5.8 リーマン不変量による座標系

5.7 節でも考察した バロトロピックの方程式の場合は、 相空間の座標は本来は $(\rho,m)=(\rho,\rho u)$ であるが 今までは $(\rho ,u)$ で考察してきた。 この 2 本の方程式系の場合には、 他にもリーマン不変量を相空間の座標系として取ると 都合がよいことが知られている。

リーマン不変量は、3.4 節で見たように 各特性方向に $(N-1)$ 個存在するので、 $N=2$ の場合は 1-リーマン不変量が 1 つ、 2-リーマン不変量が 1 つあるだけである。 これらをそれぞれ $w_1=w_1(U)$, $w_2=w_2(U$ とすると、

\begin{displaymath}
\nabla_Uw_1(U)r_1(U)=0,\hspace{1zw}\nabla_Uw_2(U)r_2(U)=0
\end{displaymath}

であるから、補題 4.1 より

\begin{displaymath}
\nabla_U w_1\in \langle r_1\rangle^{\perp}=\langle l_2\rangl...
...
\nabla_U w_2\in \langle r_2\rangle^{\perp}=\langle l_1\rangle
\end{displaymath}

つまり、$\nabla_U w_j$$l_{\hat{j}}$ ($\hat{j}$$j=1$ のとき $\hat{j}=2$, $j=2$ のとき $\hat{j}=1$ であるとする) に平行であることになるので、 $\nabla_U w_1$$\nabla_U w_2$ は一次独立であることがわかる。 よって、$U$$(w_1,w_2)$ は 1 対 1 に対応し、 $U$ の代わりに $(w_1,w_2)$ を相空間の座標系として取ることができる。

例えばバロトロピックのオイラー座標系の場合は、

\begin{displaymath}
w_1=u+C,\hspace{1zw}w_2=u-C,\hspace{1zw}
\left(C=\int_a^\rho\frac{\sqrt{P'(\xi)}}{\xi}d\xi\right)
\end{displaymath}

であり、よって、$u=(w_1+w_2)/2$, $C=(w_1-w_2)/2$ となり、 また $C$$\rho$ は一対一に対応するので、 確かに $(\rho ,u)$$(w_1,w_2)$ は一対一に対応する。

$\nabla_U w_j(U)\mathrel{/\!/}l_{\hat{j}}(U)$ なので、 $U$ が滑らかならば、方程式

\begin{displaymath}
U_t+F(U)_x=U_t+\nabla_UF(U)U_x=0
\end{displaymath}

に左から $\nabla_U w_j(U)$ をかけると、

\begin{displaymath}
\nabla_U w_j(U)U_t+\lambda_{\hat{j}}(U)\nabla_U w_j(U)U_x=0
\end{displaymath}

となり、よって、

\begin{displaymath}
(w_j)_t+\lambda_{\hat{j}}(w_j)_x=0\hspace{1zw}(j=1,2)
\end{displaymath}

となる。これは、方程式を対角化して

\begin{displaymath}
\left[\begin{array}{c}w_1\\ w_2\end{array}\right]_t+
\left[\...
...\right]
\left[\begin{array}{c}w_1\\ w_2\end{array}\right]_x
=0
\end{displaymath}

としたことにもなっている。

さて、相空間を $(w_1,w_2)$ を座標系として見るとすると、 $w_j$$r_j(U)$ の積分曲線上一定なので、 相空間上の膨張波曲線 $R_j(U)$ と接触不連続曲線 $C_j(U)$ は この空間 (平面) 上では $w_j$ 軸に垂直 ($w_{\hat{j}}$ 軸に平行) な半直線、または直線となって 見やすくなる。 しかも、必要なら $w_{\hat{j}}$$(-1)$ 倍しておいて、

\begin{displaymath}
\nabla_U w_{\hat{j}}\cdot r_j>0\end{displaymath} (5.116)

