12 ころがる場合

次は、すべらずにころがる場合を考える。 この場合も細かく考えると色々問題がある。 以上の問題点を考慮に入れ、改めて運動方程式から検討し直す。

物体と斜面との接点は今まで通り $(x(t),y(t))$ (点 $\mathrm{P}(t)$) とし、 物体の重心を $(X(t),Y(t))$ (点 $\mathrm{Q}(t)$) と書くことにする (図 12)。

図 12: ころがる場合
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-koro-xyXY.eps}
物体の回転半径を $r$、慣性モーメントを $I_0 = b_0mr^2$ とする。 $b_0$ は円柱ならば $1/2$、球ならば $2/5$ なので $0<b_0<1$ の定数としておく。

初速度は 0 とし、境界条件は、$\mathrm{P}(t)$ に対して成り立つとしておく。

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
(\dot{x}(0),\dot{y}(0)) = (\dot{X}(0),\do...
...(0),y(0)) = (0,H), \hspace{1zw}(x(T),y(T)) = (L,0)
\end{array}\end{displaymath} (85)

まず、$\mathrm{Q}(t)$$\mathrm{P}(t)$ から見て斜面の垂直方向にあるので、 その関係は
\begin{displaymath}
(X(t),Y(t)) = (x(t),y(t))
+ \frac{\left(-f'(x(t)),1\right)}{\sqrt{1+(f'(x(t)))^2}}\,r\end{displaymath} (86)

となる。運動方程式は、重心に対して立てると、
\begin{displaymath}
m(\ddot{X},\ddot{Y}) = m(0,-g)+\mbox{\boldmath$N$}+\mbox{\boldmath$K$}\end{displaymath} (87)

であり、 $\mbox{\boldmath$N$}$ は垂直抗力、 $\mbox{\boldmath$K$}$$\mathrm{P}(t)$ に働く静止摩擦力で、 $\mbox{\boldmath$N$}$ は斜面の垂直方向、 $\mbox{\boldmath$K$}$ は接線方向なので、 $N=\vert\mbox{\boldmath$N$}\vert$, $K=\vert\mbox{\boldmath$K$}\vert$ とすれば
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$N$} = \frac{\left(-f',1\right)}{\sqrt{1+(f'...
...\boldmath$K$} = -\,\frac{\left(1,f'\right)}{\sqrt{1+(f')^2}}\,K\end{displaymath} (88)

となり、問題 1 で述べたように静止摩擦力は、最大静止摩擦力 $\mu_0 N$ よりも 小さくなくてはならない。
\begin{displaymath}
K < \mu_0 N\end{displaymath} (89)

一方、回転に対する運動方程式は、$\beta$ を回転の角加速度とすれば
\begin{displaymath}
I_0\beta = rK\end{displaymath} (90)

となる。これを少し細かく見てみる。 出発時からの回転角を $\psi=\psi(t)$ とし (時計回り)、 $\omega$ をその角速度とすると、
\begin{displaymath}
\omega = \frac{d\psi}{dt} = \dot{\psi},
\hspace{1zw}
\beta = \dot{\omega} = \ddot{\psi}
\end{displaymath}

となる。直線斜面ではないのでこの $\psi$ もやや複雑であるが、 それを求めるため、各 $x$ での斜面の仰角を $\eta=\eta(x)$ (反時計回り) とする ( $-\pi/2<\eta<\pi/2$)。
\begin{displaymath}
\eta=\eta(x) = \arctan f'(x)\end{displaymath} (91)

少なくとも $x=0$ では $\eta(0)<0$ となる。

出発点で $\mathrm{A}(0,H)$ と接していた円周上の点を $\mathrm{R}_0$$(x,f(x))$ での円周上の接点を $\mathrm{R}_1$ と すると (図 13)、

図 13: 回転角と斜面の角度の関係
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-koro-psi.eps}
A から $(x,f(x))$ までの曲線路の長さ $s$
\begin{displaymath}
s = \int_0^x \sqrt{1+(f')^2}\,dx
\end{displaymath}

