7 最後に

本稿では、高校の教科書に書かれているものとは異なる 実数乗の定義の仕方と、それによる指数法則の証明などを紹介したが、 私は「実数乗をこのように定義すべき」と考えているわけではない。 実際、本文を見てわかるように、 この方法は極限に関してほぼ高校の数学 III レベルの知識を必要とするため、 高校生に指数関数の定義として本稿のように説明するのは現実的ではない。 あくまで、実数乗の定義には別な方法もある、という例を示しているだけで、 むしろ通常の「有理数乗の極限」の方が自然だろうと思う。

ただ、このような議論は無駄なわけではなく、 例えばコンピュータ上の計算では、一般の実数乗よりも $e^x$ の方が、 そして常用対数よりも自然対数の方が簡単に計算できるため、 一般の実数乗を $e^x$ と自然対数で計算する式 (2) (すなわち (29)) が 数値計算では普通に使われている。 よって関数電卓などで一般の底の有理数乗や無理数乗を求める場合も、 実は見えないところで $e^x$ や自然対数が使われていたりするし、 自分で数値計算する場合には (29) が 直接必要となることもある。

また、今回 (3) を複素数乗にも使ってみて、 オイラーの公式を比較的容易に示せることを確認できたのは 個人的には良かったと思う。 従来オイラーの公式を説明する際は、 多くの本に書かれている通りテイラー展開の式に複素数を代入する方法や、 (34) などの状況証拠で説明をしていたが、 いずれもややもの足りない感じがしていた。 それに比べて、今回の (3) による方法は、 多少面倒なところはあるが比較的「証明」らしいし、 納得しやすい感じもするので、 もしかしたら講義の参考資料にでも使えるかもしれない。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月2日