となるようにしておけば、 $R_j(U)$

\begin{displaymath}
U'(\delta)=r_j(U(\delta))
\end{displaymath}

$\delta\geq 0$ の方向に伸びるから、 この $R_j$ に沿って

\begin{displaymath}
\frac{d w_{\hat{j}}}{d \delta}=(\nabla_U w_{\hat{j}}\cdot r_j)(U(\delta)) >0
\end{displaymath}

となるので、結局、$R_j$$w_{\hat{j}}$ 軸に平行で、 $w_{\hat{j}}$ の増える方向に伸びる半直線であることになる。 つまり、(5.8) の条件の元で、
\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
R_1(U_0) &=\{(w_1,w_2);\ w_1=w_1(U_0),\ ...
... &=\{(w_1,w_2);\ w_2=w_2(U_0),\ w_1\geq w_1(U_0)\}
\end{array}\end{displaymath} (5.117)

であることになる (1,2-方向が真性非線形の場合)。

バロトロピックのオイラー座標系の方程式の場合は、

\begin{eqnarray*}\nabla_U w_1\cdot r_2
&=& (C_\rho,1)\left[\begin{array}{c}\rho...
...begin{array}{c}-\rho \\ \sqrt{P'}\end{array}\right]=2\sqrt{P'}>0,\end{eqnarray*}

となって (5.8) を満たしているので、 膨張波曲線 $R_j(U)$ は (5.9) の 半直線で与えられる (図 5.8)。

図 5.8: $(w_1,w_2)$ 平面での膨張波曲線
\includegraphics[height=0.2\textheight]{Rjw1w2.eps}
図 5.9: $\rho \rightarrow +0$$C$ が有限の場合
\includegraphics[height=0.2\textheight]{Rjw1w2-2.eps}

ただし、この場合、積分

\begin{displaymath}
f_6(\rho;a)=\int_a^\rho\frac{\sqrt{P'(\xi)}}{\xi}d \xi
\hspace{1zw}(=C+\mbox{定数})
\end{displaymath}

$\rho \rightarrow +0$, $\rho\rightarrow\infty$ での収束、発散によって、 相空間 $\Omega $ が平面全体になるかどうかは変わってくる。 例えば、$P=A\rho$ のように

\begin{displaymath}
\lim_{\rho\rightarrow +0}f_6(\rho;a)=-\infty,\hspace{1zw}
\lim_{\rho\rightarrow\infty}f_6(\rho;a)=\infty
\end{displaymath}

の場合は $(w_1,w_2)$ 平面全体が $\Omega $ となるが、 $P=A\rho^\gamma$ ($1<\gamma<3$) のように

\begin{displaymath}
\lim_{\rho\rightarrow +0}f_6(\rho;a)>-\infty,\hspace{1zw}
\lim_{\rho\rightarrow\infty}f_6(\rho;a)=\infty
\end{displaymath}

の場合は半平面となり、 この場合は $C=f_6(\rho;+0)$ と定義すれば、 $C=0$、すなわち $\rho=0$$w_1=w_2$ に対応し、 $C>0$$w_1>w_2$ となるので、 $\Omega $$w_1>w_2$ の半平面となる (図 5.9)。 よってこの場合は $R_1(U_0)$ (および $\hat{R}_2(U_0)$) は 半直線ではなく、有限な線分となる。

さらに

\begin{displaymath}
\lim_{\rho\rightarrow +0}f_6(\rho;a)>-\infty,\hspace{1zw}
\lim_{\rho\rightarrow\infty}f_6(\rho;a)<\infty
\end{displaymath}

である場合は、やはり $C=f_6(\rho;+0)$ とすれば、

\begin{displaymath}
0<w_1-w_2<
2\lim_{\rho\rightarrow\infty}f_6(\rho;+0)
\left(=2\int_0^\infty \frac{\sqrt{P'(\rho)}}{\rho}d \rho\right)
\end{displaymath}