であり、これは円周上の $\mathrm{R}_0\mathrm{R}_1$ の弧長に等しい。 回転角 $\psi(x)$ は、その弧の中心角から、 斜面の垂直方向の角度の差 $(\eta(x)-\eta(0))$ を引いたものになるので、
$\displaystyle \psi(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{s}{r} - (\eta(x)-\eta(0))$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{r}\int_0^x \sqrt{1+(f')^2}\,dx
- \arctan f'(x) + \arctan f'(0)$ (92)

となる。よって、角速度 $\omega$
\begin{displaymath}
\omega
= \dot{\psi} = \frac{d\psi}{dx}\dot{x}
= \left(\f...
...= \frac{\sqrt{1+(f')^2}}{r}\left(1-\frac{r}{\rho}\right)\dot{x}\end{displaymath} (93)

となる。ここで、
\begin{displaymath}
\frac{1}{\rho} = \frac{f''}{\left(1+(f')^2\right)^{3/2}}\end{displaymath} (94)

は曲線 $y=f(x)$ の曲率、$\rho$ は曲率半径である。 本節冒頭の問題 3 より $r<\rho$ でないと いけないから (93) の係数 $(1-r/\rho)$ は正となる。

次に、今までと同様に、(87) から $N$ を消去して エネルギー保存の式を導くことを考える。 (87) を成分でみると、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
\ddot{X}
& \displaystyle = -\,\f...
...{m}
-\frac{f'}{\sqrt{1+(f')^2}}\,\frac{K}{m}\end{array}\right.\end{displaymath}

なので、$N$, $K$ を消去すると、それぞれ次の式が得られる。
$\displaystyle \ddot{X}+(\ddot{Y}+g)f'$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\sqrt{1+(f')^2}\,\frac{K}{m}$ (95)
$\displaystyle \ddot{X}f'-(\ddot{Y}+g)$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\sqrt{1+(f')^2}\,\frac{N}{m}$ (96)

この (95) をエネルギー保存則の形に変形する ことを考えるが、そのためにまず
\begin{displaymath}
\dot{Y}(t)=f'(x(t))\dot{X}(t)\end{displaymath} (97)

が成り立つことを示す。 (91) より $f'(x)=\tan\eta(x)$ なので、
\begin{displaymath}
\frac{1}{\sqrt{1+(f')^2}} = \cos\eta,
\hspace{1zw}
\frac{f'}{\sqrt{1+(f')^2}} = \sin\eta
\end{displaymath}

と書け、よって (86) より
\begin{displaymath}
(X,Y)
= (x,y) + \frac{(-f',1)}{\sqrt{1+(f')^2}}\,r
= (x,y) + r(-\sin\eta,\cos\eta)
\end{displaymath}

となるから、
\begin{displaymath}
(\dot{X},\dot{Y})
= (\dot{x},\dot{y}) - r(\cos\eta,\sin\et...
...
= \dot{x}(1,f') - r\dot{\eta}\,\frac{(1,f')}{\sqrt{1+(f')^2}}\end{displaymath} (98)

となり、これは $(1,f')$ に平行なので、 確かに (97) が成り立つことがわかる。

なお、

\begin{displaymath}
\dot{\eta}
= (\arctan f')^{\cdot} = (\arctan f')'\dot{x}
= \frac{f''\dot{x}}{1+(f')^2}
\end{displaymath}

なので、(98) の 重心の移動速度 $\mbox{\boldmath$V$}=(\dot{X},\dot{Y})$ は、
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$V$} = (\dot{X},\dot{Y})
= \left(1-\frac{r}...
...ot{x}(1,f')
= \left(1-\frac{r}{\rho}\right)\mbox{\boldmath$v$}\end{displaymath} (99)

となる。これと (93)、および $1-r/\rho>0$ より、
\begin{displaymath}
r\omega
= \sqrt{1+(f')^2}\,\left(1-\frac{r}{\rho}\right)\...
...t\left(1-\frac{r}{\rho}\right)
= \vert\mbox{\boldmath$V$}\vert\end{displaymath} (100)

