10 摩擦や空気抵抗がある場合

後は、元の問題の状況が少し変わった場合、例えば摩擦を考慮した場合、 空気抵抗がある場合、初速度が 0 でない場合、 そしてすべる場合ではなくむしろ実際は多いと思われる 玉などをころがらせる場合について考えてみる。 まず本節では、摩擦や空気抵抗がある場合について考察する。

摩擦がある場合については、[8] のサイトには、 「近似的」な方程式の解析解が書かれているが、 厳密には以下のようになる。

この場合は、動摩擦力 $\mbox{\boldmath$G$}_1$ を (1) の式に 追加する必要があるが、動摩擦力は斜面の接線方向で運動の逆方向に働き、 その大きさは斜面からの垂直抗力に比例する。よって、

\begin{displaymath}
m(\ddot{x}(t),\ddot{y}(t)) = m(0,-g) + \mbox{\boldmath$N$} ...
...zw}\mbox{\boldmath$G$}_1 = -\frac{(1,f')}{\sqrt{1+(f')^2}}\mu N\end{displaymath} (60)

となる。ここで、$\mu\ (>0)$ は動摩擦係数である。 よって、各成分に分離すると、
\begin{displaymath}
\ddot{x} = -\,\frac{f'+\mu}{\sqrt{1+(f')^2}}\,\frac{N}{m},
...
...w}
\ddot{y}+g = \frac{1-\mu f'}{\sqrt{1+(f')^2}}\,\frac{N}{m},\end{displaymath} (61)

となる。

[8] では、垂直抗力の大きさ $N$ が、 重力の斜面の垂直成分に等しい:

\begin{displaymath}
N = \frac{mg}{\sqrt{1+(f')^2}}\end{displaymath} (62)

と仮定して解析解を導いているが、 (62) は厳密には成り立たない。 もし、斜面が直線で、物体の加速度が斜面の接線方向に等しければ、 (62) が成り立つが、 今考えている斜面は直線ではないので、 加速度は斜面の接線方向とは限らず、実際にはこうはならない。

さて、(61) から $N$ を消去すると、

\begin{displaymath}
(1-\mu f')\ddot{x}+(f'+\mu)(\ddot{y}+g) = 0\end{displaymath} (63)

となる。変分法にかけるためには、この (63) を
\begin{displaymath}
\frac{dt}{dx} = F(x,f(x),f'(x),f''(x))
\end{displaymath}

などのような形に直せなくてはいけない。 しかし、(63) は、 $x$ の 2 階の方程式だから 1 回は積分して 1 階の方程式に 直さないといけないだろう。 前のようにエネルギー保存則で考えると、 (63) を $\dot{x}$ 倍して、
\begin{displaymath}
\dot{x}\ddot{x}+\dot{x}f'\ddot{y}+\dot{x}f'g + \mu g\dot{x}
= \mu(\dot{x}f'\ddot{x} - \dot{x}\ddot{y})
\end{displaymath}

となり、 $f'\dot{x}=\dot{y}$ より、
\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}\{(\dot{x})^2+(\dot{y})^2\}+gy
+ \mu g x\right)
= \mu (\dot{y}\ddot{x} - \dot{x}\ddot{y})\end{displaymath} (64)

となる。左辺は $t$ での微分の形になっているが、 右辺はその形にはなっていない。 この右辺の $y$ の微分を $f$$x$ で表すと、
\begin{displaymath}
\dot{y}\ddot{x} - \dot{x}\ddot{y}
= f'\dot{x}\ddot{x} - \dot...
...ot{x} - \dot{x}(\ddot{x}f'+(\dot{x})^2 f'')
= -(\dot{x})^3 f''
\end{displaymath}

となるが、これもやはり $t$ の微分の形に直すことはできない。

(63) の式で $y$$f$, $x$ に 書き直してみると、

\begin{eqnarray*}&&
(1-\mu f')\ddot{x}+(f'+\mu)(\ddot{x}f'+(\dot{x})^2 f''+ g) ...
...left(1+(f')^2\right)\ddot{x}+(f'+\mu)f''(\dot{x})^2+g(f'+\mu) = 0\end{eqnarray*}


