その場合は、 5 節の (27) で見たように、 A, B を通る微分方程式 (20) の「別な解」が存在する。 すなわち、 では逆さサイクロイドで で 軸に接し、 そしてそこから 軸自体を経路とする解である (図 8)。 なお、7 節の「一意存在」は、 あくまで「直線部分のない通常の逆さサイクロイド」としての一意存在であり、 「A, B を通る微分方程式 (20) の解」 という意味では一意的ではない。
この両者のどちらが速いのか、実際にかかる時間を比較してみることにする。
なお、 の場合は、7 節の逆さサイクロイド でも B では最下点に達せず、これ以外の解は見当たらない。
前者の逆さサイクロイドを とし、 後者を とする ( ):
これを として、これにかかる時間もついでに比較することにする。 は、 なる に対して、
(41)
(42)
(43)
まず、 に対してかかる時間 は、(29) より、
(44)
また、 に対してかかる時間 は、 までにかかる時間は (31) より で、 その点での物体の速さ は (10) より で、 あとはその速さで等速に の距離だけ進むから、
(45)
に対してかかる時間 は、 直線部分では 同様等速に進むので、 その直線部分を取り除いて連結した逆さサイクロイドに対してかかる 時間 と、 その直線部分を進む時間の和になることがわかる。 最下点までの落下高さは なので、最下点での速さ は となり、よって、
(46)
まず、細かい関係を一応確認しておく。 まず、 , は、図からは明らかであるが、 式の上で確認すると、 まず、 は 7 節の (40) で 決まるもので、今の場合は、
一方、 の方は、 を ととり、 を (42) で決めたものであるが、 この場合、
さて、 は、 を使わずに だけで表わせば、
(47)
この は の範囲で動かすことが可能で、 元の の定義より、 この (48) で を ( )、 または ( ) とすると、 が , にそれぞれ一致することが予想される。
実際、 とすると、(48) は
よって、 を の関数と考え、 その単調性などを調べれば、, , の 大小関係がわかることになる。
(48) より、
今、 より、 , であるから、 で、0 になるのは の ときのみなので は単調減少であり、 よって に対して
(49)
次に、, で同時に物体をすべらせると、 の場合に最下点に達する時刻
(50)
0 | |||||
0 | 0 | 0 | |||
0 | 0 |
では、 の時点での の方の 座標 はどうだろうか。 (50) より、
なお、本節で、, が実際には最速降下線には ならないことを示したが、 実はそれは微分方程式 (20) の導出の段階での 問題もある。
(20) は、一般解 (23) 以外に、 という特異解を持っていて、 そのために (27) のような解も できてしまっていたが、その特異解は実は (18) を 導くところでついてしまったものである。 それを次に説明する。
オイラー方程式の元々の 2 階の微分方程式 (17) に 戻って考える。 今 と書くことにすると、 は
(51)
一方、(20) の解は、
なお、(51) は陽に を含んでいないので、 常微分方程式の階数低下法により、1 階の微分方程式に帰着できるが、 (51) の場合はその手順を踏まなくても、 容易に 1 回積分できる形に変形できる。 (51) より、
また、本節では、 が , よりも 「最速降下線らしい」ことは見たが、 実際にそれが本当に「最速」であるかの証明にはなっていないし、 3 節の変分法も、そこでも述べたように、 が本当に の最小値を与えるかどうかまでは示してない。 それについては、次節で考察する。
竹野茂治@新潟工科大学