6.2 平方根に関する性質

次は、平方根に関する性質をいくつか説明し、 それにより、例えば $x=\sqrt{2}+\sqrt{3}$ のような値が、 有理数係数の 3 次方程式の解にはなりえないことを示すことを目標とする。

以後、 $p,q\in\mathbb{Q}_{+}$

\begin{displaymath}
\sqrt{p}\not\in\mathbb{Q},
\hspace{0.5zw}\sqrt{q}\not\in\mathbb{Q},
\hspace{0.5zw}\sqrt{pq}\not\in\mathbb{Q}\end{displaymath} (34)

となるものとする。

補題 6.
(34) のとき、 $1,\sqrt{p},\sqrt{q},\sqrt{pq}$$\mathbb{Q}$ 上一次独立、 すなわちこの 4 つのいずれの 1 つも、他の 3 つの有理数倍の和 (一次結合) として表すことはできない。

証明

まず、$\sqrt{q}$ を 1 と $\sqrt{p}$ の一次結合として 表せないことを示す。もし、

\begin{displaymath}
\sqrt{q} = a+b\sqrt{p}\hspace{1zw}(a,b\in\mathbb{Q})
\end{displaymath} (35)

となったとすると、両辺を 2 乗すれば
\begin{displaymath}
q = a^2+2ab\sqrt{p}+b^2p
\end{displaymath}

となるので、 $\sqrt{p}\not\in\mathbb{Q}$ より $ab=0$ でなければならない。 $b=0$ だと (35) より $\sqrt{q}=a$ と なり $\sqrt{q}\not\in\mathbb{Q}$ に反するので、$a=0$ となる。

よって、 $\sqrt{q}=b\sqrt{p}$ となるが、これを $\sqrt{p}$ 倍すれば $\sqrt{pq}=bp\in\mathbb{Q}$ となり、 $\sqrt{pq}\not\in\mathbb{Q}$ に 反する。 よって (35) のように表すことはできない。

この議論の $p$, $q$ を入れかえれば、$\sqrt{p}$ を 1 と $\sqrt{q}$ の 一次結合として表せないこともわかる。 そして、1 を $\sqrt{p}$$\sqrt{q}$ の一次結合として表せないことも わかる。それは、もし

\begin{displaymath}
1 = a\sqrt{p}+b\sqrt{q}\hspace{1zw}(a,b\in\mathbb{Q})
\end{displaymath}

と表せたとすると、$a$, $b$ のいずれかは 0 でないので、 例えば $a\neq 0$ ならば、
\begin{displaymath}
\sqrt{p}=\frac{1}{a}-\frac{b}{a}\sqrt{q}
\end{displaymath}

となり、$\sqrt{p}$ が 1 と $\sqrt{q}$ の一次結合として表せることに なってしまうからである。$b\neq 0$ の場合も同様。

次は、$\sqrt{pq}$ $1,\sqrt{p},\sqrt{q}$ の一次結合として 表せないことを示す。なお、もしこれが成り立てば、 上と同じ議論により、$1$$\sqrt{p}$, $\sqrt{q}$ を他の 3 つの 一次結合で表すことができないことも示される。 今、

\begin{displaymath}
\sqrt{pq} = a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q}\hspace{1zw}(a,b,c\in\mathbb{Q})
\end{displaymath} (36)

となったとする。このとき、
\begin{displaymath}
\sqrt{q}(\sqrt{p}-c) =a+b\sqrt{p}
\end{displaymath}

となるが、 $\sqrt{p}\not\in\mathbb{Q}$ より $\sqrt{p}-c\neq 0$ なので、 これで割れば
\begin{displaymath}
\sqrt{q}
=\frac{a+b\sqrt{p}}{\sqrt{p}-c}
=\frac{(a+b\sqrt{p})(\sqrt{p}+c)}{p-c^2}
\end{displaymath}

と書ける。この最後の式を展開すれば $d+e\sqrt{p}$ ( $d,e\in\mathbb{Q}$) の 形にできるので、$\sqrt{q}$ が 1 と $\sqrt{p}$ の一次結合として 表せることになり前の結論に反する。 よって、(36) の形に表すことはできない。

補題 7.
(34) のとき、 $A,B,C,D,A',B',C',D'\in\mathbb{Q}$ により
\begin{displaymath}
A+B\sqrt{p}+C\sqrt{q}+D\sqrt{pq}
=A'+B'\sqrt{p}+C'\sqrt{q}+D'\sqrt{pq}
\end{displaymath}

となったとすると、$A=A'$, $B=B'$, $C=C'$, $D=D'$ となる。

証明

移項すれば、

\begin{displaymath}
(A-A')+(B-B')\sqrt{p}+(C-C')\sqrt{q}+(D-D')\sqrt{pq}=0
\end{displaymath}

