7 一次独立性

一次独立性は、例年講義で紹介している話ではないが、 行列式の重要な性質の一つなので、ここでその証明を紹介しておく。 この証明も、通常は行列の階数を元に考えるのが普通だと思うが、 ここでは帰納法による証明を試みる。 ただし、そのため議論がやや煩雑になる。


定義 8


(20) の場合、$a_j\neq 0$ となる $a_j$ が少なくとも一つはあるので、 それを使って

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$x$}_j=\left(-\frac{a_1}{a_j}\right)\mbox{\bo...
...+1}
+\cdots+\left(-\frac{a_n}{a_j}\right)\mbox{\boldmath$x$}_n
\end{displaymath}

と書けることになり、 $\mbox{\boldmath$x$}_j$ が残りの他のものの一次結合となる。

逆に、 $\mbox{\boldmath$x$}_j$ が残りの他のものの一次結合であれば、

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$x$}_j
=b_1\mbox{\boldmath$x$}_1+\cdots+b_{j-...
...j+1}\mbox{\boldmath$x$}_{j+1}
+\cdots+b_n\mbox{\boldmath$x$}_n
\end{displaymath}

より、
\begin{eqnarray*}&&
b_1\mbox{\boldmath$x$}_1+\cdots+b_{j-1}\mbox{\boldmath$x$}_...
...\ &&
(b_1,\ldots,b_{j-1},-1,b_{j+1},\ldots,b_n)\neq (0,\ldots,0)\end{eqnarray*}


となるので一次従属となる。よって、一次従属であるとは、
「そのいずれかひとつが、他の残りのものの一次結合となる」
と言いかえることもできる。

例えば、平行でない 2 つの平面ベクトルや、 一つの平面に乗らない 3 つの空間ベクトルなどは一次独立であるが、 平行な 2 つのベクトルや、一つの平面上の 3 つ以上のベクトルなどは 一次従属である。


定理 9

$n$ 次正方行列

\begin{displaymath}
A=[\mbox{\boldmath$a$}_1\ \cdots\ \mbox{\boldmath$a$}_n]
...
...$}_1\\ \vdots \\ \mbox{\boldmath$\alpha$}_n\end{array}\right]
\end{displaymath}

に対して、次の 3 つの条件は同値になる。
  1. $\vert A\vert\neq 0$
  2. $\mbox{\boldmath$a$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$a$}_n$ は一次独立
  3. $\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_n$ は一次独立


この証明は、1. と 3. が 同値であることが言えれば、2. は、

\begin{displaymath}
{}^t\!A = \left[\begin{array}{c}{}^t\!\mbox{\boldmath$a$}_1 ...
...\end{array}\right],
\hspace{1zw}\vert{}^t\!A\vert=\vert A\vert
\end{displaymath}

より、
1. $\Leftrightarrow$ $\vert{}^t\!A\vert\neq 0$ $\Leftrightarrow$ ${}^t\!\mbox{\boldmath$a$}_1,\ldots,{}^t\!\mbox{\boldmath$a$}_n$ が一次独立 $\Leftrightarrow$ 2.
となって 1. と 2. が 同値であることも言えるから、 1. と 3. の同値性のみ 証明すればよい。

まず、1. $\Rightarrow$ 3 を示す。 もし $\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_n$ が一次独立でなければ、

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$\alpha$}_j
=
b_1\mbox{\boldmath$\alpha$}_1+\...
...\boldmath$\alpha$}_{j+1}
+\cdots+b_n\mbox{\boldmath$\alpha$}_n
\end{displaymath}

と書ける $\mbox{\boldmath$\alpha$}_j$ (と $b_k$) が存在するので、 系 4 より、
\begin{eqnarray*}\vert A\vert
&=&
\left\vert\begin{array}{c}\mbox{\boldmath$\a...
...dots\\ \mbox{\boldmath$\alpha$}_n\end{array}\right\vert
\right\}\end{eqnarray*}


