2 対象とする関数や積分の種類

ラプラス変換は、簡単に言えば、$x\geq 0$ で定義された関数 $f(x)$ に対し、
$\displaystyle
F(s) = \int_0^\infty f(x)e^{-sx}dx$ (1)
によって定義される $s$ の関数で、これを $F(s)=\mathcal{L}[f](s)$ と書く。 変数 $s$ を複素変数と見てラプラス変換を複素関数と考えることもできるが、 本稿では、多くの工学の本と同様に $s$ は実数変数として考える。

この $f(x)$ の満たすべき性質、および (1) の 積分の意味については、いくつかの考え方がある。 工学の本では、区分的に連続な関数を対象とすることが多いようである。

定義 1 (区分的連続性)

$f(x)$$[0,\infty)$区分的に連続 であるとは、 $f(x)$ が高々可算個の点
$a_0<a_1<a_2<\cdots$ を除いて連続で、
  1. $\{a_n\}_n$ は集積点を持たない
  2. $f(x)$ は各 $a_n$ で左右の極限値 $f(a_n-0)$, $f(a_n+0)$ ($a_0=0$ の場合は $f(a_0+0)$ のみ) を持つ
を満たすこと。

$[0,\infty)$ 上区分的に連続な関数全体の集合を $PC$ と書くことにする。
1. の集積点を持たない、というのは有限な極限を持つ部分列を持たない、 という意味であるが、本によっては、有限区間との共通部分は 常に有限列になる、と書いていて、それでも同じ意味になる。

$PC$ の関数に対しては、(1) の積分は 通常「広義リーマン積分」の範疇で考えるわけであるが、 そう考えるなら、実は $PC$ の条件をさらに緩くすることもできる。 または最初から「ルベーグ積分」と考え、 その方向で広い関数の範囲で考察することもできる。

これらの関係を簡単に説明する。

定義 2 (リーマン可積分)

有限区間 $[a,b]$ 上の有界な関数 $f(x)$リーマン可積分 であるとは、 $[a,b]$ 上でリーマン和の細分によらない極限として定義される リーマン積分 (通常の定積分) が存在することを言う。
このリーマン可積分性は次と同値であることが知られている。

定理 1 (リーマン可積分条件)

有限区間 $[a,b]$ 上の有界な関数 $f(x)$ がリーマン可積分であるための 必要十分条件は、$f(x)$ の不連続点のルベーグ測度が 0 になること。 言いかえれば、$f(x)$ がほとんどすべての点で連続となること、となる。
なお、ここでいう「ほとんどすべての点」とは「ルベーグ測度が 0 となる 集合を除いて」ということを意味するルベーグ積分論特有の表現であり、 「ルベーグ測度が 0」の意味は本稿では詳しくは説明できないが、 「合計の長さが 0」のようなイメージで、可算無限集合もルベーグ測度は 0 であり、それより多くの点を持つ集合の可能性もある。

次は広義リーマン積分。

定義 3 (広義リーマン積分)

  1. 関数 $f(x)$$I=[a,\infty)$ で有界で、$I$ の有限な部分区間では 常にリーマン可積分であるとき、$I$ 上の積分を
    $\displaystyle \int_a^\infty f(x)dx = \lim_{M\rightarrow \infty}{\int_a^M f(x)dx}
$
    と定める。
  2. $I=(a,b]$ 上の関数 $f(x)$ が、$a<t<b$ なる任意の $t$ に対し $[t,b]$ 上有界でリーマン可積分であるとき、$I$ 上の積分を
    $\displaystyle \int_a^b f(x)dx = \lim_{t\rightarrow a+0}{\int_t^b f(x)dx}
$
    と定める。
  3. $I=[a,b)$ 上の関数 $f(x)$ が、$a<t<b$ なる任意の $t$ に対し $[a,t]$ 上有界でリーマン可積分であるとき、$I$ 上の積分を
    $\displaystyle \int_a^b f(x)dx = \lim_{t\rightarrow b-0}{\int_a^t f(x)dx}
$
    と定める。
  4. これらの積分を 広義リーマン積分 と呼び、 その積分が有限値に収束する場合、$f(x)$$I$広義リーマン可積分 であるという。 また、$PC$ の関数で、$[0,\infty)$ で広義リーマン可積分な関数 全体の集合を $IPC$ と書くことにする。
なお、$PC$ に属する関数に対しては、1. の リーマン広義積分だけを考えることになる。