となるが、この係数の 1 つでも 0 でないものがあれば、 それで割り算することでその項が他の 3 項の一次結合で表されることになり、 補題 6 に反する。

補題 8.
(34) のとき、 $1,\sqrt{p},\sqrt{q},\sqrt{pq}$ の有理数係数の一次結合
\begin{displaymath}
a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q}+d\sqrt{pq}\hspace{1zw}(a,b,c,d\in\mathbb{Q})
\end{displaymath} (37)

の形の式同士の四則演算は、いずれもまたこの形で一意的に表される。

証明

和、差、積がまたこの形になることは容易にわかる。商は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{1}{a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q}+d\sqrt{pq}}}
\\ &=&
\...
...p})-\sqrt{q}(c+d\sqrt{p})}%
{(a+b\sqrt{p})^2-q(c+d\sqrt{p})^2}
\end{eqnarray*}


と変形すると、分母の $\sqrt{q}$ を消せるので、 さらに有理化して分母の $\sqrt{p}$ も消せることが容易にわかる。 よって $1/(a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q}+d\sqrt{pq})$ も (37) の形に表すことができるので、 それらの商も (37) の形に表せる。

その表現の一意性については、補題 7 で 保証される。

補題 9.
(34) のとき、
  1. $f(x)\in\mathbb{Q}[x]$, $a,b\in\mathbb{Q}$ に対し、
    \begin{displaymath}
f(a+b\sqrt{p}) = A+B\sqrt{p}\hspace{1zw}(A,B\in\mathbb{Q})
\end{displaymath} (38)

    のとき、
    \begin{displaymath}
f(a-b\sqrt{p}) = A-B\sqrt{p}
\end{displaymath} (39)

    となる。
  2. $f(x)\in\mathbb{Q}[x]$, $a,b,c\in\mathbb{Q}$ に対し、
    \begin{displaymath}
\begin{array}{l}
f(a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q}) = A+B\sqrt{p}+C\...
...D\sqrt{pq}\\
\hspace{1zw}(A,B,C,D\in\mathbb{Q})
\end{array} \end{displaymath} (40)

    のとき、$\theta=\pm 1$, $\phi=\pm 1$ に対して (複合は同順でなくてよい)、
    \begin{displaymath}
f(a+\theta b\sqrt{p}+\phi c\sqrt{q})
= A+\theta B\sqrt{p}+\phi C\sqrt{q}+\theta\phi D\sqrt{pq}
\end{displaymath} (41)

    となる。

証明

1.

多項式の展開の計算で $\sqrt{p}$ が残る ($B$ の方) のは、 $b\sqrt{p}$ の奇数乗と有理数との積で、 $\sqrt{p}$ が残らない ($A$ の方) は、 $b\sqrt{p}$ の偶数乗か $b\sqrt{p}$ が含まれない項と有理数との積。 よって $A$, $B$$b$ の多項式と見れば、 $A$$b$ の偶数次の項からなる多項式で、 $B$$b$ の奇数次の項からなる多項式 (いずれも有理数係数) となり、 $B$ には定数項はなく、すべての項が少なくとも $b$ を 1 つ含む。 よって (38) の $b$ の代わりに $-b$ を 代入すれば (39) が得られる。

2.

1. と同様に考え、$A$, $B$, $C$, $D$$b$, $c$ の 有理数係数の多項式と考えると、 $A$ には $b$ の偶数乗と $c$ の偶数乗しか現れない。 また、$B$ には $b$ の奇数乗と $c$ の偶数乗のみが現れて すべての項が $b$ を少なくとも 1 つ持ち、 $C$ には $b$ の偶数乗と $c$ の奇数乗のみが現れて すべての項が $c$ を少なくとも 1 つ持つ。 また、$D$ には $b$ の奇数乗と $c$ の奇数乗のみが現れて すべての項が $bc$ を因数に持つ。 これらのことから $b$ の代わりに $\theta b$$c$ の代わりに $\phi c$ を代入すれば、 $\theta^2=\phi^2=1$ より (41) が得られる。

補題 10.
(34) のとき、
  1. $f(x)\in\mathbb{Q}[x]$, $a,b\in\mathbb{Q}$
    \begin{displaymath}
f(a+b\sqrt{p})=0
\end{displaymath}

    を満たす、すなわち $x=a+b\sqrt{p}$$f(x)=0$ の解であれば、
    \begin{displaymath}
f(a-b\sqrt{p})=0
\end{displaymath}

    も成り立つ。
  2. $f(x)\in\mathbb{Q}[x]$, $a,b,c\in\mathbb{Q}$
    \begin{displaymath}
f(a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q})=0
\end{displaymath}

    を満たす、すなわち $x=a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q}$$f(x)=0$ の 解であれば、
    \begin{displaymath}
f(a+\theta b\sqrt{p}+\phi c\sqrt{q})=0
\hspace{1zw}(\theta=\pm 1,\phi=\pm 1)
\end{displaymath}

    も成り立つ。

証明

1.

