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3.5 収束円周上での値

ベキ級数の収束半径が $r$ であるとき、 $\vert x\vert<r$ では絶対収束し、$\vert x\vert>r$ では発散することは言えるが、 $\vert x\vert=r$ のとき (このような $x$収束円周上 にあるという) はどうなるかについては次のことが知られている。


定理 21

$\displaystyle f(x)=\sum_{n=0}^\infty a_n x^n$ の収束半径が $r$ ($0<r<\infty$) であるとき、$\vert x_0\vert=r$ となる $x_0$ $\displaystyle f(x_0)=\sum_{n=0}^\infty a_n x_0^n$ が収束するならば、 それは収束円内からの極限に一致する。すなわち、


この証明は参考のために書き残しておくが、いわゆる $\varepsilon$-$N$ 論法、 $\limsup$, アーベル変形などを利用する煩雑なものなので、 読みとばしても構わない。

証明

$S$, $S_n$ をそれぞれ $x_0$ での和、部分和

\begin{displaymath}
S=\sum_{n=0}^\infty a_n x_0^n, \hspace{1zw}S_n=\sum_{k=0}^n a_k x_0^k
\end{displaymath}

とする。$\vert x\vert<r$$x$$x_0$ に近づけるということは、 $x$$x_0$ は同符号で、

\begin{displaymath}
0<\frac{x}{x_0}<1,\hspace{1zw}\frac{x}{x_0}\rightarrow 1-0
\end{displaymath}

とすると考えればよい。今、$M>N>0$ に対して、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{n=N+1}^M a_n x^n
=
\sum_{n=N+1}^M a_n x_0^n\le...
...left(\frac{x}{x_0}\right)^M-S_N\left(\frac{x}{x_0}\right)^{N+1}
\end{eqnarray*}

と変形すると4、 この最後の $n$ に関する和の部分は $M\rightarrow\infty$ のときに絶対収束する。 それは、 $S_n\rightarrow S$ より $\{S_n\}$ は有界、すなわち $\vert S_n\vert\leq L$ となる $L<\infty$ がとれて、よって、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{n=N+1}^{M-1}\vert S_n\vert
\left\vert\left(\fra...
...ht)^M\right\}
\leq
L\left(\frac{x}{x_0}\right)^{N+1}
<\infty
\end{eqnarray*}

と、$M$ によらない値でおさえられるので、 定理 4 より絶対収束性が言える。 よって、 $M\rightarrow\infty$ とすると、 $S_M\rightarrow S$, $(x/x_0)^M\rightarrow 0$ より、

\begin{displaymath}
\sum_{n=N+1}^\infty a_n x^n
= \sum_{n=N+1}^\infty S_n
\l...
...0}\right)^{n+1}\right\}
-S_N\left(\frac{x}{x_0}\right)^{N+1}
\end{displaymath}

となる。さらにこの右辺を、以下のように変形する。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{n=N+1}^\infty S_n
\left\{\left(\frac{x}{x_0}\ri...
...\right)^{n+1}\right\}
+(S-S_N)\left(\frac{x}{x_0}\right)^{N+1}
\end{eqnarray*}

これを使って $f(x)-f(x_0)$ を以下のように分割する。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{%
f(x)-f(x_0)=\sum_{n=0}^\infty a_n x^n - \sum_{n=0}^...
...&
\hspace{1zw}\left(\sum_{n=N+1}^\infty a_n x_0^n=S-S_N\right)
\end{eqnarray*}

$S_n\rightarrow S$ より、任意の $\varepsilon>0$ に対してある $N>0$ があって、 $n\geq N$ ならば $\vert S_n-S\vert<\varepsilon$ とできる5。 よって、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\vert f(x)-f(x_0)\vert}
\\ &\leq&
\sum_{n=0}^N \vert...
...vert\left\{1-\left(\frac{x}{x_0}\right)^n\right\}
+\varepsilon
\end{eqnarray*}

となる。 ここで、両辺の $x/x_0\rightarrow 1-0$ のときの $\limsup$ を考えると、 $1-(x/x_0)^n\rightarrow 0$ であり、これは有限和であるから

\begin{displaymath}
\limsup_{x/x_0\rightarrow 1-0}\vert f(x)-f(x_0)\vert\leq \varepsilon
\end{displaymath}