一方、有界ではない関数に対しても、 2., 3. の 広義リーマン積分を考えれば、ラプラス変換を考える関数の範囲を もっと広げることができる。 そのために、「区分的局所リーマン可積分」な関数という概念を導入する。

定義 4 (区分的局所リーマン可積分)

$f(x)$$[0,\infty)$区分的局所リーマン可積分 であるとは、 有限個の点
$\displaystyle
0=a_0<a_1<\cdots<a_N,\ a_{N+1}=\infty
$ (2)
があり、
  1. $a_n$ ($0\leq n\leq N$) 以外の点で $f(x)$ は定義されている
  2. 区間 $(a_n,a_{n+1})$ ($0\leq n\leq N$) 内の任意の 有限閉区間 $[p,q]$$f(x)$ はリーマン可積分
であることと定める。 $\{a_n\}_{0\leq n\leq N}$$f(x)$除外集合 と呼ぶ。

$[0,\infty)$ 上区分的局所リーマン可積分関数全体の集合を $PR$ と書く。
この「区分的局所リーマン可積分」という用語は、 広く使われているものでなく、本稿だけの造語であることに 注意 (同じことを指す適当な用語がない)。

この定義では、各 $a_n$ での片側極限の存在は仮定しないし、 $(a_n,a_{n+1})$ での連続性も仮定していない。よって、$PC$ の元は、 各不連続点でなんらかの値を定めておけば、$N=0$$PR$ の元となる。

なお、この定義 4 では広義リーマン積分の存在は仮定して いないが、その広義リーマン積分の存在を追加したものを 「区分的広義リーマン可積分」と呼ぶことにする。

定義 5 (区分的広義リーマン可積分)

  1. $f(x)\in PR$、その除外集合 $\{a_n\}_{0\leq n\leq N}$, $a_{N+1}=\infty$ に対し、$b_n$
    $\displaystyle
b_n = \left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \frac{a_n+a_{n+1}}{2} & (0\leq n\leq N-1)\\ [.5zh]
a_{N}+ 1 & (n=N)
\end{array}\right. $ (3)
    とするとき、すべての広義リーマン積分
    $\displaystyle
\int_{a_n}^{b_n}f(x)dx,\hspace{1zw}\int_{b_n}^{a_{n+1}}f(x)dx,\hspace{1zw}(0\leq n\leq N)
$ (4)
    がすべて有限値に収束するとき、$f(x)$区分的広義リーマン可積分 であると呼ぶ。
  2. 任意の $0\leq a<b\leq\infty$ に対して、 その中に除外集合 $a_j,a_{j+1},\ldots,a_{k}$ が含まれる場合、 $[a,b]$ 上の積分を
    $\displaystyle \int_a^b f(x)dx$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_{a}^{a_j}f(x)dx +
\sum_{m=j}^{k-1}\left(\int_{a_m}^{b_m}f(x)dx
\int_{b_m}^{a_{m+1}}f(x)dx\right)$ 
        $\displaystyle +\int_{a_k}^{b}f(x)dx$(5)
    と考えることにし、この広義リーマン積分の和を、 単に「$f(x)$$[a,b]$ 上の広義リーマン積分」と呼ぶ。
  3. $PR$ の元で、$[0,\infty)$ 上区分的広義リーマン可積分関数 全体の集合を $IPR$ と書く。
なお、このように、内部に無限になるような点を持つ関数を 区間に分けて広義リーマン積分の和として扱う本はあまりなく、 よって普遍的な適当な用語もないので、「区分的広義リーマン可積分」も 本稿の造語である。

