1 はじめに

以前、高校の数学教員から、高校の数学では指数を拡張して 指数関数 $a^x$ を考えるが、$x$ が有理数まではちゃんと定義するものの 実数への拡張は適当に流している、もう少しちゃんと定義できないか、 という質問を受けたことがある。

確かに「無理数乗」をちゃんと定義することは容易ではなく、 通常高校の教科書でさらっと触れている「有理数乗の極限」による定義も、 以下にあるようにそれなりの準備が必要となる。

この方向での実数乗の詳しい説明は、 例えば [1] の第 3 章 §3 に書かれているが、 そこでは上限 ($\sup$)、下限 ($\inf$) を使っているので、 その前にある程度の実数論と上限、下限に関する議論などが必要となる。

一方で、オイラーも指摘している ([3] 13 節、 または [4] 5.4 節) ように、 指数関数「$e^x$」は有理数乗の極限を用いなくても、 自然数乗と極限だけで以下の式によって得られる。

\begin{displaymath}
e^x = \lim_{n\rightarrow \infty}{\left(1+\frac{x}{n}\right)^{n}}\end{displaymath} (1)

これを $e^x$ の定義として考えれば有理数乗の極限によらずに $e^x$ が得られ、 その逆関数により自然対数 $\log x$ ($=\log_e x$) を定義すれば、 一般の正の実数 $a$ ($>0$) の $x$ 乗も、
\begin{displaymath}
a^x = e^{x\log a}\end{displaymath} (2)

により、有理数乗の極限を使わずに得られる。 そしてこの方向なら、累乗は自然数乗しか使わないので、 負の整数乗や有理数乗などの拡張をせずに、 実数乗をすべてこの式で定義してしまうことすら可能である。

本稿では、このような方向で指数関数を定義する場合、 その性質等の証明等を紹介する。 上で述べたように、本稿では負の整数乗、有理数乗すら仮定せず、 そして使わずに、通常のそれらと同等のもの、 および指数法則、指数関数の性質が成り立つことなどを考察する。 最後に、さらなる発展として複素数乗についても考察する。

なお、本稿では、ほぼ高校程度 (数学 I,II,III) の数学の知識のみを 仮定して話をするが、それを越える理論、議論が必要となる部分では、 そこで必要となる知識を紹介し、それを認めて話を進めることとする。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月2日