6 複素数乗

$\exp(x)$ の定義式 (3) の発展として、 最後に「複素数乗」を考えてみる。 (3) の定義は単に自然数乗しか使わないので、 この式の $x$ を複素数にしても問題はない。 それにより、いわゆるオイラーの公式による複素数乗が 得られるのかを考えてみる。

なお、その考察のために、まず複素数列の収束性を定義し、 複素数の極形式、ド・モアブルの公式を復習しておく。

さて、まず (3) の右辺の $x$$x=i\alpha$ ($\alpha$ は実数) とした式の極限を考える。 $1+i\alpha/n$ を極形式で表すと、
\begin{displaymath}
1+\frac{i\alpha}{n}
= \sqrt{1+\frac{\alpha^2}{n^2}}\,(\cos\...
...),
\hspace{1zw}
\beta_n = \arg\left(1+\frac{i\alpha}{n}\right)
\end{displaymath}

となる。ここで、$\beta_n$ $-\pi/2<\beta_n<\pi/2$ と取れ、 $r\cos\beta_n = 1$, $r\sin\beta_n = \alpha/n$ より、 $\tan\beta_n = \alpha/n$ であることに注意する。 ド・モアブルの公式より、
$\displaystyle f_n(i\alpha)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left(1+\frac{i\alpha}{n}\right)^n
\ = \ \left(\sqrt{1+\frac{\alpha^2}{n^2}}\right)^n
(\cos\beta_n+i\sin\beta_n)^n$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sqrt{\left(1+\frac{\alpha^2}{n^2}\right)^n}
\,(\cos n\beta_n+i\sin n\beta_n)$ (36)

となるが、先頭の根号の中身は命題 4 により、 $n\rightarrow\infty$ のときに 1 に収束する。 一方、 $\tan\beta_n = \alpha/n\rightarrow 0$ であるから $\beta_n\rightarrow 0$ であり、よく知られているように
\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow 0}\frac{\tan x}{x} = 1
\end{displaymath}

であるから、
\begin{displaymath}
n\beta_n
= n\tan\beta_n \times\frac{\beta_n}{\tan\beta_n}
=...
...an\beta_n}
\rightarrow \alpha
\hspace{1zw}(n\rightarrow\infty)
\end{displaymath}

となることがわかる。よって、$f_n(i\alpha)$ の極限は、
\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow \infty}{f_n(i\alpha)}
= \lim_{n\rightar...
...}{\left(1+\frac{i\alpha}{n}\right)^n}
= \cos\alpha+i\sin\alpha\end{displaymath} (37)

となるから、これにより $\exp(x)$ を (3) によって 複素数に拡張すると、
\begin{displaymath}
\exp(i\alpha) = \cos\alpha+i\sin\alpha\end{displaymath} (38)

が成り立つことになる。これは、いわゆるオイラーの公式 「 $e^{i\alpha}=\cos\alpha+i\sin\alpha$」に対応する。

さらに $x$ を一般の複素数 $z=x+iy$ ($x,y$ は実数) とすると、

\begin{displaymath}
1+\frac{x+iy}{n}
= \sqrt{\left(1+\frac{x}{n}\right)^2+\frac...
...ce{1zw}
\gamma_n = \arg\left(1+\frac{x}{n}+\frac{yi}{n}\right)
\end{displaymath}

となり、$n>\vert x\vert$ である $n$ を考えれば $1+x/n>0$ なので、
\begin{displaymath}
-\frac{\pi}{2}<\gamma_n<\frac{\pi}{2},
\hspace{1zw}
\tan\gam...
...= \frac{y}{n+x}
\rightarrow 0
\hspace{1zw}(n\rightarrow\infty)
\end{displaymath}

より、 $\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}{\gamma_n}=0$
\begin{displaymath}
n\gamma_n
= n\tan\gamma_n\times\frac{\gamma_n}{\tan\gamma_n...
...}{\tan\gamma_n}
\rightarrow y
\hspace{1zw}(n\rightarrow\infty)
\end{displaymath}

となることがわかる。 一方、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{
\left\{\left(1+\frac{x}{n}\right)^2+\frac{y^2}{n^2}\...
...\frac{2x}{n}\right)^{n}\left(1+\frac{x^2+y^2}{n^2+2nx}\right)^{n}\end{eqnarray*}


であり、これは命題 4 により、 $n\rightarrow\infty$ のときに $\exp(2x)\times 1$ に収束する。 よって、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\lim_{n\rightarrow \infty}{\left(1+\frac{x+iy}{n}\righ...
...
\sqrt{\exp(2x)}\,(\cos y+i\sin y)
\ =\ \exp(x)(\cos y+i\sin y)\end{eqnarray*}


となることが (24) からわかる。これは、
\begin{displaymath}
\exp(z)=\exp(x+iy)=\exp(x)(\cos y+i\sin y)\end{displaymath} (39)

を意味し、これも通常の $e$ の複素数乗の式に対応する。

そして、(39) を用いれば、複素数に対する指数法則

\begin{displaymath}
\exp(z)\exp(w) = \exp(z+w),
\hspace{1zw}\frac{\exp(z)}{\exp(w)} = \exp(z-w),
\hspace{1zw}\exp(z)^n = \exp(nz)\end{displaymath} (40)

($n$ は自然数) も容易に示される。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月2日