12 節のころがる場合の最速降下線は、 問題 1 の話を除けば重心が逆さサイクロイドになる、 ということがわかったが、 これは多分かなり難しいだろうと思ったのでやや意外であった。 ただ、問題 1 の条件を考える場合は、 「不等式による制限付き変分問題」となり、 多分かなり難しい問題になると思われるが、 その方面 (変分法、最適問題) の専門家ではないのでよくはわからない。
なお、今回これを書いている途中で、 あらためて検索してみたら色々な解説、論文に出くわした。 特に「brachistocrone」(最速降下線) で検索すると、 今でも研究対象になっているのか 割と最近の論文まで出てくることに驚いた。 元々最速降下線の問題は、ベルヌーイ、ニュートン、ライプニッツらの 17 世紀の時代の問題なので、 とっくに解ける問題とそうでないものが区別された枯れた分野 なのかと思っていたが、そうでもないのかもしれない。 当然私はその方面の専門家ではないので、 どこまでが解かれていて、どこからが知られていないのかは よくはわからない。
最後に、参考文献をいくつか紹介しておく。
[1], [2], [4] は、 最速降下線の変分問題の標準的な解説であるが、 [2] はフェルマーの原理との関係や最小性の証明など、 かなり詳しい話が書いてあり、関連問題や参考文献なども丁寧に紹介している。 その問題のいくつかは個人的にも興味があり、 また機会があれば計算してみたいと考えている。
[3], [5] は、 サイクロイドの等時性やサイクロイド振り子の解説であるが、 [5] には歴史の話や ホイヘンスのサイクロイド時計の図なども紹介されている。
[6], [7] は、 シュワルツの不等式を利用したサイクロイドが最速解であることの 初等的な証明であるが、9 節で説明したように、 [7] の方がやや一般的である。 なお、[7] には、[6] の証明は知らずに書いた、 と書かれている。
[8] は Mathematica という数式処理ソフトを作っている Wolfram という会社のサイトであり、数学の色々な話題を取り上げている中に 最速降下線の話もあった。 ただし、10 節にも書いたように、 ここに書かれている「摩擦を入れた方程式の解」はあくまで近似的なものである。
[9] には、最速降下線の問題に 摩擦、空気抵抗の考察を入れた話が書かれているが、 純粋に変分法というよりはフェルマーの原理で押しているようで、 ちょっと内容は良く把握できなかった。
[10] には、丁度 12 節と同じ話が書いてある (私もこれを書いてから知った)。
また、丁度今月号 (2016 年 1 月号) の「数学セミナー」の特集記事が 変分学で、[11] に最速降下線の問題が書かれている。 著者は変分法に関する本も書いている方で、短い解説であるが、 [6] なども紹介していてやや詳しい。
竹野茂治@新潟工科大学