7 一次独立性
一次独立性は、例年講義で紹介している話ではないが、
行列式の重要な性質の一つなので、ここでその証明を紹介しておく。
この証明も、通常は行列の階数を元に考えるのが普通だと思うが、
ここでは帰納法による証明を試みる。
ただし、そのため議論がやや煩雑になる。
定義 8
- ベクトル
の
一次結合 とは、
の形の式のことを言う。
- ベクトル
が
一次従属 であるとは、
|
(20) |
を満たす
が存在することを言う。
- ベクトル
が
一次独立 であるとは、
が
一次従属 ではない状態を指す。
(20) の場合、 となる が少なくとも一つはあるので、
それを使って
と書けることになり、
が残りの他のものの一次結合となる。
逆に、
が残りの他のものの一次結合であれば、
より、
となるので一次従属となる。よって、一次従属であるとは、
「そのいずれかひとつが、他の残りのものの一次結合となる」
と言いかえることもできる。
例えば、平行でない 2 つの平面ベクトルや、
一つの平面に乗らない 3 つの空間ベクトルなどは一次独立であるが、
平行な 2 つのベクトルや、一つの平面上の 3 つ以上のベクトルなどは
一次従属である。
定理 9
次正方行列
に対して、次の 3 つの条件は同値になる。
-
-
は一次独立
-
は一次独立
この証明は、1. と 3. が
同値であることが言えれば、2. は、
より、
1.
が一次独立
2.
となって 1. と 2. が
同値であることも言えるから、
1. と 3. の同値性のみ
証明すればよい。
まず、1. 3 を示す。
もし
が一次独立でなければ、
と書ける
(と ) が存在するので、
系 4 より、
となるが、この行列式はいずれも 1 行目に等しい他の行が存在するので
すべて 0 になり、よって となる。
つまり、3. でなければ 1.
でないことになり、背理法により
1. 3. が言えたことになる。
今度は 3. 1.
を考えるが、この証明に帰納法を用いる。
のときは明らかに成り立つから、
次では 1., 2.,
3. の同値性が言えているとする。
3. 1. を示すために、
3. であって、かつ 1. でないとして
矛盾を導くことにする。
つまり、
は一次独立で、
かつ である
と仮定する。
任意の () に対し、 を 列目で展開すると、
|
(21) |
を得る。
一方、 に対し、 の 列目 (
) を
の 列目 (
) で置きかえた行列 の行列式は、
系 6 より 0 になるが、これを 列目で展開すると
|
(22) |
となる。
つまり、(21), (22) より、
この場合は も含めてすべての に対して
(22) が成り立つことになるので、
が言える。
仮定により、
は一次独立であるから、
その係数の
はすべて 0 でなければならない。
よって、すべての に対して
となることになるが、
も任意であったので、結局この場合すべての に対して
であることになる。
今、 から 行目と 列目を取り除いた行列を
と書くことにする (よって
)。
すると、
は 次の正方行列で、
なので、
帰納法の仮定により、その 個の行ベクトルは一次従属となる。
よって、任意の に対し、
(
は から 列目の成分を取り除いた
次元行ベクトル) とすれば
となる が存在することになる。
と定めれば、これは
|
(23) |
と書くこともできるから、
とすれば、(23) より
(
は、 番目の成分が 1 でそれ以外は全部 0 の 次元列ベクトル)
となり、
|
(24) |
となることになる。
今、もし であると、
でかつ
となるので、これは
が
一次独立であることに矛盾する。よって、
であることになる。
この (24) をすべての で考えれば、
結局 に対し
(
は、
を
対角成分とする対角行列) となることになる。
さて、この式の右辺は対角行列で、
その行列式は 1 列目から展開していけばわかるが、
の の積となり、
よりこれは 0 ではない。
しかし左辺の行列式は、仮定 より となってしまうので、
よって
となり矛盾となる
(なお、 も より 1 列目がすべて 0 なので でもある)。
よって、3. であって、かつ 1. でない
とすると矛盾が起こることになり、ゆえに
3. 1. が言えることになる。
定理 10
に対して、 行列
に対して、次の 2 つの条件は同値になる。
-
となる
の組が存在する。
-
は一次独立
1. 2.
は比較的容易であるので、まずこちらを示す。
とすると、定理 9 より、この行列の行ベクトル
は一次独立となる。よって、
|
(25) |
ならば、必ず
となる。
今、
であるとすると、この式の
成分が (25)
であるので、よって
となる。
ゆえに
は一次独立である。
次に、2. 1.
を、 に関する帰納法で証明する。
のときは、定理 9 より明らかに成り立つので、
として、 のときに成り立つとして のときに
成り立つことを示す。そして、そのために、
2. であって、かつ 1. でない
として矛盾を導く。すなわち、
は一次独立で、かつ、
すべての
に対して、
である
と仮定する。
今、 から 列目を取り除いた 行列
を と書くこととし、
その行ベクトルを上から順に
と書くことにする。
この に対しても、仮定よりすべての
に対して、
が成り立つことになるので、よって帰納法の仮定により、
の行ベクトル
は
一次従属となる。よって、
|
(26) |
となる が存在する。
とすれば、(26) より
|
(27) |
となる。もし、 ならば、(27) は
が一次従属であることを意味するので
仮定に反する。よって
である。
(27) は
となるので、 のものをすべて合わせれば、
に対し
となる。この行列式を考えれば、
となる。
一方、 は 行列、 は 行列で であるから、
定理 7 により となるので矛盾となる。
これで定理 10 が示されたことになる。
この定理を用いれば、行列の階数 (ランク) と一次独立性の定理も証明できるので、
それもついでに紹介しておく。
を 行列とし、 かつ のとき、
,
に対し
の形の行列式を、A の 次の 小行列式 と呼ぶ。
次の小行列式がすべて 0 なら、 に対し、
次の小行列式もすべて 0 となることが展開定理から容易に分かるので、
よって、 に対して
「 次以上の小行列式はすべて 0 で、
次 (および 以下の次数) の小行列式には、
少なくとも一つ 0 でないものがある」
を満たすような が一つ定まることになる。
この を の 階数 または ランク と呼び、
であらわす。
なお、定理 10 のような場合は
,
零行列の場合は
と見る。
定理 11
に対し、
は、ベクトルの組
から取り出せる一次独立なベクトルの組の
最大の個数に等しく、
から取り出せる一次独立なベクトルの組の
最大の個数に等しい。
これは、定理 10 より容易に示される。
より、
となるような
,
が少なくとも
一つ存在するが、この場合、定理 10 より明らかに
は一次独立で、
も一次独立となる。
よって、一次独立なベクトルが選べる最大数は、少なくとも 以上である。
逆に、
が一次独立なら、
行列
を考えれば定理 10 より、
となるような
が少なくとも一組存在することになるから、
よって である。
に関しても同様なので、ゆえに、
一次独立なベクトルの組の最大数と、
は等しいことになる。
竹野茂治@新潟工科大学
2006年12月8日