となるが、この行列式はいずれも 1 行目に等しい他の行が存在するので すべて 0 になり、よって $\vert A\vert=0$ となる。 つまり、3. でなければ 1. でないことになり、背理法により 1. $\Rightarrow$ 3. が言えたことになる。

今度は 3. $\Rightarrow$ 1. を考えるが、この証明に帰納法を用いる。 $n=1$ のときは明らかに成り立つから、 $(n-1)$ 次では 1., 2., 3. の同値性が言えているとする。

3. $\Rightarrow$ 1. を示すために、 3. であって、かつ 1. でないとして 矛盾を導くことにする。 つまり、

$\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_n$ は一次独立で、 かつ $\vert A\vert=0$ である
と仮定する。

任意の $k$ ($1\leq k\leq n$) に対し、$\vert A\vert(=0)$$k$ 列目で展開すると、

\begin{displaymath}
\vert A\vert=\sum_{p=1}^n (-1)^{p+k} a_{pk}\Delta_{pk}(A)=0\end{displaymath} (21)

を得る。 一方、$j\neq k$ に対し、$A$$k$ 列目 ( $=\mbox{\boldmath$a$}_k$) を $A$$j$ 列目 ( $=\mbox{\boldmath$a$}_j$) で置きかえた行列 $\tilde{A}$ の行列式は、 系 6 より 0 になるが、これを $k$ 列目で展開すると
\begin{displaymath}
\vert\tilde{A}\vert=\sum_{p=1}^n (-1)^{p+k} a_{pj}\Delta_{pk}(A)=0\end{displaymath} (22)

となる。 つまり、(21), (22) より、 この場合は $j=k$ も含めてすべての $j$ に対して (22) が成り立つことになるので、
\begin{displaymath}
\sum_{p=1}^n (-1)^{p+k}\mbox{\boldmath$\alpha$}_p\Delta_{pk}...
...+k}[a_{p1}\ \cdots\ a_{pn}]\Delta_{pk}(A)
=\mbox{\boldmath$0$}
\end{displaymath}

が言える。 仮定により、 $\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_n$ は一次独立であるから、 その係数の $(-1)^{p+k}\Delta_{pk}(A)$ はすべて 0 でなければならない。

よって、すべての $p$ に対して $\Delta_{pk}(A)=0$ となることになるが、 $k$ も任意であったので、結局この場合すべての $i,j$ に対して $\Delta_{ij}(A)=0$ であることになる。

今、$A$ から $i$ 行目と $j$ 列目を取り除いた行列を $\delta_{ij}(A)$ と書くことにする (よって $\Delta_{ij}(A)=\vert\delta_{ij}(A)\vert$)。 すると、 $\delta_{ij}(A)$$(n-1)$ 次の正方行列で、 $\vert\delta_{ij}(A)\vert=\Delta_{ij}(A)=0$ なので、 帰納法の仮定により、その $(n-1)$ 個の行ベクトルは一次従属となる。

よって、任意の $j$ に対し、

\begin{displaymath}
\delta_{1j}(A)=\left[\begin{array}{c}%
\mbox{\boldmath$\til...
...dots \\ \mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}^j_n\end{array}\right]
\end{displaymath}

( $\tilde{\alpha}^j_k$$\alpha_k$ から $j$ 列目の成分を取り除いた $(n-1)$ 次元行ベクトル) とすれば
\begin{displaymath}
\tau_{j2}\mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}^j_2+\cdots
+\tau_{...
...$},
\hspace{1zw}
(\tau_{j2},\ldots,\tau_{jn})\neq (0,\ldots,0)
\end{displaymath}

となる $\tau_{jk}$ が存在することになる。 $\tau_{j1}=0$ と定めれば、これは
\begin{displaymath}
\tau_{j1}\mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}^j_1+\cdots
+\tau_{jn}\mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}^j_n=\mbox{\boldmath$0$}\end{displaymath} (23)

