5 原始関数のラプラス変換

もう一つ、ラプラス変換の単射性を示すために利用する、 原始関数のラプラス変換の公式
$\displaystyle
\mathcal{L}\left[\int_0^x f(t)dt\right](s) = \frac{1}{s}\,\mathcal{L}[f](s)
\hspace{1zw}(s>0)$ (22)
を本節で示しておく。なお、$f(x)$$IPC$$IPR$, $ILM$ の いずれかであるとし、よって $\mathcal{L}[f]$ は、 3 節の結果により $s>0$ で存在する。

まずは、$f(x)\in IPC$ の場合を考える。 この場合は、通常の証明と同じだが、一応示す。 以後、本節を通して

$\displaystyle
F(x) = \int_0^x f(t)dt$ (23)
とする。 $f(x)\in IPC$ より、$F(x)$ は連続、$F(0)=0$ で、$F(\infty)$ も存在し、 よって $F(x)$ は有界で、$s>0$ に対し、
$\displaystyle {\mathcal{L}[F(x)](s)
\ =\
\int_0^\infty F(x)e^{-sx}dx
\ =\
\lim_{M\rightarrow \infty}{\int_0^M e^{-sx}dx\int_0^x f(t)dt}}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \lim_{M\rightarrow \infty}{\int_0^M f(t)dt\int_t^M e^{-sx}dx}
\ =\
\frac{1}{s}\lim_{M\rightarrow \infty}{\int_0^M f(t)(e^{-st}-e^{-sM})dt}$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{s}\lim_{M\rightarrow \infty}{\left\{\int_0^M f(t)e^{-st}dt
- e^{-sM}F(M)\right\}}$(24)
となるが、仮定、および定理 3 より
$\displaystyle \int_0^\infty f(t)e^{-st}dt = \mathcal{L}[f](s),
\hspace{1zw}F(\infty)
$
は存在するので、(24) の極限も存在し $\mathcal{L}[f](s)/s$ となるので、 これで $f(x)\in IPC$ の場合は (22) が示された。

次は $f(x)\in ILM$ の場合を考える。 この場合、仮定より、

$\displaystyle
\int_0^\infty \vert f(x)\vert dx < \infty
$
であり、また
$\displaystyle \int_0^\infty \vert e^{-sx}\vert dx <\infty
$
であるから、定義関数 $\chi_A(t)$
$\displaystyle
\chi_A(t) = \left\{\begin{array}{ll}
1 & (t\in A),\\
0 & (t\not\in A)
\end{array}\right.$ (25)
とすると、
$\displaystyle F(x) = \int_0^x f(t)dt = \int_0^\infty f(t)\chi_{[0,x]}(t)dt
$
なので、フビニの定理により、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\mathcal{L}[F(x)](s)
\ =\
\int_0^\infty e^{-sx}dx\i...
...{1}{s}\,e^{-st}-0\right)dt
\ =\
\frac{1}{s}\,\mathcal{L}[f](s)\end{eqnarray*}
となって (22) が成り立つ。 これで $f(x)\in ILM$ の場合も (22) が示された。

最後は $f(x)\in IPR$ の場合。 この場合、リーマン広義積分に対し、積分の順序交換が成り立つかを 丁寧に吟味する必要がある。 $f(x)$ の除外集合を $\{a_n\}_{0\leq n\leq N}$, $a_{N+1}=\infty$, および (3) の $b_n$ を取る。

補題 6 (リーマン広義積分での順序交換)

$0\leq n\leq N$ に対して、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{a_n}^{a_{n+1}} e^{-sx}dx\int_{a_n}^x f(t)dt
\ =...
...st}dt
-\,\frac{1}{s}\,e^{-sa_{n+1}}\int_{a_n}^{a_{n+1}} f(t)dt
\end{eqnarray*}
が成り立つ。
証明