もわかる。

さて、(95) に戻るが、 この式を $\dot{X}$ 倍すると、(97) より、

\begin{displaymath}
\dot{X}\ddot{X}+\dot{Y}\ddot{Y}+g\dot{Y}
= -\dot{X}\sqrt{...
...t)^2}\,\frac{K}{m}
= -\vert\mbox{\boldmath$V$}\vert\frac{K}{m}\end{displaymath} (101)

となるが、この右辺と回転エネルギー $I_0\omega^2/2$ との関係を見てみる。 このエネルギーを $m$ で割ったものを $t$ で微分すると、
\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2m}I_0\omega^2\right)
= \frac{d}{...
...eft(\frac{b_0r^2}{2}\omega^2\right)
= b_0r^2\omega\dot{\omega}
\end{displaymath}

であり、(90) より
\begin{displaymath}
\frac{K}{m} = \frac{I_0\beta}{mr} = b_0r\dot{\omega}
\end{displaymath}

なので、(100) より
\begin{displaymath}
b_0r^2\omega\dot{\omega}
= b_0r\dot{\omega} r\omega
= \frac{K}{m}\vert\mbox{\boldmath$V$}\vert
\end{displaymath}

となる。 よって、結局 (101) は、
\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}\vert\mbox{\boldmath$V$}\vert^2 + gY
+ \frac{1}{2m}I_0\omega^2\right) = 0\end{displaymath} (102)

と変形できることがわかる。 これは運動エネルギーと位置エネルギーと回転エネルギー の総和が保存されることを意味する (物理学なら、むしろここからスタートするだろう)。

これを積分すれば、

\begin{displaymath}
\frac{1}{2}\vert\mbox{\boldmath$V$}\vert^2 + gY + \frac{1}{2m}I_0\omega^2
= gY(0)\end{displaymath} (103)

となる。ここで、
\begin{displaymath}
Y(0) = y(0) + \frac{r}{\sqrt{1+(f'(0))^2}}
= H + \frac{r}{\sqrt{1+(f'(0))^2}}\end{displaymath} (104)

である。 (100) より、
\begin{displaymath}
\frac{1}{2m}I_0\omega^2
= \frac{b_0}{2}r^2\omega^2
= \frac{b_0}{2}\vert\mbox{\boldmath$V$}\vert^2
\end{displaymath}

なので、(103) は、
\begin{displaymath}
\frac{1+b_0}{2}\vert\mbox{\boldmath$V$}\vert^2+gY = gY(0)
\end{displaymath}

となり、これは
\begin{displaymath}
\vert\mbox{\boldmath$V$}\vert = \sqrt{\frac{2g}{1+b_0}(Y(0)-Y)}\end{displaymath} (105)

と変形できるが、(99) より
\begin{eqnarray*}Y
&=&
y + \frac{r}{\sqrt{1+(f')^2}}
= f(x) + \frac{r}{\sqr...
...v\vert
=
\left(1-\frac{r}{\rho}\right)\sqrt{1+(f')^2}\,\dot{x}\end{eqnarray*}


なので、
\begin{displaymath}
\dot{x}
= \frac{1}{\displaystyle \left(1-\frac{r}{\rho}\rig...
...ac{2g}{1+b_0}\left(Y(0)-f(x)-\frac{r}{\sqrt{1+(f')^2}}\right)}
\end{displaymath}

と書ける。よって、A から B までころがり落ちる時間 $T$
\begin{displaymath}
T = \int_0^L \sqrt{\frac{1+b_0}{2g}}
\frac{(1-r/\rho)\langle f'\rangle }{\sqrt{Y(0)-f-r/\langle f'\rangle }}\,dx\end{displaymath} (106)

と表わされることになる。$\rho$ は (94) の式で $f'$$f''$ で与えられるため、 この右辺の被積分関数は $F(f,f',f'')$ の形をしていることがわかる。 よって、この積分の最小値を与える関数 $f$ がころがる場合の 最速降下線となる。

なお、ここまでは $r>0$ であるとして、重心が曲線上にないとして 方程式を考えてきたが、通常のように $r$ が十分小さいとして無視する、 すなわち $r\rightarrow +0$ としてみると、(106) は

\begin{displaymath}
T = \int_0^L \sqrt{\frac{1+b_0}{2g}}
\frac{\langle f'\rangle }{\sqrt{H-f}}\,dx\end{displaymath} (107)

