5 n 回微分して元に戻る関数

次は、一般の $n$ 回微分して元に戻る関数を考えてみる。

これまでの、1 回から 4 回微分して元に戻る関数の結果をまとめると、 以下の通り。

$\displaystyle y'=y$ $\textstyle \Rightarrow$ $\displaystyle y=C_1e^x$ (14)
$\displaystyle y''=y$ $\textstyle \Rightarrow$ $\displaystyle y=C_1e^x+C_2e^{-x}$ (15)
$\displaystyle
y''' = y$ $\textstyle \Rightarrow$ $\displaystyle y=C_1e^x+C_2e^{-x/2}\cos\frac{\sqrt{3}}{2}x
+C_3e^{-x/2}\sin\frac{\sqrt{3}}{2}x$ (16)
$\displaystyle y^{(4)}=y$ $\textstyle \Rightarrow$ $\displaystyle y=C_1e^x +C_2e^{-x}+C_3\cos x+C_4\sin x$ (17)
さらに、(3) と (12) より、
  $\displaystyle
y''+y'+y=0 \Rightarrow y=C_1e^{-x/2}\cos\frac{\sqrt{3}}{2}x
+C_2e^{-x/2}\sin\frac{\sqrt{3}}{2}x$ (18)
もわかる。 これらの微分方程式を $f(D)y=0$ の形に書いて、 その多項式 $f(\lambda)$ とこれらの解を見比べると、 いくつかの性質が予想される。

  1. $f(\lambda)$$n$ 次式ならば $y$ は、
    $\displaystyle y=C_1\phi_1(x)+C_2\phi_2(x)+\cdots+C_n\phi_n(x)
$
    の形となる。
証明は容易ではないが、これは正しい。

2.
$f(\lambda)=g(\lambda)h(\lambda)$ と因数分解され、 $g(D)y_1=0$, $h(D)y_2=0$ ならば
$f(D)(y_1+y_2)=0$
これは、
$\displaystyle f(D)(y_1+y_2)
= f(D)y_1+f(D)y_2
= h(D)(g(D)y_1) + g(D)(h(D)y_2) = 0
$
と簡単に証明できる。 一方、この 2. の逆の、
3.
$f(\lambda)=g(\lambda)h(\lambda)$ と因数分解される場合、 $f(D)y=0$ となる任意の $y$ に対し、$g(D)y_1=0$, $h(D)y_2=0$, かつ $y=y_1+y_2$ となる $y_1$, $y_2$ が存在する。
は、一般には無理で、3. が成り立つためには、$g(\lambda)$$h(\lambda)$ が互いに素、 すなわち定数以外の公約多項式を持たないことが必要であり、 逆に $g(\lambda)$$h(\lambda)$ が互いに素であれば 3. は成立する (証明は易しくない)。

よって、$f(\lambda)$ を互いに素なものに因数分解し、

$\displaystyle f(\lambda) = f_1(\lambda)f_2(\lambda)\cdots f_k(\lambda)
$
とし、その各々に対し $f_j(D)y=0$ となる $y$ を求めて
$\displaystyle y = C_{j,1}\phi_{j,1}(x)+\cdots +C_{j,m_j}\phi_{j,m_j}(x)
\hspace{1zw}(j=1,2,\ldots,k)
$
となれば、$f(D)y=0$ となる $y$ はそれらすべての和
$\displaystyle y = \sum_{j=1}^k\left(C_{j,1}\phi_{j,1}(x)+\cdots
+C_{j,m_j}\phi_{j,m_j}(x)\right)
$
と書ける。 例えば、3 回微分して元に戻る関数 $y$ の場合は、
$\displaystyle f(\lambda)=\lambda^3-1 = (\lambda-1)(\lambda^2+\lambda+1)
$
なので、$(D-1)h=0$ となる $h$、すなわち (4) と、 $(D^2+D+1)z=0$ となる $z$、すなわち (12) を加えた ものが $y$、すなわち (9) の形になる。 だから、3. の事実を使ってよいなら前節までの議論はだいぶ易しくなる (が、 3. 自体の証明は易しくない)。

(14) から (18) までの方程式の、 $f(\lambda)=0$ という代数方程式の解を書いてみると、

\begin{eqnarray*}% latex2html id marker 1135
(\ref{eq:nkai:y'=y}) &\Rightarrow& ...
...=0,\hspace{0.5zw}
\lambda = -\frac{1}{2}\pm\frac{\sqrt{3}}{2}\,i\end{eqnarray*}
のようになる。これらの解と、微分方程式の解を見比べると、 次の事も予想される。
4.
$f(\lambda) = \lambda-\alpha$ ならば $y=Ce^{\alpha x}$
5.
$f(\lambda)=\lambda^2+a\lambda+b$ で、$f(\lambda)=0$ の解が $\lambda=\alpha\pm\beta i$ (虚数) ならば、
$\displaystyle y=C_1e^{\alpha x}\sin\beta x+C_2e^{\alpha x}\cos\beta x
$
これらはいずれも正しい。4. は [1] の $y'=y$ と同じようにして、 5. は (3) から $z$ を求めたときと 同じようにすれば示すことができる。

実数係数の $n$ 次代数方程式は、代数学の基本定理により、 実数係数の 1 次式か 2 次式のみの積の形に因数分解できることが 知られているので、$f(\lambda)=0$ が重解を持たなければ、 これらの性質を組み合わせることで $f(D)y=0$ のすべての解が 得られることになる。ただし、重解を持つ場合は少し面倒である。

さて、$n$ 回の微分で元に戻る $y$ は、

$\displaystyle y^{(n)}=y
$
を満たすが、この場合の $f(\lambda)$ $f(\lambda)=\lambda^n-1$ で、
$\displaystyle f(\lambda)=\lambda^n-1=0
$
の解は、複素数のド・モアブルの定理により
  $\displaystyle
\lambda=\cos\frac{2k\pi}{n}+i\sin\frac{2k\pi}{n}
\hspace{0.5zw}(k=0,1,2,\ldots,n-1)$ (19)
となることが知られていて、重解はない。

$n$ が奇数の場合、(19) のうち 実数解は $\lambda=0$ ($k=0$) のみ、あとはすべて虚数解で、 $k=j$ のものと $k=n-j$ のものが共役な解である ( $j=1,2,\ldots,(n-1)/2$)。 よって、この場合 $y$ は、4., 5. の線形結合

$\displaystyle y = C_1e^x +\sum_{k=1}^{(n-1)/2}
e^{x\cos(2k\pi/n)}\left\{C_k\co...
...x\sin\frac{2k\pi}{n}\right)
+D_k\sin\left(x\sin\frac{2k\pi}{n}\right)\right\}
$
となる。

$n$ が偶数の場合、(19) のうち 実数解は $\lambda=0$ ($k=0$) と $\lambda=-1$ ($k=n/2$) の 2 つで、 $k=j$$k=n-j$ のものが共役な解となる ( $j=1,2,\ldots,n/2-1$)。 よって、この場合 $y$ は、$n'=n/2$ とすれば、

$\displaystyle y = C_1e^x + C_2e^{-x}+\sum_{k=1}^{n'-1}
e^{x\cos(k\pi/n')}\left...
...x\sin\frac{k\pi}{n'}\right)
+D_k\sin\left(x\sin\frac{k\pi}{n'}\right)\right\}
$
となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2021-12-03