する意味は特に考えない、 その値からグラフの形状に対する性質を読みとるのは難しい、 という認識が正しいだろうと思います。 形状に対する微妙な影響はあるにせよ、 見た目でわかるような直接的な意味合いは薄いだろうと思います。

y'' にしても、実は「正か負か」くらいしか使わず、 例えば「その値が 3 だから」ということを使うことはないですよね。 曲線の「曲がり具合」(曲率) は、y'' と y' で表されるのですが、 直接 y'' になるわけではないので、y'' が 3 ということは、 「曲がり具合が 3」ということを意味するわけでもないです。

しかし無理矢理であれば、多少意味づけられなくもないです。 例えば、「y'''>0」ならば「y' のグラフは下に凸」とか、 上に書いたように曲率は y' と y'' で表されるので、 「曲率の変化」は y', y'', y''' で表される、とか。

少し別な形のものを紹介すると、 f'(x)=0 はそのグラフが x で「定数」のグラフに似ていることを意味していて、 f'(x)>0 は、その定数のグラフを右が上につきでるように切ることを、 f'(x)<0 は、その定数のグラフを右が下につきでるように切ることを意味します。

同様に、f''(x)=0 は x で「1 次式」のグラフに似ていることを意味していて、 f''(x)>0 は、f(x) のグラフがそこで接する 1 次式よりも上にあることを、 f''(x)<0 は、そこで接する 1 次式よりも下にあることを意味します。

こう考えると、f'''(x)=0 は x で「2 次式」のグラフに似ていることを意味し、 f'''(x)>0 は、f(x) のグラフが そこで接する 2 次関数を右が上につきでるように切ることを、 f'''(x)<0 は、そこで接する 2 次関数を右が下につきでるように切ることを 意味する、と見ることができます。 ただし、この場合「そこで接する 2 次関数」の意味づけがあまり簡単ではないです (「2 次のテイラー展開」というものになります)。 4 階導関数も同様に「そこで接する 3 次関数」との比較という意味は一応持ちます。

ほかにも、3 階、4 階の導関数は極の判別に使うことがあります。 f'(a)=0 で f''(a)>0 ならば、f(x) は a で極小、 f'(a)=0 で f''(a)<0 ならば、f(x) は a で極大、となりますが、 f'(a)=0 で f''(a)=0 ならば、それだけでは判別できません (極なのか、そうでないのかもわからない)。 そういう場合に 3 階以上の導関数が利用できます。 f'(a)=f''(a)=0 で f'''(a) が 0 でなければ f(x) は a では「極でない」 ことが言えます。 さらに、f'(a)=f''(a)=f'''(a)=0 であれば、f''''(a)>0 ならば極小、 f''''(a)<0 ならば極大、といったことが言えます。 これも、大学等で「テイラー展開」を学ぶとわかります。

なお、3 階、4 階といった高階の導関数は、 「グラフの意味」としては薄いのですが、 例えばテイラー展開とか、ロピタルの定理、連立微分方程式など、 別な目的では色々な場面で用いられています。
(11/29 2015: shige)


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Q 6.57. P の下に横線を書いたり C の上に ' をつけたりしている理由は

A 6.57.

基本的に、小文字と区別するためです。

アルファベットには、c と C、k と K、p と P、s と S、u と U、v と V、w と W、 x と X、y と Y、z と Z のように小文字と大文字がほぼ同形のものがあります。 手書きではそれらの区別がつきにくいので、 意識して以下のようにしています。

なお、これらのヒゲは「セリフ」と言います。 これら以外にも、以下のようにしています。

しかし例えば、o (小文字のオー) と O (大文字のオー) と 0 (ゼロ) は、 大きさ以外はあまりうまく区別できていないのですが、 数学ではそもそもそれを避けるために、 あまり o (オー) や O (オー) は変数などでは使いませんし、 座標の原点のように、O (オー) でも 0 (ゼロ) でもあまり問題がない場合に使われたりします。

また、小文字の h (H), n (N), r (R), u (U), v (V) は、 筆記体とローマン体の中間みたいな書体で書きますが、 手書きだと見分けがつきにくいことが多い (と学生時代ゼミの最中に私の先生に良く言われました) ので、 なるべく気をつけるようにはしていますが、 もしわかりにくい場合があればその場で指摘してください。
(12/07 2016: shige)


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Q 6.58. 答だけではいけないのですか

A 6.58.

これは、私が講義や演習やなどで、 「数学の答案はに答だけでなく、途中の計算も書け、暗算をなるべくするな」 と言っていることに対する質問 (反論 ?) だと思います。

問題の途中の計算を暗算でやる、または一度書いてそれを消して答だけ書く、 といった形の答案を見ることがかなりありますが、 私はそれは 3 つの損をしていると思います。

  1. 頭の中だけで計算するので間違いやすい

    計算を頭の中でやると、どうしても小さいもの (定数とか符号とか) が落ちがちです。

    また、頭の中だと、直前に計算したものの記憶があいまいになるので、 等式の両辺の比較だとか、式変形とかで間違いがちです。 これらが多くのうっかりミス (ケアレスミス) の主な原因になります。

    紙の上に計算を書けば、直前の計算を目で比較・確認しながら計算できるので、 そういう間違いが自然と減ります。

  2. 計算が書いてないとあとで見直しができない

    一度計算したことを紙の上に書かないと、 その計算は残っていないので、 見直すときもまた一から計算し直さないといけないことになります。

    紙の上に残っていれば、それを目で追いながら確認するだけで済みます。

  3. 採点者の基準を考えていない

    数学の答案を採点するのは、学生の皆さんではなく、通常は教員です。 だから、学生がこれはいらないだろう、と消したものが、 採点者にとっては必要な場合もあるので、 それが必要かどうかを勝手に判断してしまうのはかなり危険です。