となり、これはすべる場合の時間 (11) と $\sqrt{1+b_0}$ 倍 の違いしかないことがわかる。 よって、その場合の最速解はやはり逆さサイクロイドとなる。 しかし、それは出発点の傾きが $-\infty$ になってしまい、 本節の最初に述べた問題 1 の条件を考えれば その逆さサイクロイドの解は適切ではない。

この、 $r=0$ と見た場合に、 (89) の条件を満たす最速解があるかどうかは よくわからない。

さて、$r>0$ の場合に戻って、(106) の変分を考える。 $f$ が右辺の積分の最小値を与える解であるとき、 $0$, $L$ の付近で 0 となる $\phi$ に対して、

\begin{displaymath}
I(f+\delta\phi)
= \int_0^L F(f+\delta\phi,f'+\delta\phi',f''+\delta\phi'')\,dx
\end{displaymath}

は、$\delta=0$ で極小となるから、
\begin{displaymath}
\left.\frac{dI(f+\delta\phi)}{d\delta}\right\vert _{\delta=0}
= \int_0^L(F_f\phi+F_{f'}\phi'+F_{f''}\phi'')\,dx = 0
\end{displaymath}

となる。よって部分積分をすれば、
\begin{displaymath}
\int_0^L\left(F_f-\left(F_{f'}\right)'+\left(F_{f''}\right)''\right)\phi\,dx
= 0
\end{displaymath}

となるので、この場合のオイラー方程式は、
\begin{displaymath}
F_f-\left(F_{f'}\right)'+\left(F_{f''}\right)'' = 0\end{displaymath} (108)

となることがわかる。 やや複雑だが、(106) に対してこの式を計算してみる。 なお、$F$ に定数倍として含まれている $\sqrt{(1+b_0)/(2g)}$ の部分は もちろん無視してよい。 (94) より $F$$f''$ に 関して 1 次式なので
\begin{displaymath}
F
= \frac{(1-r/\rho)\langle f'\rangle }{\sqrt{Y(0)-f-r/\langle f'\rangle }}
= f''\hat{F}(f,f') + \hat{G}(f,f')
\end{displaymath}

として計算を行う。ここで、
\begin{displaymath}
\hat{F}(f,f') = -r\langle f'\rangle ^{-2}S^{-1/2},
\hspace...
...le S^{-1/2},
\hspace{0.5zw}S = Y(0)-f-r\langle f'\rangle ^{-1}\end{displaymath} (109)

である。

(108) の左辺は $F$ に関して線形だから、 $\hat{F}$ に関する式 (= $U_1$ とする) と $\hat{G}$ に関する式 (= $U_2$ とする) の和に分けることができ、 まずそのそれぞれを計算してみる。$U_2$

\begin{displaymath}
U_2 = \hat{G}_f - \left(\hat{G}_{f'}\right)'
\end{displaymath}

となるが、これは 4 節の (18) を 導くところで見たように、$f'$ 倍すれば
\begin{displaymath}
f'U_2 = \left(\hat{G}-f'\hat{G}_{f'}\right)'
\end{displaymath}

と変形できる。一方 $U_1$ は、
\begin{displaymath}
U_1 = f''\hat{F}_f-\left(f''\hat{F}_{f'}\right)'+\left(\hat{F}\right)''\end{displaymath} (110)

となるが、
\begin{displaymath}
f''\hat{F}_{f'}
= f''\hat{F}_{f'} + f'\hat{F}_f - f'\hat{F}_f
= (\hat{F})' - f'\hat{F}_f
\end{displaymath}

と変形すれば、
\begin{displaymath}
U_1
= f''\hat{F}_f-\left((\hat{F})' - f'\hat{F}_f\right)'
+ \left(\hat{F}\right)''
= f''\hat{F}_f+\left(f'\hat{F}_f\right)'
\end{displaymath}

となるから、これを $f'$ 倍すれば
\begin{displaymath}
f'U_1 = f'f''\hat{F}_f+ f'\left(f'\hat{F}_f\right)'
= \left((f')^2\hat{F}_f\right)'\end{displaymath} (111)

