次へ: 3.5 収束円周上での値
上へ: 3 ベキ級数
前へ: 3.3 ベキ級数の一意性
(PDF ファイル: series1.pdf)
3.4 積、商、合成関数
有限項のベキ級数を計算する際には、
積や商、合成関数などの場合は直接マクローリン展開を計算するのではなく、
個々のマクローリン展開を求めておいて、
そのベキ級数同士の積や商、合成を行う方が楽な場合が多い。
ここではその方法と、その理論的な裏付けについて紹介する。
まず、
,
の場合、
この積は、形式的に展開すれば、
のようになるので、少なくとも形式的な計算では
|
(16) |
のようになる。これは、以下のように正当化される。
命題 17
の収束半径が , の収束半径が であるとき、
( は と の
小さい方を意味する)
とすると、 で (16) の右辺は絶対収束し、
(16) の等式が成り立つ。
証明
では少なくとも
,
は絶対収束するから、
となる。また、 は、
(この最後の右辺を と書くことにする) であるから、
であるが、この右辺は、積
を展開したものの 次までの項に等しく、
この積はさらに高次の項を含んでいる。よって、
が成り立つので、
は上に有界となり、
よって
は絶対収束する。
後は、これが に等しいことを示せばよいが、
は、最初の項は に、
最後の項は
にそれぞれ収束するので、
これが
のときに 0 に収束することを示せば
(16) の等号が成り立つことになる。
一方、この式は上に見たように から 次の項のみからなり、
に等しい。そして、これは明らかに
を満たす。
上に見たように、
であるから、結局
となる。
なお、この定理は、 が (16) の右辺の収束半径に等しい、
ということは意味しておらず、(16) の右辺の収束半径は
少なくとも 以上であることを言うのみである。
例は後でまとめて紹介することにして、次はベキ級数の合成を考える。
に、
を代入してできる
ベキ級数を求める。
この場合、もちろん が の収束半径内に
入っていないといけないのであるが、
普通は の場合、すなわち の場合を考える。
こうであれば、 が十分小さければ の値も十分小さくなるので
自然に の収束半径内におさまる。
逆に でない場合は、
の方を の代わりに を中心に展開して、
のようにして、ここに を代入するのが自然であり、
これは の場合と本質的に同じことになる。
もちろん、 の場合でも の値さえ の収束半径内に
入っていれば代入は可能なのであるが、
それには応用上も問題がある。
それは、 の収束が一番速い、
つまり有限項の近似が最もよいのは展開の中心である の付近であり、
の場合も同じく の近くが最も精度がよい。
よって、合成して得られる のベキ級数は、 、
そうでなければ を を中心に展開しておく、
とすることで最も精度がよくなる。
よってここでは、、すなわち
として話を進めることにする。
を のベキ級数に代入すると、
となるが、
は のベキ級数の積であるから、
積の展開 (命題 17) を繰り返し行って
|
(17) |
のように書くことができる ( は最低次が 1 次なので、
は 次以上の項からなる)。
よって、形式的に計算すれば、
となるので、これにより合成によるベキ級数が得られる。
これが行える保証としての証明をちゃんと書くのは面倒なので省略するが、
結論は以下のようになる。
命題 18
の収束半径が , の収束半径が であるとし、
さらに、 (
) のときに
|
(18) |
を満たすとすると、この のときに上の
は絶対収束し、
に等しい。
であるから、
この条件 (18) は よりも少し強い条件になっている。
実は、この命題の証明には、
2 重級数 (級数の級数) の順序交換を用いるのであるが、
そのときの絶対収束性の条件として、 では少し足りず、
(18) のような十分条件が必要になる。
なお、今 なので、
の 次以下の項は
に全部含まれている ( の最低次の項が 次)。よって、
のように、 を増やしても 次以下の項は変化せず、
となる。
商
の場合は、合成を利用すれば収束級数が得られる。
まず、分母が 0 にならないように であるとする。
このとき、
であるから、
への合成であると考えれば、命題 17 により
すなわち
|
(19) |
であるときに、
を利用して展開されることになる。
これに をかければ、 のベキ級数が得られる。
よって、この場合は (19) を満たすように
の範囲をせばめることが条件となる。
しかし、実際に商のベキ級数を計算する場合はこの方法は少し煩雑で、
以下のような方法を取ることの方が簡単である場合が多い。
とおいて、両辺に をかけると
となるが、ベキ級数の一意性 (定理 14) より
すべての に対し 、すなわち、
となり、これを に関する連立方程式と見て求めていく、
という方法である。
以下に、いくつか積、合成、商の例を紹介する。
例 19
の での展開 (4 次の項まで計算してみる)
これは、
に、
を代入すればよい。
代入自体は、
となる範囲で代入してよいが、
その後それを展開して絶対収束する、という保証を得るためには
命題 18 より、
である必要がある。よって、
より、
であれば少なくともその展開は絶対収束することが保証される。
そして、
のように展開できる。ここで、 は、
次以上の項の和を表すものとする。
この 4 次位までの項をこの関数を直接マクローリン展開することで
求めようとすると、
かなり大変な微分の計算をしなければいけない。
例 20
の での展開 (5 次の項まで計算)
これは、
であり、分母の 2 次以降の項、すなわち は
(すなわち ) である必要があるが、
展開した級数の絶対収束性の保証のためには命題 18 より、
である必要がある。よって、
より
であれば少なくともその展開は絶対収束することが保証される。
最初の方法によれば、
よって、
が得られる。
一方、第 2 の方法では次のようになる。
まず は奇関数なので、命題 16 より
偶数次の項は含まれないから、
とおく。このとき、
なので、
となり、よって
が得られる。
計算は明らかに後者の方が楽であろう。
次へ: 3.5 収束円周上での値
上へ: 3 ベキ級数
前へ: 3.3 ベキ級数の一意性
竹野茂治@新潟工科大学
2006年9月26日