$f(a+b\sqrt{p})=0$ ならば (38) の $A$, $B$ が いずれも 0 となる ( $\sqrt{p}\not\in\mathbb{Q}$) ので、 よって補題 9 の 1. より $f(a-b\sqrt{p})=A-B\sqrt{p}=0$ となる。

2.

$f(a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q})=0$ ならば、 補題 7 より (40) の $A$, $B$, $C$, $D$ が いずれも 0 となるので、よって補題 9 の 2. より

\begin{displaymath}
f(a+\theta b\sqrt{p}+\phi c\sqrt{q})
= A+\theta B\sqrt{p}+\phi C\sqrt{q}+\theta\phi D\sqrt{pq}
= 0
\end{displaymath}

となる。
この補題 10 より、 $f(a+b\sqrt{p})=0$$b\neq 0$ ならば、 $f(x)$ は少なくとも 2 次式の因数
\begin{displaymath}
(x-a-b\sqrt{p})(x-a+b\sqrt{p})
\end{displaymath}

を持つことがわかる。

同様に、 $f(a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q})=0$$b\neq 0$, $c\neq 0$ ならば、 $f(x)$ は少なくとも 4 次式の因数

\begin{displaymath}
\prod_{\theta=\pm 1,\phi=\pm 1}(x-a-\theta b\sqrt{p}-\phi c\sqrt{q})
\end{displaymath}

を持つことがわかる。 そしてこれは、(34) で $b\neq 0$, $c\neq 0$ ならば、 $x=a+b\sqrt{p}+c\sqrt{q}$ は有理数係数の 3 次方程式の解には なりえないことも意味する (最低でも 4 次の方程式でなければならない)。

本節の議論と同様にして、2 重根号が解消できない形の

\begin{displaymath}
x=\sqrt{a+\sqrt{b}}\hspace{1zw}(a,b\in\mathbb{Q},\
\sqrt{a^2-b}\not\in\mathbb{Q})
\end{displaymath}

も、3 次方程式の解にはなり得ず、4 次以上の方程式の解にしか ならないことがわかる。

つまり、3 次方程式の解である

\begin{displaymath}
\sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}+\sqrt[3]{a-b\sqrt{c}}
\end{displaymath}

として、 $s+t\sqrt{p}+u\sqrt{q}$ ( $s,t,u\in\mathbb{Q}$, $t\neq 0$, $q\neq 0$) のような形は想定しなくてよいことになる。

また、5 節では、(1) の 形の 2 重根号を、

\begin{displaymath}
\sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}
= \alpha+\beta\sqrt{c},
\hspace{0.5z...
...+\beta\sqrt{c})
\hspace{1zw}(\alpha,\beta,\gamma\in\mathbb{Q})
\end{displaymath}

の形に表すことを考えたが、以下も容易に示すことができる。

補題 11.
(34) のとき、 $a,b,c\in\mathbb{Q}$, $\sqrt{c}\not\in\mathbb{Q}$ である $a,b,c$ に対して、 (1) の 2 重根号は、
$\displaystyle \sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \alpha+\beta\sqrt{p}+\gamma\sqrt{q}$ (42)
$\displaystyle \sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sqrt[3]{\delta}(\alpha+\beta\sqrt{p}+\gamma\sqrt{q})$ (43)

のいずれかの形に表すことはできない。ただし、 $\alpha,\beta,\gamma\in\mathbb{Q}$ で、$\beta\neq 0$, $\gamma\neq 0$, $\delta\neq 0$ とする。

証明

(43) が成り立つ場合は、 $a/\delta$, $b/\delta$$a$, $b$ と考えれば (42) の形になるので、 もし (42) の形が不可能であれば (43) も不可能となる。 よって (42) の不可能性のみを 示せばよい。

もし (42) が成り立つとすると、 補題 8 により

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
a+b\sqrt{c}=(\alpha+\beta\sqrt{p}+\gamma\...
...sqrt{pq}\\
\hspace{0.5zw}(A,B,C,D\in\mathbb{Q})
\end{array} \end{displaymath} (44)

と書ける。実際これを展開して、$A,B,C,D$ を求めてみると、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{(\alpha+\beta\sqrt{p}+\gamma\sqrt{q})^3}
\\ &=&
\alp...
...2p\gamma\sqrt{q}
+3\beta\sqrt{p}\,\gamma^2q+\gamma^3q\sqrt{q})
\end{eqnarray*}


より、
\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
A = \alpha(\alpha^2+3\beta^2p+3\gamma^2q...
...2+3\beta^2p+\gamma^2q),
& D = 6\alpha\beta\gamma
\end{array} \end{displaymath} (45)

となる。 ここで、$p>0$, $q>0$, $\beta\neq 0$, $\gamma\neq 0$ なので、 少なくとも (45) の $B$, $C$ は 0 になることはなく、 よって (44) の右辺の $\sqrt{p}$, $\sqrt{q}$ は消えることはないが、 補題 6 よりその両方が 同時に $\sqrt{c}$ の有理数倍になることはできない。 よって、(42) の形は起こり得ない。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-03-02