と書くこともできるから、
\begin{displaymath}
\lambda_j
=
\tau_{j1}a_{1j}+\cdots+\tau_{jn}a_{nj}
\end{displaymath}

とすれば、(23) より
\begin{displaymath}
\tau_{j1}\mbox{\boldmath$\alpha$}_1+\cdots+\tau_{jn}\mbox{\b...
...s\ \lambda_j\ \cdots\ 0]
=\lambda_j{}^t\!\mbox{\boldmath$e$}_j
\end{displaymath}

( $\mbox{\boldmath$e$}_j$ は、$j$ 番目の成分が 1 でそれ以外は全部 0 の $n$ 次元列ベクトル) となり、
\begin{displaymath}[\tau_{j1}\ \cdots\ \tau_{jn}]A=\lambda_j{}^t\!\mbox{\boldmath$e$}_j\end{displaymath} (24)

となることになる。

今、もし $\lambda_j=0$ であると、 $[\tau_{j1}\ \cdots\ \tau_{jn}]\neq [0\ \cdots\ 0]$ でかつ

\begin{displaymath}
\tau_{j1}\mbox{\boldmath$\alpha$}_1+\cdots+\tau_{jn}\mbox{\boldmath$\alpha$}_n=\mbox{\boldmath$0$}
\end{displaymath}

となるので、これは $\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_n$ が 一次独立であることに矛盾する。よって、 $\lambda_j\neq 0$ であることになる。

この (24) をすべての $j$ で考えれば、 結局 $T=[\tau_{ij}]$ に対し

\begin{displaymath}
TA = \mathrm{diag}\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}
\end{displaymath}

( $\mathrm{diag}\{a_1,\ldots,a_n\}$ は、 $a_1,\ldots,a_n$ を 対角成分とする対角行列) となることになる。

さて、この式の右辺は対角行列で、 その行列式は 1 列目から展開していけばわかるが、

\begin{displaymath}
\vert\mathrm{diag}\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}\vert=\lambda_1\cdots\lambda_n
\end{displaymath}

$\lambda_j$ の積となり、 $\lambda_j\neq 0$ よりこれは 0 ではない。 しかし左辺の行列式は、仮定 $\vert A\vert=0$ より $\vert TA\vert=\vert T\vert\vert A\vert=0$ となってしまうので、 よって $\lambda_1\cdots\lambda_n=0$ となり矛盾となる (なお、$T$$\tau_{j1}=0$ より 1 列目がすべて 0 なので $\vert T\vert=0$ でもある)。

よって、3. であって、かつ 1. でない とすると矛盾が起こることになり、ゆえに 3. $\Rightarrow$ 1. が言えることになる。


定理 10

$m\leq n$ に対して、$m\times n$ 行列

\begin{displaymath}
A= \left[\begin{array}{c}\mbox{\boldmath$\alpha$}_1\\ \vdots \\ \mbox{\boldmath$\alpha$}_m\end{array}\right]
\end{displaymath}

に対して、次の 2 つの条件は同値になる。
  1. $\vert A_{i_1,\ldots,i_m}\vert\neq 0$ となる $i_1<\cdots<i_m$ の組が存在する。
  2. $\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_m$ は一次独立


1. $\Rightarrow$ 2. は比較的容易であるので、まずこちらを示す。

\begin{displaymath}
\vert A_{i_1,\ldots,i_m}\vert\neq 0\hspace{1zw}(1\leq i_1<\cdots<i_m\leq n)
\end{displaymath}

とすると、定理 9 より、この行列の行ベクトル
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\t...
...\ \mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}_m\end{array}\right]
\right)
\end{displaymath}

は一次独立となる。よって、
\begin{displaymath}
c_1\mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}_1 + \cdots +c_m\mbox{\boldmath$\tilde{\alpha}$}_m=\mbox{\boldmath$0$}\end{displaymath} (25)