となることがわかる。 結局、(108) を $f'$ 倍したものは、
\begin{displaymath}
\left((f')^2\hat{F}_f + \hat{G}-f'\hat{G}_{f'}\right)' = 0
\end{displaymath}

と書けることになり、よって
\begin{displaymath}
(f')^2\hat{F}_f + \hat{G}-f'\hat{G}_{f'} = \mbox{ 定数}\end{displaymath} (112)

と積分できる。今の場合、
\begin{displaymath}
S_f = -1,
\hspace{1zw}S_{f'} = r\langle f'\rangle ^{-2}\frac{f'}{\langle f'\rangle } = rf'\langle f'\rangle ^{-3}
\end{displaymath}

なので、
\begin{eqnarray*}(f')^2\hat{F}_f
&=&
-r(f')^2\langle f'\rangle ^{-2}\frac{1}{2...
...^{-1}S^{-1/2} + \frac{1}{2}r(f')^2\langle f'\rangle ^{-2}S^{-3/2}\end{eqnarray*}


となり、結局 (112) は、
\begin{displaymath}
\langle f'\rangle ^{-1}S^{-1/2}
= \frac{1}{\sqrt{1+(f')^2}}
\frac{1}{\sqrt{Y(0)-f-r/\langle f'\rangle }}
= \mbox{ 定数}\end{displaymath} (113)

だけが残る。 ここで、 $Y(0)-f(x)=h(x)$ とすれば、
\begin{displaymath}
(1+(h')^2)\left(h-\frac{r}{\langle h'\rangle }\right)=c_0\end{displaymath} (114)

と、(20) に対応した $h$ の 1 階変数分離形の方程式が得られることになる。 しかし、これを積分して $h$$x$ の式で表すのは容易ではない。

(114) を展開すれば、

\begin{displaymath}
h\langle h'\rangle ^2-r\langle h'\rangle -c_0=0
\end{displaymath}

となるが、$h>0$, $c_0>0$, $r>0$, $\langle h'\rangle >0$ より、
\begin{displaymath}
\langle h'\rangle = \frac{r+\sqrt{r^2+4c_0h}}{2h}
\end{displaymath}

となり、
\begin{displaymath}
(h')^2
= \left(\frac{r+\sqrt{r^2+4c_0h}}{2h}\right)^2-1
= \frac{2r^2+4c_0h-4h^2+2r\sqrt{r^2+4c_0h}}{4h^2}
\end{displaymath}

となるので、
\begin{displaymath}
h'
= \pm\frac{\sqrt{2r^2+4c_0h-4h^2+2r\sqrt{r^2+4c_0h}}}{2h}
\end{displaymath}

が得られる。しかし、見てわかるように、 この方程式の求積は容易ではない。

なお、$Y(0)$ は (104) で与えられるので、

\begin{displaymath}
h(0)-\frac{r}{\langle h'(+0)\rangle }
= Y(0) - f(0) - \frac{r}{\langle f'(0)\rangle } = 0
\end{displaymath}

となるから、(114) を展開した
\begin{displaymath}
\langle h'\rangle h = r+\frac{c_0}{\langle h'\rangle }
\end{displaymath}

$x\rightarrow +0$ とすると $h'(+0)=\infty$ でなければいけないことがわかる。 つまり、この (114) の解による $f$ $f'(+0)=-\infty$ と なり、やはり問題 1 の条件は満たさない。

すなわち、ころがりの問題を考えると、変分法で得られる関数は 問題 1 の条件に適する解にはならないので、 問題 1 を満たしながら (106) を最小にする解は 存在しない可能性もあるが、よくはわからない。 問題 1 の条件を満たすような解を存在させるためには、 例えば 11 節のように、 正の初速度を与える必要があるかもしれない。

また上では、斜面上の接点 $\mathrm{P}(t)$ $(x(t),y(t))$ の軌跡に 関する方程式を考えたが、 その解に対する重心 $\mathrm{Q}(t)$ $(X(t),Y(t))$ の軌跡をついでに 考えてみよう。

