2 極限の存在
本稿では、実数 に対して、
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(3) |
の極限により を定義し、
これが通常の「」が持つべき性質を持つことを色々示していく。
まず最初に、(3) の右辺の極限が
すべての実数 に対して存在することを示すが、
そのために、次の定理を用いる。
- 定理 1. (単調収束定理)
-
実数列 が単調増加 (
) で、
かつ上に有界、すなわちすべての に対して となるような
有限な実数 が取れるとき、 は有限な極限値 を持つ:
これは、実数論 (実数の定義) とも深く関わっていて、
簡単に証明できる定理ではないので (例えば [1] 第 2 章)、
ここではこれが成り立つことを認めることとする。
以後
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(4) |
と置く。
まず、 を固定すると、数列 が単調増加であること、
すなわち、, に対して、
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(5) |
が成り立つことを示す。
は 次式、 は 次式であるが、
まずその各 次 () の係数を比較する。
2 項定理より、 の の係数 は
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(6) |
であり、これは ならば
と変形できる。
同様に、 の の係数は で、よって
となる。
この 2 式を見比べれば、 に対して
が成り立つことが容易にわかる。 に対しては、
といずれも によらずに 1 になるので、
となる。
そして、 の方には、 次の正の項
も含まれるので、
よってこれらより確かに (5) が成り立つことがわかる。
次は、 を固定したときに が に関して上に有界で
あることを示す。まず、 に対して、
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(8) |
が成り立つことに注意する。これは、 に対しては、
, より確かに成立し、 に対しては、
(7) より
が成り立つことがわかる。
に対する と の関係は、
となるので、よってこれで (8) が成り立つことになる。
今、固定した に対して、 となる自然数 を一つ取って
固定する。このとき、 となる に対して、
となるような有限な値 が取れることを示す。
なお、 は , で表される式となるが、
, は固定しているため には無関係な値となるので、
これで に対しては は上に有界であることがわかり、
, , , ... の中の最大値を とすれば、
も には無関係で、
かつすべての に対して が成り立つことになる。
これで、 を固定すれば はすべての に対して
上に有界であることが示されることになる。
よって以後 の場合のみを考える。
まず、(8) より、
が成り立つことがわかる。
より、 である に対しては、
となり、よって、
となる。ここで、
なので、よって は、
となり、確かに にはよらない値で上から抑えられる。
ゆえに、定理 1 により、 に対しては、
(3) の右辺が収束することが示されたことになる。
のときは、(3) の右辺は当然収束し 1 となる。
よって、あとは の場合を考えればよい。
() とすると、
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(9) |
となり、この分母はさらに
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(10) |
となるが、この最後の項の
の極限を、
はさみうちの原理を用いて求めてみる。
- 定理 2. (はさみうちの原理)
-
- 実数列 , がすべての に
対し で、かつ
,
(, は有限値) のとき、
となる。
- 実数列 , , がすべての に
対し
で、
かつ
のとき、
も存在して になる。
この定理 2 の成立も認めることとする (詳しくは [1] 第 1 章)。
である を考えると、 なので、
より、
は に対して
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(11) |
とはさまれることがわかる。
次の命題 3 を用いると
この右辺の極限が 1 であることがわかり、
よって定理 2 により の極限は 1 となる。
- 命題 3.
-
で
のとき、
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(12) |
この命題 3 は、
と考えれば簡単そうに見えるかもしれないが、
そのような極限の計算では指数関数 の での連続性を
用いることになる。本稿では、まだ指数関数を導入する前の話であるし、
本稿では有理数乗も用いないので、
それらを使わずに命題 3 を示す必要がある。
- 証明 (命題 3)
-
極限の話なので、あるところから先の のみを考えればよいが、
より
であり、また なので、
あるところから先の に対しては
で
あるとしてよい (厳密には、[1] 等の極限の定義による)。
このとき、
より
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(13) |
となる。 乗は単調であるからその逆である 乗根も単調、
よって (13) より
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(14) |
となるから、あとは任意の正の定数 () に対して
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(15) |
が言えれば、(14) と
はさみうちの原理により (12) が成り立つことがわかる。
よって (15) を示す。
まず、 ならば
より (15) は成立する。
のときは、
より、
とすると であり、
よって に対して
となり、よって
となるので、はさみうちの原理により
と
なることがわかる。
これで (15) が示される。
最後に、 の場合は、
とすれば で、
であり (最後の等式は、 乗すれば
いずれも になることからわかる)、
この最後の分母は上に示したことにより 1 に収束するから、
よって の場合も (15) が
成り立つことがわかる。
命題 3 を不等式 (11) に適用する。
(11) の右辺は
であり、この極限が存在することは より既に保証されている。
よって命題 3 より
となるので、はさみうちの原理により、
となる。
(10) に戻ると、
結局 (10) の極限は
となるので、
よって、(9) より
となる。
すなわち、 の場合も (3) の右辺は収束し、
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(16) |
が成り立つ。これは、「」の指数法則に対応する。
なお、(16) の逆数を取ればわかるが、
これは が正か負かに関わらずに成り立つ。
また、上の の収束性の議論を少し一般化させると、
次が成り立つことを示すことができる。
- 命題 4.
-
定数 , に対して、
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(17) |
- 証明
-
である に対し、
なので、
となるから、さらに でもあるとすれば であり、
よって
が成り立ち、
なので、命題 3 とはさみうちの原理により (17) が成り立つことがわかる。
竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月2日