5 3 次方程式の利用

本節で、3 乗根と平方根の 2 重根号 (1) を、 3 次方程式を利用して外す方法を紹介する。 基本的には、(7) のように
\begin{displaymath}
a+b\sqrt{c} = \gamma(\alpha+\beta\sqrt{c})^3
\hspace{1zw}(\alpha,\beta,\gamma\in\mathbb{Q})\end{displaymath} (22)

となる $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ を見つけることが目標となるが、 (22) がもし成り立てば、 $\sqrt{c}\not\in\mathbb{Q}$ であることから、
\begin{displaymath}
a-b\sqrt{c} = \gamma(\alpha-\beta\sqrt{c})^3 \end{displaymath} (23)

となることもわかる (補題 9)。 $\gamma$ は、 $\sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}$ $\sqrt[3]{a-b\sqrt{c}}$ の積を 考えると、(22), (23) より
\begin{displaymath}
\sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}\,\sqrt[3]{a-b\sqrt{c}}
= \sqrt[3]{a^2-b^2c}
= \sqrt[3]{\gamma^2}\,(\alpha^2-\beta^2 c)
\end{displaymath}

となるので、この積に現れる 3 乗根を消すようにその値を決めればよい。 このとき、(22), (23) より
\begin{displaymath}
\sqrt[3]{\frac{a+b\sqrt{c}}{\gamma}} + \sqrt[3]{\frac{a-b\sq...
...amma}}
= \alpha+\beta\sqrt{c} + \alpha-\beta\sqrt{c}
= 2\alpha
\end{displaymath}

となるが、この左辺が 3 次方程式の解の形をしているので、 これを解に持つ 3 次方程式を作り、 その解を 3 次式の因数分解で求め、そこから $\alpha$ を定め、 それを手掛かりに $\beta$ を求める、 という方向で 2 重根号を外すことができる。

その手順を具体的な例で 2, 3 示す。 まずは、

\begin{displaymath}
x_1 = \sqrt[3]{3+\,\frac{11}{9}\sqrt{6}}
\end{displaymath}

を考える。これに対して、
\begin{displaymath}
x_2 = \sqrt[3]{3-\,\frac{11}{9}\sqrt{6}}
\end{displaymath}

とすると、
\begin{displaymath}
x_1x_2
= \sqrt[3]{\left(3+\,\frac{11}{9}\sqrt{6}\right)
\l...
...rac{11^2\times 6}{3^4}}
= \sqrt[3]{\frac{1}{27}}
= \frac{1}{3}
\end{displaymath}

となって 3 乗根が残らないので、この場合は $\gamma$ は 必要ない ($\gamma=1$)。 また、
\begin{displaymath}
x_1^3+x_2^3 = 3 + 3 = 6
\end{displaymath}

なので、$z=x_1+x_2$ とすると、
\begin{displaymath}
z^3
= x_1^3+x_2^3+3x_1x_2(x_1+x_2)
= 6 + 3\times\frac{1}{3}\times z
\end{displaymath}

となり、$z$ は 3 次方程式
\begin{displaymath}
z^3 - z - 6 = 0\end{displaymath} (24)

を満たすことがわかる。 この式の左辺に $z=2$ を代入すると 0 になるので、 (24) の左辺は
\begin{displaymath}
z^3 - z - 6 = (z-2)(z^2+2z+3)\end{displaymath} (25)

と因数分解され、よって (24) の解は $z=2, -1\pm\sqrt{2}\,i$ となり、 実数である $z=x_1+x_2$ は 2 に等しいことがわかる。 $\gamma=1$ だったので、
\begin{displaymath}
x_1+x_2
= \alpha+\beta\sqrt{6}+\alpha-\beta\sqrt{6}
= 2\alpha = 2
\end{displaymath}

より $\alpha=1$ となる。よって、
\begin{displaymath}
x_1^3
= 3 + \frac{11}{9}\sqrt{6}
= (1 + \beta\sqrt{6})^3
= 1+ 3\beta\sqrt{6} + 18\beta^2+6\beta^3\sqrt{6}
\end{displaymath}