(15), (16) を 利用する。積分を分けて、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{a_n}^{a_{n+1}} e^{-sx}dx\int_{a_n}^x f(t)dt
\ =...
...^{a_{n+1}}e^{-sx}dx\int_{b_n}^x f(t)dt
\\ &=&
I_1 + I_2 + I_3
\end{eqnarray*}
とすると、$I_1$
$\displaystyle I_1 = \frac{1}{s}(e^{-sa_n}-e^{-sa_{n+1}})\int_{a_n}^{b_n}f(t)dt
$
で、$I_2$, $I_3$ には $f\in IPR$ より (15), (16) を 適用すれば、
\begin{eqnarray*}I_2
&=&
\frac{1}{s}\int_{a_n}^{b_n}f(t)e^{-st}dt
-\,\frac{1}...
...-st}dt
-\,\frac{1}{s}\,e^{-sa_{n+1}}\int_{b_n}^{a_{n+1}}f(t)dt
\end{eqnarray*}
となる。よってこれらを合わせれば、
$\displaystyle I_1+I_2+I_3
=
\frac{1}{s}\int_{a_n}^{a_{n+1}}f(t)e^{-st}dt
-\,\frac{1}{s}\,e^{-sa_{n+1}}\int_{a_n}^{a_{n+1}}f(t)dt
$
となって、補題 6 の最後の式が得られる。


この補題を用いて、$f\in IPR$ のときの (22) を示す。

この場合も、(23) の $F(x)$ は連続、$F(+0)=0$ で、 $F(\infty)$ は存在し、よって $F(x)$ は有界となり、$s>0$$F(x)$ の ラプラス変換は存在する。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\mathcal{L}[F(x)](s)
\ =\
\int_0^\infty F(x)e^{-sx}...
...+ \sum_{n=0}^N\int_{a_n}^{a_{n+1}} e^{-sx}dx
\int_{a_n}^x f(t)dt\end{eqnarray*}
と分け、
\begin{eqnarray*}I_{n,k}
&=&
\int_{a_n}^{a_{n+1}} e^{-sx}dx
\int_{a_k}^{a_{k...
...n+1}} e^{-sx}dx
\int_{a_n}^x f(t)dt
\hspace{1zw}(0\leq n\leq N)\end{eqnarray*}
とすると、
$\displaystyle I_{n,k}
= \int_{a_n}^{a_{n+1}} e^{-sx}(F(a_{k+1})-F(a_k))dx
=\frac{1}{s}(e^{-sa_n}-e^{-sa_{n+1}})(F(a_{k+1})-F(a_k))
$
であり、よってその和は、$F(a_0)=F(0)=0$ より、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{
\sum_{n=1}^N\sum_{k=0}^{n-1}I_{n,k}
\ =\
\frac{1}...
...=\
\frac{1}{s}\sum_{n=1}^N(e^{-sa_n}F(a_n)-e^{-sa_{n+1}}F(a_n))\end{eqnarray*}
となる。 一方、$J_n$ は補題 6 より 積分の順序交換ができて、
\begin{eqnarray*}J_n
&=&
\int_{a_n}^{a_{n+1}} f(t)dt\int_t^{a_{n+1}}e^{-sx}dx
...
...} f(t)e^{-st}dt
-\,\frac{1}{s}\,e^{-sa_{n+1}}(F(a_{n+1})-F(a_n))\end{eqnarray*}
となるので、その和は
\begin{eqnarray*}\sum_{n=0}^NJ_n
&=&
\frac{1}{s}\sum_{n=0}^N\int_{a_n}^{a_{n+1...
...}^{N+1}e^{-sa_n}F(a_n)
-\sum_{n=0}^N e^{-sa_{n+1}}F(a_n)\right\}\end{eqnarray*}
となる。よって、合計すると、
\begin{eqnarray*}\mathcal{L}[F(x)](s)
&=&
\sum_{n=1}^N\sum_{k=0}^{n-1}I_{n,k} ...
...c{1}{s}\,e^{-sa_{N+1}}F(a_{N+1})
+\,\frac{1}{s}\,e^{-sa_1}F(a_0)\end{eqnarray*}
となるが、 $a_{N+1}=\infty$, $a_0=0$ より $e^{-sa_{N+1}}=0$, $F(a_0)=0$ となるので、これで $IPR$ の場合も (22) が 成り立つことがわかった。

定理 7 (原始関数のラプラス変換)

$f$$IPC$, $IPR$, $ILM$ のいずれかの元であれば、 $s>0$ に対し (22) が成り立つ。
竹野茂治@新潟工科大学
2023-08-07