3.4 リーマン不変量

3.3 節の膨張波曲線を求めるために、 ベクトル場 $r_j(U)$ の積分曲線を求める常微分方程式
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
U'(s)=r_j(U(s)),\\
U(0)=U_0
\end{array}\right.\end{displaymath} (3.29)

を解いてパラメータ $s$ を消去すると、 $w(U)=w(U_0)$ のような形の式が $(N-1)$ 個現れることが知られている。 これらはリーマン不変量と呼ばれていて、 これによりその積分曲線が表現される。 この節ではこれを見てみることにする。

今、$\Omega $ 上のスカラー値関数 $w(U)$ が、

\begin{displaymath}
\nabla_U w(U)r_j(U)\equiv 0\end{displaymath}

を満たすとき、この $w(U)$$j$-リーマン不変量 ($j$-Riemann invariant) と呼ぶ。

(3.6) の解 $V(\xi)$ に対し、

\begin{displaymath}
\frac{d}{d \xi}w(V(\xi))
=(\nabla_U w)(V(\xi))V'(\xi)
=d(\xi)(\nabla_U w)(V(\xi))r_j(V(\xi)
=0
\end{displaymath}

となるので、この積分曲線上 $j$-リーマン不変量は定数となる。 $j$-リーマン不変量は、次の命題 3.1 に見られるように 実質的に $(N-1)$ 個が存在する。


命題 3.1

$r(U)$$\Omega $ 内で滑らかで、かつ 0 ではないベクトルであるとき、 $\Omega $ 内の各点 $U_1$ に対し、その $U_1$ のある 近傍 $\Omega_1$ ( $U_1\in\Omega_1\subset\Omega)$ 上で次が成り立つ。

  1. $\nabla_U w_1(U)$,..., $\nabla_U w_{N-1}(U)$ が一次独立で、

    \begin{displaymath}
\nabla_U w_j(U) r(U)\equiv 0 \hspace{1zw}(\mbox{in $\Omega_1$})
\end{displaymath}

    を満たすような、$(N-1)$ 個のスカラー関数 $w_1(U)$,...,$w_{N-1}(U)$ ($U\in\Omega_1$) が存在する。
  2. $\Omega_1$ 上のスカラー関数 $\tilde{w}(U)$

    \begin{displaymath}
\nabla_U\tilde{w}(U) r(U)\equiv 0 \hspace{1zw}(\mbox{in $\Omega_1$})
\end{displaymath}

    を満たすならば、$\tilde{w}(U)$1. の $w_1(U)$, ...$w_{N-1}(U)$ で表される関数となる:

    \begin{displaymath}
\tilde{w}(U)=F(w_1(U),\ldots,w_{N-1}(U))
\end{displaymath}


この命題の証明は、C.2 節で行う。

なお、この命題では $\Omega $ 全体ではなく、局所的、 すなわち各点 $U_1$ の近傍 $\Omega_1$ 上での リーマン不変量の存在しか示していないが、 個別の保存則方程式の例では考えている領域 $\Omega $ 全体で 統一したリーマン不変量を取ることができることも多いし、 また一般の場合でも、必要なら $\Omega $ を小さく取ることにより、 $\Omega $ 全体でのリーマン不変量が存在するようにすることも可能である。 よって以後は、$\Omega $ 全体で滑らかなリーマン不変量が存在する と仮定して話を進める。

ベクトル場 $r_j(U)$ の積分曲線上 $j$-リーマン不変量は定数であるが、 逆に $j$-リーマン不変量を定数にするものとして $r_j$ の積分曲線が 得られることを示そう。

$(N-1)$ 個の $j$-リーマン不変量 $w_1(U)$, ..., $w_{N-1}(U)$ は、 $\nabla_U w_1(U)$, ..., $\nabla_U w_{N-1}(U)$ が線形独立であるから、

\begin{displaymath}
\{U\in\Omega; \ w_1(U)=w(U_0),\ \ldots,\ w_{N-1}(U)=w_{N-1}(U_0)\}\end{displaymath} (3.30)

という集合は、1 次元の (1 つのパラメータによる) 曲線を与える (ただし一般には曲線群となる)。 よって、それを $U=U(s)$ ($s$ は実数のパラメータ) とすれば、 すべての $j$ に対して $w_j(U(s))=w_j(U_0)$ より、$s$ で微分すれば

\begin{displaymath}
0=\frac{d}{d s}w_j(U(s))=\nabla_U w_j(U(s))U'(s)
\end{displaymath}

となるので、

\begin{displaymath}
U'(s)\in \langle\nabla_U w_1(U(s)),\ldots,\nabla_U w_{N-1}(U(s))\rangle^{\perp}
=\langle r_j(U(s))\rangle
\end{displaymath}

となるので、$U'(s)$$r_j(U(s))$ と平行となり、 $U(s)$$r_j(U)$ の積分曲線上を動くことになる。

しかも、命題 3.11. より (詳しくは C.2 節で示す通り)、 $\nabla_U w_N(U)r_j(U)\neq 0$ となる関数 $w_N(U)$ を追加すれば、 $\nabla_U w_1(U)$,..., $\nabla_U w_{N}(U)$ が線形独立となり、 よって $U$ $(w_1,\ldots,w_N)$ が 1 対 1 となるので、 不変集合 (3.11) は確かに 1 本の曲線であることがわかる。

なお、$j$-膨張波曲線 $R_j(U_0)$ は、 微分方程式 (3.10) の解のうち、 $\lambda_j(U)$ が増加する方向であるが、真性非線形性の仮定により

\begin{displaymath}
\frac{d}{d s}\lambda_j(U(s))
=\nabla_U\lambda_j(U(s))U'(s)
=(\nabla_U\lambda_j\cdot r_j)(U(s))>0
\end{displaymath}

であるから、(3.10) を満たす曲線のうち、 $s\geq 0$ の部分であることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01