と展開すると、
\begin{displaymath}
1+18\beta^2 = 3,\hspace{1zw}3\beta(1+2\beta^2)=\frac{11}{9}
\end{displaymath}

となり、前者より
\begin{displaymath}
\beta=\sqrt{\frac{3-1}{18}} = \frac{1}{3}
\end{displaymath}

と求まるが、これは後者も確かに満たしている。 これで、
\begin{displaymath}
x_1 = \sqrt[3]{3+\,\frac{11}{9}\sqrt{6}} = 1+\,\frac{\sqrt{6}}{3}
\end{displaymath}

と 2 重根号が外せることになる。ついでに、$x_2$
\begin{displaymath}
x_2 = \sqrt[3]{3-\,\frac{11}{9}\sqrt{6}} = 1-\,\frac{\sqrt{6}}{3}
\end{displaymath}

となることがわかる。

例えば、 $\sqrt[3]{2+\sqrt{5}}$ なども同様にして 2 重根号を外すことができる。

次は、$\gamma$ が必要な場合として、今の $x_1$ の分母を払った、

\begin{displaymath}
x_3 = \sqrt[3]{27+11\sqrt{6}}\end{displaymath} (26)

を考える。この場合、
\begin{displaymath}
x_4 = \sqrt[3]{27-11\sqrt{6}}
\end{displaymath}

とすると、
\begin{displaymath}
x_3x_4
= \sqrt[3]{3^6-11^2\times 6}
= \sqrt[3]{729-726}
= \sqrt[3]{3}
\end{displaymath}

と 3 乗根が残るが、これを消すように $\gamma$ を設定する。 この場合は
\begin{displaymath}
x_5 = \sqrt[3]{3}\,x_3 = \sqrt[3]{81+33\sqrt{6}},
\hspace{1zw}
x_6 = \sqrt[3]{3}\,x_4 = \sqrt[3]{81-33\sqrt{6}}
\end{displaymath}

あるいは、
\begin{displaymath}
x_5' = \frac{x_3}{\sqrt[3]{3^2}} = \sqrt[3]{3+\frac{11}{9}\s...
...]{3^2}}= \sqrt[3]{3-\frac{11}{9}\sqrt{6}}
\hspace{0.5zw}(=x_2)
\end{displaymath}

$x_3$, $x_4$ の代わりに考えればよい。こうすれば、
\begin{displaymath}
x_5x_6 = \sqrt[3]{9}\,x_3x_4 = \sqrt[3]{27} = 3
\hspace{1zw}...
...^4}}
= \frac{\sqrt[3]{3}}{\sqrt[3]{81}} = \frac{1}{3}\right)
\end{displaymath}

となって 3 乗根が消えるからである。$x_5'$, $x_6'$ の方は この先の計算は $x_1$, $x_2$ と同じなので、 ここでは $x_5$, $x_6$ で計算してみる。

$x_5^3+x_6^3=81+81 = 162$ なので、$z=x_5+x_6$ とすると

\begin{displaymath}
z^3
= x_5^3+x_6^3+3x_5x_6(x_5+x_6)
= 162+9z
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
z^3-9z-162=0\end{displaymath} (27)

を得る。なお、これは
\begin{displaymath}
z^3 -1\times 3^2z-6\times 3^3=0
\end{displaymath}

の形をしているので、$z=3t$ として両辺を $3^3$ で割ると
\begin{displaymath}
t^3-t-6 = 0\end{displaymath} (28)

と直すことができる。 (27) が有理数の範囲で因数分解できることと、 (28) が有理数の範囲で因数分解できることは 同等であり、よって因数分解は後者を考えればよい。 (25) により、結局 $t=2$ で、
\begin{displaymath}
z = x_5+x_6 = 3t = 6
\end{displaymath}

であることがわかる。よってこの場合は $\alpha = 3$ であり、
\begin{displaymath}
x_5 = \sqrt[3]{81+33\sqrt{6}} = 3 + \beta\sqrt{6}
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
81+33\sqrt{6}
= (3 + \beta\sqrt{6})^3
= 27 + 54\beta^2 + \beta(27+6\beta^2)\sqrt{6}
\end{displaymath}