    採点者の側から言えば、 我々は答を教えているのではなく、答えにたどりつくための方法を教えていて、 それが身についているかを試験しているのですから、 その方法が身についていることがわかる答案でないと点数があげられません。

    答だけしか書いてないと、適切な方法で解いたのか、 その方法が身についているのかがわからず、 間違った方法・公式で解いたものがたまたま合っているだけ、 という可能性もあるので、本来なら 0 点の場合も十分あります。 逆に、答えが違っていても、途中の考え方、使っている公式が合っていて、 ごく小さいミスをしているだけであれば、大きな部分点をあげることもできます。

    計算がなさすぎる答案で点数を減らすことはあっても、 書きすぎているから点数を減らすということは多分ないでしょう。 点数をあげるためにも、途中は書くべきです。 そもそも、暗算でできるくらいなら、途中もちゃんと書けるはずです。

社会にでれば、計算したものがお金や、製品にはねかえるわけですから、 間違った計算をすることが大きな問題になります。 その計算を信用してもらうためには、 その途中をちゃんと見てもらわなければなりません。 丁寧な計算をする癖をつけておく必要があると思います。
(12/01 2017: shige)


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Q 6.59. なぜ下に凸な関数を凹関数と呼ばずに凸関数と言うのですか

A 6.59.

確かにその通りで、数学では、いわゆる「下に凸」の関数を、 単に凸関数と呼ぶことがあります。 これは、私もやや奇妙な感じがします。

高校の数学では、f''(x)>0 の関数を「下に凸」、 f''(x)<0 の関数を「上に凸」と呼んで、 「凹」という漢字を避けているように見えますが、 f''(x)>0 の関数を「凹」、 f''(x)<0 の関数を「凸」と呼ぶ方が自然だと思います。 以下にも同様の意見が書かれています。

現在は数学の訳語として、英語の convex が凸に対応し、 concave が凹に対応しています。 数学には「凸集合 (convex set)」というものがあり、 円のようにへこみがない集合のことを指します。 この「convex」を「凸」と訳したのは、 内側から外側に向かって「凸」という意味であり、不自然ではありません。

想像ですが、 それによって「convex」に対する「凸」が訳として自然に使われるようになって、 f''(x)>0 となる関数を指す「convex function」という英語も 「凸関数」と訳すようになった、という経緯はありうるかなと思いますが、 これはあくまで私の想像です。

ただ、個人的には本来「下に凸」とか「上に凸」というよりも、 「凹」「凸」と言った方がわかりやすいので、 少なくとも高校教育までは「凹」「凸」と言うようにした方がいいと思いますが、 どうなんでしょうか。
(06/08 2018: shige)


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Q 6.60. 工科大ではどのような数学を学びま「せん」か

A 6.60.

これは、 「Q 6.2. 工科大ではどのような数学を学びますか」 とはある意味で逆の質問ですが、 だから普通に答えれば、そこで説明したもの以外は学ばない、 ということになります。

ただし、それ以外の数学は全く学ばない、というわけでもありません。 本学は開学時から数学自体のカリキュラムは多くなく、 基礎部分のみ開講していて (「基礎数理」)、 その先につながる数学、例えば「フーリエ解析」や「微分方程式」など、 応用に必要な数学については、 各専門分野で学ぶべき、という方針でした。 そのため、それぞれの専門分野で必要な数学を補足しながら進める、 という形になっています。

なお、 「Q 6.2. 工科大ではどのような数学を学びますか」 には上がっていなくて、工学で必要な数学というと、 例えば以下のようなものが思い浮かびます。

これらは、「基礎数理」のカリキュラムからは漏れていますが、 工学の専門科目内で簡単に説明されるものもいくつかはあると思います。
(01/22 2019: shige)


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Q 6.61. 正七角形はないと聞いたのですが本当ですか

A 6.61.

「正七角形はない」わけではありません。 あるのですが、多分コンパスと定規では作図できない、という話でしょう。

正七角形は、正多角形のうちで、コンパスと定規で作図ができない、 最初 (一番少ない角数) の正多角形です。 その次は正九角形が作図できません。 正 n 角形で、コンパスと定規で作図ができるものは、

n = 2m×(1 かまたは互いに異なるフェルマー素数の積)
の形の場合に限られています。ここで、フェルマー素数とは
Fk = 22k + 1
の形の素数を指し、実は現在のところこの形の数で素数のものは
F0 = 3, F1 = 5, F2 = 17, F3 = 257, F4 = 65537
の 5 つしか見つかっていません。 よって、正 n 角形で作図できる n
n = 3 = F0,  n = 4 = 22,  n = 5 = F1,  n = 6 = 2F0,  n = 8 = 23
n = 10 = 2F1,  n = 12 = 22F0,  n = 15 = F0F1,  n = 16 = 24,  n = 17 = F2
n = 20 = 22F1,  n = 24 = 23F0,  ...
のようになっています。 これは、19 世紀最大の数学者ガウスが証明したもので、 彼は 19 才のときに、約 2000年解かれていなかった正 17 角形 (F2) の作図ができることを発見し、 その 5 年後に作図できる n の条件をみつけて出版しています。

なお、これはあくまで「コンパスと定規による作図」という制限のもとでの話で、 しかも特殊な使い方は許されていませんが、 特殊な使い方をすれば正七角形は作図できることも知られていて、 実は「折り紙」でも (厳密な) 正七角形が作れることが知られています。
(03/22 2023: shige)


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作成日: 03/22 2023
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