より、
\begin{displaymath}
\ddot{x}
+ \frac{(f'+\mu)f''}{1+(f')^2}\,(\dot{x})^2
+ \frac{(f'+\mu)g}{1+(f')^2} = 0\end{displaymath} (65)

という 2 階の非線形の微分方程式となる。 これに何らかの積分因子をかけることで、 この式を 1 回積分することは可能かもしれないがかなり難しいだろう。 少なくとも今のところ私には良くわからない。

つまり、摩擦のある場合は、摩擦のない場合の (11) の 式のような、変分法が使える積分の式を導くことも容易ではない。

次は、摩擦の代わりに空気抵抗がある場合について考えてみる。 この場合は (60) の摩擦力 $\mbox{\boldmath$G$}_1$ を 空気抵抗力 $\mbox{\boldmath$G$}_2$ に変えればよい。

空気抵抗力 $\mbox{\boldmath$G$}_2$ は、運動の逆方向、 すなわち斜面の接線方向で運動の逆方向に 働くところまでは $\mbox{\boldmath$G$}_1$ と同じだが、 その大きさは速さ $v=\vert\mbox{\boldmath$v$}\vert=\vert(\dot{x},\dot{y})\vert$ の 関数 (増加関数) と考えることができる。 よく用いられるのは、 速さに比例すると考えた式、あるいは速さの 2 乗に比例すると考えた式である。 ここでは、簡単のため速さに比例するとする。 この場合、

\begin{eqnarray*}\mbox{\boldmath$G$}_2
&=&
-\frac{(1,f')}{\sqrt{1+(f')^2}}(kv)...
...qrt{1+(f')^2}\,\dot{x}
= -k(1,f')\dot{x}
= -k(\dot{x},\dot{y})\end{eqnarray*}


となる。ここで、$k$ ($>0$) は比例定数だが、 抵抗力の大きさが速さに比例するのではない場合は、 $k$$v$ の関数と考えればよい。

この場合は、

\begin{displaymath}
\ddot{x} = -\,\frac{f'}{\sqrt{1+(f')^2}}\,\frac{N}{m} - \fr...
...= \frac{1}{\sqrt{1+(f')^2}}\,\frac{N}{m} - \frac{k}{m}\,\dot{y}\end{displaymath} (66)

となるので、$N$ を消去すると、
\begin{displaymath}
\ddot{x}+\frac{k}{m}\,\dot{x}
+\left(\ddot{y}+g+\frac{k}{m}\dot{y}\right)f' = 0\end{displaymath} (67)

が得られる。この場合もエネルギーを考えると、
\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}\{(\dot{x})^2+(\dot{y})^2\}+gy\right)
= -\frac{k}{m}\left((\dot{x})^2+(\dot{y})^2\right)\end{displaymath} (68)

すなわち、
\begin{displaymath}
\frac{d}{dt}\left(\frac{v^2}{2}+gy\right) + \frac{k}{m}\,v^2 = 0\end{displaymath} (69)

となるが、これも (64) と同様に きれいには積分できない。 $k$ が定数でなく $v$ の関数である場合も、 残念ながらあまりうまくいくような気はしない。

(67) を $x$, $f$ のみの式に書き換えてみると、

\begin{eqnarray*}&&
\ddot{x}+\frac{k}{m}\,\dot{x}
+\left(\ddot{x}f'+(\dot{x})^...
...+f'f''(\dot{x})^2
+\frac{k}{m}\left(1+(f')^2\right)\dot{x}+gf'=0\end{eqnarray*}


より、
\begin{displaymath}
\ddot{x}
+ \frac{k}{m}\,\dot{x}
+ \frac{ff''}{1+(f')^2}\,(\dot{x})^2
+ \frac{gf'}{1+(f')^2} = 0\end{displaymath} (70)

という 2 階の非線形の微分方程式が得られるが、 これもやはり積分因子を見つけることは容易ではなさそうである。

さらに、摩擦と空気抵抗の両方を考えた式を作ることもできるが、 それも簡単に解けそうな方程式にはならない。

竹野茂治@新潟工科大学
2016年1月8日