の帯状領域内が $\Omega $ となる。 この場合は $R_1(U_0)$$R_2(U_0)$ も ( $\hat{R}_2(U_0)$ も) 線分となる。

次は、バロトロピックのオイラー座標系の場合の、 $(w_1,w_2)$ 平面での衝撃波曲線 $S_j(U_0)$ (および $\hat{S}_2(U_0)$) を考えてみる。

これらは、5.7 節で見たように、

\begin{displaymath}
\begin{array}{lll}
S_1(U_0): & u=u_0-(\rho-\rho_0)f_1(\rho;...
..._0+(\rho-\rho_0)f_1(\rho;\rho_0) & (\rho\geq\rho_0)
\end{array}\end{displaymath}

であるので、 $\hat{S}_2(U_0)$$S_1(U_0)$$u=u_0$ ($(w_1,w_2)$ 平面では $w_1+w_2=2u_0$) に関して対称となる。

$S_1(U_0)$ は、$(w_1,w_2)$ 平面では $\rho$ をパラメータとして

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
w_1=u_0-(\rho-\rho_0)f_1(\rho;\rho_...
...1(\rho;\rho_0)-C\end{array}\right.\hspace{1zw}(\rho\geq\rho_0)
\end{displaymath}

と書ける。今、

\begin{displaymath}
f_1=\sqrt{\frac{f_7}{\rho_0\rho}},\hspace{1zw}
f_7=\frac{P-P_0}{\rho-\rho_0}\hspace{1zw}(P_0=P(\rho_0))
\end{displaymath}

とすれば、簡単な計算により、

\begin{eqnarray*}\frac{d w_1}{d \rho}
&=&
-\left((\rho-\rho_0)f_1\right)'+\fra...
... \left(1+\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho}}\sqrt{\frac{f_7}{P'}}\right)^2\end{eqnarray*}

となるので、

\begin{displaymath}
\frac{d w_1}{d w_2}=\left(\frac{1-B_1}{1+B_1}\right)^2,
\hspace{1zw}B_1 = \sqrt{\frac{\rho_0}{\rho}}\sqrt{\frac{f_7}{P'}}
\end{displaymath}

となる。よって、 $0\leq dw_1/dw_2\leq 1$ がわかる。 また、 $\rho\rightarrow\rho_0+0$ のとき、 $f_7\rightarrow P'_0=P'(\rho_0)$ なので、このとき $dw_1/dw_2\rightarrow 0$ となることもわかる。

同様に、$S_2(U_0)$ の場合は、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
w_1=u_0+(\rho-\rho_0)f_1(\rho;\rho_...
...1(\rho;\rho_0)-C\end{array}\right.\hspace{1zw}(\rho\leq\rho_0)
\end{displaymath}

であるので、

\begin{eqnarray*}\frac{d w_1}{d \rho}
&=&
\frac{1}{2\rho}\sqrt{\frac{\rho_0}{\...
... \left(1-\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho}}\sqrt{\frac{f_7}{P'}}\right)^2\end{eqnarray*}

より、

\begin{displaymath}
\frac{d w_2}{d w_1}=\left(\frac{1-B_1}{1+B_1}\right)^2,\hspa...
...pace{1zw}
\lim_{\rho\rightarrow\rho_0-0} \frac{d w_2}{d w_1}=0
\end{displaymath}

であることがわかる。 これにより、$(w_1,w_2)$ 平面での $R_j$, $S_j$ は 図 5.10 のようになり、 $\hat{R}_2$, $\hat{S}_2$ は 図 5.11 のようになる。

図 5.10: $(w_1,w_2)$ 平面での $R_j$, $S_j$
\includegraphics[height=0.2\textheight]{RSw1w2.eps}
図 5.11: $R_1$, $S_1$$\hat{R}_2$, $\hat{S}_2$
\includegraphics[height=0.2\textheight]{RSw1w2-2.eps}
この $R_1(U_l)$$S_1(U_l)$ をつなげた $T_1(U_l)$ 曲線と、 $\hat{R}_2(U_r)$ $\hat{S}_2(U_r)$ をつなげた $\hat{T}_2(U_r)$ 曲線 の交点が中間状態 $U_m$ になり、 それによりリーマン問題の解が得られることになる。