から $\beta=1$ が得られる。 これで、 $x_5 = 3+\sqrt{6}$ となり、結局
\begin{displaymath}
x_3 = \frac{x_5}{\sqrt[3]{3}}
= \frac{3+\sqrt{6}}{\sqrt[3]{3}}
\left(=\sqrt[3]{9} + \sqrt[6]{24}\right)\end{displaymath} (29)

の形に (26) の 2 重根号が外せたことになる。

例えば、 $\sqrt[3]{5+3\sqrt{3}}$ なども同様にして 2 重根号を外すことができる。

最後に、2 重根号が外せない例も紹介しておく。

\begin{displaymath}
x_7 = \sqrt[3]{3+\sqrt{5}}
\end{displaymath}

とする。これに対して
\begin{displaymath}
x_8 = \sqrt[3]{3-\sqrt{5}}
\end{displaymath}

とすると、
\begin{displaymath}
x_7x_8 = \sqrt[3]{9-5} = \sqrt[3]{4}
\end{displaymath}

となるので、
\begin{displaymath}
x_9 = \sqrt[3]{4}\,x_7 = \sqrt[3]{12+4\sqrt{5}},
\hspace{1zw}
x_{10} = \sqrt[3]{4}\,x_8 = \sqrt[3]{12-4\sqrt{5}}
\end{displaymath}

(あるいは $x_9'=x_7/\sqrt[3]{2}$, $x_{10}'=x_8/\sqrt[3]{2}$ でもよい) とすると
\begin{displaymath}
x_9x_{10} = \sqrt[3]{16}\,x_7x_8 = 4,
\hspace{1zw}
x_9^3+x_{10}^3 = 24
\end{displaymath}

なので、$z=x_9+x_{10}$ とすると
\begin{displaymath}
z^3 = x_9^3+x_{10}^3 + 3x_9x_{10}(x_9+x_{10}) = 24+12z
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
z^3-12z-24=0\end{displaymath} (30)

となり、$z=2t$ とすして 8 で割れば
\begin{displaymath}
t^3 - 3t-3 = 0\end{displaymath} (31)

が得られる ( $t=x_9'+x_{10}'$ に対応する)。

この (31) の左辺を有理数の範囲で 因数分解するのであるが、 それは整数係数の多項式で因数分解される必要があり (6.1 節、補題 5 参照)、 よって 1 次因数として $t-n$ ( $n=\pm 1, \pm 3$) の形の式を 持たなければならない (6.3 節参照)。 ところが、$n$ として $\pm 1, \pm 3$ の いずれを (31) の左辺に代入しても 0 にはならないので、このような因数はないことがわかる。 よって (31)、 そして (30) は 有理数の範囲では因数分解ができないことになる。

これにより、 $z=x_{9}+x_{10}$ は 3 乗根が外れることはなく (外れれば $z$ は有理数になるはず)、 よって、$x_7$, $x_8$ の 2 重根号も外すことができないことがわかる。

ここまでの方法をまとめると、以下のようになる。

  1. $X=\sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}$ に対して $Y=\sqrt[3]{a-b\sqrt{c}}$ とし、 $XY$ を計算する
  2. $XY$ に 3 乗根 $\sqrt[3]{p}$ が残る場合は、$X$, $Y$ の代わりに $X'=\sqrt[3]{p}X$, $Y'=\sqrt[3]{p}Y$ を考える (それを改めて $X$, $Y$ とする)
  3. $z=X+Y$ として、 $z^3=X^3+Y^3+3XYz$ により $z$ が満たす 有理数係数の 3 次方程式を求める
  4. それが有理数の範囲で因数分解できなければ $X$ の 2 重根号は 外すことができず、因数分解できればその実数解が $2\alpha$ となる
  5. $X = \alpha+\beta\sqrt{c}$ として、 これを 3 乗して係数比較することで $\beta$ を求め、 これで $X$ の 2 重根号が外される
  6. 2. を行った場合は、5. の結果を $\sqrt[3]{p}$ で割ることで $X$ が求まる

竹野茂治@新潟工科大学
2018-03-02