例えば、

\begin{eqnarray*}f_1(x) &=& x^{-p} \hspace{1zw}(x>0,\ p>0)\\
f_2(x) &=& \log x...
...\
f_4(x) &=& \sum_{n=1}^{N} \log\vert x-n\vert\hspace{1zw}(x>0)\end{eqnarray*}
は、いずれも $x>0$ で有界ではなく、よって $PC$ には含まれない。 そしていずれも $PR$ には含まれるが、$IPR$ には含まれない。

一方、$f_j(x)e^{-sx}$ $(s>0)$ を考えると、これもいずれも $PR$ には 含まれ、そして $f_1(x)$ に対しては $p<1$ なら、$f_3(x)$ に対しては すべての $p_n$$p_n<1$ なら $f_j(x)e^{-sx}$ は いずれも $IPR$ に含まれる。 すなわち、$f_j$ のラプラス変換 (1) が 存在することになる。

通常、区間の内点 (有限な $x$) で無限大になる関数に対する積分は、 広義リーマン積分よりもルベーグ積分で扱うことが多い。 次はその「ルベーグ積分」に関する定義から。

定義 6 (ルベーグ可積分)

$[0,\infty)$ 上の関数 $f(x)$ルベーグ可積分 であるとは、 $f(x)$ がルベーグ可測関数であり、かつ
$\displaystyle
\int_0^\infty \vert f(x)\vert dx < \infty
$ (6)
となること。このとき、有限値のルベーグ積分
$\displaystyle
\int_0^\infty f(x)dx
$ (7)
が存在する。 また、$[0,\infty)$ 上のルベーグ可測関数全体の集合を $LM$、 ルベーグ可積分関数全体の集合を $ILM$ とする。
「ルベーグ可測関数」の定義を本稿で説明するのは無理だが、 ほぼすべての関数がルベーグ可測関数であると考えてよい1

ルベーグ可測関数については、(6) の左辺の ルベーグ積分を常に考えることができ (値は無限大の場合もある)、 それが有限値であることが、有限値のルベーグ積分 (7) が 存在するための条件となる。

$\displaystyle f(x) = \left\{\begin{array}{ll}
1 & (\mbox{$x$\ が有理数のとき})\\
0 & (\mbox{$x$\ が無理数のとき})\end{array}\right.$
のように、$[0,1]$ 上でルベーグ可積分関数だがリーマン可積分ではない 関数があり、一般にはルベーグ積分の方がリーマン積分より扱える関数は多い。

ルベーグ積分とリーマン積分、広義リーマン積分の間の関係は、

のようになっているので、広義リーマン積分まで含めると、 ルベーグ積分の方が常に優位、というわけではない。 例として、良く知られているように、
$\displaystyle
I = \int_1^\infty\frac{\sin x}{x}\,dx$ (8)
は、広義リーマン積分としては有限値に収束することが知られているが、
$\displaystyle \int_1^\infty\left\vert\frac{\sin x}{x}\right\vert\,dx = \infty
$
なので、$\sin x/x$$[1,\infty)$ でルベーグ可積分ではない。よって、 広義リーマン積分 (8) の値は、ルベーグ積分の値とも一致しない。

同様に、

$\displaystyle
J = \int_0^1\frac{1}{x}\,\sin\left(\frac{1}{x}\right)dx$ (9)
は、広義リーマン積分としては、
$\displaystyle J
= \lim_{t\rightarrow +0}{\int_t^1\frac{1}{x}\,\sin\left(\frac{...
...\frac{dy}{y^2}}
= \lim_{M\rightarrow \infty}{\int_1^M\frac{\sin y}{y}\,dy}
= I
$
となって収束するが、やはり
$\displaystyle \int_0^1\left\vert\frac{1}{x}\,\sin\left(\frac{1}{x}\right)\right\vert dx
=\int_1^\infty\left\vert\frac{\sin y}{y}\right\vert dy = \infty
$
となるので、ルベーグ可積分ではなく、よって広義リーマン積分の値と ルベーグ積分の値は一致しない。

つまり、 $PC \subset PR \subset LM$ であるが、 $IPC \subset IPR \not\subset ILM$ となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-08-07