3 ラプラス変換の存在性と収束点

前節の $PC$, $RP$, $LM$ のそれぞれに対してラプラス変換の存在、 特に収束点の存在について考察する。

$s_0$$f(x)$ のラプラス変換の 収束点 であるとは、

を満たすこと。そのような収束点が存在することを示すために、 次の命題を考える。

命題 A


$\mathcal{L}[f(t)](s_1)$ が収束 $\Rightarrow$ $s>s_1$ のすべての $s$ に対し $\mathcal{L}[f(t)](s)$ は収束」
この命題 A が成り立てば、収束点が存在することは容易にわかる。

前節の $IPC$, $IPR$, $ILM$ の 3 つの範疇でそれぞれ命題 A が 成り立つかどうかを考える。実は $ILM$ の範疇での命題 A が一番易しい。

定理 2 ($ILM$ での収束点の存在)

$f(x)\in LM$$s=s_1$ に対して $f(x)e^{-s_1 x}\in ILM$
$\Rightarrow$ $s>s_1$ に対して $f(x)e^{-s x}\in ILM$
証明

仮定、および (6) より、

$\displaystyle \int_0^\infty\left\vert f(x)e^{-s_1 x}\right\vert dx < \infty
$
であるが、
$\displaystyle \left\vert f(x)e^{-s x}\right\vert
=\left\vert f(x)e^{-s_1 x}e^{-(s-s_1)x}\right\vert
\leq\left\vert f(x)e^{-s_1 x}\right\vert
$
より
$\displaystyle \int_0^\infty\left\vert f(x)e^{-s x}\right\vert dx
\leq \int_0^\infty\left\vert f(x)e^{-s_1 x}\right\vert dx < \infty
$
となる。


次は $IPC$ の範疇で考える。

$f(x)\in PC$ とし、 $f(x)e^{-s_1 x}\in IPC$ であるとする。 この場合、広義リーマン積分になるのは $\infty$ のみである。 今、

$\displaystyle
g(x) = \int_0^x f(t)e^{-s_1t}dt$ (10)
とすると、$g(x)$ は連続で、また仮定より
$\displaystyle
g(\infty)=\lim_{x\rightarrow \infty}{g(x)}=\int_0^\infty f(t)e^{-s_1t}dt$ (11)
は収束し、よって $g(x)$$[0,\infty)$ で有界となる。 このとき、$s>s_1$, $M>0$ に対し $p=s-s_1>0$ とすると、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_0^M g(x)e^{-px}dx
\ =\
\int_0^M e^{-px}dx \int...
... =\
\frac{1}{p}\int_0^M f(t)e^{-st}dt -\,\frac{1}{p}e^{-pM}g(M)\end{eqnarray*}
より、
$\displaystyle
\int_0^M f(t)e^{-st}dt = e^{-pM}g(M) + p\int_0^M g(x)e^{-px}dx$ (12)
となる。 $g(x)$ は連続で有界なので、 $M\rightarrow\infty$ とすると、
$\displaystyle e^{-pM}g(M)\rightarrow 0,
\hspace{1zw}\int_0^M g(x)e^{-px}dx \rightarrow \int_0^pg(x)e^{-px}dx = \mathcal{L}[g(x)](p)
$
となるから、
$\displaystyle \int_0^\infty f(t)e^{-st}dt
$
も収束する。これで次が言えた。

定理 3 ($IPC$ での収束点の存在)

$f(x)\in PC$$s=s_1$ に対して $f(x)e^{-s_1 x}\in IPC$
$\Rightarrow$ $s>s_1$ に対して $f(x)e^{-s x}\in IPC$

最後は $IPR$ の範疇での収束点の存在。 $f(x)\in PR$, $g(x)=f(x)e^{-s_1 x}\in IPR$ とする。 $f(x)$ の除外集合を $0=a_0<a_1<\cdots<a_N$ とし、 $a_{N+1}=\infty$, および (3) の $b_n$ を取る。 仮定より、広義リーマン積分

