今回は工学者にとって入門的な内容として、 必要と思われるところのみをおおまかにまとめてみたが、 理論の展開が主で、例がやや少なってしまったように感じる。 例については、参考文献として上げたものや 解析学の演習書などを参照してもらいたい。
本来ベキ級数論というと、複素関数論における正則関数のテイラー展開や ローラン展開まで話をしないと完結しないように思うが、 ここでは複素関数論に触れることは避けて実数の話のみに留めた。 関数と収束半径の関係等について詳しく知りたい人は 複素関数論を勉強するとよいだろう。
また、工学への応用という立場でいえば、 総和法や区間近似、漸近級数などの話もするべきであったかもしれないが、 入門ということでこれらについても触れなかった。
この冊子により、無限級数やベキ級数の扱いが多少でも 手軽に行えるようになって頂ければ幸いである。
最後に、参考文献を少し紹介しておく。
[1] は、1 変数の微分積分を説明した本であるが、 極限の厳密な定義である、いわゆる「- 論法」 (数列の場合は - 論法)、 およびその使い方を丁寧に説明することを主眼としていて、 、微分や積分の計算法のための本ではない。 - 論法は本稿でも証明中に何回か使用したが、 それが気になる人、あるいは極限の厳密な定義を知りたい人は 参考にするとよい。
[2] は、ベキ級数を含む級数論の専門書で、 これも具体的な計算ではなく、級数の理論を説明した本である。 級数論の専門書は多くはないので、古い本であるが その点では貴重なものであると思う。 今回も、積、商、合成関数の話 (3.4)、 収束円周上の値の話 (3.5 節) に関しては これを大いに参考にさせてもらった。
[3] は、大学生向けの詳しい解析の本で、 第 V 章に級数の話がのっている。 分厚い本で多くの事柄について書かれているので、 解析学で不明なことがあったら、この本やその第 II 巻、 および演習書である「解析演習」(杉浦光夫 他著) にあたると 見つかることが多い。 級数の例についても、これらを参考にするとよい。
[4] は、解析学に関する 12 冊 (原著 5 巻) からなる シリーズの第 2 巻で、級数やその応用などがとりあげられている。 思えば、無限級数論の魅力を感じたのはこの本が初めだったかもしれない。 旧ソビエト時代の本なので、書き方に独特の癖もあるが、 工学系の大学生くらいだと、内容、難易度からしてもこの 2 巻が シリーズの中でも最も読みやすくておもしろいのではないかと思う。