ならば、必ず $(c_1,\ldots,c_m)=(0,\ldots,0)$ となる。

今、

\begin{displaymath}
c_1\mbox{\boldmath$\alpha$}_1 + \cdots +c_m\mbox{\boldmath$\alpha$}_m=\mbox{\boldmath$0$}
\end{displaymath}

であるとすると、この式の $i_1,\ldots,i_m$ 成分が (25) であるので、よって $(c_1,\ldots,c_m)=(0,\ldots,0)$ となる。 ゆえに $\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_m$ は一次独立である。

次に、2. $\Rightarrow$ 1. を、$n$ に関する帰納法で証明する。 $n=m$ のときは、定理 9 より明らかに成り立つので、 $n>m$ として、$(n-1)$ のときに成り立つとして $n$ のときに 成り立つことを示す。そして、そのために、 2. であって、かつ 1. でない として矛盾を導く。すなわち、

$\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_m$ は一次独立で、かつ、 すべての $i_1<\cdots<i_m$ に対して、
$\vert A_{i_1,\ldots,i_m}\vert=0$ である
と仮定する。

今、$A$ から $j$ 列目を取り除いた $m\times (n-1)$ 行列 $A_{1,\ldots,j-1,j+1,\ldots,n}$$A^{(j)}$ と書くこととし、 その行ベクトルを上から順に $\mbox{\boldmath$\alpha$}^j_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}^j_m$ と書くことにする。

\begin{displaymath}
A^{(j)}=A_{1,\ldots,j-1,j+1,\ldots,n}
=\left[\begin{array}{c...
...j_1\\ \vdots \\ \mbox{\boldmath$\alpha$}^j_m\end{array}\right]
\end{displaymath}

この $A^{(j)}$ に対しても、仮定よりすべての $1\leq i_1<\cdots<i_m\leq n-1$ に対して、

\begin{displaymath}
\vert A^{(j)}_{1,\ldots,j-1,j+1,\ldots,n}\vert=0
\end{displaymath}

が成り立つことになるので、よって帰納法の仮定により、 $A^{(j)}$ の行ベクトル $\mbox{\boldmath$\alpha$}^j_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}^j_m$ は 一次従属となる。よって、
\begin{displaymath}
\tau_{j1}\mbox{\boldmath$\alpha$}^j_1+\cdots+\tau_{jm}\mbox...
...},
\hspace{1zw}
(\tau_{j1},\ldots,\tau_{jm})\neq (0,\ldots,0)\end{displaymath} (26)

となる $\tau_{jk}$ が存在する。
\begin{displaymath}
\tau_{j1}a_{1j}+\cdots+\tau_{jm}a_{mj}=\lambda_j
\end{displaymath}

とすれば、(26) より
\begin{displaymath}
\tau_{j1}\mbox{\boldmath$\alpha$}_1+\cdots+\tau_{jm}\mbox{\boldmath$\alpha$}_m
=\lambda_j{}^t\!\mbox{\boldmath$e$}_j\end{displaymath} (27)

となる。もし、$\lambda_j=0$ ならば、(27) は $\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_m$ が一次従属であることを意味するので 仮定に反する。よって $\lambda_j\neq 0$ である。 (27) は
\begin{displaymath}[\tau_{j1}\ \cdots\ \tau_{jm}]A=\lambda_j{}^t\!\mbox{\boldmath$e$}_j
\end{displaymath}

となるので、$1\leq j\leq n$ のものをすべて合わせれば、
\begin{displaymath}
T=[\tau_{ij}]=\left[\begin{array}{ccc}\tau_{11}&\cdots&\tau_...
..._{nm}\end{array}\right]
\hspace{1zw}(\mbox{$n\times m$\ 行列})
\end{displaymath}

に対し
\begin{displaymath}
TA = \mathrm{diag}\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}
\end{displaymath}

