方程式 (3.3) は、スケール変換
(: 定数)
に関して不変、
すなわち が (3.3) の解であるとき、
も (3.3) の解であり、
そのスケール変換に関して不変な初期値を与えれば、
そしてもしその初期値問題の解が一意的ならば、
実際に、滑らかな中心波を求めてみることにする。
を 1 変数 の滑らかな関数で、
であるとすると、
この式 (3.5) は 1 本の式、 (3.6) は 本の式で、 合計 本の式があることになるが、 未知関数はベクトル値関数 とスカラー値関数 、 つまり 個の関数となるので、 この 本の式でこれらが決定されることとなる。
(3.6) の式は と が平行であることを表しているが、 ベクトル を 内のベクトル場と見れば、 (3.6) は がそのベクトル場の積分曲線であることを意味している。 よって、(3.6) の式は 内の の軌道 ( にはよらない) を決定し、 その軌道上のパラメータに関する依存性 (移動速度) を決定するのが (3.5) であると見ることができる。
この、 の積分曲線 上での の変化を
考えてみる。
(3.6) より、
で である場合は、 -特性方向は 線形退化 (linearly degenerate) しているといい、 のすべての で である場合は、-特性方向は 真性非線形 (genuinely nonlinear) であるという。 真性非線形の場合は、 必要ならば の代わりに を考えることで、 と仮定することにする。 なお、 をさらに正規化して、 とすることも多い (が、ここでは単に正であるとしておく)。
線形退化と真性非線形をごく特別な場合について説明する。
例えば が対角行列
上に述べたように、-特性方向が線形退化の場合は、この に対して (3.5), (3.6) を 満たす の形の解はないことになるが、 真性非線形の場合はその形の解が作られることがわかる。 その形の解を -膨張波 (j-rarefaction wave) と呼ぶ。
-膨張波解 は、
(定数) という直線上では定ベクトル に等しく、
この直線は、(3.5) より
であるので
、
すなわち -特性曲線になっている。
なお一般に、(3.3) の解 に対して、
平面上の曲線 が -特性曲線 (-charcteristic curve)
であるとは、
つまり、-膨張波は、
-特性曲線がすべて (一点を通るような) 直線になっていて、 その直線上で が一定であるような解であり、 それらの直線群の横断に対して、 は相空間 上でベクトル場 の積分曲線上を動くことが言える。
を一つ指定すると、 を通る に対する 積分曲線が一つ決まる。 その曲線の、 から始まって の増加する方向の 部分 (半曲線) を -膨張波曲線 (-rarefaction wave curve) と呼び、 と書く。
定数ベクトルは (3.3) の解であるから、
単純な -膨張波解は、
に対して次の形の関数である:
この解 (3.8) は、
(3.3) のスケール変換不変な初期値
一般に、 に対して、 (3.9) を初期値とする (3.2) の初期値問題を リーマン問題 (Riemann problem) という。 とは限らない一般の , に対する リーマン問題の解は、膨張波と不連続な解と定数ベクトルによって構成される。
なお、上の膨張波解 (3.8) は、定数ベクトルや 膨張波自身は滑らかな関数 () であるし、 定数ベクトルと膨張波の接続部分 ( , 上) では連続になっているが、 この接続部分では微分可能ではない。この微分可能性のない解や、 不連続な関数を解とみなすには、弱解という概念が必要となる。 これについては、4 章で説明する。
竹野茂治@新潟工科大学