$\displaystyle \int_{a_n}^{b_n}g(x)dx = \int_{a_n}^{b_n}f(x)e^{-s_1 x}dx, \hspace{1zw}\int_{b_n}^{a_{n+1}}g(x)dx = \int_{b_n}^{a_{n+1}}f(x)e^{-s_1 x}dx
$
$0\leq n\leq N$ に対しすべて収束する。今、
$\displaystyle
h_n(x) = \int_{b_n}^x g(t)dt = \int_{b_n}^x f(t)e^{-s_1t}dt\hspace{1zw}(a_n<x<a_{n+1},\hspace{0.5zw}0\leq n\leq N)$ (13)
とすると、$h_n(x)$ は連続で、$h_n(a_n+0)$, $h_n(a_{n+1}-0)$ が 存在することになり、よって有界である。

ちなみに、この $h_n(x)$ を全部つないで作った関数

$\displaystyle h(x) = h_n(x) \hspace{1zw}(a_n<x<a_{n+1})
$
$h(x)\in PC$ となる。

$a_n<y<a_{n+1}$, $p=s-s_1>0$ に対し、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{b_n}^y h_n(x)e^{-px}dx
\ =\
\int_{b_n}^y e^{-...
...rac{1}{p}\int_{b_n}^y g(t)e^{-pt}dt -\,\frac{1}{p}\,e^{-py}h_n(y)\end{eqnarray*}
より、
$\displaystyle
\int_{b_n}^y g(t)e^{-pt}dt
=e^{-py}h_n(y)+p\int_{b_n}^y h_n(x)e^{-px}dx$ (14)
となる。よって、仮定より $y\rightarrow a_n+0$, $y\rightarrow a_{n+1}-0$ に 対してこれは収束し、よって、
$\displaystyle \int_{a_n}^{b_n}g(t)e^{-pt}dt=\int_{a_n}^{b_n}f(t)e^{-st}dt, \hspace{1zw}\int_{b_n}^{a_{n+1}}g(t)e^{-pt}dt=\int_{b_n}^{a_{n+1}}f(t)e^{-st}dt
$
$0\leq n\leq N$ に対しすべて収束することになる。

定理 4 ($IPR$ での収束点の存在)

$f(x)\in PR$$s=s_1$ に対して $f(x)e^{-s_1 x}\in IPR$
$\Rightarrow$ $s>s_1$ に対して $f(x)e^{-s x}\in IPR$
よって、3 種類の積分の範疇いずれでも命題 A が成立することがわかり、 収束点が存在することが示された。

さらに、今の証明の (14) の $y$ に関する 極限を式にすれば、$g(x)\in IPR$, $p>0$ に対し、

$\displaystyle \int_{a_n}^{b_n}g(t)e^{-pt}dt$ $\textstyle =$ $\displaystyle e^{-pa_n}\int_{a_n}^{b_n}g(t)dt
+p\int_{a_n}^{b_n}e^{-px}dx\int_{b_n}^x g(t)dt,$(15)
$\displaystyle \int_{b_n}^{a_{n+1}}g(t)e^{-pt}dt$ $\textstyle =$ $\displaystyle e^{-pa_{n+1}}\int_{b_n}^{a_{n+1}}g(t)dt
+p\int_{b_n}^{a_{n+1}}e^{-px}dx\int_{b_n}^x g(t)dt$(16)
が成り立つことになるが、これはまたのちほど利用する。

もちろん、$f(x)=e^{x^2}$ のように、 どんな $s$ に対してもラプラス変換が存在しないような $PC$ の関数もある。 上に示したことは、一点でも収束すれば、ということなので、 こういうことが起こらない、ということを示したわけではないことに 注意が必要である。なお、この場合は収束点は $\infty$ と考える。

また、逆に $f(x)=e^{-x^2}$ のようにすべての $s$ に対して ラプラス変換が存在する場合もある。この場合は収束点は $-\infty$ と 考える。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-08-07