この場合、そのリーマン問題の解に表われる波は、 $U_l$, $U_r$ の位置関係により変わるが、 図 5.12 のように $U_l$ を中心に $R_j(U_l)$, $S_j(U_l)$ を書いたときにそれらにより分割される 4 つの領域のどこに $U_r$ があるかによって その波の表われ方が決まる。

図 5.12: $U_l$ を中心とする $R_j$, $S_j$ による領域分割
\includegraphics[height=0.2\textheight]{RSw1w2-3.eps}

$U_r$ が図 5.12 の領域 I に入る場合は、 1-膨張波曲線 ($R_1(U_l)$) と 2-膨張波曲線 ($R_2(U_m)$) によって $U_l$$U_r$ がつながるので、$U_l$$U_m$ をつなぐ 1-膨張波、 $U_m$$U_r$ をつなぐ 2-膨張波によって リーマン問題の解が構成される (図 5.13)。 この $U_m$$R_1(U_l)$ $\hat{R}_2(U_r)$ の交点と見ることもできる。

図 5.13: $U_r$ が領域 I に入る場合 (左は $(w_1,w_2)$ 相平面、右は $(t,x)$ 平面)
\includegraphics[height=0.23\textheight]{wztxrr.eps}

$U_r$ が図 5.12 の領域 II に入るときは、 $S_1(U_l)$ $\hat{R}_2(U_r)$ が ($U_m$ で) 交わるので、 $S_1(U_l)$$R_2(U_m)$ により $U_l$$U_r$ がつながる。 よって、$U_l$$U_m$ は 1-衝撃波、 $U_m$$U_r$ は 2-膨張波でつながり、 それがリーマン問題の解となる (図 5.14)。

図 5.14: $U_r$ が領域 II に入る場合
\includegraphics[height=0.22\textheight]{wztxsr.eps}

$U_r$ が図 5.12 の領域 III に入るときは、 $S_1(U_l)$ $\hat{S}_2(U_r)$ が交わるので、 1-衝撃波と 2-膨張波でリーマン問題の解が作られる (図 5.15)。

図 5.15: $U_r$ が領域 III に入る場合
\includegraphics[height=0.25\textheight]{wztxss.eps}

$U_r$ が図 5.12 の領域 IV に入るときは、 $R_1(U_l)$ $\hat{S}_2(U_r)$ が交わるので、 1-衝撃波と 2-膨張波が現われることになる (図 5.16)。

図 5.16: $U_r$ が領域 IV に入る場合
\includegraphics[height=0.23\textheight]{wztxrs.eps}

なお、 $P=A\rho^\gamma$ ($1<\gamma<3$) のように、 $\Omega $ が平面全体でない場合 (図 5.9 参照) は、 図 5.17 のように $R_1(U_l)$ は有限のところで $\Omega $ の境界にぶつかるので、 V の領域に $U_r$ が入る場合、すなわち

\begin{displaymath}
w_1(U_l)=u_l+\int_0^{\rho_l}\frac{\sqrt{P'(\xi)}}{\xi}d\xi
\leq w_2(U_r)=u_r-\int_0^{\rho_r}\frac{\sqrt{P'(\xi)}}{\xi}d\xi
\end{displaymath}

である場合 ( $P=A\rho^\gamma$ の場合は丁度 (5.7) でない場合に対応) は、 $R_1(U_l)$ $\hat{R}_2(U_r)$$\Omega $ ではぶつからないので $\rho>0$ の範囲では解は求まらないことになる。
図 5.17: $\Omega $$(w_1,w_2)$ の半平面である場合
\includegraphics[height=0.23\textheight]{RSw1w2-4.eps}

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01