6.1 有理数の範囲での因数分解
まずは、5 節の最後で使用した、
多項式の有理数の範囲での因数分解が整数の範囲での因数分解に帰着される、
という事実を示す。
以後、 を整数係数の多項式全体の集合、
を有理数係数の多項式全体の集合であるとし、
を正の有理数全体の集合とする。
また、整数
に対して、
その 最大公約数 を
と書き、
すべてを割り切る (割った値が整数になる) 自然数のうち
最大のもの、と定める。
のうち、0 でないものが 1 つでもあれば、
は有限な値として 1 つに定まる。
さらに、
が
を満たすとき、
を 原始多項式 と呼ぶ。
- 補題 1.
-
に対して、
で
かつ が原始多項式となる
が存在する。
- 証明
-
を
とする。まず、
が
すべて整数となるような自然数 が存在することに注意する。
例えば の分母の積とでもすればよい。
次に、
とすれば、 は
すべて整数で、それらの最大公約数は 1 になる。
よって とすればよい。
- 補題 2.
-
が原始多項式で、
に対して
で
かつ も原始多項式のとき、 となる。
- 証明
-
の規約表現を
とし、 を
とする。今、 と仮定する。
このとき、すべての が で割り切れる (
) と、
に反するので、
で割り切れない が少なくとも 1 つ存在する。
それを とする。このとき、
は、 より と では約分はできず、
よって
となるが、
これは
に反する。
よって となる。
これで
となるが、
ならば の係数はすべて で割り切れることになり、
が原始多項式であることに反する。
ゆえに 。
- 補題 3.
-
に対して、次は同値。
- は原始多項式。
- 任意の素数 に対し、 で割り切れない が
少なくとも 1 つ存在する。
- 証明
-
[2] による。
1.
2.
すべての に対して
となる
素数 があると、
も で
割り切れるが、これは が原始多項式であることに反する。
よって 1. ならば 2. となる。
2.
1.
とする。
このとき、 の素因数を 1 つとって とすると、
はすべて で割り切れるのでこれは 2. の仮定に反する。
よって 2. ならば となる。
- 補題 4.
-
がともに原始多項式ならば、
積 も原始多項式となる。
- 証明
-
これも [2] による。
補題 3 を利用する。
とすると、
となる。
素数 を任意に取ると、 は原始多項式なので、
補題 3 により
のうち
少なくとも 1 つは で割り切れない。その最初のものを とする (
):
|
(32) |
同様に は原始多項式なので、
のうち
少なくとも 1 つは で割り切れない。その最初のものを とする (
):
|
(33) |
このとき、 の の係数は
であり、 ならば (32) より が で割り切れ、
ならば なので (33) より が で割り切れるから、
は
以外の項はすべて で割り切れる。
一方、 は素数で、(32), (33) より
は を素因数に持たず、
よって で割り切れない。
よって は で割り切れないことになり、
結局 は で割り切れない係数 を持つ
ことがわかる。
は任意だったので、補題 3 より も原始多項式となる。
- 補題 5.
-
が有理数の範囲で因数分解されたとする。
すなわち、
が となったとする。
このとき、 は整数の範囲でも因数分解できる。より詳細には、
となる
が存在する。
- 証明
-
まず の係数の最大公約数を
とすると、
は原始多項式となることに注意する。
補題 1 より、
, が共に整数係数でかつ
原始多項式となるような
が存在する。
このとき、補題 4 より
も原始多項式で、
であり、 も原始多項式なので、
補題 2 より となる。
よって で、
となり、この補題が証明された。
竹野茂治@新潟工科大学
2018-03-02