となる。$\varepsilon>0$ は任意なので、この左辺は 0 でなくてはならず、 よってこの $\limsup$$\lim$ に等しくなり、

\begin{displaymath}
\lim_{x/x_0\rightarrow 1-0}\vert f(x)-f(x_0)\vert=0
\end{displaymath}

となる。ゆえに

\begin{displaymath}
\lim_{x/x_0\rightarrow 1-0}f(x)=f(x_0)
\end{displaymath}

が言える。


この定理 21 により、 収束円周上でその級数が収束する場合は内部からの極限に等しいことが言えるが、 しかし逆に収束円周上の収束性が保証されていない場合は、 内部から極限があったとしてもそれに一致するとは限らないことに注意する。

また収束円周上の値は、それが収束するギリギリのところであるから、 一般にその収束はかなり遅いので、あまり実用にはならない。

例えば収束する級数 (4) は、 $\log(1+x)$ のマクローリン展開 (12) の 収束円周上 $x=1$ での値に等しく、よって定理 21 により $\log 2$ であることが言えるが、 $\log 2$ の計算をするならば (15) の式を用いる方が ずっと精度はよい。 (4) を使用する場合は、命題 3 より 2 項ずつまとめたとしても、10 項目はだいたい $1/20^2=2.5\times 10^{-3}$ くらいであるが、(15) の式の場合は、 10 項目はだいたい $(1/20)\times 1/3^20=1.4\times 10^{-11}$ くらいになっている。

また、$\arctan x$ のマクローリン展開 (14) を利用すれば、 これに $x=1$ を代入することで、

\begin{displaymath}
\arctan 1=\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}
+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\ldots
\end{displaymath}

を得るが、 これも 2 項ずつまとめれば一般項は $2/(2n-1)(2n+1)$ になり、 よって命題 6 により収束することが言えるので、 定理 21 よりこの式が正しいことが示される。 この式を使って $\pi$ の近似値を計算することもできなくはないが、 これも収束円周上の値なので収束はよくない。

この節の最後に、(4) が $\log 2$ に等しいことを 積分を使って直接示す方法、および、(5) が $(3/2)\log 2$ に等しいことを示す。そのために、よく知られている以下の公式 (区分求積) を利用する。


命題 22


\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}\frac{1}{n}\sum_{k=1}^n f\left(\fr...
...sum_{k=0}^{n-1} f\left(\frac{k}{n}\right)
=
\int_0^1 f(x)dx
\end{displaymath}


命題 3 より (4) は 2 項ずつまとめてもよいので、

\begin{displaymath}
\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n-1}}{n}
= \lim_{n\rightarrow\infty}\sum_{k=1}^{2n}\frac{(-1)^{k-1}}{k}
\end{displaymath}

であり、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{k=1}^{2n}\frac{(-1)^{n-1}}{n}}
\\ &=&
1-\frac{...
...&=&
\frac{1}{n}\sum_{k=1}^n\frac{1}{\displaystyle 1+\frac{k}{n}}\end{eqnarray*}

となるので、よって命題 22 より

\begin{displaymath}
\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n-1}}{n}
=\lim_{n\rightarrow\...
...}{\displaystyle 1+\frac{k}{n}}
=\int_0^1\frac{dx}{1+x}
=\log 2
\end{displaymath}

となる。

(5) の方は以下のようにすればよい。まず、 2,6,10,...項目に 0 をはさんで

\begin{eqnarray*}\hat{S}
&=&
1+\frac{1}{3}-\frac{1}{2}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}...
...{7}-\frac{1}{4}
+\frac{1}{9}+0+\frac{1}{11}-\frac{1}{6}
+\cdots\end{eqnarray*}

として、これと (4) との引き算を行うと、

\begin{eqnarray*}\hat{S}-\log 2
&=&
0+\frac{1}{2}+0-\frac{1}{4}+0+\frac{1}{6}+...
...+\frac{1}{5}-\frac{1}{6}+\cdots\right)
\\ &=&
\frac{1}{2}\log 2\end{eqnarray*}

となるので $\hat{S}=(3/2)\log 2$ であることが言える。


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竹野茂治@新潟工科大学
2006年9月26日