その軌跡が $Y(t)=\xi(X(t))$ で表されるとすると、 これを $t$ で微分すれば、

\begin{displaymath}
\dot{Y}(t) = \xi'(X(t))\dot{X}(t)
\end{displaymath}

となるが、(97) より、
\begin{displaymath}
\xi'(X(t))=f'(x(t))\end{displaymath} (115)

であることがわかる。また、(86) より
\begin{displaymath}
Y(t) = \xi(X(t))
= y(t) + \frac{r}{\sqrt{1+(f'(x(t)))^2}}
= f(x(t)) + \frac{r}{\sqrt{1+(f'(x(t)))^2}}
\end{displaymath}

なので、これらを (113) に代入すると
\begin{displaymath}
(1+(\xi')^2)(Y(0)-\xi)=c_0\end{displaymath} (116)

となるので、よって $\gamma(x)=Y(0)-\xi(x)$ とすれば $\gamma$ は (20) と同じ方程式を満たし、 $\gamma$ はサイクロイド (の $c_0/2$ 倍) を 平行移動したものになることがわかる。

すなわち、ころがる場合のオイラー方程式の解は、 重心が逆さサイクロイドを平行移動した軌道を取り、 斜面はそこから距離 $r$ だけ下に離れた等距離曲線となる。 もちろん、問題 1 の条件を満たさない問題があるので、 これにより最速解が決定したとは言いづらいが、 問題 1、すなわち条件 (89) を 無視すればこれが解となる。

実は、重心の軌道がサイクロイドとなることは、 式 (105) からも示唆される。

なお、この等距離曲線、 すなわちサイクロイド $y=\alpha\mathrm{cyc}(x/\alpha)$ から $r$ だけ 上に離れた曲線を表す式 ($h$ の方) を 以下で求めてみる (図 14)。

図 14: サイクロイドの等距離曲線
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-koro-equimet.eps}
このサイクロイド
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
y & = \alpha(1-\cos\theta)\\
x &...
...sin\theta)\end{array}\right.\hspace{1zw}(0\leq\theta\leq 2\pi)
\end{displaymath}

の、パラメータ $\theta$ に対応する点での傾きは
\begin{displaymath}
\frac{dy}{dx}=\frac{\sin\theta}{1-\cos\theta}
\end{displaymath}

なので、その法線方向は
\begin{displaymath}
(-\sin\theta,\ 1-\cos\theta)
= 2\sin\frac{\theta}{2}
\left(-\cos\frac{\theta}{2},\ \sin\frac{\theta}{2}\right)
\end{displaymath}

となる。よって、サイクロイドから $r$ だけ上に離れた関数は、
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
x & = \displaystyle \alpha(\theta...
...heta}{2}
\end{array}\right. \hspace{1zw}(0\leq\theta\leq 2\pi)\end{displaymath} (117)

とパラメータ表示されることがわかる。 これを $y=u(x)$ と書くことにする。

この $u(x)$ が、実際に $h=u(x)$ として方程式 (114) を 満たすことを示そう。

\begin{displaymath}
u'
= \frac{du/d\theta}{dx/d\theta}
= \frac{\displaystyle \a...
...rac{r}{2}\right)
\sin\frac{\theta}{2}}%
=\cot\frac{\theta}{2}
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
1+(u')^2
= 1+\cot^2\frac{\theta}{2}
= \frac{1}{\displaystyle \sin^2\frac{\theta}{2}}
= \frac{2}{1-\cos\theta}
\end{displaymath}

となるので、
\begin{displaymath}
u-\frac{r}{\langle u'\rangle }
= \alpha(1-\cos\theta)+r\sin\frac{\theta}{2}-r\sin\frac{\theta}{2}
= \alpha(1-\cos\theta)
\end{displaymath}

となり、よって
\begin{displaymath}
(1+(u')^2)\left(u-\frac{r}{\langle u'\rangle }\right) = 2\alpha
\end{displaymath}

となるので、$\alpha=c_0/2$$\alpha $ に対して $u(x)$ は (114) を満たす解となる。 あとは境界条件を満たすよう適宜平行移動すれば、 問題 1 の条件を無視したものではあるが、 (106) を最小化する解が得られることになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2016年1月8日