となる。この行列式を考えれば、
\begin{displaymath}
\vert\mathrm{diag}\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}\vert=\lambda_1\cdots\lambda_n\neq 0
\end{displaymath}

となる。 一方、$T$$n\times m$ 行列、$A$$m\times n$ 行列で $n>m$ であるから、 定理 7 により $\vert TA\vert=0$ となるので矛盾となる。 これで定理 10 が示されたことになる。

この定理を用いれば、行列の階数 (ランク) と一次独立性の定理も証明できるので、 それもついでに紹介しておく。 $A$$m\times n$ 行列とし、$k\leq n$ かつ $k\leq m$ のとき、 $1\leq i_1<\cdots<i_k\leq m$, $1\leq j_1<\cdots<j_k\leq n$ に対し

\begin{displaymath}
\left\vert A^{i_1,\ldots,i_k}_{j_1,\ldots,j_k}\right\vert
\end{displaymath}

の形の行列式を、A の $k$ 次の 小行列式 と呼ぶ。

$k$ 次の小行列式がすべて 0 なら、$p>k$ に対し、 $p$ 次の小行列式もすべて 0 となることが展開定理から容易に分かるので、 よって、$A$ に対して

$(k+1)$ 次以上の小行列式はすべて 0 で、 $k$ 次 (および $k$ 以下の次数) の小行列式には、 少なくとも一つ 0 でないものがある」
を満たすような $k$ が一つ定まることになる。 この $k$$A$階数 または ランク と呼び、 $\mathrm{rank}A$ であらわす。 なお、定理 10 のような場合は $\mathrm{rank}A=m$, 零行列の場合は $\mathrm{rank}O=0$ と見る。


定理 11

\begin{displaymath}
A=[\mbox{\boldmath$a$}_1\ \cdots\ \mbox{\boldmath$a$}_n]
...
...$}_1\\ \vdots \\ \mbox{\boldmath$\alpha$}_m\end{array}\right]
\end{displaymath}

に対し、 $k=\mathrm{rank}A$ は、ベクトルの組 $\{\mbox{\boldmath$a$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$a$}_n\}$ から取り出せる一次独立なベクトルの組の 最大の個数に等しく、 $\{\mbox{\boldmath$\alpha$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_m\}$ から取り出せる一次独立なベクトルの組の 最大の個数に等しい。


これは、定理 10 より容易に示される。 $k=\mathrm{rank}A$ より、

\begin{displaymath}
\left\vert A^{i_1,\ldots,i_k}_{j_1,\ldots,j_k}\right\vert\neq 0
\end{displaymath}

となるような $1\leq i_1<\cdots<i_k\leq m$, $1\leq j_1<\cdots<j_k\leq n$ が少なくとも 一つ存在するが、この場合、定理 10 より明らかに $\mbox{\boldmath$\alpha$}_{i_1},\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_{i_k}$ は一次独立で、 $\mbox{\boldmath$a$}_{j_1},\ldots,\mbox{\boldmath$a$}_{j_k}$ も一次独立となる。 よって、一次独立なベクトルが選べる最大数は、少なくとも $k$ 以上である。

逆に、 $\mbox{\boldmath$\alpha$}_{i_1},\ldots,\mbox{\boldmath$\alpha$}_{i_p}$ が一次独立なら、 行列 $A^{i_1,\ldots,i_p}$ を考えれば定理 10 より、

\begin{displaymath}
\left\vert A^{i_1,\ldots,i_p}_{j_1,\ldots,j_p}\right\vert\neq 0
\end{displaymath}

となるような $1\leq j_1<\cdots<j_p\leq n$ が少なくとも一組存在することになるから、 よって $p\leq k$ である。

$\mbox{\boldmath$a$}_j$ に関しても同様なので、ゆえに、 一次独立なベクトルの組の最大数と、 $\mathrm{rank}A$ は等しいことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2006年12月8日